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スライム、飼われる

 スライム……単細胞なのか多細胞なのかもわからず、アメーバ状のものから多様な姿をとっている、生物としての定義が明確ではない架空のモンスター……らしい(ネット情報参照)


 これまた某RPGゲームのマスコット的な青いキャラクターを思い出すけど、どうやらそれだけじゃないらしい。結構いろんなゲームに出てきてるみたいで、まとめサイトにもたくさん乗っていた。


 そもそもゲームに疎い私からすれば、スライムと言えば洗濯ノリとほう砂を混ぜて作るあれしか思い浮かばない。


 よく理科の実験とか夏休みのお楽しみのひとつになってたっけ。つまり生き物ではなかったのだが……。


 うーん、なぞだ。見た目はかわいいけどスライムってモンスターでしょ……。科学発展が著しい文明の中、そんなファンタジー世界から飛び出してきたようなものが何でここに?


 それも人生に疲れたOLのぼろアパート部屋にいるのかと、色々不思議なことはたくさんある。


 ふと、うんうん悩み沸騰しかけた頭には心地よい風が吹き抜けた。春になってもまだ少し冬の影が残っているからかひんやり冷たい。


 窓なんて開けてなかったはずなのにどうして……という疑問はすぐに解決した。あ、窓が開けっぱなしになってる……二階とはいえ不用心なことをしてしまった……朝閉め忘れちゃったんだな、あれ。


 テーブルは窓から近い位置にあるし、多分この子、窓から侵入してきたのだろう。……どうやって2階に上がったのかはわからないけど木とかあったし上ってきたのかな?


 それとも壁に張り付いてきたのかもしれない。侵入方法も気になる……が、それよりも大きな問題をどうにかしないと。


「……この子、どうしよう」


 見た感じゼリーだし、つついた感じもゼリーだし、さっきぷるるんと揺れた以外に動きもないゼリーだし、今のところは害の無さそうなただのスライム型ゼリーだ。


 のりとホウ砂で作るスライムとはやっぱりちょっと違う。こう……弾力が。


 しかしこのままほっとくわけにもいかない。かといって警察とか大家さんに家にスライムがいます助けて! 何て言ったところで頭がおかしいと思われるだけだ……。


 かといって生きてるみたいだし放り出すのも気が引ける。これがほんとにゼリーならゴミ箱にぽいっと出来るけど……さすがにそれはダメだし。


「君はほんとに……なんなの……?」


 つついたときには噛みつかれなかったので、今度は恐る恐る……撫でてみた。見た目通りつるんとすべすべしていて弾力がある。


 噛みつかれはしなかったがスライム? の目が私の手に向けられていた。この目、どうやら体のあちこちに移動できるみたいで不思議そう……なのかな、表情分かりにくいスライムはそんな顔をしている。


 やっぱり無害そうだけど……どうしたものか。上京してから友達はこっちにいないし、相談できる内容でもなし……。いっそSNSでネタに見せかけて相談を投稿してみる?


 なんて考えながら手を離した途端、スライムが動いた。


 すり……っ


 離した手にすり寄ってきたのだ。ゼリーボディーが手にまた触れて……やっぱりぷるぷるしている。


 あれ、この動きどこかで……なんて既視感を覚える。もしかしてこれって……?


「撫でてほしいの?」


 小動物が甘えてるみたいに見えたので聞いてみる。言葉なんてわかるのかな? と半信半疑だったけどスライムは大きくぷるるーん!と揺れた。


 なんだろう、かわいい。鳴き声もなければ表情もあんまりない……けどしぐさはかわいらしいスライム。変に癒されてしまった。


 そのお陰か、なんだか張り詰めていた空気が一気に抜けてしまった。脱力したように肩を落としてスライムに両手を向ける。


 今すぐにどうにかできるいい案もなければ時間もない。何かあったらそのときはそのときだろう。


 疲れていたこともあって、思考放棄ぎみで考えるのをやめた。これで私の身に危険が陥る状況ならこんな呑気なことはしないけれど、今のところそんなことはない。


 両手でスライムを持ち上げて自分の顔に寄せてみる。変な臭いとかもなく無臭だった。動物臭さとか、そういうのさえない。


 この状態でいきなり大きな口が出てきてがぶり! なんてされるものなら私の人生終わるだろうけど……。不思議とこのスライムには敵意を感じなかったから大丈夫な気がする。


 案の定何もなくスライムはこちらを見ていた。


「……君、家に来る?」


 もうすでに不法侵入されてる未確認生物にこんなことを言うのは変な話だけれど、ほっとくわけにもいかない。


 何となくかわいいこの生物に愛着とまではいかないが、気にかけてしまったのは事実だし。このまま外に放り出すのは忍びなかった。


 というか現状飼う以外に方法が思い浮かばなかったって言うのが本音かな。


 私の手の上で、スライムはぷるっ! と大きく揺れた。うん! とでもいっているみたいに。

 こうして私、風子は成り行きでスライムを飼うことになった。


 このときの決断を私は今でも間違いだったとは思わない。けれどこの決断で私の人生が180度変化することなど、当時は思いもしなかった。……まぁ、それはまだ随分先の話なんだけどね。

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