地底防衛都市スクド(55)
「ルーチェ! お前の頭はトーチ代わりになっていいよな!」
「へへへ! そうでしょ! 連れてきて良かったでしょ!」
「トーチも買うと馬鹿にならない値段だしな」
仄暗い洞窟の中、振り向くと、三人の小さな少年がいる。
冒険服を着た少年たちは一人だけトーチを持っている。
少年たちは興味津々の顔でこっちを見ている。
「お前の頭、もっと明るくしてくれよ!」
「ドキドキしたら、もっと明るくなるけど、まだちっとも怖くないよ」
「あはは! なーんか、頭が光ってるから、お前の顔、不気味だな! お前の顔のほうが怖いや!」と太った少年がこっちを指差した。
「ひどーい! 私の顔、ぜんぜん不気味じゃないもん!!!」
「あはは! 怒ったら、明るくなったぞ! あははは!」
「お、おい! ルーチェ! 後ろ! 後ろっ!」
「うわあ! 出た──っ!!!」
「逃げろ──っ!!!」
突然、少年たちが血相を変え、走って逃げていく。
「へっ!? 後ろってどうしたの……?」
振り返ると、巨大な蜘蛛がこっちへ、のそりのそりと歩いてくる。
「ああ……、あああ……!!! 大土蜘蛛だぁ!!!」
洞窟の中が一気に明るくなった。
「逃げなきゃいけないけど、もっと見たいかも!」
もたもたしていたら、大土蜘蛛が飛びかかってきた。
気味悪い模様をした丸々とした腹が襲いかかってくる。
「うひゃぁ──っ!!!」
まばゆい閃光がきらめき、何も見えなくなった。
視界が戻ると、大土蜘蛛は体を縦に二分されて、死んでいた。
ドロドロとした体液が地面を流れている。
「大丈夫だったか?」と男の声がした。
いつの間にか横に背の高い男が立っている。
青白く光る剣を握った男は、さっと純白のマントを払った。
「はい! 大丈夫です!」
「なんか、君は嬉しそうだな? 怖くなかったのか?」
「怖いの大好きなんです! あ〜、ドキドキしました!」
「んー……。君はダンジョンには来ないほうがいいぞ。今回が初めてかい?」
「はい! 初めてです! こんな楽しい所なら、もっと来たいです!」
「桃色の髪だし、君は光の巫女だね。長老に注意しておくからね」
「うわぁ! それは困ります! 内緒で来たんです! ところで、貴方はどなたですか? こんな所で何をしてるんですか?」
「私はこのダンジョンの住人だ。夕飯のキノコを採りに来ただけだ。今日は今すぐ帰らないと、長老に言いつけるからね」
「はい……、すぐに帰ります……」
マントの男は大土蜘蛛を剣で突いて、本当に死んでるか確認した後、横穴へと消えていった。
「ちぇっ! もっと魔物や魔獣を見たいなあ……。けど、長老は魔物より怖いし……」
開いた大土蜘蛛の腹にズボリと手を突っ込んだ。
グリグリと手探りをし、手を抜くと、体液でまみれた菱形の石が握られている。
「魔石、初ゲットだぜ!!!」
その石を握り締め、洞窟を駆けて戻っていった。
◇◆◇
「マジア、こっちなのだ!」
「リコさ、僕が見たいのは宮廷重魔術師で、宮廷の大浴場じゃないよ!」
「リコはうちより立派なお風呂を見てみたいし!」
「お風呂なんか見ても、ちっとも面白くないよ! それより宮廷重魔術師を見に行こうよ!」
真紅の絨毯が敷き詰められた広い廊下で、小さな男の子が向こうを指差した。
「宮廷重魔術師なんか見ても、ちっとも面白くないのだ。リコは重魔術式は大嫌いだし。それよりこの機に皇帝のお風呂に二人でしっぽりと浸かるのだ!」
男の子の手を引くと、彼は力いっぱい踏ん張った。
「おい、お前ら! こんな所で何してるんだ!?」
振り向くと、黒髪の綺麗なお姉さんが切れ長の目でこっちを見下ろしている。
ポニーテールのお姉さんは甲冑を着て、腰に剣を付けている。
「リコはお兄様に会いに来ただけだし。お姉さんは誰なのだ? お姉さんも宮廷重魔術師?」
「私は近衛騎士団の騎士だ。まだ、見習いだけどな」
お姉さんは恥ずかしそうにポリポリと頬を掻いた。
「リコのお兄様は宮廷重魔術師なのだ。知ってる?」
「誰だよ? わからないぞ、それだけじゃ」
「クレティーノ・パルテンツァなのだ。帝都一の貴族のエルフだし!」
「クレティーノ……。手が早いって噂は聞いたことがあるな。へえ、お前はその妹なのか」
「クレティーノさんが手が早いって、どういうことですか?」
男の子が興味津々の顔でお姉さんを見上げた。
「お前らはまだガキだから、そんなことは知らなくていい。用事を済ませたら、すぐに帰れよ」
「おい、見習い騎士! 皇帝のお風呂はどこか教えるのだ!」
「皇帝陛下のお風呂だと! 駄目だ、駄目だ。とっとと帰るんだ!」
「ケチケチ見習い騎士が! リコは皇帝のお風呂でマジアの小さなタマタマがどこにあるか探すのだ!」
「お前ら! 近衛騎士団に逆らうと帝都から追い出すぞ! さあ、帰れ帰れ!」
お姉さんが剣を抜き、脅す。
「あわわわ!!! とても近衛騎士に見えないし、きっとならず者だし! マジア、逃げるのだ!」
大慌てで男の子と廊下を逃げていった。