表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

131/132

地底防衛都市スクド(57)

 岩壁を崩して現れたのは地竜だった!

 薄暗い中、土埃が舞い上がり、全貌は良くわからないが、目が鬼火のように赤く輝いている。

 地竜は岩壁から半分ほど体を出した状態で、こっちをじっと見下ろしている。

 奴の発する不気味なわななきがダンジョンの空気を震わせ、冷気が広間を覆い始めた。

 息を呑んでいたのか、静かだった兵士たちがざわめきだした。

 宮廷重魔術師たちがいた辺りが緑色の光を放っている。

 バリエラが防御重魔術式を発動したのだろう。


「エ……、エイジ! で、でかい親地竜だし!!! は、早く逃げるのだ!!!」とリコが焦った様子で力いっぱい俺の腕を引っぱる。

「あ……、ああ……、そうだな……」


 と答えたものの、怪しく光る地竜の目に何故か魅入られ、絶体絶命なピンチなはずだが、足が動かない。


「雷弓部隊! 矢をつがえろっ!!!」とインパットの号令が響き、

「うおおおお────っ!!!」と各所で兵士の掛け声が上がる。

「準備できた者から、地竜へ攻撃開始せよ!!!

「うおおおおおおおおおおお────っ!!!」


 兵士の怒号とともに弓鳴りと矢が空気をつんざく音がした。

 直後、聞こえてきたのは、次々と矢が地べたに転がる音だけだった。


「ははははは!!! 不死地竜を雷弓ごときで倒せるものか!!! 愚か者どもが!!! ははははは!!!」


 冥界の覇者ディザストロと名乗る男は愉快そうに笑った。


「マジア! お前の杖で思い切り照らせ!!!」

「はい! エイジさん! やってみます! 光れ! 杖よ!!!」


 マジアの杖がこれまでになく激しく輝き、視界が真っ白になる。

 それと同時にソノラの長い長い雄叫びが広間に響き渡った。

 その声で広間を覆っていた土埃が一掃され、地竜の全貌が(あらわ)になった。


 象を遥かに上回る灰色の巨体。

 大地を踏みしめる太い四本の脚と大きな爪。

 背中を覆う分厚そうな甲羅。

 顔の大半を覆う金属製の兜から突き出た三本の鋭い角。

 兜の奥で怪しく光る赤い目。

 頑丈そうな体だが、体のあちこちは肉が削げ落ち、骨が露出している。

 頭部も兜から露出した顎は骨だけだ。


「あれが……不死地竜……」とオレッチオがつぶやいた。


『グシュルルルゥルルルルゥルルルルゥ──』


 地竜が唸ると、大きな牙の隙間から青白く光る煙が漏れ出た。


「ガウワウワウゥ──!!!」とガルルンが凄まじい声で吠える。


「エイジさん、なんだか嫌な予感がします! みなさん、こっちに集まって!!!」

「私も嫌な予感がするぞ! あの煙はヤバそうだ! みんな集まるんだ!!!」


 ルーチェとブラスカが叫ぶ。

 俺とリコはルーチェに駆け寄った。


「ち、地竜討伐隊!!! 突撃ッ!!! 突撃だ──ッ!!!」

「う、うおおおお────っ!!!」

「うおっ!!! うおおおおおおお────っ!!!」

「雷弓部隊も諦めずに、ヤツの目を狙って、撃ち込め──っ!!!」

「じゅ、重魔術師たちは何をしておるのだ!!! こ、攻撃をせぬか──っ!!!」


 あちこちで士官の叫び声が交錯し、槍を抱えた兵士たちが地竜に突っ込む。

 兵士たちは槍や剣で地竜の胴や足を攻撃したが、地竜は身じろぎもせず、唸るだけだ。

 目を狙った矢も、地竜の兜で全て弾き返されている。


 そして、地竜が動き始める。

 前足を上げ、接近して攻撃していた数名の兵士を踏み潰す。

 大きな地鳴りがして、地面が揺れた。

 地竜は集まっている兵士たちを睥睨(へいげい)し、彼らを憎むかのように大きく咆哮した。

 兵士たちはそれに(ひる)み、慌てて後ろへと退いた。


「万物、土より生まれたる物なり! 地竜よ! 土くれに帰り、無となれ!!!」


 アルキミアの声が響き、地竜の上に魔法陣が現れ、地竜は金色の光に包まれた。

 地竜はその中で、吠え続けた。

 しばらくして魔法陣は消え去った。

 地竜は────、

 肉がほとんど無くなったが、太い骨と甲羅だけの体で動き回っている。

 首を振り、攻撃をしたのが誰か探っているようだ。

 奴が被る兜はダメージを受け、大きく亀裂が走っている。


「くそっ!!! アンデッドには効かぬか!!!」

「アルキミア!!! 今度は私が!!!」


 ソノラが杖を振り、音の矢を立て続けに放つ。

 その矢は兜の亀裂にことごとく命中し、亀裂が大きくなった。


「今度は俺じゃん!!!」


 クレティーノが杖を振ると、巨大な拳で殴られたように、地竜の頭が大きくぶれた。

 それと同時に兜が割れ、大きな音を立てて、地面に転がった。


 地竜は唸りながら頭をブルブルと振ったかと思うと、また動かなくなった。


「余興はこの辺りで終わりだ! お前らは完全なる闇の中、煉獄の炎に焼かれて冥界に堕ちるのだ!!!」


 ディザストロの声がどこからかした。

 その直後、地竜が物哀しげに長く吠えた。

 その声はダンジョンを駆け抜け、どこまでも響いた。


「エイジさん! 来ます! 用心して!!!」とルーチェが俺を引っ張った。

「何が来るのだ! ルーチェ!!!」とリコが叫ぶ。

「マジア、杖をそのまま光らせてろ!!!」と俺は叫んだ。


 ルーチェの杖が光り、俺たちは防御魔法陣に四方を取り囲まれた。

 ガルルンはオレッチオが背負う荷袋に飛び乗り、唸った。

 すると、ガルルンの角が赤く輝き始めた。


「みんな! 俺の声が聞こえるか!?」

「リコは聞こえるのだ!」

「僕も聞こえます!」とマジアの声。

「私も聞こえるぞ!」とブラスカの声。

「私も聞こえます!」とルーチェの声。

「僕も聞こえるので!」とオレッチオの声。


 パーティー全員の声が返ってきた。

 防御魔法陣の中は大丈夫そうだ。

 だが、外は漆黒の世界で何も見えないし、何も聞こえてこない……。

 地竜が子地竜と同じ攻撃を始めたに違いない。


「あっ! あ────っ!!!」とルーチェが叫ぶ。


 真っ暗だった外を青白い炎が埋め尽くしていく。

 ルーチェの防御魔法陣もその業火に押されているのか、彼女は苦しそうに杖を握り締めている。


「ルーチェ!!! 大丈夫か!!!」

「まだ大丈夫ですが……、どこまで()つかわかりません!!!」


 青白い炎は俺たちを取り囲み暴れまわっている。

 これでは外にいる兵士たちは無事では済まないだろう。

 青白い炎は休むことなく暴れ狂い、終りが見えない。

 ルーチェの魔法陣の光も薄れ始めた。


「ルーチェ! 頑張れ!!!」とみんなで応援したが──、


 魔法陣の光が明滅し、消えてしまいそうだ!

 熱気が中に入り始めた。

 みんなの顔には絶望の色が浮かび始めた。


 と──、凄まじい地鳴りがして、激しく揺れ、突然、炎が止んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ