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地底防衛都市スクド(53)

「また最後尾になってしまったのだ……」


 リコは振り向き、真っ暗な第十五階層の主洞穴を怪訝な目つきで睨んだ。

 ようやく部隊に追いついた俺たちだが、リコが言うように最後尾だ。

 俺たちの前を歩くのは、大きな荷袋を背負ったポーターの一群。

 体格のいい男たちが連なり、見通しが悪い。


「宮廷重魔術師たちが前衛についたので、魔物や魔獣は全部彼らと兵士が倒してくれるから、安全でいいんじゃないですか?」

「そうだよ、リコ。ルーチェさんの言うとおりだよ。僕たちの目的は地竜討伐じゃないからね」


 そう言って、マジアがアノニモをちらっと見た。

 マジアはアノニモを気にしている。

 マジアの態度を見ていると、アノニモが宮廷重魔術師マジア・ベリタの可能性を彼も考えていることがわかる。

 仮にアノニモがマジア・ベリタだとすれば、マジアの目的は既に達成していることになる。

 そのアノニモはただぬぼーっとマジアの横を歩いている。

 時折り、マジアが話しかけているが、いつも「ああ」とか「うん」とか生返事を返している。


「エイジ、油断するなよ。私は最後尾が一番危ない気がするぞ。また子地竜が攻撃してくるかもしれないしな」とブラスカは主洞穴の壁に絶えず視線を送っている。

「ブラスカ、うちには便利なエロエロ巫女がいるから、子地竜が近づいてきたら、邪気ですぐわかるし」

「リコさん、エロエロ巫女はもうやめてください! 風評被害がはなはだしいです!」

「ルーチェ、今は邪気はしないのか?」と俺は杖を振って怒っているルーチェに尋ねた。

「ええ、全然しませんね!」とルーチェは少し怒った声で答えた。

「けどさ、第十八階層に親の地竜がいるんだろ。そろそろ、そっちの邪気がしてきてもいいんじゃないか? オレッチオは何か聞こえるか?」


 オレッチオが立ち止まって、耳栓を取り、目を閉じた。

 ガルルンは疲れてきたのか、彼の足元にゴロンと寝そべった。


「うーん、兵士たちの足音が大きすぎます……。何だか前の方が騒がしいですね」

「前の方……? 魔物でも現れたのかな?」

「前衛が第十五階層の守護獣(ガーディアン)と遭遇したんじゃないか?」

「距離的にブラスカさんの言うとおりかもしれませんね」とオレッチオがうなずいた。

「ってことは、ミノタウロスかサイクロプスにアルキミアたちが出くわしたってことか……」

「エイジ、その程度の魔物は彼らの敵じゃないぞ」とブラスカはのんきそうだ。


 ミノタウロスもサイクロプスも実物は見たことないが、ブラスカがそう言うのだから、心配はないのだろう。


「リコのローブが随分汚れてしまったのだ!」


 リコは魔物の心配より服の汚れを気にし始めた。


「ダンジョンなんだし、汚れても仕方ないだろ」

「エロエロ巫女のローブはすごく綺麗だし! ルーチェは清浄魔術式の御札を持ってるに違いないのだ! リコにもよこすのだ!」とリコがルーチェのローブの裾を引っ張る。

「リコさん、引っ張らないでください! はいはい! 持ってますから!」


「自分だけ綺麗になって、小ずるいエロエロ巫女だし!」

「もう! 御札もあと少しだけなんです。エロエロ巫女ってもう言わないって約束したら、御札をあげます!」


 二人のやり取りをアノニモがニヤニヤして見ている。

 奴のマントは清浄魔術式だが、御札みたいに枚数の心配も要らないのだろう。

 そんな低次元な(いさか)いを傍観してたら、前の方から大きな歓声が波のように押し寄せてきた。

 兵士たちが剣や盾を振り上げ、大声を上げて盛んに叫んでいる。

 主洞穴は彼らの騒ぐ声が反響し、やかましいこと限りない。

 オレッチオは慌てて耳栓を戻し、「きっと守護獣(ガーディアン)を倒したんでしょう!」と大声を上げた。


 ほどなくして、兵士たちの興奮は収まり、進軍が再開した。

 俺たちもそれに続いた。

 相変わらず、ブラスカは壁を気にしている。


「なあ、ブラスカ。お前はミノタウロスやサイクロプスを倒したことあるのか?」

「私はダンジョンへは行かなかったから、見たことはないな」

「そうなのか。じゃあ、どんなのと戦ってたんだ?」

「私が魔王討伐で遠征してたのは帝国の北だ。魔物はゴブリンやオークやトロール、魔獣は魔狼(ガルム)やワイバーンが多かったな」

「そうか、ガルルンの仲間か……。ワイバーンって何だ?」

「ワイバーンは小さな翼竜みたいなのだな。竜車に使ってるのより小さいかな」

「うわあ! ガルルンを野生に戻したら、いつかブラスカに殺されるのだ!」


 リコがひきつった顔でガルルンを見下ろした。

 ガルルンは「僕に何か?」って感じで首を傾げている。


「ルーチェはダンジョンのモンスターには詳しいんだよな?」

「私は第五階層までの警備補助が仕事なので、冒険者から話は聞くんですが、実物は見たことないのが多いです。オレッチオさんのほうが詳しいんじゃないですか?」

「そうだな。オレッチオのほうが知ってそうだな」

「いえいえ、僕も駆け出しなので」とオレッチオは首を振った。


 そんな話をしながら歩いてたら、視界が開け、だだっ広い空間に出た。

 天井がやたら高く、体育館くらいの広さで地面は平らだ。

 奥には、ダンプカーほどの大きさの土の塊がいくつか積み上がっている。

 兵士の多くは壁に寄りかかって座り、広間を取り囲むようにして休んでいる。


「ここが第十五階層の守護獣(ガーディアン)がいる広間ですね」とオレッチオが周囲を見回した。

「ってことは、守護獣(ガーディアン)はあれかな?」と俺は小高くなってる土の塊を指差した。

「ミノタウロスかサイクロプスか知らないが、どうやらアルキミアが片付けたようだな」とブラスカが俺の肩を叩く。

「アルキミアたちはどこだ? って……、いたいた!」


 アルキミアほか宮廷重魔術師たちは奥の方で車座になって話している。


「前衛がここにいるってことは、ここでしばらく休憩かな?」

「エイジさん、守護獣(ガーディアン)を倒したので、当分ここは安全です。おそらく今日はここで野営でしょう」

「なるほど。じゃあ、俺たちも休もうぜ」

「エイジ、ちょっと待て! 壁の近くは避けよう」


 兵士たちが(たむろ)している壁へと歩こうとしたら、ブラスカに止められた。


「ここで野営しよう」とブラスカは今いる場所に座り込んだ。

「ここ、真ん中だし、みんなに見られて落ち着かないんだが……」

「いいんだ、エイジ。ここにしよう!」

「エイジ〜、あっちに行って、守護獣(ガーディアン)の死骸を見ようよ〜!」とリコが甘えた声で俺の袖を引く。

「エイジさん、私も見たいです!」とルーチェが俺の腕を掴んだ。


 と──、リコとルーチェの視線がぶつかった。


「エロエロ巫女はここで休んでればいいし!」

「エロエロ巫女ってまた言いましたね! もう清浄魔術式の御札はあげませんからね!」

「ふん! ケチケチ巫女が! そんな物、もう要るもんか!」

「こ、今度はケチケチ巫女って……! もう、リコさんなんか知りません!」


 興奮してきたのか、ルーチェの頭が明るくなり始めた。


「こら! お前ら、みっともないから喧嘩はやめろ! 別にエイジと一緒に行く必要もないだろ!」

「ははは……、ブラスカの言うとおりだぞ。まあ、俺も見たいから行くけどな」


 なんだかんだで結局、アノニモを除く全員が見に行くことになった。

 大きな土の塊の周りには兵士やポーターが何人か集まって、見物している。


「うーん、ただの土の山だし……。ミノタウロスかサイクロプスかもわからないのだ」

「アルキミアの魔術式でゴブリンも土になってたしな。そこに角っぽい(かたまり)があるから、そっちがミノタウロスなんじゃないか?」

「エイジさん、そうですよ。こっちがミノタウロスです」とオレッチオが角の形の(かたまり)に触れると、ボロボロと呆気なく崩れてしまった。


 ガルルンは土の山をクンクン臭ってたと思ったら、そこにおしっこをかけてる……。


「オレッチオ、魔石がこの中にあるんじゃないか?」

「いえ、全部土になってしまってるでしょう? あったとしても、もう取られてると思うので」

「そうだな。出遅れすぎだしな」


 すぐに見飽きた俺たちは、荷物を置いた場所へと戻った。


「ふわぁ! 泉の間ではあまり寝てないし、リコはすごく眠いのだ」


 トーチで照らされる広間の真ん中で、リコが大あくびをした。

 兵士やポーターも横になって、既に眠りについてる者もいる。

 薄暗い中、寝息やいびきがあちこちから聞こえてくる。

 リコもあっという間に寝てしまった。

 杖を抱いて、幸せそうな顔をしている。

 アノニモは畳んだマントを枕にして、マジアと並んで寝ている。

 ガルルンも丸くなって寝たようだ。

 オレッチオは少し離れた場所で、ポーター仲間と話している。

 ブラスカもまだ起きてて、ルーチェと雑談をしている。


 だだっ広くて、なんだか寝にくいけど……。今日はあまり休んでないし、いい加減寝ておかないとな……。


 俺もゴロンと地べたに寝転がり、目を閉じた。


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