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最強の主人公は作者に反旗を翻す  作者: 無知の無知
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【第十六話】完結、託した想い

「優作、ストーリーは思い浮かんでるのか?」

「もちろん」

「描き進めていたりはするのか?」

「背景とかはある程度。あとはキャラ描いて台詞入れて」

「過去のシーンの手直しは?」

「大丈夫、完璧」

「じゃあ、いよいよってことか」

「おう」


 ジェイドはベッドで、僕は机に向かって、漫画のことを喋る。いつもと変わらない僕らだ。最終話、ついにジェイドの漫画が終わる。今日、この土曜日の一日を使って全て完成させるつもりだ。


「しかし、長かったな。この漫画なんて描き始めたのは俺がお前に会う前からだろ?」

「ペンタブに描き始めたのは高校生の頃から。だけど、ノートとかに遊びで描いてたの含めたら中学生か…、いや、小学校の頃に少し描いたことあったっけ」

「すご、長かったなぁ」

「なんか、終わる気がしないよ」


 ジェイドにこの世界で出会ったのはちょっと前のことだが、ジェイドに会ったのはもっと昔からだったんだな。昔から、僕はジェイドと、ジェイドの世界を描くことが楽しみだったんだな。それも、今日で終わりか…。


「なぁ、優作、漫画大賞はいいのか?」

 

 そういえばといった感じで、ジェイドが漫画大賞の話をする。漫画大賞か…。ジェイドに言われて色々頑張ったけど、今は漫画大賞にあまり興味を持てない。

 

「まぁ、出すかもしれないし、普通に投稿サイトにアップするかもしれないし。別に、僕は大賞に固執してないから。それより、自分の中で最高の漫画にしたいっていう気持ちの方が強いんだよ」


 …内心、まだ自信が持てていないからっていうのもあるんだけどさ。


「そっか、俺はお前に大賞を取って欲しいんだけどな~」

「お前を踏み台にして、次で取るって」

「おい、俺の努力は踏み台かよ!」

「いや、ジェイドのおかげで漫画の力が付いたってことだからさ。感謝してるって」


 ジェイドが、ならいいけどよ…、といった感じで納得する。ジェイドは気付いていないのかな、ジェイドと一緒に真剣に漫画に向き合った時間がどれだけ僕にとって力になったかを。…さて、そろそろ描くか。そう思ったが、ジェイドはなかなか立ち上がらなかった。どこか躊躇しているようだった。


「ジェイド、どうした?」

「いや、なんだ…」


 ジェイドが言いづらそうにする。


「まだ何かあるのか?この際だから全部言えよ」

「いや、さ…。今回が最後だろ?最終回って、ちょっと怖くてよ…」

「怖い?どういうことだ?」

「…死ぬかもしれねぇじゃねぇか」


 ジェイドから出た言葉は僕にとって意外なものだった。死ぬ?何を言ってるんだ?


「死ぬ?」

「ほらよ、最終回までは主人公って基本的に死なないだろ?物語が進まなくなるから。でもよ、最終回はもう主人公が死のうが何しようが関係ないだろ。だから、ひょっとしたら今日で終わりかもって思うとよ…」

「ジェイド、お前は僕がそんな最終回にすると思ってたのか?」

「いや、優作はそんなことしないとは思ってるぞ!でもよ、万一ってことがあるからよ…」


 確かに、僕の部屋の本棚にはバッドエンドで終わる漫画もちらほらとあったな。最終回で世界が終わるなんて漫画もあったかもしれない。ジェイドは、そんなことを気にしてたのか。


「ったく、僕がそんな最終回にすると思うか?っていうか、僕自身そんなことしたくないし」

「だよな…、そうだよな…!」

「いや、ありか…?」

「おい!!」


 ジェイドが不安そうな顔をする。


「大丈夫だ、最終回については僕を信じて欲しい。相応しい最終回を考えてるからさ」

「…わかった、信じてるぜ!」


 その言葉でジェイドも決心がついたようで、ベッドから立ち上がり…


「あ、ちょっと待った!!」


 ジェイドが、せっかくの決意を台無しにする。


「今度はなんだよ?」

「いや、俺の最後の切り札!聞いておかなくていいのか!?」


 あぁ、それのことか。そういや、ジェイドには話していなかったな。まったく、ジェイドは心配性だな。でも、最後の敵に会うのだ、ジェイドの気持ちもわからなくもない。


「安心しなって。時が来たらきっとわかるって」

「でもよ…」


 一瞬、ジェイドが不安そうな顔をする。それでも、その不安な感情が意味のないものだと感じたのか、小さくため息をつき僕の方を向く。


「…わかった。優作がそう言うなら、大丈夫なんだろうな」

「ま、ヒントとしては、昔の僕なら絶対に描かないであろう技ってことぐらいかな」

「うん、わかんね」


 今度こそジェイドは決意を固め、僕の方へ近づいてくる。


「これで、安心して漫画世界に戻れるわ。目標、達成だな」

「まったく、この僕をもっと信じて欲しかったね」

「ま、別に漫画が終わっても、呪文使ってこっちに来ることはできるんだけどな」

「…まぁな」


 そして、お互い顔を見合わせる。


「じゃあ、行ってくるわ」

「頼んだよ、主人公さん」

「任せろって、作者様!じゃ!」


 そして、ジェイドは漫画の世界へ戻って行った。


「…楽しかったよ、ジェイド」


 僕は、ペンを取り、いよいよ最後のシーンへ。魔王を倒した、次の話。いよいよ、ジェイドの力の真相、そして最後の敵が現れる。


・・

・・・

ガルム「その無駄な…、優しさのせいで…、お前はあと三十分、私の戯言に付き合う羽目になったぞ…」

ジェイド「悪くねぇじゃねぇか」


 その刹那、突風がジェイドとガルムを襲う。何か、魔王よりも強大な何かが近づいてくる。そのあまりの強大さにジェイドも険しい顔つきになる。


?「やっぱり、流石だよ。僕が力を与えただけはある」

ジェイド「誰だ、お前は!!」

?「僕は…、陰でこの世界を作り、操る者、創設者だ。まぁ、陰の存在だからシャドウと呼んでくれればいいかな」


 ジェイドよりも一回り小さな男が白い光を放ち、宙に浮いている。その男は自分のことをシャドウと名乗り、自らを創設者だと言っている。そのあまりにも妄言めいた発言、普通ならば信じられないだろう。しかし、シャドウから溢れ出る力がその発言を本当のことだと物語っている。


シャドウ「ジェイド、お前はなかなか面白かったよ。僕が与えた力を存分に使ってくれてさ」

ジェイド「お前が、与えた?」

シャドウ「そうだ。創設者という立場も暇なんだよ。ただそれっぽい平和な世界を見てるのも。だから、僕はお前に力を与えて、魔物とぶつけてどういうことをするのか観察させてもらってたんだよ」

ジェイド「魔物と…、ぶつけた?」

シャドウ「あぁ、こういえばわかるかな?雪の砂漠の竜、人を襲う巨大な水、突然現れた黒い影、平和な森に現れた狼の群れ、感情がおかしくなった少女、闇の炎を吐く龍、球技を襲う黒いフード、再び現れた狼の群れ…、覚えはあるんじゃないかな?」


 シャドウが言った言葉、それは全てジェイドが旅の途中で立ち向かった相手であった。


ジェイド「…じゃあ、今まで襲われた村、襲われた人、全部、お前のせいだっていうのか…」

シャドウ「そうだよ、せっかく力を持った勇者がいるんだから、それがどんな戦い方をするかを見てみたいじゃないか」

ジェイド「じゃあ、お前はただ暇つぶしで人を襲ったっていうのか……」

シャドウ「そうなるのかな。でも、もう飽きた。だから、ジェイド、君には消えてもらおうかな」

ジェイド「………」


 ジェイドは、怒りで震えていた。苦しんでいた人達、自分が助けた人達、自分が悩んでいたこの力、全部このシャドウという男の暇つぶしのため…。


ジェイド「俺の、力は、人生は…、お前の暇つぶしのため…」

シャドウ「そうだね、いいじゃないか。それで最強になれたんだから」

ジェイド「ゆるせねぇ…」

ジェイド「お前は絶対に許さねぇ!!!!!!!!!!」


ジェイド「ティアブレイク!!!!!!!!!!!」


 ジェイドが全ての怒りを込めた渾身の一撃をシャドウに放つ。魔王ガルムと戦った時よりも数倍は強い一撃。しかし、それに対してシャドウは顔色一つ変えず…


シャドウ「レベルⅠ、ガード」


ガキンッ!!!!!!


ジェイド「………え?」

シャドウ「お前の力は僕が与えたものだ。お前の技は全て知っているし、僕の力の下位互換に過ぎない。お前の技なんて僕に通用するわけがないだろ」


 ジェイドの全力で放った渾身の一撃はシャドウの咄嗟のガードにはじかれてしまう。ジェイドも、戸惑いを隠せない。ジェイドの全力が、シャドウにとってはただ小突いてる程度にしか思われていない…、圧倒的な力量差だ。ジェイドはその現実から目を背けるかのように攻撃し続ける。


ジェイド「アマテラス!!!!」

シャドウ「ツクヨミ」

カァアアアア

ジェイド「くそっ…!じゃあこれなら、アルター・アーツ!!!!」

シャドウ「真実の眼」

スゥ

ジェイド「はぁ…はぁ…メテオフレア!!!!」

シャドウ「アクアブラスト」

シュワァアアア


 放った光は月光で相殺され、無数の分身は眼光によって消され、全てを燃やし尽くす業火は水の波動でかき消されてしまう。それでもジェイドは攻め続ける、何度も何度も攻め続ける…。そして、何度も何度も攻め続け、ついにジェイドは気付いてしまう…


 …こいつには、何をしても勝てない…


 圧倒的な力量差、シャドウの余裕な表情、徐々にジェイドの攻撃は勢いがなくなっていき…


ジェイド「くそっ、くそ、くそ…!!!!」

シャドウ「諦めた方がいいよ。所詮、君は僕の操り人形だ。僕に勝てるわけがないだろ」

シャドウ「お前は僕の力が無ければ何もできない。わかったか?」

ジェイド「………」


 ジェイドはついに膝から崩れ落ちてしまう。体力じゃない、精神的に、勝ちを諦めてしまったのだ。ジェイドの目にはもう、絶望しかなかった。


シャドウ「じゃあ、終わりにしようか」

ジェイド「…………」

シャドウ「リターン・ゼロ」


 ジェイドに容赦なく最後の一撃を加えようとするシャドウ。その時…


?「疾風一閃!!」


ドンッ!!


シャドウ「うっ…!!」

ジェイド「な、なんだ…!?」


 ジェイドが絶望に打ちひしがれ、シャドウが最後の一撃を撃とうとしたその時、あらぬ方向からシャドウの体めがけて剣技が放たれた。シャドウが毒づきジェイドがその剣技を放たれた方を見ると…、クリスとフェイが構えていた。


クリス「じ、ジェイド!!助けに来た!!」

フェイ「これが占いで見えたやつなんだね~。不安だったから様子見に来たけど、来て良かった~」

ジェイド「クリス!?フェイ!!??」

シャドウ「ぼ、凡人の分際で…!!邪魔をするなら死んでもらうぞ…!!ギルティ…」

アスタ「超いじわる砂嵐!!!」


 シャドウが二人を消そうとすると、今度は別の方向から雪の砂が舞い始めた。

 

ゴォォォォオオオオ!!!!


シャドウ「うっ、目が…!!」

ジェイド「アスタ!!」

アスタ「もう、ジェイドが遅いから私がわざわざ迎えにきてあげたの!!後で肉料理作ってもらうからね!!」

ジェイド「いや、お前…!」

マイン「追撃です、メルトマインド!!」


 今度はアスタの後ろにいたマインが、シャドウに精神攻撃をぶつける。シャドウはクリスの不意打ち、アスタの目つぶしのせいで防御が遅れ、マインの攻撃をもろに食らってしまった。


シャドウ「お前は、マインか…!」

マイン「私に変な力を与えたのはあなただったんですね!それと、ジェイドさんのことは把握してるくせに私のことは全然わかってないんですね!!どうですか?飼い犬に手を嚙まれる気分は!!」

シャドウ「くそ、お前なんて人形以下のはずなのに…!!」

ジェイド「マイン!!」

マイン「ジェイドさん、ジェイドさんとの約束なんですけど…」

マイン「私はジェイドさんの役に立ちたいです!!これが私のわがままです!!!」

ジェイド「マイン、ったく…!」

マイン「皆さん、敵は今、完全に混乱状態に陥っています。討ち取るなら今がチャンスです!!!」


 マインの精神攻撃を食らい混乱状態に陥るシャドウ。そして、マインの合図を聞き、二人の人物が前に現れる。炎のグスタフ、氷のアルメだ。


グスタフ「じゃあ、とっておきの技、いくぞ!!」

アルメ「言われなくてもわかってるわよ…」

ジェイド「グスタフさん、アルメ!!」

アルメ「グレイシア、」

グスタフ「ボルケーノ、」

アルメ、グスタフ「マーブルトルネード!!!!!」


ゴォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!


 アルメの氷とグスタフの炎が混ざり合いシャドウの体を凍らせ、燃やす。そんな二人の技に、シャドウは戸惑いを隠せない。


シャドウ「な、なんだよ、この技…!?僕は知らないぞ…!?」

グスタフ「お前がこの技を知ってるわけが無いだろう!俺らのとっておきの技だからな!!」

アルメ「ついさっき思いつきでできた技だけど」

ジェイド「なんで、なんでみんな…!?」

フェイ「それは、クリス君に感謝だね~」


 次々と現れるジェイドの仲間たち。なんで急にジェイドの仲間が…。それは、クリスが連れてきたそうだ。クリスがジェイドのことを心配し魔王城へ向かったとき、偶然クリスはフェイと鉢合わせた。お互いジェイドのことを知っており、ジェイドの身に危険が迫ってることを直感し、助けに来た。ただ助けに来たわけじゃない。フェイの術とクリスの瞬間移動でジェイドへの想いが強い人全員を引き連れて駆けつけてきたのだ!


ジェイド「クリス、お前…!」

クリス「が、頑張ったよ!初対面の人とばっかり喋らなきゃ、だったし…!」


 ジェイドの仲間による攻撃がシャドウを突き崩していく。シャドウは自分の描いていた展開通りにならない現状に苛立ち、その怒りによって完全に我を忘れ、暴れだす。


シャドウ「くそが、くそがくそがくそが!!!!!!」

シャドウ「ソニックフレイム!!!!!」ゴォォォォォオオオオオオ!!!!!!!!

マイン「!!」

マイン「皆さん、一度避難してください!!敵が完全に暴走しています!!!」


 シャドウがやぶれかぶれに音速の炎撃を撃つ。照準の定まっていない攻撃は仲間のいない明後日の方向に撃たれているが、いつ流れ弾が仲間を撃ち抜くかわからない…。そこに、鎧を身にまとった騎士が現れる。


グレゴリー「失礼。そんなやぶれかぶれの攻撃などたかが知れています。ここは私共にお任せください」

グレゴリー「秘技、霧散刃!!」


 グレゴリーによって流された炎撃はある一点に集中する。受け流された炎撃が向かった先には、金色の髪の王女が手を広げて待ち構えていた。


グレゴリー「では、お嬢様、よろしくお願いします!!」

ラピス「任せて!!ホイップキャッチ!!」シュウウウゥゥゥゥゥゥゥ

ラピス「からの…」

ラピス「奥義、反鏡!!」ドンッ!!


 全ての炎撃を一手に吸収し、シャドウめがけて跳ね返す。混乱しているシャドウは跳ね返された炎撃をもろに受けてしまう。


シャドウ「ぐはっ…!!!」

ラピス「やった、直撃!!」

ジェイド「お前ら…!」

ラピス「この技、グレゴリーに教えてもらったんだ~!!結構うまくなったでしょ?」

グレゴリー「本当に、お嬢様にせがまれて困りましたよ…。でも、うまくいって良かったです」

ラピス「だから言ったじゃん!必要なことだって!!」

・・・

・・


 アルメとグスタフのコンボ攻撃、マインの読心術、グレゴリーとラピスの連携…。シャドウ、なんでお前が負けそうになってるか、わかるか?お前は最強の僕の人形とか言ってジェイドだけを見ていたんだよ。ジェイドの周りのことなんて眼中になかったんだよ。だから、こいつらの攻撃に全く太刀打ちできないんだよ。シャドウ、これが適当にジェイドに力を与えた報いだよ、この凡人が!!!


・・

・・・

グスタフ「すごいな、今の技!!」

グレゴリー「まぁ、散々練習させられましたからね」

マイン「敵は今の攻撃でかなり消耗しています。ですが、まだ余力は十二分にあります。次このような攻撃が来たら…」


 シャドウはかなり混乱していた。しかし、まだ十分戦えそうな様子だった。いくらこちらが有利とはいえ、力量差で言えば向こうの方が圧倒的に強い。


グレゴリー「残念ながら、さっきの連携にも限度があります。もう一度できるかできないか…」

アルメ「うん、この子に何度もさっきの技を使わせるわけにはいかないわね。負担になるわ」

ラピス「で、できるもん!もう二回ぐらい!!」

フェイ「無理しないで~、ここには強い人が何人もいるんだからさ」

アスタ「きっと、あの敵を壁みたいので囲めば、少しは安全に立ち回れるかもしれない、かな?少なくともさっきの乱撃は防げると思う」

グレゴリー「こちらの攻撃が通りづらくなるが、現状の奴の行動が想定できない以上、得策かもしれない…」


 そんな話合いを聞きつけたのか、三人の森の住人が前に出る。


ウッズ「っつーことは、俺らの出番かな」

フォレス「本気でいくぞ」

メープル「はい、みんなどいてどいて!!」


 三人は顔を見合わせ、息を吸い、そして…


フォレス「大!!」

ウッズ「森!!」

メープル「りん♪♪」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 フォレスとウッズとメープルによってシャドウの周りは木々で覆われる。それだけではない、木々の蔦がシャドウに絡まりつき、シャドウの体を縛る。シャドウの本来の実力ならばこの技を避けることも力で強引に破ることも可能だったはずだ。しかし、動揺に加え、先ほどからの余計な力の消耗とダメージでまともに動けていないのだ。


ジェイド「フォレスさん、ウッズ、メープル!!」

ウッズ「お前はなんで俺が見る時、いつも負けそうなんだよ」

フォレス「もっと自分に自信を持て!前も言っただろ!!」

メープル「ジェイド、久々だね!!」

シャドウ「な、なんだよこれ…!くそが…!!」

フェイ「あ~、完全に行動不能だね。今がチャンスかも~」

クリス「でも、こんなに木々があったらこちらからも攻撃が…、あ、いえ、防御は凄いんですけど!!」


 樹木が入り組み、シャドウの行動が制限される。しかし、その入り組んだ木々にこちらもうまく攻撃を通せない。そこへ…


エルボ「ここは任せてくれ。いくぞお前ら!!」

チームメンバー「「うっす!!」」

エルボ「シースタ、ローズ王国チーム…」

エルボ「散開!!!」


バッ!!!


 エルボとそのチームメンバーが木々の間を縫ってシャドウのもとに突撃する。チームメンバー五人は軽やかな身のこなしでボールを操っていく。


クリス「す、すごい…!あの入り組んだ木々をあんな軽やかに…!」

メープル「でも、ボールを使ってダメージを与えられるの…?」

グスタフ「…ありゃ相当なもんだな」

アルメ「え?」

グスタフ「あいつらの使っている球、あれは相当な重さの球だぞ…!」

フェイ「聞いた話だと、あのチームはボールを使って竜を撃退したことがあるらしいからね~」

グレゴリー「球技も馬鹿にできんな…」


 おおよそ重量1tはあるボールをパスしながらエルボ達はシャドウに近づいていく。そして、その目にも止まらぬパス裁きでシャドウの周りを周り、ボールをぶつけ攻撃していく。


選手1「食らえ!!」ブンッ!!


ドンッ!!


シャドウ「うっ…!!」

エルボ「リバウンド!!」


選手2「任せろ!!」パシッ!!

選手2「んで、食らえや!!」ブンッ!!


 数発、数十発と攻撃を重ねていく。シャドウの体に徐々に傷が増えていく。そして、渾身の一撃…


選手「キャプテン!」ヒュンッ

パシッ

エルボ「任せろ、これで決まりだ!!シューーーートッッ!!!」


ドンッ!!!!!!!!


シャドウ「うっ、ぐっ、くそ!!!くそっ、なんでこんなくだらない球技に…!!」

エルボ「なに言ってんだ、俺らがどんな想いで練習してるか知らねぇくせによ!!!」


 エルボが放った鉄球を頭にもろに食らったシャドウは、あまりの衝撃にふらつく。ただの球技とは思えない凄まじい衝撃だ。そんなシースタのチームに反撃をしようとするシャドウが、突然呻きだす


シャドウ「うぁぁああ!!な、なんだ、なんだ!!??」

アスタ「え、な、なに!?」

マイン「エルボさんのチームが放った一撃とは違う、別の力で呻いています…!」

フォレス「何か、見えない力が働いてる…のか?」

ウッズ「ここにいる誰のものでもないみたいだな…」


 突然の強い力にシャドウは苦しみと困惑の表情を露わにする。しかしそれ以上に、ジェイドとその仲間はこの突然の出来事に困惑する。そんな中、ある聞き慣れた声がジェイドの頭の中に届く。


アイデン(ジェイド、聞こえるか。)

ジェイド「え、え?」

アイデン(わしじゃよ、アイデンじゃよ。。)

ジェイド「爺さん!」

アイデン(今、わしらの町からそっちに念力を送っているが、届いているかの?)

ジェイド「と、届いてるっすよ、もちろん!」

アイデン(しかし、残念じゃが、お主のあの術だけはまだまだじゃったの。)

ジェイド「え?」

アイデン(お前さんが助けた子供達、それにマリア、皆お前のことを思い出して、寂しがっておったぞ。)

ジェイド「そ、そうだったんすか…」

マリア(ジェイドさん、聞こえてますか!?なんであんなことしたんですか!!私は絶対許しませんよ!!)

ジェイド「マリア!わ、悪かったって!!」

マリア(でも、厄災なら任せてください!!私はこの時の対策を千も万も考えていたんですから!!)

アイデン(そういうわけじゃから、今、子供達とわしでそっちに念力を送って力を注いでおるのじゃ。どうじゃ?効いてるかの?)

シャドウ「な、なんだこれは…!!」

ジェイド「すげぇ、めっちゃ効いてるっすよ!!」


 ダースの町の子供達の念じる力、それをマリアが聖なる力で一つに集結させ、アイデンが増幅させてこちらに送る。アイデンがいて、マリアがいて、そして子供達の想いがあって初めて成り立つ技だ。シャドウもついに屈し、これで世界に平和が…!

 …そんなことは無かった。シャドウが咆哮と共に放った衝撃が周りの木々をなぎ倒し、ジェイドと仲間たちを吹き飛ばす。


クリス「いっ…、大丈夫ですか、皆さん!!??」

フェイ「大丈夫…、みたいかな。あの木々、それにみんなの防御魔法のおかげだね」

グレゴリー「助かりはしましたが、私どもの防御、あの木々、それに他の方々の防御もあったのにそれを一撃で…」

マイン「不味い、ですね…。敵の力が戻ってきています…!」


シャドウ「はぁ…、はぁ…」

シャドウ「雑魚が…、凡人が…、僕の前で偉そうにするなぁぁぁあああああ!!!」


ゴォォォォオオオオオオオ!!!!!


 シャドウが叫ぶと、凄まじいオーラがシャドウを覆い、辺りに強い風が吹き荒れる。


グスタフ「くそっ、まだこんな力が…!」

アスタ「もう、なんで倒れないのあいつ!?」

クリス「た、倒せますかね…」

マイン「でも、間違いなく私達の攻撃は効いています…。あとは、決定打さえあれば…!!」

グレゴリー「決定打、私達は先程の攻撃でほぼ全力だというのに…」

エルボ「それは俺らだって同じだよ」

アスタ「でも、いるじゃん。ここにはシャドウを倒せる最強の人が」

ラピス「だね!」

ウッズ「ここは最強の勇者の力で十分ってことか」


ジェイド「…え?」


 ジェイドが驚いた顔で、周りを見る。ジェイドの仲間たちは、信頼した顔でジェイドの方を向く。


ウッズ「え、じゃねぇよ。お前が最強の勇者なんだから、お前が決めるのが定石だろ」

フェイ「それが確実だね~」

ジェイド「でも、俺の攻撃はあいつには全部はじかれて…」

マイン「いえ、可能性はあります。相手はジェイドの攻撃を知っていたから流すことが出来た。でも、私達の攻撃は知らなかったから流せなかった。つまり、ジェイドの攻撃で奴の知らない攻撃を当てることができれば可能性は…!」

アルメ「威力の方も重要ね。あいつを一撃で葬ることのできる強い威力が必要だと思うわ。ジェイドなら、問題は無いと思うけど。」

メープル「じゃあ、ジェイドの中でいっちばん強くて、見たことない技がいいんだね!!」

ジェイド「あいつの、知らない、最強の力…」

ジェイド「…」


ジェイド(…そういうことかよ、ったく。)


ジェイド「…いけるかもしれない」

フォレス「本当か!?」

ジェイド「…一つ、思いついた。これなら、この技なら、あいつが絶対に使わせたくないはずだ。しかも、俺の中でずば抜けて強い技のはずだ…」

ジェイド「…でも、使ったことはない…。うまくいったとして、これは俺には一回しか使えない。だから…絶対に外すわけにはいかない…。だから…」

ジェイド「…協力、してくれるか?」

一同「「…」」

アルメ「何を言うかと思えば…、今更そんなことを聞かれるなんて、逆に驚いたわ」

アスタ「手伝うに決まってるよ!当たり前でしょ!?」

クリス「困ってる僕を助けてくれたんです、僕がジェイドさんを助けるのは当たり前のことです…!」

ガルム「勇者よ、いいか…」

ジェイド「ガルム!!」

ガルム「私の、力も、使ってくれ…」

ジェイド「ガルムの、力が流れこんでくる…」

ガルム「これで、我が生涯も…」

フェイ「なに言ってんの~。今、回復させるから待ってて~」

ガルム「いや、私は勝負に負け…!!」

フェイ「そんな細かいこと気にしないでさ~。生きててなんぼでしょ?」

グレゴリー「では、私達が全力でやつの力を封じこめます。ですので、チャンスを見つけたらその技を」

ジェイド「あぁ、頼む!!」

フォレス「おう、任せとけ!」

ラピス「やるぞーー!!」

アイデン(こっちも準備万端だ、ジェイド。)

マリア(任せてね!)

エルボ「行くぞ!!!」


 アスタ、グスタフ、アルメ、アイデン、マリア、子供達、フォレス、ウッズ、メープル、マイン、クリス、エルボ、グレゴリー、ラピス、フェイ、ガルム…、全員がシャドウの動きを全力で止めに行く。シャドウは応戦するも、これだけの数の暴力に身動きが取れない。そして、いよいよジェイドにチャンスが訪れる…!!


シャドウ「ぐ、うっ……!!」

グレゴリー「ジェイド、今だ!!」

アスタ「ジェイド、決めて!!!」


 みんなの攻撃でシャドウが完全に身動きが取れなくなる。技を撃つなら、今しかない…!!


ジェイド「みんな、マジでありがとう…、俺一人じゃぜってー勝てなかった…」

ジェイド「お前らの力を借りて、決めないわけないだろ!!!」


ジェイド「シャドウ、これが俺の全てを懸けた、お前が知るはずもねぇ最後の一撃だ!!!!」

シャドウ「ジェイド…!!」

ジェイド「オール、エナジー…」

ジェイド「バーストォォォォォォォォオオオオオオオオオ!!!!!!!!」


 ジェイドが、全ての力を懸けた一撃を放つ。その威力は、今までとは比べ物にならない、みんなの想いを背負った一撃だ…!!


ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


シャドウ「くそっ、レベルオーバー、ガード∞!!!!!」


 ジェイドの渾身の、全てを込めた一撃。しかしこの技は、全てを粉砕する一撃を放つ代償としてジェイドの持つ力が全て無くなってしまう。つまり、この技を使うことによってジェイドはもはや最強ではなくなってしまう。シャドウがこんな技を知ってるはずが無い、こんな技を望むはずが無い。それでもジェイドは、自分の全てを犠牲にして、みんなの力を借りて、シャドウに向かって放った、最強の一撃を…!!!


ジェイド「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

シャドウ「う、く、くそっ…!!」


 シャドウは防御壁を紡ぎジェイドの一撃を防ごうとするが、勢いの増すジェイドの攻撃に徐々に押されていく。そんな時、シャドウから苦し紛れの声が聞こえる。


シャドウ「…いいのか、ジェイド。お前がこの技を決めれば…、僕がいなくなれば…、お前は最強じゃなくなるんだぞ…?本当に、それでいいのか…?」

・・・

・・


……

…………僕は、一度ペンを置いた。

全ての力を捨ててまで放ったこの一撃、この技を決めればジェイドは最強じゃなくなる。全ての技を失ってしまう。アマテラスも、メテオフレアも、メモリーリセットも、そして、クロスオーバーも……。今ならまだ間に合う、ジェイド以外がこいつを倒せば技を失うことはない。他のやつがシャドウを倒せばジェイドは最強のままでいられる。力を失うことはない。そしたら、ジェイドはまだ…。


 でも…


 僕は、こいつをジェイドに倒して欲しかった。ジェイドにこの重荷をずっと背負わせたくなかった。僕の人生じゃない、ジェイドの人生を歩んで欲しかった。きっと、ジェイドもそれを望んでいるはずだ。だから…!!!!


・・

・・・

ジェイド「俺は、別に最強とかどうでもいいんだよ…。それよりも、俺はそんなの関係無いぐらい、強くなりてぇんだよ!!」

・・・

・・


 …これが、ジェイドの望みなんだよな。これが、ジェイドが望んでいた、物語だもんな…。


 …………


 …ジェイド、行くぞ!!最後の一撃だ!!!決めるぞ!!!お前と一緒に、最後のシーンへ!!!


・・

・・・

フォレス「決めろ、ジェイド!!」

マイン「ジェイドさん!!」

クリス「ジェイドさん…!!」

アスタ「ジェイド!!!」


 アスタの、グスタフの、アルメの、アイデンの、マリアの、子供達の、フォレスの、ウッズの、メープルの、マインの、クリスの、エルボの、グレゴリーの、ラピスの、フェイの、ガルムの、みんな、みんなの応援がジェイドに力を与える。


ジェイド「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」


 応援を力に、ジェイドは最後の力を振り絞り、全力をぶつける!ジェイドの攻撃がどんどん勢いを増し、ついに、ついに…!!!


パリンッ!!!!!!!


シャドウ「くそが、くそがくそがくそがくそがくそがくそがぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!!!」


シュゥゥゥゥウウウウウ…

・・・

・・


 …シャドウは、ジェイドの渾身の一撃によって、消えていく。そして、ここにいる、いや、この世界にいる全ての人が世界に平和が訪れたと直感する。ジェイドの仲間たちは、ジェイドの勝利に歓喜する!!ジェイドも満面の笑みで仲間の元へ駆け寄って行く!!!皆が笑い合って、勝利と平和を喜ぶ、お互い頑張ったなって、よくやったなって!!!これが、僕が描きたかった最後のシーンだ!!!これが、僕の、僕の漫画の、最後……!僕の漫画の…


…………


 ついに、終わったんだな…。

 …これで良かったんだよな、これで…。



 僕は、ペンを置き、息をつく。天井を見上げる。体中を駆け巡っていた興奮が冷め、その反動で少しだけ物寂しさが襲ってくる。でも、後悔は無い。やれるだけのことはやり切った。すごく、すごく楽しかった。


 ジェイド、今まで、ありがとう。



 …じゃあな。



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