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最強の主人公は作者に反旗を翻す  作者: 無知の無知
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【第七話】練習、作者だけが知る力

「へばってんじゃねぇ!!ほら、もう一周!!」

「「うっす!!」」


 体育館でむさくるしい男どもが汗水流して走っている。こんなことをして何が楽しいんだか、苦しいだけだろ…。僕なら三日やってダウンだな。だがジェイドはこの苦行をまるで楽しんでるかのように走っている。いや、実際楽しんでいるのだろう。

 今、僕は体育館にてバスケ部の練習を体育館の二階から見学している。というのも、漫画のためにジェイドを観察することにしたからだ。あれから色々描きなおしてみたのだが、結局、筆がのらなかった。その問題点として、僕自身のジェイドへの認識が甘いのでは、というのが挙がった。よってジェイドをじっくり観察してジェイドのことを理解する、というのが当面の課題ではということで、ここ数週間ジェイドに付き切りの生活をすることにしたのだ。にしても…


「次、フットワーク!!」

「「うっす!!」」


 バスケ部の練習ってこんなものなのか…。全然ボールを触ってないじゃないか…。ジェイドに聞いたら基礎練習が重要だと言っていたが、いくらなんでも基礎過ぎじゃないかと思ってしまう。運動部に縁のない僕が何を言うこともできるわけじゃないが、なんていうか、つまんなそう…。ただ、そんな基礎練すらジェイドは楽しそうにやっている。バスケ部の人にしかわからない楽しみがあるのか、はたまたあいつが変なのか。…後者な気がしてならない。結局、僕はときたま、うとうとしながらジェイドの様子を眺めていた。

 一時間ぐらいボールを触らないよくわからない時間が流れ、次にボールを機械作業で回していくようなやっぱりよくわからない時間が流れ、僕の興味もどこか遠くへ流されていった。そんな、寝落ち寸前だった僕に転機が訪れた。


「よし、練習試合すっぞ!!」


 お、練習試合か。これはちょっと見ていて面白いかもしれない。練習している選手もさっきの基礎練習の時よりも顔が明かるくなっている。…ジェイドは、相変わらずだが。試合は、スタメンとベンチのメンバーの混合で行うらしい。どちらのチームにも凄そうな最高学年の選手と入って間もない一年の選手が雑多に混ざっている。ジェイドも…、選手として出ている。それにしても…、いつもは背が高いと思っていたジェイドもバスケ部の中に入るとあまり目立たないな。少なくともジェイドの向かいに立っている選手はジェイドと同じぐらいの背の高さだ。でかいな、羨ましい…。そんなことを思っていると試合が始まった。


「試合、始め!!」

「「よろしくお願いします!!」」


 ホイッスルの音と同時にボールが宙に上げられ、試合が始まる。試合が始まったと思ったら…、ボールがあちこちに飛び回って僕の目で追えなくなってしまった。もうどの選手がボールを持ってるやら…。気がついたら、ある選手がシュートを一本決めていた。


「取り返すぞ、一本!!」


 あ、この掛け声はありがたい。僕でもシュートが入ったってことがわかる。いや、そんなつもりで言ってないんだろうけどさ。次は、ジェイド側のチームのオフェンスらしい。今、ジェイドがいる側にボールが行っている気がする。ジェイドのポジションは…、確かセンターとか言っていた気がする。センターは、ゴール下でボールを取ったり、入れたりするらしい。ダンクとかもするらしい。ダンクは、ちょっと見てみたいな。そんなことを考えていると、ジェイド付近にボールが回ってきた。ここで決まるのだろうか。線の外側にいる選手がゴールめがけてシュートを打つ。完璧な軌道、これは入ったな。


ガンッ


 入らなかった。なんだ、失敗か…、という考えは素人らしい。


「リバウンド!!!」


 選手はそのこぼれたボールを必死に取ろうとしている。そっか、ここでボール取ってねじ込めば問題ないのか。


「っしゃぁああ!!!!」


パシッ


 ジェイドがこぼれたボールをキャッチする。ナイスキャッチ。そして、ボールを持ち再び飛び上がり、


ダンッ!!

 

 ジェイドがゴールに直接ボールをねじ込む。おぉ、ダンク!生で見るのは初めてかもしれない。全く運動に興味のない僕でもこの瞬間はちょっと楽しかった。ジェイドもゴールを決めて喜んでおり、ジェイドのいるチームの士気も高まっている。これなら、ジェイドのチームが勝てるんじゃないか…?そう思ったが、ジェイドがうまくゴールを決めたのは最初の一本だけだった。その後はパスをうまく渡したりリバウンドってやつをそれなりに取ってはいたが、どうも完全に機能しているようには見えなかった。もっとジェイドは強いはずだよな、親ばかとかじゃなくて客観的に見て。一体何が原因なんだろうか…。気が付いたら、僕は漫画のことよりジェイドのバスケの動きを観察していた。

 その帰り、僕は一人で漫画のことを考えながら帰るはずだった。はずだったが…、


「なぁ、帰りコンビニ寄ってかねぇ?」

「うぃ~」

「優作、お前も来るだろ?」

「う、うん…」


 なんかバスケ部の帰りに巻き込まれてるんすけど!!??いや、なんで僕がバスケ部なんて陽キャと一緒に…。前のゲームセンターの一件からどうやら僕は陽キャと陰キャの中間に位置する存在と認知されたらしい。いえいえ、陽の光を浴びたら溶けちゃいますよ、僕は。ただ、断る勇気など一切持ち合わせていなかったため、成り行きでコンビニについて行くことになった。

 バスケ部のむさくるしい男どもが続々とコンビニの中に入っていく。店内の密度が一気に上がっていく。さて、コンビニに来たわけだが、正直何を買うか全く考えてなかった。というか、普段からお菓子を食べるわけでもなく、ジュースなんてものもほとんど飲まない、その手の嗜好品は金の無駄だと思っている僕にとって買いたいものなど何もなかった。さて、どうしたものか…。シャーペンの芯が切れてるし、それでも買うか…。芯を手に取りバスケ部が並んでいる列の後ろに並ぶ。


「お茶と、おにぎり二つですね」

「あ、あと肉まん一つ」

「かしこまりました」


 食いしん坊なやつもいたもんだ。まったく、夕飯前にこんなに買って…、きっとバスケ部内では変わったやつと言われてるだろう。


「お茶にラーメンサラダですね」

「あ、あと肉まん一つ」

「かしこまりました」


 こいつも食いしん坊なのか、仲間がいて良かった。きっと、この二人は食いしん坊ブラザーズとして名を馳せているのだろう。


「お茶に牛丼ですね」

「あ、あと肉まん一つ」

「かしこまりました」


 …バスケ部ってみんなこんな感じなのか…。ってか、牛丼頼んだのって、ジェイド、お前じゃねぇか。お前、いつも夕飯ではご飯を三膳ぐらい食ってるくせに、ここでも食ってるのかよ…。結局バスケ部全員が僕の夕飯と匹敵するレベルの量を買って店の中のイートインスペースに向かっていった。それに対して僕はシャーペンの芯のみ。店員さんにこれだけで大丈夫か?みたいな目で見られた。いやいや、僕が普通だからな。あいつらが異常なんだからな。

 イートインスペースでは既にバスケ部のメンツが軽い宴を始めていた。僕は…、端の方の席でちんまりと座っていた。どうせ話しかけられることも無いだろうし、無難に相槌だけ打って…


「志道、だっけか。志道から見て、今日の練習はどうだった?」


 いきなりかい。しかも、相手は部長と思わしき相手。いや、こえぇ…


「いや、えっと、僕は素人なのでそこまで…」

「そういう素人目線の意見が欲しいんだよな。素人目線でダメな所があったら早急に直さねぇと」


 そう言われても…、こちとらボールの場所すらろくに把握しえねぇんだぞ。


「えっと…、全体的にパスの通りが、良くなかった…とかですかね?」

「おい、聞いたか!お前ら パス練サボり過ぎじゃねぇのか!?明日からパス練二倍だからな!!」


 僕の思いつきの発言によって部のメンバーの負担が重くなる。ごめん…。そんな中、今度は副部長と思わしき人が話かけてきた。部長に比べて少しチャラい感じで、気楽そうな人だ。


「あぁ、悪いね。うちの部長熱血だからさ。それで、志道君的には何か改善点無かった?」

「いや、えと…」


 だから、わかんないって。気さくに話しかけられたところでわかんないものはわかんない。


「あとは…、ちょっとわかんないですね…」

「何かない?ジェイドのことでもいいけど…」


 ジェイドのこと…、確かにそれなら結構あるな。僕はこの部長と副部長にジェイドのことを話した。


「へぇ、そうなんだ。ジェイドはまだポテンシャルがある、と…」

「新入部員だからこれが普通だと思ってたな…。おい、ジェイド!」


 部長がジェイドのことを呼び僕の発言を伝える、かなり強めの口調で。悪かったな、ジェイド…


「そ、そうっすか…」

「だから、お前は明日の練習全部二倍だからな」

「に、にばいっすか!?」


 いやぁ、本当に悪かったなジェイド、心から反省するよ…、ざまぁ。ジェイドはそれなりにきつく言われたが、全く凹むことなく、むしろ真剣な表情でうっすと答えていた。凄いな、運動部のメンタルは。僕なら部活をやめるな。そんなこんなでジェイドの話も終わり、そのあとは十数分程度、女子の話やら漫画の話やら大して生産性の無い話に花を咲かせて、お開きとなった。そして帰り道、一人また一人と散り散りになり、最終的には僕とジェイドだけになった。


「ただいまっす」

「ただいま」


 ジェイドが家の扉を開け、同時に僕が入る。そして、真っ先に自分の部屋へ。ふぅ、今日も学校は終わりだ。後は、漫画を進めて…


「なぁ、優作。ちょっといいか」


 ジェイドに話かけられ、僕はジェイドの方を向く。ジェイドが僕に相談とか、一体なんだろう…。


「あの、今日の話なんだけどよ」

「うん、なに?」


 ジェイドが少し間を置き、勢いよく僕に言う。

 

「俺に、バスケを教えてくれ!!」


 …、……、………いや、無理だろ。

 その夜、ジェイドと僕は家の下の駐車場に出る。いつもジェイドが練習している場所だ。いや、ジェイドは何を考えてるんだ…、僕が大して運動をできないことぐらい知ってるだろ…。しかし、ジェイドは僕のことを一切おちょくっているつもりは無く、むしろ真剣そのものの顔でボールをついている。あのボールと戯れていた頃のジェイドはどこへ行ったのか、なかなかのボールさばきでドリブルをしている。


「行くぞ、優作!」


 おぉ、いつでも来い、ジェイド!来たところで僕には何もできないがな!!ジェイドはボールを操りながら真っ直ぐ僕の方へ向かってきて、僕を抜いていった。…うん、うまくなったと思う。で、僕に何をしろと。


「どうだった、優作?」

「いや、僕に聞かれても…」

「優作、そこを頼むぜ」


 …何を?


「だから、僕は運動音痴なんだって。そんな僕にバスケのことを聞いたって何も生まれないと思うんだけど」

「いや、そんなことないんだよ!」

「あの、もうちょっとちゃんと説明して欲しい」


 僕がそう言うと、ジェイドはゆっくりと説明し始めた。


「俺さ、マジでバスケで勝ちたいんだよ。でも、入ったばっかだからなかなかうまくいかなくてさ…。でも、先輩とか同じチームのやつとか、俺が入ったばっかりだから俺のことよく知らなくて、だからどういう練習させればいいかとかよくわかってないみたいで…」


 そして、一呼吸おいて、語気を強めてジェイドは言い放った。


「優作なら俺のことをわかってるはずだろ!?だから、俺の動きを見て何が足りないかを教えて欲しい!頼む!!」


 そういうことか…、まぁ、納得できないわけでもない。確かに他のメンバーに比べて僕の方が圧倒的にジェイドのことを理解している。なんなら、肉体改造も可能だ。でも…、


「それは厳しいんじゃないか。いくら僕がジェイドのことを知ってるとはいえ、僕自身がバスケを知らないから、適切なアドバイスはできないだろ」

「そんなことねぇよ!今日の帰り、コンビニであれだけ言えたんだからよ!」

「あんなの合ってるかわからないし…」

「いや、合ってた!っつーか部長でも気付かなかったことにお前は気付いていた!」


 そう、なのかな…。確かに、ジェイドの動きがおかしいというか、まだ完璧じゃないっていうのは感じた。他のメンバーのことは全くわからなかったというか正直どうでもいいって感じだったが、ジェイドだけはまだできると思った。でも、そんなアバウトなアドバイスでいいものか…


「適当なアドバイスで全然いい!協力してくれ!!」

「まぁ、別に協力自体は嫌じゃないし、いいけど…」

「本当か!?よっしゃ!!」


 僕が良いと言うと、ジェイドはガッツポーズをして喜んでいた。いや、そんなに嬉しいものかな…。

 そこからは、ジェイドの動きをひたすら観察し、僕が描いているはずのジェイドと照らし合わせていく。この短期間でここまでバスケがうまくなったことは流石だとは思うが…、やはり僕の理想とするジェイドとはどこか違う。


「…なんか、違う…」

「どこが、どんな風にだ?」


 どんな風にと言われても、具体的なことは言えないけど、こう…


「余裕が無い感じがする。ジェイドはもっとこう、熱血だけどどこかスマートさがあるというか…」

「スマートさ?スマートさ…」

「いや、僕もうまく言えないんだけど、もっと軽やかというか、そこまでがっついてない感じなんだよ、僕の中では」

「がっつく、がっつく…」


 ジェイドは僕の言葉にいまいちピンと来ていないようだった。無理もない、僕自身ピンときていないんだから。


「ちょっと、時間が欲しい。一度、前に描いた漫画と照らし合わせてジェイドの動きをしっかり観察する。それからでも遅くないだろ?」

「あぁ、大丈夫!」


 ひとまず、今日の短い練習は終わり、ジェイドは個人練習を続け、僕は部屋に戻ることにした。扉を閉め、自分の漫画の世界に浸る。きっと何かが少しだけ違うんだ。何かが…。どこかにヒントが無いか、過去の漫画を漁る。ちょっと前に描いたバスケのシーンが一番いいのかもしれないが、正直ジェイドはあそこでほとんどバスケをやっていない。それに、あのシーンはあくまでバスケをやるきっかけになったシーンだ。それがジェイドのバスケのヒントになるとは到底思えない。やはり、戦闘シーンだ。ジェイドの戦闘シーンのどこかにヒントとなるシーンがあるはずだ。僕は、今まで描いたシーンを見返していった。


・・

・・・

黒龍「グァァァァアアアアア!!!!!!」

クリス「うっ、うぁああああ!!!!」

ジェイド「くそっ!!!」

・・・

・・


 ふと、だいぶ昔に描いたシーンに目が留まった。これは…、本当に最初の頃に描いたシーンだな、まだ絵が下手クソだ。中身は…、黒龍が村に現れて、村の戦士、クリスとジェイドで応戦するといった…、相当ありきたりな場面だ。今の僕が見ても少し単純すぎるだろと思う。でも、この頃のジェイドは今のジェイドに近い、いいヒントになるかもしれない。


・・

・・・

黒龍「ゴロァアアアアアア!!!!!!!」

ジェイド「ち、強ぇ…」

クリス「速いし、力も、こんなのどうすれば…」

ジェイド「おい、弱気になんな!!」

クリス「でも!!」

ジェイド「こいつにだって隙はあるはずだ。それを…!!」


 少し臆病なクリス、それをカバーするジェイド。しかし、黒龍の動きは素早く、その攻撃力は測り知れない。クリスは黒龍に弱腰になってしまう。無理もない、黒龍はそれほどまでに強いのだから。しかし、ジェイドは…


黒龍「ゴロァアアアアアア!!!!!!!」

クリス「こ、黒炎…!!」

ジェイド「おい、クリス、避けんな!!伏せろ!!」

クリス「え!!??」


ゴォォォォォオオオオオオオ!!!!!!!!!


 黒龍の放つ炎をジェイドとクリスが伏せて避ける。


クリス「え、なんで…」

ジェイド「さっきからこいつは黒炎を放った後に俺らに襲い掛かってきている。きっと黒炎は囮なんだろ。本当の狙いは避けた俺らに噛みついてくることだ…」

ジェイド「いいか、一番やべぇのはあいつの毒牙だ!!それだけは死んでも避けろ!それ以外は多少食らってもいい!!」

クリス「は、はい!!」


 ジェイドは、黒龍の行動パターン、弱点をその動きから見破る。そして戦いは最終局面へ。


黒龍「グ、グ…」

クリス「よ、弱ってきてる!」

ジェイド「まだだ!まだ油断すんな!!」

黒龍「グ、グァァアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


ゴォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!


 黒龍が、今まで一番凄まじい黒い炎を放つ。


クリス「い、今までで一番の…」

ジェイド「この時を待ってたんだよ!!」

ジェイド「アクアブラストォォオオオ!!!!!!!!」


シュワァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!


 黒龍の放った黒炎に対して、ジェイドはアクアブラストで対抗する。黒炎と水流がぶつかり、その衝撃で蒸気が辺りに漂う。そして…


ジェイド「クリス、今だ!!」

クリス「あ、は、はい!!」

クリス「疾風一閃!!!!」


ドンッ!!!!!!!!!!!

 

 クリスの放った剣技が黒龍に命中する。


黒龍「グァァァアアアア!!!!!!!!!!!」

・・・

・・


 こうして、ジェイドとクリスは黒龍に勝利する…、なんか…、普通だな。ストレートというか、素直というか…。でも、これがジェイドの良さなんだろう。なら、これに従うまでだ。さて、と…。このジェイドと、バスケの時のジェイドを比較して、ジェイドの動きのおかしな所を観察しよう。明日、体育館に行って比較してみるか。何が違うか、何がずれているのか…。っていうか、なんで僕は漫画のことそっちのけでバスケのことを考えているのか…。いいや、これが漫画とつながることを祈るまでだ。繋がらなかったら…、ジェイドに漫画で羽虫の大食いでもさせるか。



 次の日、昨日より少しだけ注意しながらバスケの練習試合を見る。今日は、昨日と違いジェイドの行動に注目して試合を見る。


「リバウンド!!」

「うっす!」


 ジェイドの動きは…、昨日の漫画と比べると大したことは無いと感じた。こっちの世界に来て魔法とかを全て封印しているとはいえ、ジェイドならもっと動けるはずだ。いったい何がジェイドの枷になっているのか…。


「ほら、ジェイド、走れ!!」

「うっす!」


 ジェイドは、先輩の指示に従って反対側のコートに走る。走ってからは速いのだが、走り出しが…。さっきのリバウンドも若干遅かった気がするし…。基本的に動き出しが遅い。ジェイドならもっと早く動けるはずだ。ジェイドなら…


「ジェイド、パス!!」

「おう!」


 …あ、なんとなくわかったかも。そっか、ジェイド、部活とかには慣れてないもんな…。今日の夜、言ってやるか…。まぁ、大したことじゃないんだけど。



「ジェイド、お前脳死してないか?」

「脳死?」

「何も考えずに動くことだよ」


 その日の夜、ジェイドに僕の思ったことを伝える。ジェイドは…、きっと頭を使わず雰囲気で試合に臨んでいる。ボールを追っかけ、先輩や監督の指示に従うことに必死なのだ。まぁ初めての部活だから仕方ないだろう。でも…


「ジェイド、お前の鋭い観察力、土壇場での状況判断能力、冷静な思考力、これは相当なものだ。っていうか、相当なものってことにしてるんだよ。ジェイドはそれを全く活かせてない」

「そうなのか?」

「僕が見た限りでは。きっと先輩とか監督の意見を鵜呑みにし過ぎているんだろ。もっと自分で考えろって」

「そう、か…」


 ジェイドが考え込む。僕はそういう設定にしたから自信を持って言えるのだが、ジェイドは当人だからそんなことを考えたことも無かったのだろう。自分の得意分野なんてものは自分では気がつかないものだ。


「いや、ジェイドの気持ちもわかるよ。いきなり部活に入ってよくわかんないことしてんだから。でも、ジェイドの能力を活かせばもっとうまくできるはずだから、自分の強みを理解して練習に励むこと。以上」

「お、おう…」


 少し黙って、ジェイドはこっちに向き


「ありがとうな、優作!!」


 出たよ、ジェマイル。これがこいつの技なんじゃないかって思う。さて、試合は二週間後か。最強の主人公は、果たして現実世界でも最強なのか、見せてもらおうか。



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