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スライム、助ける

 マルIN水筒をデスクにおいて仕事をし始めはや1時間。


 すごい集中できる!!

 いや正確には、時おりマルが脱走してないか見るんだけど。その度に真ん丸なおめめと目があって癒されてたら、疲れなんて飛んでいった。


 やっぱり、癒しって必要よねぇ。


 ……なんてのんきに考えてる場合じゃない。今日中に、正確には、17時までに先方にデザイン案の提出しないといけなかった。


 わたしの勤め先は広告業で、主に駅やデパートとかのポスターを手掛けてる。


 みんな何気なく見てるけど、ほんとにたくさんの人の手が加わってるのよ、広告って。


 私の場合というか、大抵の人は仕事を掛け持ちでいくつも取引先とやり取りしてるから、たまに校正(※出したデザインの手直し)が同時に上がってきたり、締め切りが同じだったりしたときは地獄。


 でもって、そういう何かと忙しいときに限ってややこしい案件が来たりするのよねぇ。


 あと私の場合は……


「おい林上!」


 ほら来た。ガミガミ上司のお出ましよ。変に目をつけられて毎回来るのよねぇ。


「はい、なんでしょうか 」


「さっき先方からお前が確認した校正間違ってたって連絡あったぞ。それもしょうもないミスでな! 全く先方には笑われたよ」


 最もな理由で怒鳴りつけてくるこの上司。私は思う。その校正、最終確認は私だったが、その前にお前も見てただろう、と。


 つまりそのしょうもないミスとやら、上司も見つけられなかったと言うことだ。


 それを棚にあげ、私を怒鳴り付け、あたかもすべての責任は私にあると回りに言うような叱り方。


 これは教育者としてはナンセンス。というか、人としても自分のミスを棚にあげるなんてどうかと思う。


 しかしこのガミガミ上司にはそんな人間の言葉は通じない。何せこいつは宇宙人だ。自分が宇宙一だと思い込んでいるかわいそうな宇宙人。


 そのためこっちの言葉なんて端から通じないんだ。


「申し訳ありません。」


「先方に鼻で笑われた俺の気持ちわかるか? こんなミスも見つけられないなんてお前この仕事向いてないぞ!!」


 怒鳴り付けるけど、その言葉、そっくりそのままお返ししますよ、上司。


 少なくとも、あなたは人を教育する仕事は向いてないですから。


 何て言えるわけもなく、すみませんすみませんと頭を下げまくる。


 こうして30分くらい怒鳴り散らかされてようやく気がすんだ上司は、満足そうに去っていった。


 はぁ、時間を無駄にした。

 全く聞かないようにしようとしても、やっぱり怒鳴られるのって堪えるんだよね。


 私の疲労の元って、たぶんあの上司だな。


「うわっ!!」


 気持ちを切り替えて仕事に戻ろうとしたときだった。派手な音が聞こえてそちらへ振り返った。


 見ると上司が、通路の真ん中でスッ転んでいた。何もないとこで転ぶなんて、どんなに運動神経悪いんだか……。


「なんだ、今足に……?」


 上司は不思議そうに自分の足を見ていたが、回りの目もありすぐに立ち上がり、自分のデスクに戻ろうとした……が


「っうわ!」


 なんと、また転んだのだ。しかも数歩歩いただけで。


 ……え、なにあれ。


 大の大人が立て続けに間抜けなこけかたをして、まわりで小さな笑いが込み上げる。もちろん私も。みんな目をつけられたくなくて小声だけど、笑っている雰囲気は伝わるだろう。


「くそっ、なんなんだよ!」


 上司は半ギレになりながら立ち上がると慎重に歩き出す。今度はこけなかったみたい。


 中央の自分のデスクの椅子へ座ろうとした、その時


 ドデーーン!


 椅子の位置を見誤ったのか上司が座ろうとしたところに椅子はなく、そのまま大きく尻餅をついた。椅子があると思っていた上司はまたも派手な音を立ててしまったため、今度はまわりの視線を集めてしまった。


 お茶汲みの子が慌てて大丈夫ですかと駆け寄っていたけど、その光景含めてシュールだったからどっと笑い声がこだまする。


 もちろんそのなかに私の笑い声も響く。


 あーあ、いい気味よ!


 なぁんて上司に気をとられ過ぎていた。しまった。マルは!!


 見るとそこには倒れた水筒の中でちゃんとおとなしくしているマルがいた。よかった、逃げてなかった。……何で倒れてるんだろう? 上司が転んだときの振動かな?


 まぁ、逃げてなかっただけいいか!


 ちなみにマルIN水筒はデスクの端においてたけど、見た感じは水の入った水筒。誰にも怪しまれない。

 倒れてるのは焦ったけど立ち上がらせると、黒い真ん丸目玉が嬉しそうに笑っている、ように見えた。


 うんうん、マルもさっきの上司の間抜けなこけかたが面白かったんだろう。


 いつも気にくわない上司だけど、こうしてかわいいマルの笑顔を引き出してくれたんだ。それだけは感謝しないとねぇ。


 怒鳴られたぶんもスッキリしたし、これで仕事にも打ち込めるってものよ。


 よーし、今日は終電前までには帰るぞ!

 たまにはそんな日があってもいいよね。マルもいるし。早く帰りたい。


 そうして急いで仕事を終わらせてなんと夕方には帰ることができた。夕日を見ながらのなれない帰宅をして、扉を開けると……


「えっ!?」


 そこには、マルがいた。ちょっと小さくなってるけど、大好きなリンゴを食べて赤くなったマルだった。


 慌てて水筒を確認する。そこには確かにミニマルがいる。


 え、え、マルが二人!?


 ぷるーん!


 ぽよーん!


 勢いよくミニマルが水筒から飛び出すと、家にいたマルと合体した。


 ……合体……?


「マル……もしかして、分裂とかできるの?」


 そりゃスライムだし、実験で作ったスライムも分けられたけど。まさか、マルにも?


 ぷるん!


 うん! と頷くマル。


 マルについては、まだまだわからないことがたくさんある。

 それを実感されられた瞬間だった。

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