表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/35

4「時を戻す能力」

吹き荒ぶ風。

舞飛ぶ土塊。


「ひい!」


長身の男の足元の石畳が、風のビームで焼き切られる。


「お助けぇ!」


手下の男の目の前で、水のビームが噴水を爆砕した。


「『コンセントレート』!!」


幾条ものビームを撃ち尽くしたユリアが、再びスキルを発動させる。

壊れた噴水ら噴き上がった水が、スキルに呼応して、広場の上空に集まっていく。水は圧縮と拡散を繰り返し、どこか生物的に蠢いていた。


「爆鳴気……」


化け物の腕を吹き飛ばした現象の再現が、目の前で起きようとしている。

いや、地面から30メートル程の高さに集まっている水の量は、あの時の比ではない。


(いやいやいや……どれだけの規模の爆発になるのさ!?)


トウタは、爆発を止めさせなければとユリアを見る。


が、もう遅い。


ユリアは蠢動する気体に銃を向け、その引き金を引いていた。

撃ち放たれる弾丸は、『爆発』のスキルが付与された起爆信管。爆鳴気の真ん中に到達すると、一気にエネルギーを解放した。


「――――!!」


轟音と呼ぶもの憚られる、空気の鳴動に体が拉げる。巨大な腕に押さえ付けられる錯覚に襲われ、必死に地面にしがみ付く。

町を駆け抜けていく虎落笛が、高音で耳を切り裂いていった。


「そのまま地面に捕まってて。風が戻ってくるわ」

「ユリアちゃん…なんでこんな……」

「囲まれてるのよ、私達。一応殺傷力の低い威力にはしたわ」

「そんな……」


周りを見回すと、長身の男と似た身なりをした輩が、ちらほら見受けられた。

輩達は風に煽られながらも、武器を取り出し、トウタ達を指さしていた。


「囲まれてた訳じゃなくて……騒ぎを起こしたから、警戒されてるだけじゃないの!?あいつらの仲間じゃなくて、警察的な人達じゃない?!」

「どっちでも一緒よ。いいから!風がくるわ」

「うわ!!」


上空で威力を解放した爆発は、自身を含めて全てを吹き飛ばす。


熱も光も空気さえもだ。

爆発元は負圧となり、究極的には真空に陥る。吹き飛ばされて拡散した空気は、今度は真空に吸い込まれて、勢いよく元の場所に戻っていくのだ。


「爆弾の被害って、直接の爆発じゃなくて、戻っていく風に拠るものが多いって言われてるのよ」

「そうかもね……!僕も聞いてなければ……大怪我してたよ!」


戻る風の威力は、爆発時程強くはない。

しかし下から上に吹き戻る風は、殆どの人間が体験したことがない。その為、受け身も取れずに地面や壁に叩き付けられたり、遥か上空まで運ばれてしまったりする訳だ。


「文句はいいから、逃げるわよ!『ウインド』!」


ユリアは風が弱まるのを見計らうと、トウタを床から引き剥がす。

風のカードを発動させ、向かってくる風を相殺しながら、広場の外へと進んで行った。


「この騒ぎ……どうするの?」


トウタは青い顔で、阿鼻叫喚の広場を振り返る。ユリアは威力を抑えたと言ったが、怪我人も出る大騒ぎである。

この世界の法律は知らないが、捕まって刑罰を受けたりするのではないだろうか。


しかし、ユリアは落ち着いたものだった。


「大丈夫よ、これ付けているもの」

「なに……それ?」


いつの間にかユリアは、目より下を隠すヴェールを付けていた。

記憶を辿ってみると、彼女はスキルを使う前に、ヴェールを装備していた気がする。


「存在を認識され難くなる効果のヴェールよ。あの広場の人は、私を覚えてないわよ」

「僕は……!?」

「え?」

「え……?じゃないよ!」


つまり広場の事件は、全てトウタの責任になるらしい。

嵌められたと気付いたものの、やはり既に遅かった。


(僕の能力が、時を巻き戻すものなら良かったのに……)


トウタはそんな事を思い、惨めな気持ちになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ