表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/132

地底防衛都市スクド(48)

「おい、バリエラ! 防御魔術式であの攻撃が防げるのか?」

「アルキミア! 試してみるしかなかろう!」


 大盾を構え、腰を落としたバリエラが少しずつ前進していく。

 彼を中心として、円形防御陣も少しずつ動いている。

 必然、一箇所に集まった俺たちもゆっくり移動しなければならない。


「ところで、あの闇はどこなのだ? 光の巫女!」とアルキミアが彼と背中合わせになっているルーチェに肩越しに尋ねた。

「わかりませんが、邪気はまだします!」


「おい! 見ろよ! 防御陣の外が真っ暗になってるじゃん!」とクレティーノが外を指差す。


 数秒前までは、洞窟の景色だったはずだが……。

・今は防御陣の外は真っ暗な闇だ。

 だが……。


「防御陣の中だと見えますし、声も聞こえてますね!」と俺は声を上げた。

「確かに! 防御陣の効果はあるようだな!」とバリエラがまた少し前進した。

「おい、バリエラ。球状防御陣の方がいいんじゃないのか? これだと上がガラ空きだ」とフィアマのハスキーな声がした。

「球状防御陣だと移動できないんだ!」

「上は洞窟が見えてるし、子地竜の術は効いてないのだ!」とリコが上を向いた。


「エイジさん、僕を肩車してくれませんか?」

「マジア、何をするつもりだ?」

「上から、僕の杖で思い切り照らしてみます!」

「なるほど! よし、じゃあ、乗れ!」


 しゃがんでマジアを乗せ、立ち上がった。


「エイジ、次はすぐにリコを肩車するのだ!」

「リコ、遊んでる場合じゃないんだ!」

「違うのだ! 子地竜が出てきたら、リコの杖で拘束して捕らえるのだ!」

「そうか! ちょっと待てよな。マジア、早くやれ!」

「はい、エイジさん! 光れ! 杖よ!!!」


 マジアが杖を高く掲げて叫ぶと、杖の先がフラッシュして何度も光った。


「わはは! 闇が消えたぞ!!! 奴らはやはり光が苦手らしい!」とブラスカがはしゃいだ。

「ブラスカ、魔獣はどこだ!?」

「フィアマ、あそこじゃないか? 景色が妙だ!」とブラスカが指差す。


 洞窟の景色がポッカリと消え、漆黒の闇が揺れている。

 闇は所々にあり、今も動いている。


「三匹はいそうだな。だが、やはり、さほど大きくはない」とアルキミアがつぶやいた。

「この中だと大丈夫だが、次はどうする? この陣形のまま野営地まで逃げるか、それとも戦うか?」とバリエラが足を止めた。

「インパットがどこかにいるはずだから、救出しなければ!」

「そうだな、フィアマ。では次の一手は誰がやる?」とブラスカが振り向き、宮廷重魔術師たちを見た。


「俺っちがやってみるじゃん!」


 クレティーノが手を伸ばし杖を高く揚げ、円形に回すように勢いよく振った。


 周囲の岩が竜巻に巻き込まれたように、勢いよく吹っ飛んだ。

 岩と岩が激突する音があちこちで響く。

 もうあの闇はどこにいるのか判然としない。


「洞窟が崩落するとマズいから、このくらいでやめとくし」とクレティーノが杖を降ろした。

「魔獣はどこへ行ったの!?」とソノラが身を翻し、ぐるりと首を回した。

「あそこ、あそこだし!!!」


 リコが指差した先に、見たことのない魔獣がいた。

 軽自動車ほどの大きさの、アルマジロみたいな魔獣が慌てて逃げている。

 色が土色なので、薄暗い中で目を離すとすぐに見失いそうだ。

 他にもいるはずだが、隠れているのか姿が見えない。


「エイジ! 子地竜が逃げるのだ! 早く、マジアを降ろして、リコを肩車するのだ!」

「そうだった! ほら、マジア、降りろ!」


 リコを乗せて、立ち上がったが……。


「リコ、杖は防御陣の外に届きそうか?」

「わからないけど、やってみるのだ! 拘束魔術式!」


 リコが叫んだが、逃げる地竜との距離は離れていく。


「バリエラ! 防御魔法陣を解け! 俺が奴を捕らえる!」とアルキミアが防御陣の際に飛び出た。

「わかった! 防御魔法陣を解くから、みんな用心しろ!」


 防御魔法陣が消え、アルキミアが逃げる地竜目がけて、杖を振る。

 黄金に輝く魔法陣が地を這うように、奴を追尾していく。

 魔法陣が追いつきそうになったが、地竜は横穴を見つけ、そこに飛び込んだ。


「ははは、バカな奴め。穴に飛び込んだわ! 分解術式!!!」


 アルキミアは地竜が逃げた穴目がけ、杖を振った。

 黄金の魔法陣は吸い込まれるように穴へと入っていき、ゴゴゴという地鳴りとともに穴が塞がった。


「あと二匹はいたはずだが! どこだ!?」

「あそこだし! あそこだし! 拘束魔術式!!!」とリコが杖を振り降ろした。


 だが、またリコの拘束魔術式は外れたようで、地竜は一目散に逃げていき──、

 突如として姿が消えた。


「また、闇に紛れたか!!!」と悔しそうにアルキミアがわめいた。


 するとガルルンが「ワウワウ!」と吠え、勢いよくオレッチオが握る綱を引いた。


「ガルルンが何か見つけたんじゃないのか?」

「エイジさん、そうなんですかね。じゃあ……」とオレッチオが手綱を放した。


 凄い勢いでガルルンが走っていき、岩場の陰で吠えた。


「あそこに何かいるみたいだ!」


 俺とオレッチオ、それとルーチェが走った。

 そこで見たのは──。


 ガルルンが「この人死んだんですかね? 食べていいですか?」って感じで倒れた男の体を盛んに臭っている。

 倒れているのはインパットだった。

 体は落っこちた操り人形みたいな形で硬直し、白目を剥いている。


「リコの拘束魔術式が当たったんじゃないか?」と俺はしゃがんで、鼓動を確かめた。


 幸い、死んではないようだ。


「そうでしょうね。けど、当分起きそうにないので」とオレッチオが冷ややかな目で見下ろす。

「回復系の魔術師はいないから、気の毒ですね」とルーチェが彼の体を揺すった。


「抱えていくの大変だし、起きてくれないかな」

「野営地は坂を下ればすぐなので、仕方ないから抱えていきましょう」


 大きな荷袋を背負ったオレッチオと二人で抱えようとしたら、バリエラが来て、片腕でインパットをひょいと持ち上げ、肩に担いだ。


「君たち、魔獣が逃げてる間に、野営地へ急ごう!」

「はい、バリエラさん! リコとマジアも早く来い!」


 あっちでリコとマジアが杖を挙げて、応えた。

 俺たちは一丸となって、坂を駆け下り始めた。

 坂で勢いがつき、何度も滑り転びそうになった。

 しばらく走っていると、視界が開け、周囲が明るくなってきた。


「マジック・クリスタルです! 野営地にもう着きますよ!」


 先導していたオレッチオが走るのをやめ、歩きだした。

 第十階層は主洞穴は巨大な橋のような形状で、両サイドに丸く飛び出た広場があちこちにある。

 その広場には兵士やポーターが何人も休憩している姿が見えた。


「みなさん魔法陣が描かれた広場に行ってください! そこがセーフエリアです!」


 オレッチオの指示に従い、俺たちは一番近場の広場に入った。

 バリエラがインパットを肩から降ろすと、兵士たちが寄ってきて、驚きの声を上げた。


「中隊長殿! ご無事だったんだ!」


 インパットは気絶したままで、まだ動かない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ