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スライム、現る!

 スーツに身を包み、満員電車に押し込まれ、

 毎日毎日怒鳴られて叱られて

 朝から晩まで働いて…


 それが私の人生だ。


「つっかれたぁ……」


 六畳一間の1LDKの古い安アパート部屋に入ったとたんばったり倒れた。茶色いフローリングが頬に張り付いてひんやり冷たい。


 私こと、林上風子(はやしかみふうこ)25歳…ただいま残業込み13時間労働を終え帰宅。なおブラック企業につき残業代はない…。無駄にでかい胸と女性らしさを意識して伸ばしたロングヘアのせいで年中肩凝りに見舞われているので肉体的には若くないのかもしれない。


 夢にまで見た都会オフィスのOL仕事が、まさか連日始発終電利用の激務なんて……3年前の新卒時代は想定すらしていなかったなぁ……。何てのんきに考えてしまうくらいには思考は重く停止しかかっている。


 つてやばい……このままじゃ寝ちゃう……。明日も早いけど化粧おとしてご飯……は最悪抜いてお風呂だけでも入らないと……。ゾンビのごとく体を這いつくばってなんとか私は自室……数歩でたどり着く畳部屋へ到着した。


 といっても先程いった通り連日の激務で家と会社の往復ばかりしている部屋は荒れ果てている。脱ぎ散らかった服はそのままだし、布団は敷きっぱなしだし、概ね女性らしさのない汚い部屋だ。


「無理……しんどい……明日も仕事……」


 これで恋人や……せめてペットでもいれば私生活は充実できただろう。しかし残念ながら恋人居ない歴=年齢の私にはそんな人居ないし、面倒を見きれるかわからないペットも飼えない。そもそもぼろアパートでは声が響くから近所迷惑でペット禁止だし。


 きっと部屋で死にかけても誰にも気づかれずに、ぽっくり逝っちゃうような悲しい人生しかないのだろう。このまま仕事に忙殺されるか孤独死か……私の人生なんてむなしいなぁ。


「あれ……?」


 這いつくばって畳に腹をつけて行進していたら、部屋の異変に気づく。六畳の狭い部屋には敷布団、四角い古びた机と最低限のものしか設置はしていない……まぁ生活ごみとか服はそこらじゅうにあるけど。


 問題はその机の上。朝は特にバタバタしているから化粧用の鏡をいつもおいているのに、それが転げ落ちている。それだけならいいんだけど……落ちた鏡のかわりに何かが机にいた。


 人の顔くらいの大きさの楕円形の丸い物体。透明のゼリーみたいな……ぷるんとしたそれは机に鎮座して微動だにしない。


 なにこれ……こんなの置いた記憶ない……。そもそもなにかもわからない……。


 しばらく記憶をたどりそれについて考えたが心当たりがない。なんて謎の物体を凝視していると……。


「うわっ!!」


 きょろっとゼリーボディに丸い点が二つ浮き上がり思わず悲鳴をあげた。いやこのままではなんか不味そうなのでとりあえず体を起こし、その物体を見つめる。すると浮き上がった丸い点……たぶん目だろう、それと目があった。


 じーーっとこちらを見つめてくる謎の物体Xとしばらくにらめっこしていたが、Xは動かない。本当になんだろうこれ……良くできたおもちゃ? 一体なんでこんな場所に? というかそもそもなんなのほんとに……。


「えぇい! こういうときは……これだ!!」


 私は半ば叫びながらさっき放り投げていた鞄を取りに玄関に戻る。数秒で戻ってくるなり鞄から携帯を引っ張り出した。


 こういうときこそ文明の力、インターネットを活用しなくては! というわけで早速スマホを開き「丸い ゼリーみたい 目がある 生き物?」で検索をかけてみる。


「……見るんじゃなかった」


 出てきたのはなんか気持ち悪いエイリアンばかり。見てて不快だったので速攻でウィンドを閉じてしまった。全然違う、これじゃない……。出てきた画像よりかは今目の前にいる物体Xの方が可愛かった。


「うーん……というか生き物なの、これ?」


 恐る恐る机に近づいて物体Xを眺めてみる。


 透明ボディのため脱ぎ散らかされた服が透けてみえてしまっているが目だけはちゃんとあるみたい。私が動くと、追いかけるように目が動いている。


 だまし絵かな? と思ったけど、どうみてもだまし絵じゃない。というかこの物体X何かに似ている……。なんだっただろう。激務明けの頭ではあんまり深く考えがまとまらない。


 見たところ牙とかもなさそうだしいきなり襲っては来ないかな? 恐る恐る……物体Xをつついてみた。


 ぷるん!!


 見た目からちょっとベタベタしてるんじゃないかと思いきや、本当にゼリーみたいな弾力が指に残る。噛みついてこないようだから何度かつついてみたけどやっぱりなにもない。心なしか少しだけひんやりしているので余計にゼリーに見える。


 物体Xも嫌そうな様子はなく……というかどちらかと言うと、なんかこそばゆそうに目を細めていた。表情があるし、たぶん生き物なんだと思う。なんかちょっとかわいい。


 ほんとになんなんだろう、これ。鳴いたりしないし……声とかそもそもないの? うーん、なぞ。やっぱりもう一度調べてみようかな……変な画像がまた出てこないか不安だけど、この物体Xがなんなのかも気になるし……。


「丸い、ぷよぷよボディ、鳴かない……と」


 嫌な画像がまた出てきやしないかヒヤヒヤしながら検索ボタンを押すと、今度はコミカルな画像が出てきた。あ、これ知ってる。ゲームに疎い私でも知ってるくらいにはメジャーなやつがでてきた。四つ同じ色を繋げたら消せるパズルだったかな。


「でもこれじゃないんだよね……色ないし。というかこのゲームのも生き物なの?」


 とにかく似たようなものがわかったのであとはそのキーワードでひたすら検索をかけまくる作業。所要時間5分……ようやく近いものを見つけた。


「……スライム……?」


 物体Xとの遭遇からはや10分……私はようやくその生物に行き当たったのであった。

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