地底防衛都市スクド(48)
「おい、バリエラ! 防御魔術式であの攻撃が防げるのか?」
「アルキミア! 試してみるしかなかろう!」
大盾を構え、腰を落としたバリエラが少しずつ前進していく。
彼を中心として、円形防御陣も少しずつ動いている。
必然、一箇所に集まった俺たちもゆっくり移動しなければならない。
「ところで、あの闇はどこなのだ? 光の巫女!」とアルキミアが彼と背中合わせになっているルーチェに肩越しに尋ねた。
「わかりませんが、邪気はまだします!」
「おい! 見ろよ! 防御陣の外が真っ暗になってるじゃん!」とクレティーノが外を指差す。
数秒前までは、洞窟の景色だったはずだが……。
・今は防御陣の外は真っ暗な闇だ。
だが……。
「防御陣の中だと見えますし、声も聞こえてますね!」と俺は声を上げた。
「確かに! 防御陣の効果はあるようだな!」とバリエラがまた少し前進した。
「おい、バリエラ。球状防御陣の方がいいんじゃないのか? これだと上がガラ空きだ」とフィアマのハスキーな声がした。
「球状防御陣だと移動できないんだ!」
「上は洞窟が見えてるし、子地竜の術は効いてないのだ!」とリコが上を向いた。
「エイジさん、僕を肩車してくれませんか?」
「マジア、何をするつもりだ?」
「上から、僕の杖で思い切り照らしてみます!」
「なるほど! よし、じゃあ、乗れ!」
しゃがんでマジアを乗せ、立ち上がった。
「エイジ、次はすぐにリコを肩車するのだ!」
「リコ、遊んでる場合じゃないんだ!」
「違うのだ! 子地竜が出てきたら、リコの杖で拘束して捕らえるのだ!」
「そうか! ちょっと待てよな。マジア、早くやれ!」
「はい、エイジさん! 光れ! 杖よ!!!」
マジアが杖を高く掲げて叫ぶと、杖の先がフラッシュして何度も光った。
「わはは! 闇が消えたぞ!!! 奴らはやはり光が苦手らしい!」とブラスカがはしゃいだ。
「ブラスカ、魔獣はどこだ!?」
「フィアマ、あそこじゃないか? 景色が妙だ!」とブラスカが指差す。
洞窟の景色がポッカリと消え、漆黒の闇が揺れている。
闇は所々にあり、今も動いている。
「三匹はいそうだな。だが、やはり、さほど大きくはない」とアルキミアがつぶやいた。
「この中だと大丈夫だが、次はどうする? この陣形のまま野営地まで逃げるか、それとも戦うか?」とバリエラが足を止めた。
「インパットがどこかにいるはずだから、救出しなければ!」
「そうだな、フィアマ。では次の一手は誰がやる?」とブラスカが振り向き、宮廷重魔術師たちを見た。
「俺っちがやってみるじゃん!」
クレティーノが手を伸ばし杖を高く揚げ、円形に回すように勢いよく振った。
周囲の岩が竜巻に巻き込まれたように、勢いよく吹っ飛んだ。
岩と岩が激突する音があちこちで響く。
もうあの闇はどこにいるのか判然としない。
「洞窟が崩落するとマズいから、このくらいでやめとくし」とクレティーノが杖を降ろした。
「魔獣はどこへ行ったの!?」とソノラが身を翻し、ぐるりと首を回した。
「あそこ、あそこだし!!!」
リコが指差した先に、見たことのない魔獣がいた。
軽自動車ほどの大きさの、アルマジロみたいな魔獣が慌てて逃げている。
色が土色なので、薄暗い中で目を離すとすぐに見失いそうだ。
他にもいるはずだが、隠れているのか姿が見えない。
「エイジ! 子地竜が逃げるのだ! 早く、マジアを降ろして、リコを肩車するのだ!」
「そうだった! ほら、マジア、降りろ!」
リコを乗せて、立ち上がったが……。
「リコ、杖は防御陣の外に届きそうか?」
「わからないけど、やってみるのだ! 拘束魔術式!」
リコが叫んだが、逃げる地竜との距離は離れていく。
「バリエラ! 防御魔法陣を解け! 俺が奴を捕らえる!」とアルキミアが防御陣の際に飛び出た。
「わかった! 防御魔法陣を解くから、みんな用心しろ!」
防御魔法陣が消え、アルキミアが逃げる地竜目がけて、杖を振る。
黄金に輝く魔法陣が地を這うように、奴を追尾していく。
魔法陣が追いつきそうになったが、地竜は横穴を見つけ、そこに飛び込んだ。
「ははは、バカな奴め。穴に飛び込んだわ! 分解術式!!!」
アルキミアは地竜が逃げた穴目がけ、杖を振った。
黄金の魔法陣は吸い込まれるように穴へと入っていき、ゴゴゴという地鳴りとともに穴が塞がった。
「あと二匹はいたはずだが! どこだ!?」
「あそこだし! あそこだし! 拘束魔術式!!!」とリコが杖を振り降ろした。
だが、またリコの拘束魔術式は外れたようで、地竜は一目散に逃げていき──、
突如として姿が消えた。
「また、闇に紛れたか!!!」と悔しそうにアルキミアがわめいた。
するとガルルンが「ワウワウ!」と吠え、勢いよくオレッチオが握る綱を引いた。
「ガルルンが何か見つけたんじゃないのか?」
「エイジさん、そうなんですかね。じゃあ……」とオレッチオが手綱を放した。
凄い勢いでガルルンが走っていき、岩場の陰で吠えた。
「あそこに何かいるみたいだ!」
俺とオレッチオ、それとルーチェが走った。
そこで見たのは──。
ガルルンが「この人死んだんですかね? 食べていいですか?」って感じで倒れた男の体を盛んに臭っている。
倒れているのはインパットだった。
体は落っこちた操り人形みたいな形で硬直し、白目を剥いている。
「リコの拘束魔術式が当たったんじゃないか?」と俺はしゃがんで、鼓動を確かめた。
幸い、死んではないようだ。
「そうでしょうね。けど、当分起きそうにないので」とオレッチオが冷ややかな目で見下ろす。
「回復系の魔術師はいないから、気の毒ですね」とルーチェが彼の体を揺すった。
「抱えていくの大変だし、起きてくれないかな」
「野営地は坂を下ればすぐなので、仕方ないから抱えていきましょう」
大きな荷袋を背負ったオレッチオと二人で抱えようとしたら、バリエラが来て、片腕でインパットをひょいと持ち上げ、肩に担いだ。
「君たち、魔獣が逃げてる間に、野営地へ急ごう!」
「はい、バリエラさん! リコとマジアも早く来い!」
あっちでリコとマジアが杖を挙げて、応えた。
俺たちは一丸となって、坂を駆け下り始めた。
坂で勢いがつき、何度も滑り転びそうになった。
しばらく走っていると、視界が開け、周囲が明るくなってきた。
「マジック・クリスタルです! 野営地にもう着きますよ!」
先導していたオレッチオが走るのをやめ、歩きだした。
第十階層は主洞穴は巨大な橋のような形状で、両サイドに丸く飛び出た広場があちこちにある。
その広場には兵士やポーターが何人も休憩している姿が見えた。
「みなさん魔法陣が描かれた広場に行ってください! そこがセーフエリアです!」
オレッチオの指示に従い、俺たちは一番近場の広場に入った。
バリエラがインパットを肩から降ろすと、兵士たちが寄ってきて、驚きの声を上げた。
「中隊長殿! ご無事だったんだ!」
インパットは気絶したままで、まだ動かない。