【第九話】議論、最強の力とは
ジェイドのバスケの大会があったあの日から、一週間が経った。この三日間、夏休みに入ったことも相まって僕は狂ったように漫画を描き始めた。ジェイドがいる時は当然ストーリーを進めることができないため、今までのシーンの描き直し。それでも、楽しくて仕方がなかった。ジェイドが徐々にジェイドに近づき活き活きとしていく姿を見れるのが嬉しくて仕方が無かった。あぁ、やっぱりジェイドは最高だ…
「最近調子いいな。急にどうしたんだ?」
「あ、うるせぇ。バスケの練習でもしてろ」
「冷たっ!」
まぁ、隣にいるジェイドには罵倒しますけど。漫画の中のジェイドはいいが、現実世界にいるジェイド、お前は許さん。まぁ、ジェイドも僕が本気で怒ってないことはわかってるはずだ。わかってくれなきゃ僕の漫画の主人公失格だよ。
「そんな、いきなりキレなくても…。なぁ、何か買ってくるか?」
あ、失格だった。単純に集中してるだけだからいちいち気にしなくてもいいのにさ。
「別に怒ってなんかいないよ。ただ、今、相当漫画に集中しているってだけで」
「あ、そういうことか。なら、良かった」
優しいが相手の感情をよくわかってないのは、ジェイドの悪い癖か。メモでもしておくかな。
「で、調子はどうなんだ?漫画大賞いけそうか?」
だから、集中してんだから話しかけんなって。それにしても、ジェイドはことあるごとに漫画大賞の話を出す。調子の良い最近は特にだ。漫画大賞に出すなら俺が絶対優勝させるとまで言っている。優勝させて、華々しく漫画世界に戻るとまで言っている。
「まだ、完璧にストーリーが見えてないからなんとも。漫画大賞の締め切りまですごい時間があるわけじゃないし、どうなるかはわかんない」
「そっか…。もし応募するなら絶対優勝しようぜ!っつか、絶対優勝させるからよ!!」
ほら、また言った。ジェイドに熱意があるのはありがたいんだが、そもそも漫画大賞は僕が頑張んなきゃいけないんだよなぁ…。そう思いながら、筆を進める。とりあえず、もうそろそろワンシーンが仕上がりそうだ。それをジェイドに見せて、今の漫画がどの程度なのか判断するか。
「なぁ、ジェイド。お前が最初に来た時、僕の漫画に散々ケチつけたよな」
「いや、ケチっていうか、俺はお前に真剣に漫画を描いて欲しかっただけで…」
「これでも、同じことが言えるか?」
そう自信満々の顔をしてジェイドに出来上がったシーンを見せる。
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・・
・・・
村長「アルメよ、お前はこの村から出ていけ!!」
アルメ「こっちだって今すぐ出ていきたいのよ!でも仕事だから仕方ないじゃない!」
ジェイド「やめろ、二人とも!!」
・・・
・・
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「あぁ、このアルメか、覚えてるぜ。にしても、あいつだいぶ変わったな」
「うん、がっつり変えた。もう全く別物と言ってもいいかも」
ジェイドは真剣な顔をして僕の漫画を読み進める。
・
・・
・・・
村長「…、わかった。ただ、仕事が終わったらすぐに出て行け…、いいな!」
アルメ「言われなくたって、そうさせてもらうわ」
村長「はぁ、氷属性のやつらは冷酷で話にならんな…」
アルメ「本当、火属性の人ってすぐ怒るからまともに話ができないわ」
ジェイド「…」
ジェイド「おい、アルメ。もうちょい仲良くすれば…」
アルメ「それはこっちの問題でしょ、余計な口出ししないでくれない?っていうか、昨日喋ったばっかで馴れ馴れしいんだけど」
ジェイド「あぁ、悪い…。えっと…、」
ジェイド「…あ、仕事ってなんだ?」
アルメ「魔物の調査。アクアコープスっていう魔物がこの近くで発見されたらしいの。だからその魔物の生態を調べなきゃいけなくて」
ジェイド「そいつはどんなやつなんだ?」
アルメ「現状でわかってるのは液状の魔物で攻撃的、生き物にまとわりついて水分を吸い取って生きているってことぐらい。人が襲われたっていう話も聞いているわ。そこまで大きくないし、強くも無いから恐れる必要は無いけど、でも完全な倒し方がまだわかってないのよ。だから、今回の調査で倒し方がわかればいいのだけれど…」
ジェイド「そうだったのか…」
・・・
・・
・
「うわ、全然違ぇ!!ってか、アクアコープス!?新キャラじゃねぇか!!」
いちいち大げさな反応しなくていいんだけど、嬉しいじゃねぇか…。でも、ジェイドの言う通り、話は大幅に変わった。ジェイドが泊まったこの町には偶然、魔物調査の依頼を受けていたアルメが来ていた。その調査対象がアクアコープス。アルメ自身はその調査をやって帰るつもりだったが村の人との折り合いが悪かったのがネックとなってしまった。それもそうだ、アルメは氷属性の使い手、対して村の人は火属性の使い手、仲良くやっていけるわけがない。結局、アルメと村の人は仲違いをしてしまい、村の雰囲気は最悪となってしまう。ジェイドは…、まぁ運が悪かったってことで。
そして、その夜に事件が起こる。
・
・・
・・・
「キャァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!」
ジェイド「な、なんだ!!??」
アルメ「何があったの!?」
村長「来るな!!!お前らは下がっておれ!!!」
村長「ヘル・ファイア!!!!」
ゴォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!
ジェイド「な、なんだよこれ…!!」
そこに立ちはだかるのは人間の四倍の大きさはあるであろう謎の液体、アクアコープスだ。アクアコープスは村の人何人かを取り込み水分を吸おうとしている。村長たちは得意の火属性魔法で応戦しているが、相手は水属性、全く歯が立たない。
アルメ「村長、どいてください」
村長「あ、お前ごときに…」
アルメ「いいから、これ以上犠牲を増やすつもり!?」
村長「…わかった」
アクアコープス「…」
ゴォォォォォォオオオオオオオオオオオオ
アクアコープスが村長とアルメに襲い掛かる。アルメはその攻撃を冷静に見極め…
アルメ「これでも、食らってなさい!!」
アルメ「アビス・グレイシア!!!」
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
凍てつく吹雪を放つ。吹雪をくらったアクアコープスは凍り付く。
村人「アクアコープスが凍った!!」
・・・
・・
・
「お、勝った!!」
まだだよ、まだ終わってないっての。でも、アルメの唱えた魔法は勝ったと思わせるぐらいの強烈な氷魔法であった。一瞬でアクアコープスを凍らせ、囚われていた村人を救うことに成功した。これで万事解決。そう思ったが…
・
・・
・・・
アルメ「さ、これで…」
ピシッ!
ジェイド「アルメ、まだだ!!!」
アルメ「!?」
ピシッ、ピシピシピシピシピシピシピシピシ!!!!!
一瞬凍ったアクアコープスだったが、中の液体が動いたかと思うと、氷の表面に一気にヒビが入り、徐々に中の液体が流れ出していた。
バギャン!!!
アクアコープス「…」
アルメ「う、嘘でしょ…」
アルメが凍らせたことなど意にも介していないかのようにアクアコープスは氷を割り復活する。氷でもダメ、炎でもダメ、こいつはどう倒せばいいのか、一同は困惑し、絶望する。そんな中…
村長「お前らも、逃げろ!!こいつは倒せない!!私が責任もってなんとかする!!」
アルメ「何言ってんの!?これは私の仕事!あなたたちを巻き込むわけにはいかないの!!」
村長「客人を守れなくて何が村長だ!!これぐらいどうにかしてみせる!!ヘル・ファイア!!!!」
アルメ「だから、これぐらい出来ないと仕事が務まらないの!!アビス・グレイシア!!!!」
ゴォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!
村長の業火とアルメの吹雪がアクアコープスを襲う。業火は効かず、吹雪は凍らされても再生するアクアコープス、この二人の攻撃は無駄かと思われた。そんな時…!
アクアコープス「…っ!」
ジェイド「…!!!」
ジェイド「お、おい、二人とも!!」
村長、アルメ「何!!??」
ジェイド「アルメが凍らせたとこ、そこに村長の炎が当たった時、あいつ復活しなかったぞ!!!」
村長、アルメ「!!!!」
アルメの氷魔法、それによって凍った所に村長の炎魔法が当たった時、アクアコープスはただ溶け、蒸発したのだ。つまり、アルメと村長が協力すれば、このアクアコープスを倒せるかもしれない。ジェイドに言われ、アルメはアクアコープスを凍らせにかかるが、中々凍らない。
アルメ「アビス・グレイシア!!!!」
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!
ジェイド「くそっ、さっきより凍らない…!」
アルメ「耐性がついてるのかも…!!」
アクアコープス「!!!」ゴォォォ…!!!
村長「気をつけろ、水鉄砲が…!!」
ピシュン!!!
アクアコープスの土をも穿つ水鉄砲がアルメを狙う。そのあまりの速さにアルメも一瞬反応が遅れる。
アルメ「!!」
ジェイド「危ねぇ!!」
パシャッ!!
すんでの所でアルメを庇うジェイド。アルメはジェイドに感謝しようとするが…
アルメ「ジェイド!」
ジェイド「俺のことは気にすんな!!それより今はそいつを!!」
アルメ「わかってるって!!」
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!
アルメが今までの吹雪とは比べものにならない冷気をアクアコープスめがけてぶつける。耐性のついていたアクアコープスだが、その冷気には耐えられず、徐々に凍りだす。
アクアコープス「…っ!!」
ジェイド「こ、凍りだした!!」
アルメ「村長さん、今!!!」
村長「あぁ、わかってる!!!」
村長「ヘル・ファイア!!!!」
ゴォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!
そして、村長も先ほどの業火とは比べ物にならない熱風を凍ったアクアコープスにぶつける。凍ったアクアコープスはその地獄の業火に耐えきれず…
アクアコープス「!!!!!!!!!!!!!」
シュワァァァァァァァァ…
アクアコープスの体は溶け、あとに残ったのはただの水だけだった。
アルメ「はぁ…、はぁ…」
村長「はぁ…、はぁ…」
ジェイド「はぁ…、終わった、な…」
・・・
・・
・
こうして、アクアコープスを無事に倒し、村は無事に守られる。それも、あの仲違いしていたアルメと村長の二人の協力のおかげで…。これで、このシーンは終わり。果たしてジェイドの反応は…
「おぉ、だいぶ良くなってんじゃんか!!」
よし!結構力を入れて描いた分、面白くないとか言われたらどうしようかと思った。少なくとも前よりは面白くなっているようだ。じゃなきゃ困るけどさ。
「一応聞くけど…、まだ何かあるか?」
これで罵倒なんてされでもしたら本気で心が折れるぞ…。
「いや、良くなってるからな、普通にわくわくしたし。あ、でも一つだけ」
僕は覚悟して聞いた。
「もうちょい二人が揉める前の所と倒した後の所が見たいかもな。こいつらがどうなるかが気になるわ」
「確かに」
なるほど、確かに…。戦いの所に熱を入れ過ぎてそこの描写はおざなりになっていたかもしれない。後で描き加えるか。あとは、なんだ…
「あと、もう少しジェイドが活躍していいかもしれないかも。ちょっとモブ感があるよな」
「そうか?確かに俺はここで何もやってないかもしれないけど、このシーンは二人の協力が重要なんだろ?あんまり俺が目立つと…」
「大丈夫、そこはうまくやるさ」
となると、大幅に直すところはこのシーンの前後の描写を掘り下げ、ジェイドを目立ち過ぎないように目立たせることだな。かなり力を入れて描いたけど、まだ良くなるのか…。そう思うと、つい口が緩んでしまった。
「にしても、やっぱ良くなったよな。この調子で他の場面も直すのか?」
「もちろん、そのつもり」
あとどのくらいのシーンがあるかはわからないが、できれば全部描き直したい。それで、全部描き直して最後に向かいたい。そう、最後に…
「ただ、一つ問題があるんだよな」
「問題?」
「僕はまだ最後のシーンを決めてない」
そこからは、ジェイドはベッドに、僕は椅子に腰かけ議論の時間となった。
「最後のシーンなんて見えてなくて当たり前じゃないか?だってまだ途中なんだからよ。最後のシーンは最後に考えるもんだろ」
「いや、細かいところまで考える必要は無くても漠然とは考えておいたほうがいいって」
「そういうもんかぁ」
僕自身、なぜ自分の主人公にオチを求めているのかわからなかったが、それでも他の人に比べてジェイドに相談する方が確実だと思った。そのぐらい、ジェイドのことは信頼してるんだよ…、っていうか単純に他に相談する人いないし。
「でも、俺には余計な口出しはできないよな。俺の未来だし」
「もちろん、ジェイドの力の原因は僕が考える。そこをジェイドに求めたら意味わかんない、っていうか旅をする必要が無くなっちゃうしな」
無論、ジェイドに力の原因を考えてもらうつもりは無い。万一ジェイドに聞いて答えが出てしまった日には、ジェイドの旅の目的が一瞬にして無くなり、たった今この物語は終わってしまう。そんなアホなことをするつもりは毛頭ない。
「でも、例えば最後の技とかは一緒に考えられるんじゃないか?切り札ぐらいはジェイドがわかっててもいいだろ」
「あぁ、確かに」
これなら、問題は無いはずだ。それに、周りから固めていったらひょんなことから力の原因が見えてくるかもしれない。力の原因一つでうんうん唸るよりもよっぽど効率いいと思う。
「切り札かぁ、考えたこともねぇな。っつか、俺は気付いたら色んな技が使えてるし」
「でも、こういう技を使ってみたい、とか思ったことぐらいはあるだろ?」
ジェイドが使いたい切り札があれば、それを優先させて描くつもりだった。しかし、ジェイドは僕の顔を見てあっさりと一言。
「無いかもな」
「無いんかい」
これは、少し時間がかかるかもしれない。ジェイドに希望があればすぐさま採用するつもりだったけど、仕方ない。っていうか、これも僕が何も考えずに力を与えたことに原因があるかもな…、因果応報くずれだ。
「んじゃ、ちょっと考えてみっか。そうだな…」
「まず、現状で使えている技を整理するか」
「お、そうだな」
僕とジェイドは今までの漫画のシーンをざっと見て、使われている技を書き出していった。
「改めて見ると、結構あるな。僕はこんなにジェイドに力を与えていたのか…」
「俺も知らなかったわ、自分がこんな使えるって」
ジェイドの使える技、魔法は数えるだけでかなりあった。炎魔法、氷魔法、雷魔法などの有名な魔法から、千里眼や分身の技、使われている金が本物の金かメッキなのかがわかる技なんてものもあった。
「この金の技、いつ描いたんだよ」
「いや、多分僕もこれはネタとして描いたん…、いや設定がめんどくさかったから適当に技にしちゃったのか…、覚えてない」
「おいおい、作者さんよ」
それは置いといて、このたくさんの技をどうするかだな。これらの魔法や技自体は普通にジェイドの能力として覚えておいてもらえればいい。ただ、切り札としては弱いものばかりだな…。
「この中で切り札に使えそうな技、あると思う?」
「いや、無いだろ。どれも最後にしちゃパッとしない」
一応ジェイドに聞いてみたが、ジェイドも同じ意見だった。ということは、やはりここには無い新しい技が必要だ。ここに無い、最後にふさわしい技。
「んなのあるかなぁ」
ジェイドがどんな技だよ、と言いながらベッドに寝転がり宙を仰ぐ。僕もすぐには思い浮かばず熟考する。
「あれだよなぁ、使われてないだけで言ったら毒魔法は使われてないよな。俺も使った覚え無いし、やり方もわからねぇ」
「確かに使ってないよ。でも、毒魔法で終わりって陰湿じゃないかな」
「まぁな…、あ、じゃあ闇魔法とか」
「お前が敵サイドに立ってどうする」
ジェイドに駄目だしばかりするが、僕の脳内もジェイドと同レベルだ。まだ覚えてない魔法自体は思い浮かぶ。しかし、それに加えて最後にふさわしいとなると全然思い浮かばなくなる。最後にふさわしいというのが、難しいのか…。
「あー、思いつかねぇ!!」
ジェイドは頭を掻き毟ると本棚の方へ向かい、漫画を手に取る。どうやら他の漫画からヒントを得る作戦のようだ。一方の僕は過去のシーンに巻き戻り何かヒントが無かったか、注意深く見る。
二時間ぐらい経っただろうか。ジェイドは漫画を何冊も読み、技を探している。一方の僕はとにかく過去のシーンを眺め、それでも見つからなかったのでとにかく宙を眺める。新属性を使うか、それとも今まで気がつかなかった才能に目覚めるか、自分の故郷にまつわる技を使うのもありかな…。だが、そのどれもがパッとしないアイデアだった。ジェイドの方もあまりいい技が見つからないらしく、漫画を読むのをやめ、宙を仰ぎボーっとしている。
「あれかなぁ…」
ジェイドが呟く。
「やっぱよぉ、今までの技の中で一番強い技を使いたいよな。せっかくのラストシーンだしよ」
「それはそうだな。最後の敵なんだから最強の技を使って欲しい」
最強の技、もちろん僕だってそうしたい。ただ、最強の技っていったいなんだよ、ってところでどうしても詰まってしまう。ジェイドの中で最も強い技…、それってなんだろ…。
「でも、最強の技ってなんなんだろうな。その定義がわかんねぇ」
「確かに…」
確かに、最強の定義はわからない。強い技を持っていても、状況によってはその技は使えないこともあったり力の入れ具合で急激に弱くなったり、あとは相手の相性によっては効かないことだってある。そうなると一概に最強の技なんてものは存在しないのかもしれない。最強って、なんなんだろうなぁ…、わからなくなってきた…。だんだん考えが哲学地味てきて嫌になってきた。
「…あぁ、もうめんどくさいし、ジェイドさ、適当に最後全力出してくれよ。それで切り札でいいって」
「うわ、作者が匙投げた。あ~あ、せっかく真面目に漫画を描いてくれたと思ったらこれだからよ」
そうだよ、ジェイドが適当に全てを込めて力を使ったらもうそれで最強だろ。少なくとも、ジェイドの中では。……あれ?これでいいんじゃないか?むしろ、これがいいんじゃないか!?一般論的な最強なんてものは僕の脳で考えるのは不可能だ。でも、ジェイドの中で最も強い技を決めること、それなら僕にだってできる。ジェイドの力、全てをぶつけた一撃…。
「ジェイド、こういうのはどうだ?お前の全力を出した技、それを最強の技とする、どうだ?」
「え?あぁ、それなら納得かもな。でも、ただ俺が全力を出すのか?それだけだと物足りなくないか?」
「確かになぁ…」
その時、ある方法が閃いた。これなら、ジェイドならではの最強の技になるかもしれない。…でも、これは僕の一存で決めるわけにはいかないな。僕は、ジェイドに一つ疑問をぶつけた。
「ジェイド、お前は最強の自分に対してどう思う?」
「は?」
「ジェイドは、最強でいたいのか?」
「まぁ、最強の方が便利だけど、あ、でも面倒ごとも多いよなぁ。まぁ、今が最強だしそれに慣れちゃったからこれでいいけどよ、でもそこそこの力でのんびりと生きるのも憧れるよな。それに、もし最強になるなら優作にもらった力よりも自分の力で強くなりてぇな」
…今のジェイドの発言によって、ジェイドの切り札が見えた。
「ありがとう、ジェイド。わかった」
「え、本当か!?なぁ、教えてくれ!!」
「…いや、言うのはやめておく」
「え、なんだよそれ」
ジェイドが不満そうな顔をしてるのをよそに、僕は思い浮かんだシーンを頭の中で反芻する。うん、この切り札ならなかなかいい終わり方をしてくれるだろう。全力でぶつかるジェイドが瞼の裏に鮮明に浮かび上がるようだ。
「なぁ、優作。どんな技にしたのか教えてくれないのか?」
ジェイドはしつこく切り札のことを聞いて来る。そりゃ、一緒に考えていたんだし、ジェイドが切り札を知っておくのは当然のことだろう。でも、僕は教えたく無かった。もちろん、ストーリ-がずれてしまうことも考えてはいるが、それ以上にジェイドには楽しみにして欲しかった。いや、これはジェイドが楽しめる展開なのか…、自己満足かもしれない…。そう思ったが、それでもこの切り札に決めた。僕はこの最後を見てみたいし、ジェイドも納得してくれるはずだ。ただ…、まぁ今はいいか。
「…いや、やっぱりその時が来るまでは言えない。アドバイスとして、全力で挑んでいろ、以上」
「おい、優作が切り札のことを知っておいた方がいいって言ったんだろ?」
「わかってくれよ、主人公さん」
ジェイドはまだ少し不満そうだったが、それでも僕の気持ちを汲み取ってくれたのか、もうそのことについては聞いてこなかった。そして会話が終わったあと、ジェイドは漫画の世界に戻っていった。さて、大方ストーリーは見えたし、あとは描くだけだろう。そして、ペンを手に取って描き始めたが、あることを思いだし完璧じゃないことに気付いた。それはこの漫画の中で最も重要なこと。この物語の肝であり根源であり、ジェイドを動かす理由。これが明かされなければ物語は幕を閉じることはできない。
ジェイド、なぜお前は最強なんだ…。