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ソリタリオ家にリコの姉さんが!

 帝都街道を西に進むと、徐々に緑が目立つようになってきた。

 荒れ地に囲まれていた辺境防衛都市スパダとは違い、農耕作業をしている人々がいる。


「おい、リコ! 犬みたいなのが服着て働いてるぞ! ケモ耳だ、ケモ耳!」

「あれは獣人だよ。騒ぐほどのものでもないし」

「あれが獣人か。本物を見るの初めてだよ、俺。着ぐるみじゃなさそうだしな。うわっ! こっち見て、手を振ってる!」

「この辺りの獣人族は農業をやってるんですよ。良質なプチプチが採れるので、それでお酒を製造して帝都に送っているんです。これから行く、うちの分家も酒造業者なんですよ」

「へえー、マジアの分家って酒造業者なのか」


 プチプチってどんなかなと、獣人が果実を集めているカゴに目を凝らした。

 たくさん実があって赤い葡萄(ぶどう)みたいだった。


 プチプチ畑が続き、俺はぼんやりとそれを眺めていた。

 しばらくすると、前方にかなり大きな城壁が見えてきた。


「あれがミラジオの街です」


 マジアが窓から城壁を指さす。


「リコ、ファンタズマがいるのは、あの街でいいのか?」


 リコはあくびをしながら伸びをした後、窓から身を乗り出した。


「うーんと……。城壁はそれっぽいけど、何か違う気もするし?」

「違うって、何だ、そりゃ?」

「えーとね。お城がないのだ」

「リコさ、ミラジオには領主様の公邸はあるけど、お城はずいぶん前に解体されたって聞いたよ」

「えぇー、でもリコの方位魔術じゃ、お城が見えたもん」

「まあ、どの道、僕の分家に寄るから、獣車を降りたら街を回ってみましょう」


 マジアの獣車は城門をくぐり、ミラジオの街へと入っていった。


 ◇◆◇


 獣人たちが闊歩(かっぽ)する街中を抜け、獣車は広大な庭を構える豪邸の前で停まった。


「すげっ! 四階建てのビルくらいあるんじゃね? マジア、お前の分家ってすごいんだな!」

「はあ? このくらい大したことないんですけど……。あれ、貴族でも来てるのかな? 竜車が停まってる」


 獣車を降りた横には、竜が繋がれた獣車が停まっていた。

 獣人の次は竜だ!!!

 初めて見る竜に、いよいよ異世界って感じで、俺はかなり興奮した。

 その青い鱗の竜は野蛮そうなライノとは違い、落ち着きがあり、どこか気品が感じられた。


「食われたりしないよな……」

「エイジさん、大丈夫ですよ。獣車用の竜はとても大人しいんです」

「そうか……、でも、おっかねえから離れて歩こうっと……」


 その青い竜は、俺のことを興味深そうに長い首を伸ばして見ていたが、リコの姿を見るなり、甘えるような甲高い声で小さく鳴き始めた。

 リコはそれに気づかず、すたすたとマジアの分家へと入っていった。



 洋風の大豪邸に入った俺たちを迎えたのは獣人だった。


「これっは、これっは、マジアっ様。こんにゃ遠くまっで、よっくおいでくだっさいました」


 訛りのある舌足らずなメイド姿の猫耳娘が、マジアに深々と一礼した。

 獣人ではあるが、猫耳と尻尾以外は人とあまり変わらない。

 茶髪でちょっと浅黒い肌、アーモンド型の目が人懐っこそうだ。

 一生懸命そうだが、全身からドジっ娘オーラを漂わせている。


「ラボラトーレ、久しぶり! 元気にしてた?」

「私っめは、元気だにゃー、……じゃない。すこぶるお元気でっした!」

「この三人は僕の客人なんだ。応接間は空いてるかな?」

「はいっ! 一番っ広い応接間は、お客人様がっお使いでっすが、他は、空いてっるにゃー。じゃない……、空いておりまっす」


 猫耳娘に導かれ、だだっ広い廊下を進んだ。

 壁には立派な額に飾られたバカでかい風景画や、高そうな甲冑が並んでいる。

 応接間が見え、中をのぞくと、華やかなドレスを着た金髪の美女がいた。


 すげえ美人じゃん!

 ハリウッド女優かミス・ユニバースみたいだな!


 その美女は羽団扇を扇ぎながら、タキシード姿の中年男性と談笑している。


 と──、リコが急に立ち止まった。

 その顔には怒りの形相が浮かんでいる。


「おい、リコ、どうした? あの美人さんは知り合いなのか?」

「ぐ、ぐっ……、ベ、ベレッツァお姉さま……!」

「なんだ、知り合いなのか? 挨拶してこいよ。待っててやるから」


 廊下の気配に気づいたのか、美女がこっちを向いた。


 あれ? あの顔、どっかで見たような……?

 記憶を辿るが、あんな外人の美女には元の世界でも会ったことはない。


「あら、あら、なんだか家畜臭いと思ったら、あんな所に珍しい雌豚がいますわ!」


 美女がリコを見て、意地悪そうに笑った。


「…………」


 リコはといえば、見たこともない憤怒の表情で固まっている。


「帝都からいなくなったと思ったら、こんな田舎に隠れてたのね。豚だから、獣人がいる街がちょうどいいわよね。裏の豚小屋にでも住んでるのかしら?」

「ぐっ! お、お姉さま……!」

「あら、嫌だ! あなたとはもう縁もゆかりもないのだから、お姉さまなんて二度と呼ばないでくださる? 耳が腐るじゃない」


 このひどい物言いで思い出した。この女は俺が時々見る夢に出ていた女だ!


「あなた、早く私の視界から消えて豚小屋に戻っていただけないかしら? せっかくの田舎の美味しい空気が、豚臭くて台なしですわ。ああ、嫌だ、嫌だ! そこの執事! ドアをすぐに閉めてちょうだい!」


 ドアがピシャリと閉まる。

 リコはわななきながら、震える手を握り締めている。


「リコ、早く行こうよ。何も見なかったことにしよう」


 マジアがリコの震える手を握る。

 リコはしばらく立ち尽くしていたが、マジアに手を引かれ歩き始めた。


「ラボラトーレ、どうしてパルテンツァ本家のベレッツァ当主が来てるの?」

「マジア様、恥ずかっしにゃがら、パルテンツァ家にっ、資金援助をっ願っているのでっす。たっまたま、ベレッツァ公がこちらに遊興中というこっとで、お越し願ったっ次第だにゃー、じゃない……、次第にゃのです」

「えっ! 農園経営がそんなに上手くいってないの?」

「新しい領主様ににゃって、納税額がっ、跳っね上がったのでっす」


 猫耳娘に少し離れた応接間に案内された俺たちは、荷物をそこに置き、街へと出た。


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