地底防衛都市スクド(52)
主洞穴に繋がる横穴は狭く、一列でしか進めない。
太った兵士は横幅いっぱいだ。
雷弓隊は担いでいる荷物を一旦降ろして通過していたらしく、それで時間が掛かったようだ。
「エイジ、こんな前も後ろもつかえてる場所で、地震が来たら怖いのだ」
リコがそう言うと、地鳴りがして、地面が揺れた。
みんながギョッとした感じで、洞窟の天井や壁を睨んだ。
リコも目を剥いて、上を向いている。
強い揺れはすぐに収まったが、まだ小さく揺れている気がする……。
「うえ〜、本当に揺れたし……。こんな狭い穴から早く出たいのだ」
「そうだな。だが、なかなか進まないな」
「エイジ、何だか壁から音がしない?」
「そうか? リコの気のせいじゃないか? なあ、ルーチェ」
振り向くと、ルーチェが血相を変えて、杖をいきなり振り上げた。
「邪気です! 邪気です! 総員警戒!!!」
ルーチェが叫んだ途端、洞窟の壁が崩れた。
「エイジ、壁が崩れて、穴が開いたのだ!」
「リコさん、気を付けて! 邪気は近いです!」
「うわぁ!!! 何だこいつ!!! うわぁ!!!」と前の兵士が叫んだ。
「おい! どうしたんだ!?」
問いかけたが、返事がない。
「おい! 伍長が消えたぞ!」
「何だと! 何があったんだ!?」
前方の兵士たちが振り返って騒いでいる。
「この穴に引きずり込まれたんだ! 魔獣がいるんだろう!」
兵士がトーチでポッカリと口を開けた穴を照らした。
穴は人が四つん這いになって入れるくらいの大きさだ。
「あれ? トーチで照らしてるのに、何も見えないぞ???」
兵士はおそるおそる、トーチを握る手を奥へと突っ込んだ。
と──、その兵士の姿が消えた。
「あわわわ! エイジ、こ、子地竜なのだ! む、むぐっ!!!」とリコが慌てて走りだし、前の兵士の背中にぶつかった。
「魔獣の攻撃だ! みんな! 急げ! 早くこの穴から出るんだ!!!」
俺が叫ぶと、兵士たちは一斉に足を速め、前へ前へと進み始めた。
そんな中、また地面が揺れ、前方に別の横穴が現れた。
「ぎゃあ──っ!!!」
絶叫の後、慌てふためいていた前の兵士の姿がまた消えた。
「エイジ!!! また兵士が穴に引きずり込まれたのだ!」
「マジア!!! お前の杖をもっと光らせろ!」
「はい! エイジさん! 杖よ、輝け!!!」
横穴が昼間のように明るくなった。
「急げ! 急げ! もっと速く! 今のうちだ!!!」
俺たちは大急ぎで狭い洞窟を進んだ。
後ろからは兵士の叫び声がいくつも聞こえてくる。
マジアの光が通り過ぎたので、新たな犠牲者が出たのだろう……。
必死に足を動かし、ようやく横穴から主洞穴に抜けた。
俺たちを待っていたのは、穴の入り口を取り巻くように並ぶ兵士たちだった。
皮の鎧を着た兵士たちが剣を構え、俺たちを睨みつけている。
「おい、魔獣はどこへ行った!?」と一人の兵士が訊いてきた。
「わからない。横の穴から突然現れて、何人か引きずり込まれた!」と俺は答えた。
「その魔獣はどんな魔獣だった?」
「子地竜なのだ! 真っ暗になる攻撃をする奴だし!」と今度はリコが答えた。
「こちりゅう!? 上の階層で出た魔獣だな……。この階層にもいたのか……」
「違うのだ。奴は地竜だから、きっと穴を掘れるのだ。おそらく上から降りてきたのだ」
そんな事を話している間に、穴から全員出たのか、誰も出てこなくなった。
「後ろにいたの、こんなに少なかったか?」
「いえ、エイジさん。もっといたと思います」とルーチェが首を振った。
「くそっ! またあの妙な魔獣にやられたのか!」と兵士は悔しそうに顔を歪め、乱暴に剣を収めた。
「マジア! オレッチオにブラスカとアノニモは?」
「僕より後ろを歩いてたはずですが……」
「ここにいないよな……」
ぐるりと見回したが、三人ともいない。
悔しがっていた兵士は、他の兵士に向かって前進しろと手を振り始めた。
主洞穴で立ち止まっていた部隊が動き始める。
「おいおい、本隊が行ってしまうぞ! ブラスカたちを探しに戻らないと!」
「エイジ、慌てなくていいのだ! こういう時こそ、リコの出番だし!」
リコが杖とトーチを置き、祈りのポーズを取る。
目を閉じたかと思ったら、すぐに祈りのポーズを解いた。
「リコ、もう見つかったのか?」
「うん。すぐそこに来てるのだ」とリコが穴を指差した。
穴の入り口が明るくなり、トーチを掲げたブラスカ、アノニモ、それとガルルンを抱えたオレッチオが出てきた。
「はあ〜、ブラスカ。お前ら、地竜にやられたかと思ったぞ」
「オレッチオの荷袋が地竜に引っ張られてな。それを助けてたら真っ暗になったんで、もう駄目かと思ったけど、アノニモが助けてくれたんだ」
「そうなんですか。ブラスカさんは真っ暗になったんですね。僕は大丈夫だったので」と言い、オレッチオは抱えているガルルンを見た。
「えっ! どうしてだ? アノニモはどうだった?」とブラスカが振り返り、アノニモを見上げた。
「俺は大丈夫だったな」とぶっきらぼうにアノニモが答えた。
「僕も最初は真っ暗になったんですが、ガルルンの角が光ったんですよ。それからは大丈夫でした」
「んー? ガルルンも魔獣だし、何か特殊スキルがあるに違いないのだ」とリコがガルルンを撫でた。
ガルルンは「これはご飯がもらえる前兆に違いない!」と期待いっぱいの眼差しでリコを見つめている。
「リコの推理だと、上で遭遇した地竜が穴を掘って降りてきたらしい。そうだとすると、アルキミアの魔術式で埋めてもダメだな」
「エイジ、地竜だから地面に穴を掘るに決まってるし。でかい地竜も穴を掘ったから、大地震が起きたのだ」
「なるほど、地竜が穴を掘って地脈を断ったから、あの大地震が起きたんですね」とルーチェが何度もうなずいた。
「何にしても急ごうぜ! 置いてけぼりにされちまう!」
部隊の最後尾を行く兵士の姿が小さくなっていく。
俺たちは彼らの後を急いで追った。