表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/35

8「長い夜」

「……」


良かったと言うか、申し訳ないと言うか。

トウタが目を覚ますと、タカ達3人はボコボコにされ、ベッドに腰掛けるユリアの前に正座させられていた。


ユリアは状態異常耐性の指輪を付けていたため、スリープが効かなかったらしい。一応普通に寝ていたものの、トウタとタカ達が争う音で目を覚ましたとのこと。

後はショックガンでタカを返り討ちにし、残りの2人もしこたま痛め付けたという次第。


「で?なんでトウタくんも正座しているの?」

「なんとなく……助けられなかったし……」

「確かにそうね」


ユリアはタカ達の隣で正座するトウタをそのままに、彼らの持ち物をあらためていく。

身分証を取り出すと、3人に不敵な笑みを向けた。


「ずいぶん悪さをしているようね。冒険の途中で死んだことにすれば、気にする人もいなさそう」

「ちょ!ちょっと待って下さい、アネさん!」


少し前はユリアちゃんだのと蔑んでいたタカが、彼女を『アネさん』と呼称するようになっていた。


「なんで、私が待つ必要があるのかしら?」

「いや、それは……なあ?」


タカ達3人は顔を見合わせるが、さしたる反論は思い浮かばない様だ。

無様を晒す彼らを鼻で笑いながら、ユリアは悪の親玉みたいにふんぞり返った。


「生まれてから死ぬまでの話をしてよ。貴方達1人ずつ」

「え?アネさん?」

「生涯全ての身の上話をして、って言ってるのが分からない?」

「俺達生きてっけど……」

「あら?私は貴方達を殺すつもりよ。もう、死んだも同然じゃない」

「ひ!」


タカ達は即座に抵抗しようとしたが、ユリアに『ショックガン』の指輪を向けられて動きを止める。

あの攻撃は痛かったと、トウタは自分の腹を撫でた。


「1人ずつ自分の生い立ちを話して、私が興味を持ったら、死なないで済むかもしれないわよ。一番詳しく話した1人だけを助ける!ってのはどうかしら?」


ユリアは悪女のように微笑んだ。


それらしいことを言っているが、要するに情報収集をしたいのだろう。

3人からこの世界の常識や社会システムなどを知ることが出来れば、役に立つ可能性が高い。


(自分を襲おうとした相手から情報収取なんて…ユリアちゃんは豪胆だね……)


トウタは立ち上がり、扉へと向かう。長い話になりそうなので、食堂に水を取りに行こうと思ったのだ。

しかし、視線を感じて振り返ると、不安そうなユリアと目が合った。


「……僕はなんてバカなんだ」


トウタは拳を握り、自身の無能を呪った。


ユリアは普通の高校生の女の子だ。見知らぬ世界に飛ばされた上に、寝ている間に襲われそうになった。

気にしてない訳が無かった。


(危険な相手からでも情報を集めないといけない……だから、無理をしてでも強がっている…そんな事、考えなくても分かるだろうに……!)


トウタはドアの鍵が閉まっている事を確認し、荷物から手甲を出して装備する。

ユリアの側に戻ると、彼女を守る様に腰掛けた。


「ごめんね、次はちゃんと守るから」

「ん。期待してる」


不思議そうな顔をしているタカ達に、ユリアは再度話を促した。

3人の意味の無い話し合いの後、タカが最初に語りを始めた。


彼らの話は取り留めなく、その全てが知らぬこと。

彼らが常識として語る世界は、トウタの育った場所とは全く異なるものだった。


自分達がどんな所に来てしまったのかと、深い深い不安を呼び覚ます夜となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ