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地底防衛都市スクド(51)

「リコ、この洞窟には錯乱の扉があるぞ」

「この洞窟は真っ青に光ってるから、きっとそうだろうと思ったのだ」


 リコは興味がないのか、すぐに出口へ向かおうとした。


「やっぱり錯乱の扉の光だったんだな」とクレティーノも興味なさげに歩きだした。

「クレティーノさん、錯乱の扉って珍しいんですよね? 見なくていいんですか?」

「錯乱の扉に近づいて神隠しに遭ったりするの嫌だし、俺っちはいいや」

「エイジも急ぐのだ。揺れてるから、小さい洞窟は崩れるかもしれないし」


 錯乱の扉ってクレティーノが言うように、神隠しに遭ったりするから、こっちの世界じゃ縁起が悪い物なのかもしれない……。

 俺は洞窟の奥へと振り返り、運が悪かった俺の世界の仲間に別れを告げた。


 洞窟を出ると、沢山の灯りが上からゆっくり降りてくるのが見えた。

 第十階層の広場へと繋がる螺旋階段をアルキミアが重魔術式で錬成したようだ。

 一際明るい光が見えるが、おそらくマジアの持つ杖だろう。

 リコと一緒にその階段の下へ行くと、アルキミアとルーチェがいた。

 アルキミアは岩に座り、立てた杖に両手で寄りかかり、ぐたっとしている。

 俺の姿を一瞥すると、「よお、死に損ない。足を引っ張るなよ……」と声を掛けてきた。


「アルキミアさん、ありがとうございました!」

「俺は計画どおりの事をやっただけで、貴様を助けちゃないからな。礼ならクレティーノに言え」

「こんな高さの階段を即興で作れるなんて凄いですよ!」

「お陰でくたくただ。当分は魔術式は使えないな」


「エイジさん、心配しましたよ! 良かったです!」とルーチェに突然ハグされた。

「あ、ああ……。ルーチェ、心配かけて、ゴメンな!」

「このエロエロ巫女が! エイジから離れるのだ!」とリコがルーチェのローブを引っ張っている。

「熱い! 熱い! リコさん、トーチが近い近い!」


 慌ててルーチェが俺から離れた。

 すると、今度はちょうど降りてきたブラスカに抱きつかれた。


「エイジ! 大丈夫だったんだな! 今度こそ死んだかと思ったぞ!」

「ははは……、悪運だけは強いみたいだ……」

「お前がいなくなると寂しいなって思ったぞ!」

「おい、俺を勝手に殺すなよ……」


 自分の手のやり場に困ったので、軽く彼女の腰に添えた。

 ブラスカの顔が俺の肩の上にあり、ハグの習慣のない俺は戸惑うばかりだ。

 リコがじっと見ているが、今度はちょっかいを出してこない。

 ブラスカが離れると、アノニモとマジアが降りてきた。

 アノニモは俺を見て、無言でグッと親指を突き上げてウインクした。


「エイジさん、無事だったんですね。良かった〜。怪我はありませんか?」


 マジアが杖で俺の体をあちこちと照らして、怪我がないか確かめている。


「ああ、ガーゴイルに掴まれてた手首がまだ痛いくらいだな。マジア、心配かけたな」

「ほんと、エイジはスーパー・ラックのスキルで大事はなかったけど、さらわれた事自体、運が悪いのだ」とリコが横でつぶやいた。

「うーん、良く考えりゃそうだな。運がいいのか悪いのか……」

「運が悪いのはいつも僕にイタズラしようとするからですよ」

「マジア、命からがら生還したんだから、もっと喜べよ」

「もちろん喜んでますよ。当たり前じゃないですか」


 (まばゆ)く光る杖を握るマジアの後ろ、荷を担いだ兵士たちが続々と降りてくる。

 クレティーノは盛んに階段の上を見上げている。

 おそらく転落した者がいたら、浮遊魔術式で助けるためだろう。


 ポーターが降りる番になり、オレッチオが降りてきた。

 ガルルンは彼に抱えられ、大人しくしていたが、

 俺の顔を見つけると、「生きてたんですね! 何かください!」って感じで元気よく吠えた。

 オレッチオは俺に向かって、無言で大きくうなずいた。


 最後に降りてきたのはソノラとバリエラだった。

 人が多いので、彼らは俺に気付かず、どこかに歩いていった。

 降りてきた兵士とポーターは二百名くらいだろうか。

 真っ暗だったここも、今は多くのトーチで地形がよくわかる。


「オレッチオ、ここは第十五階層の主洞穴なのか?」

「違います。主洞穴から横穴で繋がっている袋小路の広場です。何もないですし、あのガーゴイルが人を襲うので、冒険者はここへは滅多に来ません」

「そうなのか。じゃあ、アルキミアが階段を作ったから冒険ルートが変わるかもな」

「補強する必要はあるでしょうね。急造の階段なので」


 オレッチオが言った主洞穴へと続く横穴は狭いのか、なかなか前へ進まない。


「これだけ人がいると、ちっとも怖くなくてつまらないです」と横にいるルーチェがぼやいた。

「エロエロ巫女は黙って頭を光らせてればいいのだ」


 リコが杖でルーチェのお尻を小突いた。


「リコさん、お尻をつつかないでください! それとエロエロ巫女って呼ぶのはやめてください! 風評被害です!」とルーチェが抗議した。

「ははは。そうだぞ、リコ。巫女様を悪く言うとバチが当たるぞ」とブラスカが笑う。

「ブラスカ、ところでフィアマさんはどこに行ったんだ?」と俺は訊いた。

「地竜に近づいてきたから、宮廷重魔術師たちと一緒に先頭に行ったんだろう。あいつは本気で地竜討伐を狙ってるからな」

「そうなのか。じゃあ、魔物が出たらブラスカに頑張ってもらわないとな」


 そう言ったところ、後ろから誰かが肩を叩いた。

 振り向くと、背の高い憲兵がいた。


 そうだった。アノニモがいるのを忘れていた……。


 マジアは大土蜘蛛の糸が残っているのが気になるのか、片手で杖を掲げ、空いてる掌で冒険服を何度も擦っている。


「マジア、ここで拾った物があるんだが、見るか?」

「えっ!? ここで何を拾ったんですか?」


 俺は胸ポケットからスマホを出して、マジアに渡した。


「エイジさん、何ですか、これは? そこそこ重いので文鎮ですか?」

「それはだな……。うーんと……。離れた人と会話する魔具だな」

「離れた人と会話する魔具? ただの薄っぺらな板で魔法陣も魔術式も書いてないですけど?」

「魔力切れでもう使えないんだ」

「そうなんですか。じゃあ、調べたいので僕にください」

「それはダメだな。俺の世界に戻れば使えるからな」


 マジアからスマホを取り上げたら、リコがじっと見ている。


「リコ、お前は日本で見たことあるよな」

「あるよ。けど、それはエイジの大学じゃ使えないのだ」

「おお、知ってるじゃないか。だが、オフラインでアプリは使えるぞ。電話やネットは使えないけどな」

「エイジさん、何を言ってるのかわかりません」

「私もちんぷんかんぷんです」


 マジアとルーチェに文句を言われた。


 ああ、スマホなんかあるせいで、元の世界の調子で話しちまった……。


「ああ、すまない! ところで、オレッチオ、第十五階層はどんな魔物や魔獣がいるんだ?」と慌てて話題を変えた。

「ガーゴイルと……、第十五階層の守護獣(ガーディアン)がいますね。ケルベロスみたいに他所(よそ)に出ていったかもしれませんが」

「そいつは何なんだ?」

「ミノタウロスとサイクロプスです」


「うわあ! 両方とも大きい魔物でドキドキしますね!」とルーチェが杖を振って喜んだ。

「ルーチェ、先行した宮廷重魔術師や他の兵士に倒されるんじゃないか?」

「うーん、きっとそうですよね……」

「怖いのを見たけりゃ、エロエロ巫女もとっとと先に行けばいいのだ」


 リコのルーチェへの言葉が冷たい……。


「いえ、リコさん。バリエラさんがいなくなったから、今度こそ私が防御魔術式で皆様をお守りしますよ!」

「ありがたいが、これだけうじゃうじゃ兵士がいれば、大丈夫だろう」


 前を見ても後ろを見ても兵士だらけだ。

 兵士の列は少しずつ前に進んでいる。

 そして、ようやく俺たちは主洞穴に繋がる横穴の入り口に辿り着いた。


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