スライム、命名される
さて、いきあたりばったりでゼリーことスライムを飼うことになったわけだけど……。
私は別の恐怖を感じながら怖々時計を確認する。現在0時54分……帰る頃はいつも日付が跨いでいるけれど、スライムのことを調べたりしていたらいつの間にか時間がたっていた。
……不味い、明日も早いのに。もう寝ないと睡眠負債が重なってしまうっ!
ぷるぅん?
時計を見た状態で戦慄している私にスライムは呑気に首をかしげ……首ないけど。そんな感じで手の上で体を揺らした。
なんとも言えないのんびり? うーん、癒し? マイナスイオン? が飛んでいそうなのほほーんとした空気がスライムの周りに漂っている。焦っている私とは対照的だ。おかげでこっちまでのんびりしてしまいそう。
「……はは、今は君の事があるから……睡眠は諦めるよ」
繁忙期には徹夜で仕事場に泊まり込んだこともあった。大丈夫、今日は……あ、正確にはもう今日だけど、次の出勤は金曜日。土曜がお休みだし最悪なんとかなるはず。
今は目の前のこの子に集中しよう。自分の事は二の次だ。
「と、なれば……早速、名前つけよっか。君も何時までも君は嫌でしょ?」
ぷーるんっ!
やった!……って声は聞こえないけど、そんな感じの揺れ方をしたような気がした。この子、表情がないかわりに動きで気持ちを伝えようとしている節が見える。健気で可愛らしいけど、果たして本当にそうなのかは私にもわからない。
「名前……名前……ゼリー……はそのままだし。なんかこうかわいい方がいいのかなぁ。」
これから何度も言うことになる名前だろうから……覚えやすくて使いやすいものの方がいい。なんかこった名前だと言いにくいし、かといって激務明けの頭でいい名前が思い浮かぶわけもなく。
スライムだしスラちゃん? ぷよりん? 呼びづらいのもなぁ。実際口にするのは私だし……。こう、呼んで恥ずかしい名前はつけちゃダメだと思う。こういうときネーミングセンスがある人が羨ましい……。
悩むこと、数十分。その間スライムは机に置いてみたけど、なんだかワクワクしているような、小刻みに震えながら私の言葉を待っていた。回りがキラキラしている……ように見えなくもない。つまりすごく期待してるってことだけはわかる。
名前の候補はいくつかあったけど、その中でも一番呼びやすい名前を第一候補にして、あとはこの子にどれがいいか決めてもらう形にしよう。やっぱりつけられたくない名前だってあるだろうし。
「……マル……は、どうかな……?」
丸いからマル。なんとも安直すぎるし捻りもないと我ながら思うけど、疲れている身としてはもう分かりやすくて呼びやすい方が助かる。こんな捻りのない名前はさすがに嫌かな……?とスライムに目を向けてみると……
ぷる、ぷる、ぷるーーんっ!!
あ、すごく喜んでるっぽい。目をキラキラさせてピョンピョン跳ねているんだもん。名前をつけたからってなにか変化がある訳でもなさそうだし、ぽんぽんとスライム……マルを撫でる。
「よろしくね、マル」
ぷーるるーん
上下に揺れながら真ん丸な目で私を見上げるマル。気にいってくれてよかった。こうして新しい家族? を迎えることもできたことでようやく落ち着いた。
……落ち着いたらお腹がすいてきた。そういえば夕食がまだだった。といっても時間が時間のためいつも軽食か食べないことも多い。普段ならあまり空腹は感じないしそのまま寝ようかな? と考えたけどさっきから頭を使っているし、軽くなにか食べておくことにした。
「マルもなに食べよっか。……あれ?」
何て言ってて自分である疑問に気づいた。
……スライムって、なに食べるんだろう……。