スライム、撃退する2
大きな剣にびびる私だったけど、青年は青年で私の行動に目を丸くしていた。
茶色いツンツンとした髪型、黄色い瞳、整った顔立ち……ゲームに疎い私でも、ゲームの主人公みたいと思えた、そんな姿だった。
そんな顔で赤い鎧に立派な剣を持たれたら、本当にゲームから出てきたみたい。
「え、えっと……危ないから退いてもらえるかな……?」
どうやら私の出現は予想外みたいで、両手を大きく広げた私に切りかかることなく、おずおずと声をかけてきた。
その様子から、恐らくだけどこの人は今のところ、私に危害を加えるつもりはなさそうだった。だって雰囲気が変わったもの。さっきまで殺伐としていたけど、私をみるなりその空気はなくなったから。
「危ないのはそっちじゃない。早くその武器を下ろして!」
「それはできないしスライムがいるんだ。信じてもらえないだろうけど今はとにかく俺の後ろに……」
そうして青年が私の肩をつかもうとしたから、思いっきり払い除けてやった。
「うちのマルを危険なやつみたいに言わないで!」
言い放ってから後ろにいたマルを抱き締める。
あぁ、よかった。ようやく見つけて捕まえられた!
「心配させないでよ、もう……」
「そいつから離れるんだ!!」
青年は真剣な顔で怒鳴り付けてきた。その声の大きさに、私もマルもビクリと震える。
緊迫した空気が、流れ始めた。
「いいかい、君が今持ってるそれは危険な生物だ。何人かの監視員がすでにそいつにやられてる。」
っえ、監視員!?
そんな映画みたいな内容をいきなりいわれて混乱する。ていうか、監視員っていたっけ?
少なくともマルが来てから誰か訪ねてきたりとかはなかったんだけど……あ、でも頻繁に救急車が来てたっけ。
あれってもしかして……マルの仕業?
「あの、その人たちの怪我は……」
「幸いにも怪我はなくみんな気絶ですんでいる。でもそいつが暴れだしたら怪我人が出るんだ。わかったかい? 早く離れるんだ!」
すごい剣幕で言われてるから、たぶん彼は本当にマルが危険なやつだと思ってるんだ。その概念を変えるには話し合いが一番だろうけど、おとなしく話を聞いてくれそうな雰囲気じゃない。
こうなったら……
私はマルを抱き締めたままダッシュ! 逃げるが勝ちよ!
「なっ!!」
予想外の行動に一瞬驚いた青年と距離がとれるけど、すぐおってこられる。
ひぃ、剣もった鎧男に追いかけられるって結構ホラーね!
何て言ってる場合じゃない!
「マル、本当に監視員たおしたの!?」
ぷるんっ
うん、と頷くマル。つまりマルは、知らない間に監視員とやらと戦って、そして勝ってたんだ。
つまり、強いってこと……なのかな。
たしかマルは包丁では切れないから、刃の類いはきかないはず。前に包丁を丸飲みしたことがあってその時無事だったから。
それなら……。
「マル、あいつの剣、とれる?」
ぷるるん!!
よし、出来るみたいね。
そうと決まれば、反撃開始!
私は立ち止まるとくるりときびすを返す。追いかけてきた青年と、目が合う。
すごく驚かれてるけど、向こうは止まるつもりはないみたいね。
そっちがその気なら……こっちだって!
「マル、いくわよ!!」
いうなり私は大きく振りかぶった。もちろん、その手にはマルを持ってね。
そして……
「マルは悪い子じゃないわよ!!」
ぶんっ!とマルをあいつめがけてぶん投げる。
するとマルはネットのように広がってばくりと剣を飲み込んだ。
「うわっ!」
驚いた青年は思わず剣を離す。よし、武器回収成功!
初めてにしては中々良いコンビネーションだったじゃない?
「マル、鎧もとって!」
「なっ、うわぁああ!!」
今度は青年を丸々飲み込んで、少年だけをぺっと吐き出すマル。
お陰で青年はパンツ一枚と言う恥ずかしい格好になる。
鎧はというと、マルの体内で収まってるだけ。食べて、と入ってないからまだ消化してないんだと思う。食べた分だけかさ増しされて、今のマルはいつもより大きくなってる。
「え……えぇ……」
青年は自分の状況が理解できず目を白黒させている。とにかく寒そうだけど、私も急いできて上着を持ってきてないから、貸せるものもない。
そんな青年に私は今までの経緯を全部話した。
マルが家にきたこと。
それによってどれだけ生活が変化したか。
今日マルがいなくなってすごく心配したこと、今までずっと探していたこと、そして……私は一度もマルに傷つけられたことはないことを、それはそれはそれーーは懇切丁寧に説明した。
「これは……前代未聞だ……」
話を正座して聞いていた青年、アーノルド君はポツリとぼやいた。
なんでも彼は、異世界からきた住人なんだと。そう説明されて信じられなかったけど、現にマルも異世界からきたと言われたら、納得する他はない。
詳しいことはアーノルド君が所属してる組織で話をする、といわれた。
そういわれてノコノコついてくるバカがいるもんですか!
……と思ったんだけど。
ここ一帯の人払いを瞬時に行えるくらいの凄い組織と聞けば、従わざるおえなかった。どおりで人がいないわけよ……。逆らってマルが怖い目に遭うのは嫌だしね。
こうして、ただのOLの私は、ただのスライムと共にとんでもない組織へと足を踏み入れたのだった。