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三章3「拠点への侵入」

スキルで洗脳した魔物に引かせた馬車で、町から数時間南下した先。

周りに何もない荒涼とした地の真ん中に、敵の拠点が存在した。


拠点の主要部は小さな山を削り、その洞窟を補強したような建造物。周囲を高い壁で守られている。

建造物の周りには多数の魔物が徘徊しており、要塞というべき物々しさを感じさせた。


拠点に挑む神の使徒救助作戦の参加人数は、トウタの居た町から200人。

拠点に近い他の町々からも、それぞれ同じ位の人数が参加するそうだ。


ただの大人ではなくスキルを扱う冒険者達の集まりであり、普通の都市なら簡単に落としてしまえるほどの大規模作戦と言えるとの事。

それでも拠点の守りは堅牢で、普通に戦って勝てる戦いではないらしい。


(大変なことになってる……)


勿論勝てない戦いを仕掛けるのは、戦って勝つ必要がないからである。


今回の作戦の目的は、拠点のどこかに捕まっている神の使途を救出する事だ。

だから本隊が敵の拠点の正面から仕掛け、その隙を突いて幾つかの別動隊が拠点に侵入。神の使徒達を救出して撤退するという運び。

大雑把に言えば大半の冒険者は、別動隊を隠す陽動作戦な訳だ。


正直作戦の成功率は高くない。

本来であれば数日かけて部隊を整えてから、陽動作戦など使わずに拠点を攻略すべきなのだ。


しかし、時間が無いと言うのだから仕方がない。


捕らえた神の御使いを魔王城に搬送するため、敵の幹部が拠点に向かっているとの情報が入ったらしいのだ。

敵の幹部は魔人と呼ばれ、冒険者が千人束になって挑んだところで歯が立たないと聞かされた。


そんな魔人が着いてしまえば、その時点でお終いだ。

さらに言えば正面の部隊が戦線維持できず、敗走してしまっても作戦は失敗。


とにかく別動隊の迅速な作戦遂行に、多くの人の命運が賭かっているらしかった。


(別動隊が作戦成功の要になっている……こっちに来ない方が良かったかも……)


トウタは数百人からなる本隊から離れ、別動隊として敵の拠点の横側に移動していた。

責任の大きい別動隊に入ったことを後悔したが、本隊に居ることは耐えられそうになかったのだから仕方がない。


『あの人って広場の騒ぎのヤツ?』

『大爆発起こしたあれ?物凄いスキルだったんだろ?』

『凄いなんてもんじゃないって!魔物なんて一発で全滅だぜ!』

『しっかし、大騒ぎだったんだろう?傍迷惑な野郎だな』

『し!機嫌損ねて協力しないなんて言われたら、どうするのよ!戦力になる事だけは確かんあんだから』

『けど、俺はあの場に居たけど……あれが本当に人間一人で出来ることかね?』


敵の拠点までの移動中、冒険者達は陰でトウタを指さし合っていた。

彼らの間ではトウタが噂になっており、羨望と疑惑の的になっているらしかったのだ。


理由は勿論、ユリアの起こした広場での大爆発。

ユリアが存在を隠すヴェールを使っていたため、爆発の犯人がトウタだと思われている様だった。


「う……」


冒険者達の期待の眼差しを思い出すと、在りし日の栄光が脳を抉り取る。

強烈な浮遊感に襲われ、視界がぐにゃりと曲がっていく。


「トウタの兄貴、どうしたんですかい?」

「あ……いえ、何でもないです……」


トンビに声を掛けられ、トウタは焦りを飲み込んだ。


――今から皆を助けに行くのだ、へまはできない。


「本隊の陽動が、始まったようですぜ」


通信スキルを使用していたトンビが、トウタ達に合図を出した。

確かに耳をすませば、遠くで地鳴りに似た音が響いている。


冒険者達が、魔物達に攻撃を行っているのだ。

命のぶつかり合いが始まってしまった。これ以降、トウタ達が時間を掛ければ掛ける程、多くの人命が失われていくことを意味していた。


落ち着く筈もない緊張に、手足が震え出す。

目玉が破裂するかと思う程に、頭痛が酷くなっていく。


「じゃ、行くぜ!」

「へい、タカの兄貴!『スルーザウォール』!」


トンビが壁抜けスキルを使用する。

拠点の壁の一部が、立体映像の様に透けて見えた。


トウタは彼らがこのスキルを使ってユリアを襲ったことを思い出し、少しばかり複雑な心持ちになった。


「あっしは外にいるんで、アニキ達頑張ってください」

「は…はい……」


躊躇っている内に、他の人達は透けた壁を潜っていた。

トウタも恐る恐る壁に触れると、一切の抵抗なく通過できた。


「敵は……いない……?」


壁を超えた先は、山を削った様な平らな場所になっていた。

視界の中には敵が居らず、警戒が少し緩む。


「ここは重要地点じゃないから、大丈夫なんだろう。相手は強力とは言え、所詮魔物達だ。抜けの無い警戒網を配置するなんて、知能のある行動はとらんよ」

「そう……なんですね……」

「だが逆に牢の側に行けば、間違いなく敵は居る。それこそ、ウジャウジャとな」

「敵が……」


一緒に侵入している屈強な男の言葉に、トウタは唇を噛んだ。


壁の中には山を利用したメインの建造物の他に、幾つかの塔や小屋が建っていた。

原始的な城という印象だ。


メインの山はアリの巣のように通路が張り巡らされている構造で、通路は地下にまで及んでいるらしい。

索敵に長けた者でなければ、一度入ると二度と出られないと言われている程だ。


「ほらほら、気合入れてこう!あたいらの担当は、地下牢の確認だ」

「は…はい!」


赤い鎧を着こみ、大きな斧を持った女性がトウタを叱咤する。


トウタ、タカ、ワシの3人と、赤い鎧の女性リズが地下牢の探索。

残りの5人が幽閉塔を探索することになっている。


「地下牢の場所が分かった。あっちだ」


探索のスキルを完了したワシが、地下牢の方向を見つけ出す。


「なら!行くか!」


リズが即座に走り出し、タカ達は『あの女、リーダー気取りかよ』と文句を言いながら、彼女の後に続いた。

トウタはユリアに渡された拳銃を握り直すと、3人の背中を追いかけるのだった。

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