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地底防衛都市スクド(34)

 かなり時間をかけて、スクド防衛隊の地下広場からダンジョン第五階層の神殿へと、俺たちは出た。

 出口となっている神殿の横側から眺めると、兵士とポーターが安全境界線を越え、石橋を渡り、以前ケルベロスが現れた洞窟へと続々と入っていくのが見えた。


「うわぁ、やっぱりかなり地震で崩れてますね!」


 大きな荷袋を背負ったオレッチオが、ハチマキを上げ、橋の向こう岸を見ている。

 彼の言うとおり無数の洞窟の入り口へと組んであった足場は、半分以上が無残にも崩れ落ちている。

 落盤で入り口が塞がってしまっている洞窟も結構ある。

 生き埋めになってしまった冒険者もきっといるのだろう。


「けど、橋が無事で良かったな」と俺が言うとオレッチオが大きくうなずいた。


「あ〜、ガルルン! そんなに引っ張っちゃダメなのだ! もっと、ゆっくり!」


 ガルルンは先に行きたくてたまらないのか、グイグイと手綱を引っ張り、リコは大変そうだ。


「ほう、犬かと思ってたら魔狼(ガルム)の子どもじゃないか。リコ、私が代わってやろう」


 ブラスカと歩いているフィアマが手綱を持ってくれた。

 リコとは違い、ガルルンが懸命に走っても、剣士のフィアマはびくともしない。

 ガルルンはフィアマを恨めしそうに何度も見上げると、諦めてゆっくり歩きだした。


 そんな調子で橋の半ばに差し掛かった時、先を進む兵士たちの隊列が突如乱れた。

 先に洞窟へと入っていった兵士たちが慌てながら戻ってきて、後方の部隊と鉢合わせて、立ち往生している。


「横穴からコボルトとゴブリンの大群が押し寄せてきた! 隊が分断されたぞ! 一旦下がって体制を整えろ!」

「エイジ……、もう魔物が現れたのだ!」


 兵士の叫び声を聞き、リコは青い顔でおろおろし始め、ガルルンが猛然と吠えだした。


「マジア、一旦、神殿へ戻ろう! リコ、行くぞ!」

「エイジさん、そうしましょう!」


 戻ろうとする俺たちを押しのけ、宮廷重魔術師のアルキミアが前に出た。


「貴様ら! コボルトとゴブリンごときで戻ってくるなよ!」

「坊やたちは後ろで隠れてて!」とソノラが杖を構えた。

「リコたちは神殿に戻ってろ!」とブラスカはメテオラを抜いた。

「エイジ、ガルルンを頼む!」とフィアマは俺に手綱を渡した。


「うわぁ! いきなりコボルトとゴブリンの大群ですよ! ドキドキしちゃいます!」


 ルーチェは嬉しそうに桃色の髪を振り乱して、はしゃいでいる。

 そんな中でもアノニモは相変わらず、ぼうっと突っ立ってるだけだ。

 その彼の後ろに巨体のバリエラがどっしりと構え、無言で戦況を見守っている。


「お前ら、とりあえず準備だけしとくじゃん!」

「「「はい、クレティーノ様!!!」」」


 三人の浮遊重魔術師たちが杖を握り直し、戦闘態勢をとった。


 洞窟の奥から、野獣のような雄叫びに混じり、剣を交える金属音がどんどん近づいてくる。

 俺は汗ばんできた手で剣の(つか)を握った。


「こ、来い! ま、魔物ども! リコ様が方位魔術でやっつけてやるのだ!!!」


 うろたえていたリコは目を泳がせながら、おかしな事を言いだした。

 マジアはポケットのコインをジャラつかせている。

 捕縛魔術式を仕込んでいるコインだろう。


 そして、ついに魔物たちが姿を現した。

 木の鎧を着た犬の顔をした亜人が、丸みを帯びた剣を振るいながら、洞窟から飛び出してきた。

 その周りを子どもくらいのゴブリンが棍棒を持って、うろちょろしている。

 ボロ着を(まと)った緑のまだら肌のゴブリンは数に任せて兵士の足を棍棒で殴りまくり、よろめいた所をコボルトが剣でとどめを刺している。

 何にしても、次から次へとコボルトとゴブリンが湧いてくる。

 兵士が対処しきれなかったゴブリンたちは、橋を渡って、一斉にこっちに向かってきた。


「うわぁー、ついに来ましたよ! さあ、どうしましょ!」とルーチェが黄色い悲鳴を上げた。


「あ〜、土くれに戻れ!!!」


 だるそうにアルキミアが杖を振るった。

 すると、先頭を走っていたゴブリンの一団の上に金色に輝く魔法陣が出現し、光のカーテンが彼らを覆った。

 光がすぐに消えると、ゴブリンたちは頭からボロボロと崩壊していき、小さな土の山と化した。


「これが錬金術系重魔術か! すげー!!!」と俺は思わず叫んだ。


 マジアもそれを見て、呆気にとられている。

 同じようにゴブリンに続こうとしたコボルトたちも驚いて、剣を降ろし、立ち止まった。

 彼らは盛んに後ろを気にしている。

 兵士を気にしているのだろう、と思っていたが、何だか違うような気がする。

 彼らは兵士には怯えずに剣を振るい上げて立ち向かっている。

 彼らの態度にはもっと別の何かへの畏怖を感じる。


 そんな躊躇(ちゅうちょ)をしていたコボルトたちへ、もう一人の重魔術師が容赦なく攻撃を始めた。

 白いサーコートを翻し、踊るように杖を振りながら、ソノラが歌を奏でた。

 その歌声は旋風と化し、杖に絡みつくと、神速の矢となり、次々とコボルトの胸を貫いた。

 橋を渡ろうとする魔物たちは、ことごとくアルキミアとソノラに倒されていった。


「はは! フィアマ、悔しいが出番がないな!」

「そうだな、ブラスカ! だが、地竜は譲る気はないがな!」


 ブラスカとフィアマは俺の前で、笑いながら声を交わした。

 ルーチェは杖を前にかざして待っているが、当分は出番がなさそうだ。

 アノニモとクレティーノは相変わらず後ろで暇そうにしている。

 リコは杖を持ったまま、地蔵のように固まっている。

 ガルルンがリコに向かって吠えているが、身じろぎすらしない。

 俺が肩を揺すったら、ようやく目に生気が戻ってきた。


「ああ……、エイジ……、地竜は倒したの?」

「何言ってんだ? まだダンジョンに入ったばかりだぞ。前を見ろよ。兵士たちが戦ってるだろ」


 橋の向こう岸では多くの兵士が血を流して倒れている。

 数で優るコボルトたちは、橋を占拠する俺たちの様子をチラチラと窺っている。

 そんな中、重く不気味な咆哮に空気が震えた。

 コボルトたちが露骨に動揺し始めた。

 ゴブリンたちは慌てふためき、大勢が橋を渡ろうとしたが、ことごとくアルキミアとソノラの餌食となった。


「この声は!!!」とオレッチオが目を剥いた。


「エイジさん、この声は!?」とマジアも叫んだ。

「あああ……! リコもこの声は知ってるのだ!」


 洞窟の中から(おびただ)しい悲鳴が聞こえてきた。

 その度に洞窟が赤く怪しく光った。


「邪気です! 邪気です! さあ、リベンジの開始です! ドキドキ最高潮です!」


 ルーチェの杖が青白く光り始めた。

 いよいよ奴が現れる!


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