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地底防衛都市スクド(36)

 俺たちは宮廷重魔術師たちと第五階層の主洞穴を奥へと進んでいった。

 入り口からかなり離れたここは争った跡がなく、死体も転がっていない。

 薄暗く、杖やトーチの明かりが頼りなので、足を早める訳にもいかず、皆が一塊になって前進するしかない。


「シエロさん、先に行った討伐隊はまだこの階層にいるのかな?」と俺は茶髪のイケメン重魔術師に尋ねた。

「エイジさん、僕はポテンザですよ。うーん、音が聞こえてきませんから、もう下に降りてるかもしれませんね」

「あっ! ポテンザさんだったか、すまない!」


 苦笑いしてごまかした。

 クレティーノの部下三人は、みんなアイドルみたいに美男子だが、顔の造りがよく似ている。

 同じサーコートを着ているので、まだ区別がつかない。


「リコ、お腹減ったし」とリコが俺の手を引いた。

「ああ、そういえば腹減ったな。もう時間の感覚がないけど、昼は過ぎてるよな」

「そうだな。じゃあ、ここらで休憩にするじゃん」


 クレティーノが持っていたトーチを地面に突き刺した。

 それに呼応して、他の重魔術師たちも同じようにトーチを突き刺し、適当な高さの岩に腰を下ろした。

 オレッチオがガルルンの手綱を岩に結びつけ、背負っていた大きな荷袋を降ろした。

 そこから携行食を取り出して、みんなに配った。

 それはおにぎりほどの大きさの保存食だった。


「あ──、俺の魔術式は結構なエネルギーを使うから、一個じゃ足りないんだが」


 アルキミアが小さな携行食を恨めしそうに見つめている。


「すみません。当分は我慢してください。他のポーターと合流するまでは節約したいので」

「量はいいんだけど、お水が欲しいわね」と今度はソノラが不満を口にした。

「すみません。しばらく我慢してください。下に降りれば泉がありますので」とオレッチオがまた謝った。

「ははは! 水使いのトレンテも呼ぶべきだったな。そうすれば水の心配は無用だしな」


 携行食をかじりながら、バリエラが豪快に笑った。


「仕方なかろう。水撃のトレンテ、爆裂のラフィカ、灼熱のブルチャンドは帝都の守りの要だしな。皇帝陛下は彼らが帝都から離れることを許すまい」

「アルキミア、あなた、岩から水を錬成できないの?」

「ソノラ、知ってて、わざと聞いてるだろ? できたらとっくにやってる」


 俺はリコに携行食を渡し、胡座をかいた。

 隣で「これは食べ物なのか」と不思議そうな顔をして、手にした携行食を眺めているのは軍服姿のアノニモだ。

 グルメで大食いのアノニモだ。

 たった一個で足りるはずがない。


「リコ、足りなきゃ、俺のを食べてもいいぞ」

「ううん……、リコいい子だから我慢するもん」

「そうか」と言い、差し出した手を戻そうとしたら、誰かが俺の携行食をかっさらった。

 きっとアノニモだと思って、顔を確かめたら、ルーチェだった。


「エイジさん! ごちです! ルーチェ、興奮しすぎてお腹ペコペコなんです!」

「お前な! 子どもかよ!」

「ルーチェ、これからもっとお役に立ちますから! どうもありがとうございます!」


 桃色の髪が微妙に発光しながら逃げていくルーチェを追う気もしなかった。

 食えなかった分、体力を温存しなければならないからな……。


「ったく……! 光の巫女のクソが……!」とリコは携行食を半分に割って、片方を俺にくれた。


 俺はダンジョンに入ってリコが少し成長したような気がして、半分この携行食をしみじみと味わった。

 携行食はただしょっぱいだけだった……。


 マジアは携行食を食べながら、膝に置いた杖を眺めている。


「マジア、その照明用の杖は明るくていいな」

「はい。それに何もしなくても勝手に明るさを調整してくれるようです。優れ物ですね」

「そうなのか。いい買い物だったな」


 視線を移すと、ガルルンにはオレッチオが携行食を砕いて与えていた。

 塩気が強いので大丈夫かなと思ったが、犬じゃなくて魔狼(ガルム)なので問題ないのかもしれない。

 ガルルンはすぐに食べてしまい、「もっと僕にください」とみんなの顔を見回して、尻尾を振っている。


「ほら、これをやるから、食え! 犬っころ!」

「はは! じゃあ、私もやるぞ!」


 ブラスカとフィアマが自分の分を割って投げ与えると、ガルルンは飛び跳ねて喜んだ。


「みなさん、そろそろ行きましょう。今日は第七階層の泉まで辿り着きたいので」


 オレッチオの呼び掛けに応え、みんな腰を上げた。


「オレッチオ、その泉までどのくらいかかるんだ?」


 俺はリコのローブに付いた食べこぼしを払い落としながら尋ねた。


「半日くらいですね」


「ポーターさん、半日もなの? 喉が干からびてしまうわ」とソノラが眉根を寄せた。

「どうしても耐えられない場合は言ってください。少量なら水はありますので」

「なんだ、あるのね。安心したわ」


 休憩は終わり、また一団となって洞窟を進んだ。

 トーチや杖の明かりに照らされ、洞窟の壁に俺たちの影が揺らめく。

 この主洞穴はかなり広く、天井も高い。

 ケルベロスが現れたと思われる大きな横穴を過ぎてからは、小さな横穴がたまにあるだけだ。

 横穴が見える度に、魔物の出現に備えて剣を握るが、まだ一度も遭遇していない。


「ケルベロスに追われて、他の魔物や魔獣はみんな逃げちゃったのかもしれませんね」


 桃色の頭が発光しているルーチェが振り返った。

 結構明るいし、便利そうな頭だ。

 ただ光の加減で、時々顔が不気味に見えるのは本人には言わないでおこう……。


「街に魔物が出没してたのもそのせいかもですね」とガルルンの手綱を握るオレッチオがつぶやいた。

「じゃあ、ケルベロスは地竜に追われて、上がってきたのかもしれませんね」とマジアが言うと、大勢がうなずいた。


「けどよ、地竜は最深層に幽閉されてたって聞いたけど、どうして出てこれたんだ?」

「クレティーノ、そんなことは誰にもわからないだろ」とアルキミアがそれに突っ込む。


「リコはどうしてだと思う?」と俺はリコに尋ねた。

「きっと、お腹が減ったんじゃない?」とクリンとした目でリコが見上げる。

「はあ? 何百年に一度しか食事しないのか? 地竜はよ」

「それはフィオレがさらわれたからですよ! 地竜を鎮める最高司祭がスクドからいなくなったことなんか一度もありませんから」


 ルーチェがそう答えた。

 きっと、それが真実なのだろう。

 みんな納得したようで、疑問の声は上がらなくなった。


 しばらくして、少しずつ歩みを進めていた俺たちは第五階層の突き当たりに達した。

 横の岩肌には下の階層へと繋がる主洞穴の暗がりが見える。

 ケルベロスとの戦闘以降、幸い、魔物や魔獣とは遭わずにここまで来ることができた。

 この先も危険な目に遭わないことを祈りつつ、横穴へと俺たちは入っていった。


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