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幻惑の魔術師を探せ!

 昼飯を済ませた俺たちは、『幻惑の魔術師』ファンタズマを見つけ出すべく、リコの方位魔術を発動することにした。


 獣車を出て、獣車置き場の空き地にリコが降り立つ。

 その周りには他の獣車が停車しており、ライノより小ぶりの馬みたいな動物が餌を食べている。


「ブラスカ、ファンタズマの人相書きとかない? そういうのがあった方が見つけやすいし」

「ああ、奴の人相書きなら肌身離さず持っているぞ」


 ブラスカが出した人相書きを、リコは時間をかけて眺めた後、胸の前で手を合わせ、いつもの祈るようなポーズを取った。


「なあ、マジア。リコの方位魔術って呪文の詠唱も魔術式もないよな」

「リコ独自のスキルなんですよ。詠唱も魔術式も要らないなんて、かなり珍しいタイプの魔法です」

「へえ、ハガレンみたいに、魔法陣が浮かび上がったりすれば、いかにも魔術って感じがするんだけどな」

「えっ? ハガレンって何ですか、エイジさん?」


 いかんいかん。ついつい、日本の時のクセが出ちまった……。


「いや……、マジア、気にしなくていい」

「おそらく、リコの頭の中のイメージでは魔法陣が出てるんじゃないかな、と思います」


 しばらくして、リコは手をほどき、目を開いた。


「リコ、ファンタズマの居場所はわかったのか?」


 ブラスカがリコに駆け寄る。


「うーん、わかんないし。ちょっと遠すぎるのかなあ?」

「幻惑の重魔術師だから、さすがのリコでも今回は難しいんじゃないかな?」

「マジア、もう一回、リコやってみるし」

「なあ、マジア。俺のスキルって使えないかな?」

「それって、スーパー・ラックですか? あれはエイジさんの固有スキルだから、他人には転用できませんよ」

「いやいや、コンボだよ」

「コンボ? 連発スキルなので、攻撃系の技や魔法と併用するのが普通です。それを方位魔術になんか聞いたことないですね」

「まあ、やるだけやってみればいいじゃん! どうやって使うんだ?」

「コンボを使いたい相手に、掌を向けて念を集中させてから『コンボ』と詠唱するだけです」


 リコはまた目を閉じて、祈っている。


「よーし、お兄さん、やってみちゃうぞ! 掌をリコに向けて──」


 掌に念を集中して──! 念を集中して──!


「コンボ!!!」


 リコの金色の髪が、水に漂うようにふわりと浮かんだ。


「来た! 来た! キタ──────────!」


 リコが叫び、目をカッと開いた。

 その瞳から何層にも重なった魔法陣が浮き出て回転しながら光っている。

 俺とマジアとブラスカは、その光景を息を飲んで見守った。


「あっ! あっ! あっ──────────!」


 絶叫して、リコがその場に倒れこんだ。

 真っ先に駆けつけた俺が抱き上げると、リコの目は元通りになっていた。


「おい、大丈夫か、リコ? 見つけたのか、ファンタズマの居場所は?」

「リコ、見つけたし! けど、ファンタズマもリコのこと見てて! ギロリとファンタズマに睨まれちゃって、超々怖かった!」

「それでどこだったんだ、奴の居場所は?」

「ここから西にあるお城のある街だし」

「す、すごいですよ、エイジさん。方位魔術にコンボだなんて。そんな発想なかなか思いつきませんよ」

「うん! エイジのおかげだし。普通は何回か移動して、その都度、魔法を使わないといけないのだ」

「エイジ、この私からも礼を言うぞ。礼だけじゃダメと言うなら、この体を好きにしてもいいぞ」

「いやいや、ブラスカさん。まだ見つけただけだし、見つけたのはリコだから」

「欲のない男だな、君って奴は。よし! じゃあファンタズマを倒した暁には、毎晩私の体をもてあそぶがいい。わはは!」

「ここから西の街といえば、ミラジオの街かな? 以前は古いお城があったけど、解体されたって聞いたような。まあ、ちょうどソリタリオの分家もあるし、物資が調達できるな。それではすぐに出発しましょう! みなさん獣車に先に入ってください!」


 マジアがライノに餌をやり、新しい魔術式をライノの額にあるプレートに書いている。

 俺はファンタズマの人相書きをブラスカさんからもらって眺めた。

 波打つ長髪が目元まで覆い、薄い唇が笑っているように見える。

 どこか陰気な顔つきだ。


 こいつがS特級ランクのお尋ね者か……。


 そう思いながら、ブラスカさんに返した時──、



「ちょっと待った! そこのお姉ちゃん!」


 しゃがれた声に呼び止められ、振り向いたら三人の剣士が立っていた。

 どの剣士も使いくたびれた傷だらけの革鎧を身に(まと)っている。


「見覚えがあると思ったら、やっぱり、こいつ、ブラスカですぜ」


 片耳が潰れた背の低い剣士が、隣のでっぷりとした大男を見上げて言った。


「そのようだな。人相書きのとおりの、なかなかの美人じゃねえか」


 ひょろっとした頬に傷のある剣士が舌舐めずりして、ブラスカを蛇のような目で見ている。


「でも、あまり強うそうには見えねえな。S特級って本当か? まあ、仕事がすぐに片付きそうでいいけどな」


 山のような大男が背中から、俺には持てそうにないくらいの巨大な剣を抜いた。


「S特級だから10ポイントですね! 三人で山分けすりゃ、うひょっ! あと少しで三人して追放市民解除っすよ! 縛り上げて、みんなで楽しんでから、憲兵に渡そうぜ、兄貴!」

「いい考えだ! やるぞ、お前ら!」


 残りの二人も剣を抜き、足を広げて構えた。



「う〜ん、ファンタズマの居場所がわかって、盛り上がってたのに……。貴様ら、持ち合わせは?」


 ブラスカさんが腰に掛けた剣を握った。


「持ち合わせ? 何言ってんだ、ブラスカ。金を頂戴するのは俺たちの方だろ」

「ははは! 貧乏人は相手にしないぞ、私は。時間の無駄だからな」

「勝手に言ってろ! この雑魚女剣士が!」


 三人はブラスカさんを取り囲み、切っ先を順に突きつけた。


「ブラスカ、剣は抜かないのか? 俺たちが怖くて抜けないんだろ? じゃあ、やっちまうぞ!」


 三人が一斉にブラスカに飛びかかった。


「残念だったな! 貴様ら全員、骨折り損のくたびれ儲けだ!」


 ブラスカさんは低くしゃがみこんでから、鞘に入ったままの剣を一閃した。


 ゴキッ! ゴキッ! ゴキッ!


 嫌な音がして、三人の剣士の(すね)の辺りがあり得ない方向にぐにゃりと曲がった。


「ぐあぁぁぁぁぁ!!! 痛ぇッ!!! 痛ぇーよー、兄貴ぃ!」


 小男が痛みに喘ぎながら、地べたに転がっている。

 ひょろっとした男は気絶したのか、バタリと仰向けに倒れたまま動かない。


 大男だけがひざまずいて、ブラスカを見上げて睨んでいる。


「ブラスカぁ! この俺様の足を折りやがったなぁ!」

「ははは! 元気な奴だな。もう寝ていいぞ!」


 ブラスカさんが大男の頭を真上から軽く叩いたら、白目を剥いてぶっ倒れた。



「さてと、今日の稼ぎはと……」


 ブラスカさんが三人の剣士の懐を探って、金銭を抜き取っている。


「うーん、これっぽっちか。まあ、いいか!」


 俺はブラスカさんの鮮やかな剣技を目の当たりにして思った。

 お尋ね者が生業って、こういうことだったのか……。

 自らをエサにして、カモを釣り上げてるんだな……。


 リコとマジアは呆気に取られて、倒れている連中を見ている。


「ブラスカ、とっても強いのだ」

「いや、あいつらが弱すぎたんだよ。典型的な雑魚キャラだったよね」


 三人の剣士は足に添え木だけしてやって、そこに放ったらかしにした。

 俺たちは辺境防衛都市スパダを発ち、帝都街道沿いに西にある街ミラジオへと向かった。


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