濃さ
「美味しい・・・」
異世界でのご飯を余り期待していなかった自分には十分すぎるほどだ。
「よう、もう食べてるのかい」
ギルドから帰ってきたらしいジールさんが声を掛けながら私と同じテーブルに着いた。
「お先に頂いています」
「この宿自慢の煮込み料理だからうまいだろう」
私は頷いた。ジールさんは注文を聞きに来たお姉さんに料理を頼む。
「変わった事は無かったようで・・・あったのか?」
ジールさんは人の表情筋の変化を見逃さないらしい。確かに少し眉間を寄せたがそれに気がつくとは。
「どうなんでしょう。言われた事に関して自分ではよくわからないので」
「なにを言われた」
私はちょいちょいとジールさんを手招きし、近付いた耳元に例の言葉を呟いた。
「魔力が濃いって言われました」
「ほぉ~」
身体を戻したジールさんはそう言いながら頷き、
「まあ、気にする事でもないさ」
「そうなんですか。でも、あんまり・・・」
良い事でもないような感じだったよね。あのお姉さんの様子だと。
「はい。ご注文の料理とお酒ね」
ドーンと置かれたお皿とジョッキ。
「ありがとよ」
言い終わるや否やお酒を一気飲み。それお水ではないですよね? で、追加頼んでるし。
「魔力にも色々ある。戦いに例えれば攻撃力が高いのは魔力が強いし、魔力が多いのはその攻撃の持続が長い。濃い魔力はその攻撃の効果が高くなるって話」
「・・・もし毒で攻撃したらその毒が普通より効き目が倍増するってこと?」
一瞬ジールさんの食べる手が止まったが再び動き出す。
「なんで毒になるんだか・・・そう言う事だ」
効果や効能が高くなる。その魔力、私が持っててもどう使えばいいのだろう。わからないな。
「ところでマナはこの街にどの位滞在するつもりなんだ」
「ジールさんは2・3日この街にいるんでしたっけ」
「その予定だが、お前さんの護衛が必要なら残るつもりだ」
「うーん」
この街というかこの異世界で何をするか考えていないし決めてもいない。とりあえずお金の心配はないので必要な物を調達したら他の街に行くのもいいかもしれない。
「買い物が済めば私も2・3日位です。出来れば他の街も見てみたいので」
「そうか。じゃ俺のホーム、バキアに向かうか?」
「それでもいいですね」
私はジールさんにバキアの街の話を聞きながら夕飯を終えた。
部屋に戻る時、着替えがないことに気がついた私は宿のお姉さんに頼んで必要な諸々一式を用意してもらった。空間魔法付きのカバン以前に身の回りの物を調達するべきだったと反省。
揃えてもらった物を手に部屋のお風呂場に入った。浴槽はないがシャワーがあったのはありがたい。そのうち湯船に浸かる事が出来ればいいなあ。そんな習慣があればの話だけど。
「んっ?」
素通りした鏡。何か見慣れないものが見えた気がしてそのまま足を戻した。
「髪の色はもともとこんな感じの染色だったけど、顔は違い過ぎないか」
鏡に映っている私の容姿はローズレッドの髪色に瞳は薄紫色で顔の作りは欧米人。
「・・・そのうち慣れるかな」
顔のパーツを確かめながら百面相をしてみる。これがこの世界での私の姿。私は頬を摘む。微かな痛みを感じて指を離す。
「夢じゃないんだ」
金銭面の心配はいらない。でも、この異世界でも生きていく事には変わりはない。
「ここではゆっくり、自分と歩いていこう」
私は鏡のわたしに笑いかけた。