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地底防衛都市スクド(44)

 第七階層を進んでいく。

 落盤しそうな箇所がまたあるかもしれないので、ソノラが先頭に立ち、声を岩盤に反響させて確かめている。

 先行部隊の足跡はまだ続いている。全滅はしてないようだ。


 自分より大きな荷袋を背負ったオレッチオは疲れた様子も見せず、軽快な足取りだ。

 オレッチオが手綱を握るガルルンは、ナーガの血を飲んだ後は元気いっぱいで、跳ねるように彼の足下を歩いている。


「オレッチオは何階層まで降りたことがあるんだ?」

「十九階層までですね。二十階層には守護獣(ガーディアン)のケルベロスが鎮座してたので、降りてません」

「そうなのか。じゃあ、二十階層から先に行った冒険者は少ないのかな?」

「ケルベロスが吐く火さえ完全に防御できれば、先に行けますので。うちのパーティーは耐火防御に長けたメンバーがいないので、降りるのは避けてました」

「何にしても、今地竜がいる十八階層へは降りたことがあるんだな?」

「ええ、十八階層にある光と生命の洞穴は普段は魔物や魔獣がいないセーフエリアなので」

「しかし、お前はどうして討伐隊に参加したんだ? 危険すぎるだろ」

「稼ぎが段違いにいいからですよ。それと大勢の兵士がいたので、それほど危険だとは思いませんでした」

「けど、俺たち、孤立しちゃってるしな……。早く先に行った部隊に追いつきたいぜ」

「もし、僕たちだけしか残ってない場合、あの人たちはそれでも地竜討伐をするんでしょうか?」

「皇帝の命令らしいから、宮廷重魔術師たちは何があろうとやるんじゃないかな? けどな、このパーティーには海竜と毒竜を倒した強者がいるんだ。他の宮廷重魔術師も強いし、これだけのメンバーがいれば、地竜だって倒せる気がするな」

「えっ!? 本当ですか? 海竜と毒竜を倒したのって誰ですか?」

「元近衛騎士団のブラスカは知ってるよな。海竜は彼女が倒した。毒竜は宮廷重魔術師のクレティーノだ」


 オレッチオがハチマキを上げ、俺が教えた二人を感慨深そうに凝視している。


「あの二人が……。すごいな、っていうか、海竜と毒竜ってまだ存在したんですね……」

「ああ、俺がこの目で両方見たから間違いない」

「リコも見たのだ! 二匹ともでかかったのだ!」


 俺に手を引かれ大人しく話を聞いてたリコが、杖を威勢よく振り上げた。


「へえ、海竜と毒竜はムスコロに討伐されていなくなったのかと思ってましたよ」

「それを言えば、地竜もだよな」

「ああ、そうですね。まあ、ムスコロの話は英雄伝説ですから脚色されてる面もあるかもなので」


 のんきにオレッチオとだべってたら──、突然ぐらりと地面が揺れ、上から土くれがパラパラと落ちてきた。

 アルキミアとバリエラ、クレティーノがいち早く反応し、杖を構えた。

 揺れはすぐに収まり、全員が安堵の息を吐いた。


「やっぱり、洞窟内の地震はおっかないじゃん」とクレティーノが洞穴の天井を見上げた。

「はは、軟弱な奴だな。俺が何とかするから、貴様は安心していろ」


 アルキミアはクレティーノを皮肉ると、置いた荷袋を背負い、また歩き始めた。


「地竜がまた暴れだしたようだな。当分は大人しくしてくれればいいのだが」とバリエラが神妙な声でつぶやく。


「ポーターさん、今度の野営地はどこなの?」とソノラが振り返った。

「第十階層にセーフエリアがあります。そこで野営をしましょう。先行部隊もいるかもしれませんので」


「あと三階層もあるのだ……」とリコがぼやいた。

「リコは疲れてないか?」

「ううん。キノコを食べてから、目が冴えたし、すこぶる体調もいいのだ」

「へえ、あのキノコ、割と役に立つんだな」


 しばらく進むと、なだらかな下り坂になった。

 いよいよ第八階層へと降りていく。


「坂なので、足下に気を付けてくださいね」


 一際明るい杖でマジアがみんなを誘導した。

 その隣をアノニモが歩いている。

 二人は何かを話しているようだ。


 坂が終わりかけた頃、ルーチェがそわそわし始めた。


「どうしたんだ、光の巫女様。トイレか?」とブラスカが声を掛けた。

「ちっ、違います! 邪気です! 邪気を感じるんです!」


 ルーチェの言葉に、ブラスカとフィアマはトーチを掲げて、前に出た。

 坂が終わると、ゆるいカーブの主洞穴で、見通しが悪い。

 俺たちは一塊になって、ゆっくりと慎重に進んでいく。


「オレッチオ、何かいそうか?」と俺は声を潜めて訊いた。

「…………。四足の生き物が近づいているような……」

「魔獣ですよ……。邪気がしますし……」


 ルーチェが後ろから俺の肩を掴んだ。

 その手が少し震えている。


「ルーチェは怖いの大好きじゃなかったのか?」と俺は振り返った。

「は、はい……。普通の魔物や魔獣なら、ドキドキするはずなんですが、なんだか経験したことがない異質の邪気がするんです……」

「何なのだ、それは? リコが方位魔術で確かめるし」

「いえ、リコさん。確かめるまでもありません。もうすぐそこにいるはずですので……」


 オレッチオが先に広がる暗がりを指差した。

 ガルルンが姿勢を低くして牙を剥き、うなり始めた。


「オレッチオ、何もいないのだ」

「いえ、いますよ。獣の息遣いがします」


 ソノラはそう答え、杖を構えた。


「ソノラ、どこにいるのだ? 何も見えないが」


 アルキミアが槍のように杖を構え、忍び足で少しずつ進んでいく。


「マジア、もっと明るくしてくれよ」

「エイジさん、わかりました」


 マジアの声と同時に、彼の持つ杖から(まばゆ)い閃光が放たれた。


『グガエェッ!!!』


 何かの声がして、前方の壁が(えぐ)れた。


「おい! あそこを見るじゃん!」


 トーチをかざしたクレティーノが指差すのは、前方の暗がりだ。


「クレティーノ、何もないぞ……。いや……、おかしいな! あれは!?」


 トーチをかざしたブラスカが剣を抜いた。


「エイジは何か見える? リコは何も見えないのだ」とリコが俺の手を握り締めた。

「いや、見えないから変なんだ。見てみろ! あそこだけトーチで照らされてるのに、真っ暗だ!」


 クレティーノのいる5メートル先にブラックホールのような漆黒の闇がある。

 輪郭がぼんやりとした自動車ほどの大きさの闇が右へ左へとゆらゆらと揺れている。


「どうやら、あれが魔獣のようだな……。みんな、もっとトーチを掲げて、あそこを照らせ」


 フィアマが少しずつその闇に近づいていった。

 得体の知れない闇は、逃げることもなく、ただそこでゆらりゆらりと揺れている──。


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