【第六話】相談、描く世界は不完全
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村長「な、なんじゃと!?ワシの音速を超える業火がかわされたじゃと!?」
ジェイド「あれ、言ってなかったか、村長さん?俺のこの右眼の力を使えば、光の速度すら地を這う亀と同じ速度に見えるんだぜ?」
村長「ぐっ…」
アルメ「凄い、ジェイドさん凄い!!」
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…
……
違う、違う違う!!!僕が描きたいのはさぁ…!!っていうか、全然変わっていない。口調しか変わってない。中身が全く変わってない。この天才の僕が…、スランプだな、これは。はぁ、溜息をついて窓の方を見る。窓の下でジェイドがバスケの練習をしているのが見える。だいぶうまくなったな…。ひょっとしたらレギュラーに入れるかもしれない。まぁ、僕が漫画にバスケのことを描いたおかげで、漫画の世界の中でもバスケの練習をできるようになったおかげもあると思うけどさ。感謝しなよ、ジェイド君よ。そんな自分のキャラクターの成長を眺めている一方で作者はと言うと…
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村長「な、なんじゃと!?ワシの音速を超える業火がかわされたじゃと!?」
ジェイド「この程度の炎なんて余裕でかわせるっての」
村長「ぐっ…」
アルメ「凄い、ジェイドさん凄い!!」
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だからさぁ…。まず第一にセリフしか変わってないのが問題だ。一度描き切ったシーンを描き直すというのは、せっかくの完成品を壊す感じがして憚られる。その恐れが引き金になっているのか、どうしてもセリフの書き換え程度で止まってしまう。いや、本当は場面ごとガラリと変えるべきなのかもしれないが…。いや、ひょっとして、このシーン、そのままでも面白いんじゃないか?
ガチャ
部屋の扉が開くと同時に汗臭い匂いが充満する。
「あー、タオル忘れた。ここら辺にあったっけ?」
「そのクローゼットの上の所」
「あぁ、あったあった」
ジェイドが汗を拭いて、すぐにバスケの練習に戻る…、と思ったがこっちに向かってきた。
「手直しか?」
「そんな感じ。ほら、このシーン」
「あれ、全然変わってねぇじゃん」
うるせぇ、そう簡単に変えれないんだよ。いや、そのままでも十分面白いからセリフ変えるだけで…
「やっぱ改めて見ると、本当に面白くねぇな!」
一縷の望みが主人公によって切られてしまった。くそ、面白くないのか…。確かに、ジェイドの性格と合わせるとなんか違う気がしてるのは事実だけどさ。
「そう言われてもなかなか描き直せないんだよ。こっちは一度完成だと思って描き上げてるからさぁ」
「それを描きあげるのが仕事なんじゃないのか?」
そうなんだよ。そうなんだけど、少しはこっちの辛さもわかってくれよ、主人公さんよ!
「頼むぜ、作者が大したことないと、こっちも悲しくなってくるぜ。じゃ、練習戻るわ」
あ、こいつわかってない。いや、考えようともしてくれていない。おかしい話じゃないか!?こっちはキャラクターのことをこれだけ真剣に考えて描いてやってるのにキャラクターは僕ら作者に何もしてくれないのか!?そんなことを思っていると窓の外からまたボールのつく音がし始めた。助けを求めるだけ、無駄か…。まぁいいや、僕は僕の仕事に集中するだけだ。このシーン、せめて方向性だけでも決めて今日を終える。いや、終えてやりたい。いや、終えられればいいな。いや、終えられるかな…。
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悩むこと数時間、少しだけ糸口が見えた。前のシーンの弱点、それは村長が悪役でアルメが苦しんでいてそれをジェイドが守る、この構造が良くないのかもしれない。だから、こうすればいい。村長もアルメも悪役ではない。お互いそりが合わないだけ、というのはどうだろうか。それを、ジェイドがうまく取りまとめるという流れ…。これなら、ジェイドの良さを活かせるかもしれない、そう思って今、その方向性でシーンを描き直している。
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村長「アルメよ、この業火を食らえ!!」
アルメ「そんなのもの、私が食らうわけないじゃない!」
ジェイド「やめろ、二人とも!!」
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面白くねぇ…。なんだよ、これ。ただの喧嘩じゃねぇか。っていうか、なんで村長とアルメは急に戦い始めてるんだよ。そりが合わないからっていきなり戦うことなんてあるかい。ガキか。
「優作~、ご飯~」
下から母さんの声が聞こえる。はぁ、もうそんな時間か…。僕はもう少しこのシーンの手直しをしていたかったが、腹が減っているのは事実。さっさとご飯を食って、漫画の世界に戻ろうか。戻って、進めばいいのだが…
「あと、ジェイド呼んできて~」
…仕事が一つ増えやがった。ったく、めんどくせぇ。窓を開けてジェイドを呼ぶ。
「おい、ジェイド、飯!」
「あ、おう!!」
あいつ、いつ見ても爽やかだよな…。それを活かしたセリフでも書いてみるか?そう思ったが、爽やかなセリフというのがよくわからず、最終的に出た案がジェイドの語尾に星マークを付けるという超駄案だったので、考えるのをやめた。
母さん、姉貴、僕、ジェイド、四人が食卓につく。ジェイドは相変わらず母の作った飯をうめぇうめぇと言って食べる。母さんもそんなジェイドの反応を見て満足そうにしている。
「ねぇ、ジェイド君。バスケの調子はどう?」
姉貴がジェイドに聞く。ジェイドは待ってましたと言わんばかりに、
「いや、上々っすよ!最近自分でもうまくなってるって思って、絶対レギュラー入りしてみせるんで!」
と、小学生並みの無邪気な反応を返す。母さんもそんなジェイドを嬉しく思ったのか、
「ジェイドがレギュラー入りしたら、試合、見に行くからね」
と、優しくジェイドに言った。母さん、姉貴、こいつのバスケなんて見ても面白くないっすよ。どうせこいつ魔法使って勝っちゃうんで。
「まったく、ジェイド君がこれだけ外で頑張ってるのに優作は部屋にこもってさ」
姉貴がジェイドと比較して僕に嫌味を言ってくる。流石に、僕も流すことが出来なくて、
「こっちだって大変なんだよ。全然シーンが思い浮かばないし」
「へぇ、あんたがうまくいかないって珍しいね」
と、興味無さそうな姉貴の返事が返ってくる。母さんも興味が無いようで、黙々とご飯を食べている。ただ、ジェイドだけはその言葉が気になったのか、
「優作、お前描けてないのか?」
「まぁ、あれから全然進んでない」
「そっか…」
と言って口を閉じてしまった。なんだよ、作者が苦戦しているのがそんなに嫌か。作者がスランプに陥って次の話が描けないのがそんなに嫌か。じゃあ、肩でも揉め、茶でも汲め。そう言ってやろうとしたが、ジェイドの肩もみも茶汲みもあまり期待でき無さそうだったので口をつぐんだ。
ご飯を食べ終え部屋に戻る。ジェイドも部屋に戻ってくる。ジェイドは部屋に入り扉を閉めるや否や口を開いた。さっきのことが気になっていたらしい。
「なぁ、マジで描けないのか?」
「いや、わかってるよ、僕が描けなかったらジェイドの人生に影響が出ることを。でも、描けないんだよ」
まじか…、とジェイドが呟く。僕だって描きたい。描きたいんだけどさ…。ジェイドは僕があまり元気が無いのを察したのか、ジェイドは僕にはもう何も言わず、僕が少しだけ手直ししたシーンを見た。
「これが、手直ししたやつか?…あんまり、面白くないな」
いや、訂正。ジェイドは僕がそんなに元気が無いことを察していないようです。
「面白くないのは僕だって重々承知してるよ。でも、前みたく湧き上がるものが無くてさ」
「あ、でも、俺が俺っぽくなってるな」
そう、そこだけは唯一、自慢できるところだ。前に比べればちゃんとジェイドのことを真剣に考えて描いてることだけは自負できる。ただ、それが原因で描く速度が激減したのは否めない。適当に描かなくなったから仕方のないことかもしれないが。
「ジェイドのことを考えるようになったんだよ。ただ、それが原因で描く速度はだいぶ遅くなったんだけどさ」
「俺が原因で描けないとか、なんか罪悪感だな」
「別にジェイドが悪いわけじゃない」
そこからはややガチモードになり、僕は椅子に、ジェイドは僕のベッドに腰かけ漫画の話をし始めた。
「今まで僕はジェイドのことを描いてなかったんだよ…。ジェイドの名前は使ってたけど、惰性で描いてたっていうか、ジェイドというよりかは自分の気持ちをただ推し進めていたっていうか…。とにかく、僕はジェイドをそんなに描いていない。だからブランクが大きくてなかなか描けないんだよ」
「やっとわかってくれたのかよ。ま、これで俺も安心だな」
「うるさい、少しぐらい感謝しろっての」
ジェイドは安心して笑っていたようだが、僕はあまり安心できていない。主人公のことを考えると漫画が描けないとか…、作者として情けないよなぁ。
「ま、そこのシーンのことだけ真剣に考えてても描けないだろ。もっと他の描きやすいとこからやればいいんじゃね?」
「確かに…、いや、駄目だ。ここのシーンが一番描きやすいと思って描き直し始めたんだよ。それ以外はもっとやりづらい」
「マジか」
そう、僕も適当に始めたわけではない。僕が直近で描いてかつジェイドにボロクソ言われたこのシーンが一番描きやすいと思ったから、このシーンを選んだんだ。だから、他のシーンはもっと時間がかかるだろうな。…、嫌になるな。
「わかった。じゃあ、別のこと考えてよーぜ。ひとまずこのシーンからは離れた方がいいだろ」
「…、わかった」
僕はジェイドの提案を受け入れることにした。それもそうだ、ペンを片手に二時間も三時間も画面の前に佇んでいるだけでは時間の無駄だろう。ふぅ、と息をつくとジェイドが満面のジェイドスマイル、ジェマイルで僕に言ってきた。
「っつか、暗くなんなよ!お前は漫画大賞で優勝するんだろ?」
ジェイドから出る漫画大賞の言葉。いや、確かにここ最近気にはしてたけどさ…
「なに勝手に決めてるんだよ。こんな状態じゃ門前払いもいいとこだよ」
「いいじゃねぇか、やるだけやってみれば。俺は力になるぜ!」
まったく、なんの根拠があってそんな自信があるのやら…。僕はついフッっと笑ってしまった。気持ちを切り替えて漫画に臨もう、暗くなったってしょうがない。ペンを置きジェイドの方に向き直る。すると、ジェイドが漫画のことについて聞いてきた。
「あのよ、この話ってオチとか考えてるのか?ラストってどうなってるんだ?あ、もちろん内容までは俺には言わないでくれよ。ただ決まってるのかなって」
オチか…、正直考えていない。今までジェイドが新しい町に行っては問題事を解決するの繰り返しだったから、オチを考える必要が無かった。だからなーんにも考えてなかった。
「いや、特に考えてない」
「おっけ、そっか」
「ジェイド、適当に凄い強いやつ見つけて倒してきてよ。それをラストとするから」
「いや、俺がオチを作るのかよ!」
ジェイドの渾身の突込みが炸裂。キャラクターが勝手にオチをつけてくれれば楽だよなぁ。そんなふざけたことを思っていたが、確かにラストは重要だな。終わりを見出さず適当に描いてたけど、終わりが見えれば話を描きやすくなるかもしれない。ラストも、少しずつ考えてみるか…。現状、魔王討伐しか思いつかないけど、あんまり好きじゃないけど。
「あとよ、俺はなんのために旅しているんだ?俺、気が付いたら旅していたんだけど」
「…」
悪い、なんとなく旅させてた。特に目的とか考えていなかった。そうだよな、目的の無い旅なんてお盆休みに電車でどこか行く程度だよな、剣を掲げて一生をかけてやることじゃないよな…。
「…あぁ、それも考えてない」
「まずはそこからじゃね?」
そうか、それが決まれば物語として説得力が変わる。これは妙案だ。やるな、ジェイド。
「じゃあ、ジェイド。僕の漫画の主人公として聞くけど、ジェイドはなんで旅をしてるんですか?」
「丸投げしてんじゃねぇよ!優作、ちょっと適当すぎないか?」
「過去の自分に言ってくれ、僕は知らない」
「おい、メテオフレアで燃やすぞ!」
ジェイドがメテオフレアの詠唱を始めたので僕はそれだけはご勘弁をと泣きついた。確かに、甘え過ぎた。いや目的とか主人公が勝手に決めてくれれば作者としてこの上なく楽なんだよ。もうそこまでいくと作者なのかどうなのかわからなくなってくるが。とりあえず、といった形で僕とジェイドは旅の目的を深めることにした。
「まぁ、定番なのは、愛する人を助けに行くとかかな。あとは、世界が脅かされているとか…」
「あ、それってそこの漫画にあったやつだな」
「まぁね」
正直、勇者の目的なんて大体そんなもんだと思っている。悪がいるから正義がある。やっぱりみんな、悪を倒して欲しいんだよ。
「でも、この世界、そんなに脅かされているか?いや、町には悪い奴はいるけどよ、世界全体って感じしねぇけど」
「それはごもっとも。だって脅かしていないし」
「脅かしてないんかい」
そう、脅かしていない。僕がそういう展開を安いと思っているからだ。じゃあ、今までの展開は深いのですか?という質問はご勘弁願いたいところだが。
「じゃあ愛する人はどうだ?ジェイドは愛する人を救いたいとか思わないのか?」
「愛する人とか、俺、別にいねぇけど」
「いてくれよ、愛してくれよ。僕、結構可愛いキャラ描いてんだからさ」
「いや、いないだろ」
いるだろ、この野郎。ジェイドのこと凄いって言ってくれる幼馴染とかジェイドのこと凄いって言ってくれる氷魔法の使い手とかジェイドのこと凄いって言ってくれるシスターとかあぁこれ没個性だななんでもないっす。この愛する人を救う展開はジェイドの視点からして絶望的だった。ジェイドがそもそも既存の女キャラを好きじゃない。新しいキャラを作ったとして、今まで恋愛感情を抱いていないジェイドが良い反応を示す気がしない。うまくいく可能性は、半分も無いだろう。
「まぁ、どっちの展開をオチにするとしても、今から描き足せばそういう展開にはできるよ。今はしていないってだけで」
「優作的にはどうなんだ?このオチが面白いのか?」
「いや、チープだと思う。しかも、魔王だと僕が描いてて楽しくないし、愛する人だとジェイドの方に乖離が生まれるだろ?」
「まぁな~」
会話が途切れてしまった。一番重要な目的が、全く浮かんでこない。致命的かもしれない。結局話をしても埒が明かないということで、僕は自分の描いた過去のシーンを、ジェイドは他の漫画を見て何かそれっぽいヒントが無いかを探し始めた。最強の勇者が旅をする理由…、動機…。なんとなくじゃ、駄目だよな。なんとなくで描いて物語を進めるのも一つの手だけど、それだと漫画の手直しがうまく進まない気がする。
過去のシーンを見て色々考えて、だんだんどうでもよくなってきた。ジェイドの方も、漫画を見つくして宙を見上げていた。もうなんとなくでいいんじゃね?なんとなく力を与えて、なんとなく問題を起こして、なんとなく解決して、それでよくね?それでも十分、話になるだろ。旅の目的なんて誰も気になんてしないさ。気にしないって。
……ふと、ジェイドの方に向き直って聞いてみた。
「なぁ、ジェイド。僕の世界で旅をしていて気になったこととかは無いのか?」
「気になったこと?」
ジェイドが気になったことが、ひょっとしたら何かヒントになるかもしれない。あまり期待はしていないが、それでも可能性がゼロではない。ジェイドは宙を見ながら考える。そして、僕の方に向き直り、口を開く。
「なんで俺、こんなに強いんだ?弱小の村から出てるのによ」
ジェイドから出た一言は僕にとってもクリティカルな疑問だった。…なんでだ?確かに、そこは何も考えていなかった。なんとなく最強にしていた。弱者が力を持って悪に立ち向かうという構図が好きだったからそういうことにしていた。でも…、ジェイドは訓練をしたわけではない。誰か凄い奴に会ったわけでもない。転生したわけでもない。そうか、ここの点も詰めなくちゃな…。なんで、なんで最強なんだ…?
「…やっぱり、最強の理由が無いと、気持ち悪いよな」
「まぁな。俺もなんでこんな力があるか気になるしよ」
そりゃそうだよな、僕だって気になる。意味も無く最強なんて気味が悪い。なんかいい理由は、無いか…? ただ、さっきからずっと頭を使っていたせいで、大して考える気力も無くなっていた。
「ジェイドさぁ、もう最強の理由は自分で探してくれないか?」
「お前、丸投げしすぎだろ!!」
ジェイドが本日三度目の突込みを見せる。いや、いいじゃねぇかよぉ、たまにはキャラクターが頑張ってくれよぉ。キャラクターが頑張って最強の理由を探して、それで旅して…
「…いいじゃん」
「は?」
僕はさっきとはうって変わって、真剣な顔でジェイドに話しかける。
「最強の理由は自分で探す、それでいいじゃん」
「だからよ、それは丸投げだろ?」
「そうじゃない、ジェイドの旅の目的こそがそれなんだよ。ジェイド、お前は自分の力の原因を探しに旅をしている。…どうだ?」
「自分の力の原因を探すってことか…」
ジェイドが少し考えこむ。そして…
「いいじゃねぇか…、その旅、めっちゃ楽しそうじゃん!」
出た、ジェマイル。これならいけるという確信の証だ。僕も、この設定はすごく面白いと思っている。最強の理由を探す旅…、なんかわくわくする。よし、これで旅の目的が決まった。それに伴ってラストの方向性も決まった。ラストはこの最強たる所以を明かしてやればいい。
「いい感じになってきたな。どうだ、描けそうか?」
正直、ここまで真剣に話を考えたことは無かった。一話ごとの話はしょっちゅう考えているが、全体の話を考えたことは今まで無かった。ひょっとしたらかなり面白いものが描けるかもしれない…。そう考えると、興奮が冷めやらなかった。
「いける、多分描ける」
「おぉ、良かった!じゃあ漫画大賞確定だな!!」
「気が早いっての」
ジェイドにはそう言っていたが、ちょっとだけ兆しが見えた。期待しても、いいのかもしれない…。
「とりあえず、明日は俺は漫画の世界にいるし、存分に描いてくれよ!」
「もちろん。なめんなよ、作者を」
「いい顔になったな。じゃあ、頼むぜ!」
そのあとは漫画の中身についてあれこれと話してみたが、どのシーンも行きつく結論は全てジェイドをジェイドらしく描くというものだったためあまり有意義な話合いにはならなかった。そうこうしているうちに時間は夜十一時を大幅に過ぎ、ジェイドは漫画の世界に戻ることになった。ジェイドが戻ったあと、早速、僕は先ほどの設定を取り入れた導入を描くことにした。
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荒れ果てた土地、夏は灼熱のように熱く、冬は凍え死んでしまいそうになるほど寒い。そんな厳しい環境にあるここ、最果ての村は食物も少なく、明日の命をつないでいくのがやっとという感じだ。そして、最大の難点、それは村人が弱いこと…。当然だ、こんな辺境の地、力のある者が住むはずもない。住んでいるのは追いやられた弱者とその子どもだけだ。そのため、周りの魔物に襲われたり、天災が起こったときには隠れるたり逃げたりすることしかできない。そんな村に住むジェイドは、ここに追いやられた農家の夫婦の息子であり、この村の環境について行くのがやっとの実力だった。唯一の武器は、明るいことぐらいだろうか。そんなジェイドが周辺の砂漠に行くところから物語は始まる。
ジェイド母「ジェイド、少し頼み事があるんだけど、いい?」
ジェイド「母さん、何?」
ジェイド母「外にある砂漠に行ってエーデルの花を取ってきて欲しいの。父さんが怪我しちゃって、その傷を治すのにどうしても必要なの」
ジェイド「エーデルの花か、きっつ」
ジェイド母「もし探しまわっても無かったら、帰ってきていいからね。明日、隣のメルビさんに頼むから。ほら、今日メルビさん、隣町まで行っていていないのよ。ジェイド、お願いね」
ジェイド「ま、わかった。やるだけのことはやってくるわ」
こうして、ジェイドは近くにある砂漠にエーデルの花を採りに行く。その道中、ヒロインに出会う。ジェイドと小さい頃からの知り合い。アスタだ。
アスタ「ジェイド、どこ行くの?」
ジェイド「あぁ、今からエーデルの花を採りに行くんだよ。親父の怪我の薬のためによ」
アスタ「へぇ、そうなの。でも、エーデルの花って、大変じゃない?」
ジェイド「まぁな、すぐ見つければいいけどよ…」
アスタ「じゃあ、私が手伝ってあげる」
ジェイド「マジか、助かるわ」
こうして、ジェイドはアスタを引き連れて砂漠に向かう。なかなかエーデルの花が見つからず、時間が経っていく。アスタが来たこともあってジェイドはそろそろ帰ろうかと言うが、アスタはもう少しだけと言ってエーデルの花を探し続ける。そして、無事エーデルの花を見つけたそのとき…
アスタ「あ、エーデルの花見っけ!」
アスタがエーデルの花を見つけ、近づくと、地響きのような振動が辺り一面に響き渡った。
ゴゴゴゴゴゴ…
アスタ「え、な、なに!!??」
驚きを隠し切れないアスタ。そこに砂漠の砂の下から強大な化け物が姿を現す。
デザート・ドラゴン「グルルルルゥゥゥゥ…」
デザート・ドラゴン「グワァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
砂漠の地底に住む竜、デザート・ドラゴンが現れる。本来なら砂漠の中央に根城を張ってる竜だが、おそらくデザート・ドラゴンもエーデルの花を食べに来たのだろう。そこに偶然鉢合わせてしまったのだ。
アスタ「ぁ、ぁ…」
アスタは驚きのあまり、腰を抜かしてしまう。
アスタ「こ、来ないで!!」
デザート・ドラゴン「グワァアアア!!!!!」
ジェイド「アスタ?」
アスタ「じぇ、ジェイド…」
ジェイド「アスタ、大丈夫か!!??」
大丈夫なはずがない。アスタは腰を抜かしてしまい立てない状況にある。そこに怒り狂うデザート・ドラゴン。万事休すだ、ジェイドにどうこうできるものでもない。それは、ジェイドもわかっていた。それでも、ジェイドはアスタの方に向かって全速力で走っていく。もう、デザート・ドラゴンはアスタの目と鼻の先だ。駄目だ、どう考えても間に合わない。その刹那、ジェイドに不思議な力がみなぎり…
ジェイド「アスタ、目をつぶれ!!」
アスタ「え、う、うん!!」
ジェイド「アマテラス!!!!!」
ジェイドが叫んだ刹那、眩い光が輝きだし、デザート・ドラゴンの眼差しを貫いた。
デザート・ドラゴン「グワァアア!!!!????」
ジェイドの放った閃光魔法が見事命中。そしてデザート・ドラゴンがひるんだ隙にジェイドはアスタを抱えて村へ逃げる。
その夜、ジェイドはその不思議な力を試す。今まで、不思議な力など一度も使ったことが無かったジェイドが、なぜ急にあの場面で力を使えるようになったのか…。ジェイド本人には全くわからない。先祖の力なのか、急に自分の中で何かが覚醒したのか、それともただの偶然か…。そうして、ジェイドは一晩悩んだ挙句、その不思議な力の源を探すことを決断する。
ジェイド「じゃ、行ってきます」
ジェイド母「ジェイド、行っちゃうのね…」
ジェイド父「ジェイド、無理だけはするんじゃないぞ」
ジェイド「大丈夫だって、行ってきます」
ドアを閉め、旅路へと繰り出す。そんなジェイドの前に、幼馴染のアスタが寂しそうに立っていた。
アスタ「…」
ジェイド「あれ、アスタ」
アスタ「ジェイド、聞いたんだけど。旅に出るの?」
ジェイド「あぁ、この力が気になってよ。調べてくる」
アスタ「そっか…」
アスタ「…、あの、これ…」
ジェイド「これは…、お守り?」
アスタ「いい!寄り道は無し!!そしてその力のことがわかったら、ちゃんとこの村に戻ってくること!!わかった!!」
ジェイド「お、おう」
アスタ「…、」
アスタ「ジェイド、応援してるから!!!」
ジェイド「アスタ…」
ジェイド「ありがとな!!じゃ、行ってくるわ!!」
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こうして、ジェイドの旅が始まる。前より、だいぶ良くなったな…。っていうか前は理由なくスタートしたし。これなら…、ジェイドのことを描けそうな気がしてきた。
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そして、月曜日。日曜日は少し手直しはしたが、結局あまり進まなかった。まぁ、重要な出だしが描けただけマシだろう。ジェイドが僕の部屋に来る。早速ジェイドに旅立ちの話を聞いた。
「あぁ、あれな」
少し、緊張した。なにせ、久しぶりに本気で描いたシーンだ。これで駄目だったら…
「あの時は…、悪くなかったぜ!良くなってるじゃんか!!」
そうか、良かった…。ジェイドの一言に胸を撫で下ろした。まぁ、悪いわけがないんだけどな。この天才、志道優作が本気を出しているのだから、そんな悪いシーンが生まれるはずが無いんだけどな。そう思って油断していたら、ジェイドから漫画に対する駄目だしが飛んできた。
「ただ、ちょっとあれって思ったのは、村の奴らが俺を引き留めなかったことだな。デザート・ドラゴンを撃退できるやつが村にいるんだったら、普通は引き留めて村を守ってもらおうとすると思うんだけどな」
そして、追撃の一言。
「最果ての村なら砂漠じゃないだろ、気候的に。この前、授業でやったぞ」
グハッ、おっしゃる通り。確かに、それは考えてなかった。もう少し、描き直しが必要だな…。なかなか、この天才の力をもってしても一筋縄ではいかないな。いや、プラスに捉えろ、伸びしろがあるということじゃないか。よし、おっけ。…頑張ります。