三章『神の使徒達』1
スマホの目覚ましが鳴り、眠い目を擦って布団から這い出る。
登校の支度をしてから、顔を洗って歯を磨き、リビングで用意された朝食を食べる。
母親や妹と2、3言葉交わし、テレビから流れるニュースを横目に家を出る。
いつも決まり切った、変わらない日常風景。
面倒だと思っていたそれが、こんなにも懐かしいなんて――
「おはよう、トウタくん。早いのね」
「お、おはよう……ユリアちゃん……」
トウタが顔を洗っていると、後ろから声を掛けられた。
どうやら、鏡を見ながら呆けっとしていたらしい。
「時間は分からないけど……たぶんもうそんなに早くないよ…」
「そーなの?」
ユリアは朝が苦手なのか、声が半分寝ぼけている。
布団の中でのそのそして、中々出てこようとしない。
トウタは温くなった水で顔を洗い直すと、食堂へ向かう事にした。
「ご飯買いに行ってくるけど……ユリアちゃん、食べたいものある?」
「ん~……なんでもいい」
ユリアは甘ったるい声で答える・半分夢の中の「なんでもいい」を信用するのは危険だろう。トウタは後で怒られない様に、映えな食事でも買って来ようと手の中の銅貨を数えた。
廊下に出て窓の外を見ると、外は相変わらず曇っている。
朝……なのかは怪しいが、こんなのんびりとした午前中は久しぶりだ。
「勉強……しなくていいのかな…?」
トウタはほぼバレーボールの推薦で、高校に進学した。
しかし、もうバレーで大学に行く道はない。
働く覚悟も無いので、勉強で大学に行くつもりだ。とは言え、中学の頃は殆ど勉強をしてこなかった為、土日も返上で勉強をやり直している。
それでも高2の現時点でも、学習範囲は中学分野が終わっていない。
受験に間に合うと思っているのか?
なんてことを良く言われるが、そもそも受験をしたことが無いのだから、間に合うかなんて分かる訳がないと思う。
「この世界で生きていくとしたら……僕は一体何を目指すんだろう……?」
ほぼ徹夜でタカ達の話を聞いていた。
仮眠程度にしか寝ておらず、頭にゴミでも詰まっているみたいに思考が纏まらない。
「……」
だから弱音は、寝言の様に思い浮かぶ。
「勉強は嫌だけど…やらなくていいと言われると困るね……」
この世界で冒険やトレジャーハンターをするのも楽しそうだと思ったが、それで生きて行けと言われると躊躇ってしまう。
「違う……僕は皆を助けて、元の世界に戻らないといけないんだ……」
そうだ。
自分がしないといけない事は、皆と合流し、元の世界に戻る方法を探す事。
「……違う。元の世界に戻る方法を探して、皆と帰還することだ」
ただ順序が違うだけ。
逃げた訳ではないんだと、誰にするでもない言い訳を零した。