リコ復活! そして、いよいよ
少し過呼吸気味なリコを抱きかかえて、部屋に戻った。
ブラスカさんは自分の部屋に戻ったのか、もういなかった。
リコをベッドに寝かせて、顔をのぞくと、少し落ち着いてるようで安心した。
ノックの音がしたので、ドアを開けたら、ラボラトーレさんがお湯とタオルを持って立っていた。
「エイジさん、リコさんはっ、大丈夫っかにゃ?」
「うん、具合は少し良くなったみたいだ」
「じゃあ、私がっ、リコさんをお拭きすっるにゃー」
「それなら俺がやっておくよ。ラボラトーレさん、ありがとう。助かったよ」
「じゃあ、何っかあったら、いっつでもお声をにゃー」
ラボラトーレさんと別れて、リコの髪や顔を拭いた。
ベチャベチャだな……。ベッドも少し汚しちゃったから拭かないと。
「エイジ……、ありがとう……」
「気にするなよ。俺はお前のパートナーだろ」
「パートナー……、下僕とか言って悪かったのだ……」
リコは俺から目を逸らし、少し恥ずかしそうにした。
「下僕でも何でもいいよ、俺は。元の世界に戻れるんなら、お前に協力するぜ」
「リコ、嬉しい……」
今日は素直なリコだが、もうちょいやる気を出してもらわないと、いつになったら日本に戻れるかわかりゃしない。
「なあ、リコ、お前の家のこと、ちょっと訊いていいか?」
「うん……、いいよ」
「どうして、あの姉さんはお前のことを嫌ってるんだ? お前が重魔術を習得できなかった程度で、普通、あそこまで嫌うかな?」
言ってから、しまったと思った。
以前、マジアがこの件に触れ、リコは大暴れしてたよな……。
「それもあるけど……。リコは十三女でお姉さまとは腹違いだし……。死んだパパがリコを一番可愛がってたのが、気に入らなかったみたいで、それが、お姉さまがリコを嫌う一番の理由かも……」
「そうなのか、リコは姉さんとは母親が違うんだな」
「うん、リコはママの顔知らないし。パパのことは世界で一番好きなのだ」
「うーん、貴族の世界は複雑だな。俺みたいな庶民にはよくわからんな。じゃあ、俺は隣の部屋で寝るから、何かあったら来いよ」
行こうとしたら、リコに服を引っ張られた。
「エイジ……、行かないで……。一緒に寝よ」
リコが潤んだ目で上目遣いに訴える。お子様最強の武器だ。
「ああ、わかった! 今晩は一緒に寝てやるよ。今晩だけだからな!」
リコを着替えさせてやり、ランプを消した。
月の薄明かりがぼんやりと部屋の中を照らしている。
ベッドに横になると、すぐにリコが手を握ってきた。
「エイジのこと、パパの次に好きかも……」
「リコ……」
俺はリコの手を強く握り返した。
「ん……? いや、3番目……、いやいや……、ライノの次で5番目かな……」
ええい、何番目でもいいから! 今日は早く寝ろ、リコ!
そう心の中で怒鳴り、俺は目を閉じた。
◇◆◇
「……ん? これは……、……ポワ? リコ、ポワ見つけちゃったし」
んー……、まだ眠いんだけどな……。
けど、さっきから妙に股間がもぞもぞするが……、何だ……?
「あれ……? ポワにしては……ちょっと硬いし……。よし! 頭は捕まえたのだ!」
目を開けたら、リコが俺の股間を服の上からいじり回してた!
「エイジ、大変なのだ! エイジの股にポワが入りこんでるし! ポイズンポワだったら毒があるから一大事なのだ!」
「バ、バカ! そ、それは違うわ! いいから、早く着替えろ!」
「はーい!」
リコは素直に従い、着替えを始めた。
「エイジの自前のポワは割と小ぶりだったし……。もうちょっと育てて自分で食べるつもりなのだ……」
何かブツブツ言ってるが、触れないでおこう……。
ポワって一体どこに住んでるんだ?
廊下がガタゴトと騒がしい。
あっ! そういえば!
ドアを開けたら、案の定マジアが台車で機材を運んでた。
「エイジさん、おはようございます!」
台車には銀縁の大きな黒いケースが何個か乗っている。
「おはよう! 俺も運ぶのすぐ手伝うぜ」
「ありがとうございます。じゃあ、あっちのをお願いします」
廊下の奥に機材が積んである。残りは台車二台分くらいだろう。
「わかった。着替えたらやっとく」
「リコ! リコも手伝うし!」
着替え終わったリコが出て来て騒ぐ。
「なあ、リコ。魔法で荷物とか運んだりできないのか? フワッと浮かせてさ」
「そんなことが簡単にできるのは、魔族くらいなのだ。浮かせて運ぼうと思ったら、複数の魔術式か重魔術式が必要だし」
「まあ、そんな便利な物は簡単にはないってことだよな。そう考えると、お前の方位魔術は大したもんだな。何も要らないしな」
「むっふー! リコの方位魔術は世界一だし!」
小さな胸をそっくり返して、リコが威張っている。
まあ、昨日あんな辛い目に遭ったんだ。
少しくらいおだてて、いい気分にしてやらないとな。
台車を押してたら、バンドをやってた頃を思い出した。
ライブ前に先輩たちと、こうやって会場に楽器を搬入してたよな。
今頃、先輩たちは何をやってるかな?
俺がいなくなって、遼子先輩は淋しがってくれてるかな?
まさか、俺が異世界に来てるなんて夢にも思ってないだろう。
手伝うと言ってたリコは、俺が押す台車に乗っかってる。
ケースに腰掛け、鼻歌なんて歌って、ご機嫌だ。
庭に出て、獣車の所まで来ると、機材が山積みになっていた。
竜車は見当たらない。昨晩か早朝にここを発ったのだろう。
あの意地悪なリコの姉がいなくなって、ほっとした。
マジアは人相の悪いライノに人参みたいなエサをやりながら、何かを話しかけている。
「マジア! そのライノを使うとか言ってたよな?」
「そうです。かなり騒音がしますから、ラボラトーレさんに役所に届け出をしてもらわないと」
「おはよう! 庭がにぎやかだと思ったら、みんな集まってたのか」
「ブラスカさん、今日の午後、決行しますから」
マジアが決意をこめた目で、ブラスカさんを見上げた。
「そうか! よし! 私も力いっぱい頑張るぞ!」
「あーん! リコも頑張るもん! あれ? 何か霧が出て来たのだ」
「この街は霧の日が多いらしいな」
ブラスカさんが険しい表情を見せる。
薄い霧がまたたく間に街を覆っていく。
「じゃあ、皆さん、応接間へ。今日の打ち合わせをしましょう!」
マジアに続き、俺たちは屋敷へと戻る。
いよいよ、ファンタズマ攻略戦だ!