スライム、分裂する
朝4時30分。いつもは5時ギリギリに起きるけど、前日大掃除にはしゃぎまくったため、かなり早い時間に眠っちゃったんだよね。そのお陰かいつもより30分早く目が覚めた。
マルを起こさないようにしようとしたが、やっぱり下ろすときに起こしちゃう。
「おはよう、マル」
ぽよ……ん!
よしよしと頭を撫でて寝かそうとしたけど、どうやら目が完全に冴えちゃったっぽい。
マルを敷きっぱなしの布団の中において、支度を始める。外はまだ、夜のように暗い。
顔を洗って、メイクをして。いつもならご飯を食べる時間はないんだけど。今日はゆっくりご飯を食べられる。
フライパンに二枚のベーコンをのせて、上に卵を割り入れる。焼いたトーストの上において完成。簡単だけどわりと美味しいベーコンエッグトースト。
わぁ……こんなにゆっくり仕事の日にごはん食べたの、ほんとに入社してすぐくらいしかなくない?
なんて感動しながら食べる。うん、焦がしてないからそれなりに美味しい。マルなんて丸のみだよ……だじゃれになっちゃったや。
ぷるん!
美味しいっていってくれてよかった。
「いい、マル。汚れとかごみとかは食べちゃダメ。ゴミ箱の中はさわらないこと!」
ぷるん!
「それから食べ物はそこの段ボールに入ってる食べ物を食べてね。お腹すかないようにいっぱい入れてるから」
ぽよーん!!
マルと一つ一つコミュニケーションをとりながらわたしはテレビをつける。これはマルの暇潰しようにかけっぱにしてるやつだ。
「それじゃ、いってくるね!!」
そうしてゆっくりと支度を済ませたわたしは鞄を持って家を出た。
満員電車に揺られて、いつもより早く出社して、メールチェックに仕事に……と、いつもと変わらない日常を送ってたんだけど。ひとつ変化が。
「おかしい……全く疲れない」
いつもならお昼はへとへとになりながら、携帯食片手に仕事をしている。それなのに今日は全然元気で、そのお陰か仕事もはかどる。
これならお昼をとる時間、あるかも……。
よーし、今日は久しぶりにランチをとろう! その余裕はある!
と思い、鞄を開けてみたら……
ぷるん!
…………………
バサッ
わたしは思わず鞄を閉めた。
ん? おかしいな。今鞄のなかに小さなマルがいたように見えた。
いやいやそんなまさか。
だってマルは、朝にはちゃんとテレビの前にいたもん。
いってきますって、言ったじゃん。
やっぱり疲れてるんだ、わたし。疲れすぎてハイになってただけだ。
マルの幻覚を見るなんて、相当癒しに飢えてるんだなぁ……
と思い、もう一度鞄を開けると
ぷぷるるん!!
…………。
わたしは鞄を持って女子トイレにダッシュした。
この時間はみんなお昼にいっててすいてるんだよね。
じゃなくて、今はお手洗いをしたくて来たんじゃないの!!
「何でいるの!?」
鞄を明け、小声でミニマルに話しかける。確かに朝はいたし、鞄に入る……というか掌サイズまで小さくなってるし、いったいどうなってるのよ!!
ぷるーん
マルはようやく気づいてくれたことに喜んでるみたいだけど、そうじゃない。今はそれどころじゃないのよマル!
理科の実験でお馴染みのスライムが動いてたら、会社は大パニックよ!!
不味い、このままマルが鞄から出たら、ほんとにそうなっちゃう。
「とにかくマル、ここに入って! 」
持っていた透明アクリル水筒……100均とかでおいてるやつね。あれの中身を捨てて、マルに入るように指示。ミニサイズだったマルはそこに入るが、元々透明だからほとんど見た目は変わらない。変わるとしたら黒い点が浮かんでることくらいだ。
蓋を閉めると酸欠になりそうだし、ふたを開けたままトイレを出る。
うーん、これでなんとかなるかな。出てこないでとは念押しして、仕事中はデスクの上において監視すればさすがのマルもいたずらはしない……よね?
……不安しかないけど、つれてきちゃったものは仕方ない。
まだ時間あるし、マルとお昼にしよう。
そう思いやってきたのはファミリーレストラン。
その一番奥の見えにくい席に座り、さらにわたしの体で見えないようにしながらマルIN水筒を置く。テーブルに置くわけにはいかないから、椅子の上にね。
で、せっかくなので家で作れないピザを注文。
綺麗にカッティングされた熱々のピザをさらに半分はナイフで細かく切る。
そして自分が食べながら時おりマルIN水筒に小さなピザを落としていく。
じゅわぁ
コトコト!!
美味しかったのか水筒が揺れている。うんうん、窮屈な思いさせて申し訳ないけど、この作戦ならマルと外食も行けるわね。
やっぱり自炊じゃ作れないものもあるし、こうしたレストランの料理も食べさせてあげたかったんだよねぇ。
新たな目標ができてよかったよかった。
こうしてピザの半分をシェアしてわたしとマルはオフィスに戻るわけだけど……。
さすがに何もなくそのまま終わるほど、マルはおとなしくなかった。