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マル、2度目の邂逅

 ぽよーーん!


 私が荷物をおいた瞬間……マルが私めがけて飛び込んできた。抱き止めると、おかえり! とでも言うようにぷるんぷるん震えている。


 もしかして帰りをずっと待っててくれたのかな?


「わぁ……かわいい!」


 そんな様子をみた櫻井さんは目を輝かせてマルを見ていた。


 ぷ……るん……。


 が、そんな視線が珍しかったのか、マルは櫻井さんを警戒していた。そしてそれを悟った櫻井さんは慌てて離れて両手を振った。


「大丈夫! 私なにもしないよ! 」


 それを見てようやくマルは警戒を解いたのか、プイッとそっぽを向いた。


 なんだろう……マルって人見知りじゃないのに何でこんなに警戒してるんだろう?


「あはは……やっぱり警戒されちゃいましたか。監視してるのばれてたかなぁ」


「その事なんだけど、詳しく聞いてもいい?」


 私はマルをだっこしたままキッチンへ向かい、お茶をいれた。櫻井さんに出してあげると嬉しそうにお茶を飲んでいて、多分喉が乾いてたんだと思う。


「私も覚えてないんで詳しくも何もないんですけどー。実はギルドはマルちゃんの動きをある程度把握してたんですよねぇ」


 なんでもマルが通ってきたゲートには、マル以外のモンスターも出てきていたらしい。ギルドはそのゲートの処理をしているときに、マルの存在に気がついた。


 けれどいくら探しても所在がわからない。当然よね、私の部屋にいたんだから。


 そのためギルドは監視員を派遣していくつか当たりをつけたところを監視していたらしい。その一つが、私の住んでいたアパート……ということ。


「でも夜に張り込んでたら二人とも寝ちゃってたらしくて、救急車で病院に運ばれてたんですよぉ。夜の記憶がすっぽり抜けちゃってて、アーノルドさんいわく多分記憶を食べられたんだろうって。」


 記憶を……食べる?

 マルにそんな器用な能力、あるのかなぁ。それとも私も食べられてて気づいてないとか?


「スライムでもたまに進化してそういうスキルをもつやつもいるそうです。なのでマルちゃんはちょっと特殊なスライムなんですよ」


 櫻井さんにそう説明されて、私は複雑だった。だって、マルには普通でいてほしいから。


 強くなくていい、特別でなくていい。普通でいいから、マルと離れたくない。


 特異なことがマルと離ればなれになる原因になるかもしれないから。それは嫌だ。


「それにしても、林上さんってほんとにマルちゃんを家族みたいに扱ってますよね。怖くなかったんですか?」


 空になったコップをおきながら櫻井さんは首をかしげた。多分、もっともな質問だと思う。普通は未確認生物なんて怖くてそばにおかないもの。


「うーん、驚いたし混乱したって言うのはあったけど……何となく自分と重ねちゃって」


「自分と?」


 私は少しだけ自分の生い立ちを話した。私は捨てられて、今の両親に引き取られるまでは孤児院にいた。友達もできずうまく馴染めなかった私は一人でいることが多く、それは今の両親のところにいってもかわらずだった。


 長い時間をかけてようやく打ち解けたけど、一人がどれだけ寂しいことかはよくわかってる。


 だから同じく、仲間も味方もいないマルを放り出したりできなかったんだと思う。まぁ、愛着とまではいかなくても、気に掛けてしまったのは事実だしね。


「なるほどー、似た者同士ってことですねぇ。」


 そんなところかな……。私はマルを撫でながら方をすくめるだけにとどめた。


 まぁこんな生い立ちの話なんてどうでもいいのよ! それよりもやりたいことをやろうっと!


「櫻井さん……この後時間ありますか?」


「ほぇ?」


 櫻井さんはお茶菓子のおせんべいにかじりついていたところで、そのままの状態で私へ目を向けると頷いた。やっぱり暇してるみたい。


「ちょうどマルとお菓子を作ろうと思ってるの。やったことないけど……一緒にどう?」


「やります!!」


 ぷるん!


 ガバッと櫻井さんが立ち上がり、マルがビックリして震えちゃった。それに気づいて慌てて座る櫻井さん。


「すみません、つい……」


「いいんですよ。はじめて作るので、誰かいてくれる方がいいですし。せっかくだしマルもお手伝いしてくれるよね?」


 ぽよーん!


 よしよし、マルも櫻井さんもやる気だな!

 というわけで意気揚々とお菓子作りを始めたんだけど……まぁ大変。


 マルは小麦粉の入ったボウルをひっくり返しちゃうし、櫻井さんは計量を間違えちゃうし、私は私でなぜか混ぜたものがうまく混ざらなくで分離しちゃうし……。


 三人揃って粉まみれになりながら四苦八苦……。


「な、なんとかできたね……」


 ぷるーん……


「できましたぁ……」


 約二時間ほど格闘してようやく焼き上げたのはクッキー。チョコチップを入れてそれらしくしてみたけど……形もいびつだ。


 型抜きを買い忘れちゃって仕方なく手で伸ばしたんだよねぇ。しかも少し焦げたし。


「じゃぁ……食べてみようか」


「……はい」


 ぽよん


 みんなで息をのみ、一斉にクッキーを食べる。


 なんとも言えない苦味と甘味のコンボに、ジャリジャリとした歯ごたえ……うん、まずい。


 ぷ、るん……


 あ、マルも不味そうにとかしてる。

 やっぱりあれだね……お菓子作りって……難しい。


 こうして私は櫻井さん……カナちゃんと親睦を深め、その日はなんと彼女がお泊まりしてくれた。最初はマルも警戒していたけどそのうち打ち解けてくれたみたい。


 新しい職場で友達ができて嬉しいな。

 こうして私の職場デビューは華々しくはないけれどそれなりにいいスタートを切れたのだった。

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