ファンタズマ攻略戦(1)
「はーい、みなさん、これから今日の戦略を説明しますから、席についてくださーい」
応接間でマジアが移動式黒板の前で指示棒を振った。
黒縁眼鏡をして先生気取りだ。
「わはは! 席についたぞ! 学生に戻ったみたいで懐かしいなあ!」
「リコ、この間まで学生だったもん!」
「では先ず、戦力となる、みんなのスキルを確認します。エイジさんのスキルは──、コンボ、スーパー・ラック、アジテーション、ダーク・メモリーの四つですね」
マジアがスキルを板書したが、俺には読めない。
「この中で、今回戦力となるのはコンボだけですね。スーパー・ラックはエイジさん本人にのみ有効なので、当てになりませんし、アジテーション、ダーク・メモリーは正体不明ですから」
「うむ、私もアジテーション、ダーク・メモリーなんて聞いたことないぞ」
「次に、ブラスカさんのスキルを教えてもらえますか?」
「私のスキルは……、言葉で説明するのは難しいな。我慢して、うーんと溜めて、バーンって解放するんだ」
「何て名前のスキルなんですか?」
「パワー・アンプって言うんだ」
「へえ、それも希少スキルですね。僕、聞いたことないです。えーと、パワー・アンプと──」
リコが手を挙げた。
「そういえば、リコはマジアのスキル知らないし」
えっ、幼馴染でも知らないのか?
「マジア、お前のスキルはどういうのだ?」
「いえ、僕のスキルは大したことないんで……、今回は……、いや、ずっと役に立ちません」
マジアがうつむき、言い淀む。
「マジアのスキルはきっとマザコンだし。で、リコのスキルはねー」
「方位魔術だろ。もう、知ってるよ。他にはあるのか?」
「他にはないもん! でも、リコの方位魔術は世界一だし!」
毎度、揺るぎない自信には畏れ入る。
「リコにはファンタズマの正確な居場所を見つけてもらうからね」
「いぇーい! 朝飯前なのだ! ん……? 作戦会議の後に朝ご飯を食べるから、朝飯後なのかな?」
「エイジさんはコンボでブラスカさんの戦闘を支援してくださいね」
「おう! 戦闘なんて初めてだから、任せろとまでは言えないが、ベストを尽くすぜ!」
「じゃあ、ファンアタズマの幻惑魔術式に対抗する戦略を説明しますね」
「「「はーい」」」
「ファンアタズマの城は重魔術によって巧妙に隠蔽されています。そのまま、飛び込んでいったら、幻惑魔術の波動で精神を侵され、命を落とすでしょう。そこで、僕が準備した重魔術式で逆位相の波動を打ち出し、幻惑魔術を相殺します」
「くぅー……、くぅー……」
リコがこっくりこっくりと船を漕いでいる。
寝るの早っ!
こりゃ、重魔術を全く習得しないのも納得だ!
「マジア、あの魔具を使うんだよな?」
「そうです。この重魔術の制御には魔具キターラを使います」
「ほう、さすが帝都で名を馳せる重魔術師マジア公だな。私が見込んだとおりだ」
「ライノを使うって言ってたけど、どうやって使うんだ?」
「それは見てのお楽しみですよ、エイジさん」
「ファンアタズマの城の実態が出現したら、みなさんはこれを装着して突入してください」
マジアがテーブルに黒縁眼鏡を三つ置いた。
「重魔術を破っても、城内には軽微な幻惑魔術が仕掛けられているはずです。この眼鏡を装着すれば、完璧とは言いませんが、ある程度は幻惑に惑わされずに済むはずです。僕の方からは以上です」
「では、出陣だな!」とブラスカが勢いよく立ち上がった。
「ええ、行きましょう。ファンタズマの居城へ!」
「おい、リコ、起きろ! ファンタズマを倒しに行くぞ!」
「……くかっ! 朝ご飯なの?」
「リコ、ご飯はラボラトーレさんにパッパラパンを用意してもらったから、現地で食べよう」
「パッパラパン! やったー! ピクニックみたい! じゃあ、すぐに行くし!」
「リコには服を用意したから、こっちで着替えて」
マジアがリコを連れて出て行った。
「エイジも剣を持っていたほうがいいな。私の短剣だが、これを使え」
ブラスカさんから短剣を受け取った。
手頃な大きさで手にもしっくり馴染んで、いい感じだ。
ちょっと試しに振ってみたが、不良少年にでもなったような気分だ。
「エイジ、見て見て! リコ、格好いい?」
戻って来たリコは、ゴス調の腰の締まった赤い服に白銀のミニスカといった出で立ちだ。胸元には青いリボンで、そこはかとなく貴族騎士っぽく見える。
「リコにも一応ですが、護身用に細身の剣を持たせました」
「リコって剣を使えるの?」
「んっふー! ウジのように這って、ハエのように刺す!」
リコがでたらめに剣を振り回す。
こっちのハエって刺すのか?
「エイジさん、リコは剣技はてんでダメです」
「うん、見りゃわかる」
「これは、攻撃はブラスカさん頼りですね」
「わはは、任せろ! このメテオラがあれば、鞘から抜けずとも他のへなちょこ剣士には負けないぞ!」
「じゃあ、出発です!」
俺たちは応接間を後にして、獣車へと急いだ。