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最強の主人公は作者に反旗を翻す  作者: 無知の無知
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【第十五話】優作の漫画③...

 八話目を終えてからも漫画を描き進め、ついに最終話、一歩手前まで進む。とはいっても、単純にほとんど手直しをしていないのが原因だが。フェイの話と魔王の話は長さ的に一つにまとめてみた。さて、どうなっただろうな、僕は読み返し始めた。


・・

・・・

衛兵「ジェイド様、着きました」

ジェイド「さんきゅっ。っていうか、様って呼ばれるの、慣れねぇな…」

衛兵「申し訳ございませんが、私共はここまでしかご同行できません」

ジェイド「あぁ、大丈夫。助かったよ」

衛兵「それでは、ご健闘をお祈り申し上げます」


 衛兵達は深々と礼をし、もと来た道を戻っていく。ジェイドは衛兵達が見えなくなるまで見守り、魔王城の方へ向き直る。魔王城はおびただしい程のオーラを纏っており、ジェイドの立っている魔王城手前の山から見る景色でさえ禍々しさを感じる。そんな魔王城を見つめていると…


ジェイド「あそこに見えるのが、魔王城…」

ジェイド(すげぇ禍々しい雰囲気だな…。)


?「あ~、そこのお兄さん。ちょっと待って~」


ジェイド「?」

フェイ「どうも~。フェイっていいま~す。魔王の城に行こうとしてるんだよね?だったらその前にちょっと立ち寄って欲しいんだよね~」

ジェイド「立ち寄る?」

フェイ「あなたの運命を占います!ミラクル・オラクルです!!」

ジェイド「お、おう…」


 紫の髪に紫のスパンコールドレス、そして巨乳を惜し気も無く出している女性、フェイが話しかけてきた。魔王城に挑むという重要な局面、この緊張感の無い話し方はどこか気が抜けてしまう。そう思いながらも、ジェイドは占いの館、ミラクル・オラクルに招かれる。


ジェイド「ここが、占いの館…」


 ミラクル・オラクルは不思議な館であり、古ぼけた怪しげな外観かと思ったら、中は可愛らしいぬいぐるみが飾ってあり、ファンシー系な感じだ。可愛らしいなと思って奥まで進むと、今度は蛇やら蛙やらが生きたまま瓶詰になっていたりと、よくわからない館であり、ジェイドも戸惑いを隠せない。


ジェイド「なんか、変わった部屋だな…」

フェイ「わかる~?実はこの家ちょっと前までお婆ちゃんが住んでたんだよね~。お婆ちゃんの趣味でこんな気持ち悪い部屋になっててさ~。マジ無理だったからがっつり模様替えしてるんだけど、まだ全部はできてなくって~」

ジェイド「そういうことか。それで、お婆ちゃんっていうのは…?」

フェイ「お兄さんでも知ってると思うよ~。ほら、運命を見定める占い師、オラク婆さん」

ジェイド「オラクさん!?知ってるぞ!全てのことを見通すことができるっていうあの伝説の占い師!」

フェイ「ピンポ~ン!」

ジェイド「え、じゃあお前はまさか、その孫…とか?」

フェイ「ピンポンポ~ン!私はオラ婆の孫の、フェイ!よろしく~!」

 

 この急に話しかけてきた女の子は、伝説の占い師の孫、フェイであった。フェイの話によると、どうやら魔王城に向かう人はもれなくこのミラクル・オラクルに招いているらしい。そして、そこで運命を見定め、魔王城に進んでもいいかどうかを伝える。もしあまりにも運命が悪い方向に流れていたら、絶対に魔王城には行かせないようだ。


ジェイド「そんなことしてたのか…」

フェイ「魔王と戦うのはそれだけ危ないってこと~」


 そう言うと、早速とフェイは占いを始める。水晶を使ったり、魔法陣を使ったり、呪文を使ったり、そんな占い師っぽいことは一切行わず、ただジェイドの手を握りずっと目を瞑るだけだった。目を瞑って十数分、ジェイドがしびれを切らして目を開けようとしたとき、終わったよの合図がフェイから告げられた


フェイ「ごめ~ん。ちょっと時間かかっちゃった」

ジェイド「そっか。で、どうだったんだ?」

フェイ「えっとね…。ちょっと真剣に聞いてね」

ジェイド「うん、わかった」

フェイ「まず、魔王城へ行けるかどうかなんだけど…」

ジェイド「…」ゴクッ

フェイ「全く問題なし!!ってか、ジェイド強すぎ~!ほぼ確実に勝てちゃうじゃん!逆に行っても意味無いから行かなくていいんじゃないレベル!!」

ジェイド「そうか、良かった!!」

フェイ「ただ、問題はその後かな…」

ジェイド「その後?まだ何かあるのか?」

フェイ「わかんない…。でも、なんか得体のしれない、魔王なんかとは比べ物にならないものが見えた気がして…。正直、ジェイドにはどうすることもできないような…」

ジェイド「そ、そんなのがいるのか…」

フェイ「でも、行くことを止めはしないよ。なんか、これと相対することがジェイドの目的な気がして…」

ジェイド「…わかった」

フェイ「うちが言えるのはこれだけ。ごめんね、確かなことが言えなくて…」

ジェイド「いや、ありがとな!助かった、頑張ってみるわ!」

フェイ「うん!あ、せっかくだし泊っていったらどう~?魔王城に行く前に、がっつり体力つけて行かないとね!ご馳走、お風呂、ベッド、全部用意してあげるよ!!」

ジェイド「いいのか?めっちゃ嬉しいけど…」

フェイ「あ、私はナイスバディだけど、この体には指一本触れちゃ駄目だからね~。まぁ、私の体に触ったら体が動かなくなる魔法かかってるけど」

ジェイド「こわっ、勘弁してくれよ…」

フェイ「見るだけならタダだから、目の保養に使って~」

ジェイド「はいよ」


 そして占いの館で一晩過ごし、いよいよ魔王の城へ。

 

フェイ「ジェイド、やっぱり行くの?今なら引き返せるよ?」

ジェイド「いや、行く。ここまで来たんだ、帰るわけにはいかねぇって。」

フェイ「だよね、えっと…」

ジェイド「大丈夫だって、魔王もその得体の知れないやつも倒して、帰って来るって!」

フェイ「うん、だよね~!じゃあ、ジェイド、がんば~!」

ジェイド「おう!」


 ジェイドは魔王城へ向かって歩みを進める。ついに魔王城の前にたどり着き、魔王城の門を破り、魔王のいる部屋へ向かっていく。道中、魔物を何体か見かけたが、全くジェイドに手出しをする様子がない。まるで、ジェイドを魔王の部屋に招いているようだった。そして、吸い込まれるようにジェイドは魔王のいる部屋にたどり着く。その禍々しいさびれた扉を開けると、荘厳だが簡素な広間に出た。そしてその奥には玉座に魔王が座っていた。魔王は人間と変わらない、凛々しい男の様相だった。ただ、その目はどす黒い黒色をしており、背中には黒い翼が四本生えていた。魔王がジェイドの方を見て喋りだす。


?「…来たか」

ジェイド「あぁ、お前が魔王か…」

?「その通り。私がこの世界の魔物を統べる王、魔王ガルムだ。お前はたしか、ジェイド、だったな」

ジェイド「へぇ、俺のこと知ってんのか」

ガルム「私は強い者に目がないからな。お前が強いことは風の噂で聞いてるぞ、謎の力を手に入れた最強の勇者だと。そして、その力の源を求め旅をしているらしいな」

ジェイド「詳しいじゃねぇか。まぁ、別に俺はお前に対して恨みや殺意なんてものは無い。お前は別に俺らに危害を加えてるわけじゃないしな」

ジェイド「一つ聞きたいんだが、魔物を俺に仕向けたのはお前か?」

ガルム「そんな遠回りのことを私がするわけがないだろう。そんなことをするぐらいなら、直接挑みに行くぞ」

ジェイド「…そうか、意外だな」

ガルム「私を倒せば何かわかるかもしれないぞ?」

ジェイド「あくまで俺と戦うつもりか…。わかった、俺の力の根源を探すために、一勝負挑ませてもらうぜ。悪いな、私情で」

ガルム「構わない。私もお前の力を体験してみたかったところだ。ただ、やるならば全力だ。その命を奪うつもりでいくぞ」

ジェイド「臨むところだよ!」


 こうして、ジェイドと魔王との闘いが始まる。魔王が扱う闇魔法、その威力は凄まじいものだった。ジェイドと同等かそれ以上の攻撃を乱発してくる。しかし、ジェイドも負けてはいない。その迫りくる攻撃を持ち前の多彩な技でいなし、かわしていく。


ジェイド「おい、魔王ガルムさんよ、そんなやたらめったらに撃ったって俺には当たらないぜ!」

ガルム「だろうな、この程度の攻撃で負けるようじゃ、最強なんて名乗れないだろう」

ガルム「本番は、ここからだ」


ブォン


 ジェイドが辺りを見渡すと、かわしたはずの魔導弾が消えることなくジェイドの周りを覆っている。


ジェイド「なっ…!!」


 魔王ガルムが手を振りかざすと、その無数の魔導弾が一斉にジェイドに向かっていく。ジェイドも避けようとはするが。そのあまりの数に避けるような隙間すらない。


ジェイド「くそっ…!!」


 ジェイドのいる位置で無数の爆発が起こる。その砂埃でジェイドの姿は見えない。間髪入れずにガルムは動く。


ガルム「…悪いが、」

ガルム「一切油断は無いぞ!!!」ビュンッ!!!


 ガルムは一気にジェイドに詰め寄り、よろめいたジェイドの胴体に鋭く尖った爪を突き刺す。ジェイドの胴体から血が滴り落ちる。ガルムは勝利を確信する。しかし…


ガルム「なんだ、最強もこの程度か?少々拍子抜けだな。確かに、私も強いからな。その実力差が…」


ジェイド「ホーリーノヴァ!!!」

ガルム「!!!!!!」


 ジェイドが、どこからか聖なる魔法をガルムにぶつける。間一髪ガルムはその魔法をかわすが、その予想外の攻撃に戸惑いを隠せない。少なくとも、目の前にいるジェイドが撃った魔法ではない。一体どこから…、その時、上から気配を感じる。


ガルム「上か…!ダークウェイブ!!」

ジェイド「ちっ、バレたか…」


 ガルムが広場の上にある電飾めがけて魔法を撃つ。その爆風が静まった時、電飾の上にうっすらと人影が見えた。


ガルム「おい、降りてきたらどうだ、最強の勇者よ!!」

ジェイド「バレちまったか、しょうがない」


 ジェイドが軽やかに地面へ降りてくる。どうやら、今までガルムが戦ってきたジェイドは偽物であり、これが本物のジェイドのようだった。


ガルム「小癪な真似を…。まさかさっきまで戦っていたのは…」

ジェイド「あぁ、俺の分身だ。敵の攻撃を観察するのが、確実な勝利方法だからよ」

ガルム「なるほど、お前も一切の油断は無いということか」

ガルム(…にしても、あれだけ精度の高い分身を見たのは初めてだ…。動きから、血の流れまで…)

ガルム「…さすが、最強と呼ばれるだけはあるな」

ジェイド「俺も驚いたぜ、こんな強いやつがいるなんてよ。分身出してなかったら負けてたかもな」

ガルム「お世辞だな」

ジェイド「お前もだろ」

ジェイド「じゃあ、次は俺からいかせてもらおうか!」

ガルム「来い、最強の勇者よ!!」


 今度は、ジェイドがガルムに向かって攻めていく。そして、剣を構えガルムに斬りつける。


ジェイド「奥義、殺生陣!!」ビュンッ!!

ガルム「その程度、止まって見えるぞ。」ヒュンッ

ジェイド「くそっ!!」

ガルム「油断したな、ソウルバインド!!」


 ジェイドの剣技はガルムにあっさりかわされ、その一瞬の隙にガルムから闇の鎖がジェイドに向けて放たれる。その攻撃をジェイドは…


ジェイド「アルター・アーツ!!!」ヒュンッ

ガルム「くそ、また分身か…!!」


 間一髪分身でかわす。そして、ジェイドは掌に力を溜め…


ジェイド「くらえ!ビリオン・フレア!!!」


 ゴォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!


 広間全体を焼き尽くす業火をガルムにぶつける。その凄まじい攻撃に対してガルムは…


ガルム「レベルⅥ、イレイザーガード!!」


 無力化の防御壁で応戦する。お互い、一歩も譲らない…。その後も、魔王ガルムとジェイドの激しい攻防が繰り広げられる。闇魔法を扱うガルム、多彩な技で応戦するジェイド。両者ともお互いの攻撃をかわし、いなしながら戦っているが、徐々に双方とも傷つき始める。


ジェイド「ふぅ、ふぅ…」

ガルム「はぁ、はぁ…魔王を…」

ガルム「なめるなぁぁぁああああ!!!!!!」ゴォォォオオオオオオ!!!!!!!!

ジェイド「!!」

ジェイド「す、すげぇ…!」


 ガルムが先ほどの数倍の力を解き放ち、ジェイドに向かってくる。ジェイドも負けじと食らいつく。無数の殴打、斬撃、魔導弾が魔王城の広場を越え、魔王城一帯で繰り広げられる。ジェイドも、魔王ガルムも、少しだけ、笑っていた。そんな激闘の末…


ジェイド「はぁ…、はぁ…」

ガルム「うっ、ぐふっ…」


ドサッ


 ジェイドの放った斬撃が、魔王ガルムを切り裂いた。そして、ついに魔王ガルムが倒れる。


ジェイド「わ、悪い…、今すぐ、回復魔法を…」

ガルム「いや、いい…。お互い命を懸けて戦った…、負けた者が…、命を失うのは…、当然だ…。私がもし…勝っていたら…、私はお前を…、救ったりなど…、しなかった…」

ジェイド「い、いいのか…?お前、死ぬぞ…?」

ガルム「これが、運命だ…。逆らうつもりなどない…」

ガルム「…しかし、悔しいな…」

ジェイド「え?」

ガルム「全力で、戦って…、私は瀕死…、お前は膝すらついていない…、これが、私とお前の、実力差か…」

ジェイド「…そんなことねぇよ。骨の一本ぐらい持っていかれてるって」

ガルム「一本程度か、憎たらしいやつめ…」

ガルム「…一つ、忠告だ」

ジェイド「ん?」

ガルム「相手を倒す時は…その者の命が確実に、潰えるまで…、手は止めるな…。お前の攻撃は…、私の急所を、突いていない…。私は、あと三十分は、生きてしまうぞ…」

ジェイド「…わかった、心得ておく」

ガルム「その無駄な…、優しさのせいで…、お前はあと三十分、私の戯言に付き合う羽目になったぞ…」

ジェイド「…悪くねぇじゃねぇか」

・・・

・・


 ここで、ペンを置く。ここから、いよいよ最後のシーンに入る。最後のシーンに入るが…、何か、物足りない感じだ。このまま、最後のシーンに向かっていい気がしない。でも、何が足りないんだろう…。あ、そっか、まだ描き直しが足りないのか。もう一度、前のシーンに戻ってみて、色々読み返してみる。


・・

・・・

マスター「お前さん、この町に来るのは初めてかい」

ジェイド「はい、そうっすね」

マスター「この町は気を付けた方がいい。この町では変なことが起こってな」

ジェイド「変なこと、ですか?」

マスター「ここ数年、夜な夜な幻聴や幻覚に襲われる人が後を絶たないんだよ」

マイン「私も、その噂をよく耳にします。寝ていると急に耳鳴りがして、変なものが見えて…、しかも特定の人物ではなく町の人のほとんどが経験しているらしくて…」

ジェイド「なんか、物騒だな…。昨日は大丈夫だったけど…」

ジェイド「マインは、大丈夫なのか?」

マイン「はい、大丈夫です!」

ジェイド「そ、そうか…」

マスター「二人とも、油断は禁物だぞ。旅人も襲われている事例があるからね」

・・・

・・


 ここでマインの名前を出すのは…、ありがちだがあまり良くないかもしれない。これだと、マインが犯人だというのが一瞬でバレてしまう感じがする。だから…


・・

・・・

マスター「お前さん、この町に来るのは初めてかい」

ジェイド「はい、そうっすね」

マスター「この町は気を付けた方がいい。この町では変なことが起こってな」

ジェイド「変なこと、ですか?」

マスター「ここ数年、夜な夜な幻聴や幻覚に襲われる人が後を絶たないんだよ」

マイン「私も、その噂をよく耳にします。寝ていると急に耳鳴りがして、変なものが見えて…、しかも特定の人物ではなく町の人のほとんどが経験しているらしくて…」

ジェイド「なんか、物騒だな…。昨日は大丈夫だったけど…」

マスター「そうか、だが油断は禁物だぞ。旅人も襲われている事例があるからね」

・・・

・・


 これで、少しはマシになっただろうか。そこそこ勘のいい人なら気付くとは思うが、一瞬でわかるほどでは無くなっただろう。あとは、そうだな…


・・

・・・

ジェイド「えっ…」

審判「試合終了!!国王チームの勝利!!」

エルボ「ジェイド、よくやったな!!!」

選手「お前、ナイス過ぎだろ!!」

ジェイド「お、おう!!」

・・・

・・


 ここは、喜びが少ないんじゃないか?一度バスケの試合を見に行ったことがあったが、もっと喜び合ったり悲しみ合ったりしていたはずだ。


・・

・・・

ジェイド「えっ…」

審判「試合終了!!国王チームの勝利!!」

ジェイド「か、かった…?」

エルボ「ジェイド、よくやったな!!!」

ジェイド「え、エルボ…、」

選手1「お前、ナイス過ぎだろ!!」

選手2「お前にあんな力があったのかよ!もう少しパス回しても良かったかもな!!」

選手3「ナイス、マジでナイス!!」

ジェイド「お、おう…」

ジェイド「っしゃぁあ!!勝ったぁああ!!!」

・・・

・・


 これで、いいかな。いくら偶然でも、ジェイドだってこれぐらいは喜ぶだろ。うん、これがバスケの終わりっぽいかな。あと、他には…、僕は他のページを見てあるシーンに目が付いた。


・・

・・・

アイデン「ジェイド…」

ジェイド「爺さんの記憶は消えてないんすか…」

アイデン「当たり前じゃろ。もともとはわしの技じゃよ」

アイデン「…いいのか?ジェイド」

ジェイド「あのままじゃ、次の町に行けないっすからね」

アイデン「そうか…」

アイデン「達者でな」

ジェイド「爺さんこそ」

・・・

・・


 これは、メモリーリセットで町の人からジェイドの記憶を消すシーンだ。ただ…、なんだろ。これじゃ、ちょっと寂しいよな。魔法は完璧に覚えるジェイドだけど、ここだけは…


・・

・・・

アイデン「ジェイド…」

ジェイド「爺さんの記憶は消えてないんすか…」

アイデン「当たり前じゃろ。もともとはわしの技じゃよ」

アイデン「…いいのか?ジェイド」

ジェイド「あのままじゃ、次の町に行けないっすからね」

アイデン「そうか…」

アイデン「しかし、お前さん、まだまだだな」

ジェイド「え?」

アイデン「お前さんのメモリーリセットは完璧じゃないな。きっと、お前さんに強い想いを抱いている人は、お前さんのことを思い出してしまうじゃろう」

ジェイド「そうなん、すか…」

アイデン「いいんじゃないか。この魔法は、完璧に覚える魔法でもないじゃろう」

・・・

・・


…………………

…あれ、なんだ?何か…、何か…、何か…!!


「もうちょっと真剣に描いてくれない?マジで」

「でも、俺は好きなんすよね、こいつの漫画!」

「任せろって、作者様」

「諦める…?なに冗談言ってんだよ、まだ三日あるだろ!あと三日で仕上げてよ、それで出せばいいじゃなねぇか!」



「次はぜってー勝つからよ!最強の主人公としてな!!」



「ジェイド!!!!!!!」


 ジェイド、ジェイドジェイドジェイド!!!!!!!!あのバカ、何してんだよ!!!????なんでメモリーリセットなんて唱えたんだよ!!!!!!なんで消えたんだよ!!!!!!!!!!!


「ジェイド!!!おい、ジェイド!!!!!出てこいこのアホがぁああ!!!!!!」


 僕は喉が痛くなるまで、痛くなっても、叫び続けた。全て思い出した、ジェイドが僕の漫画にケチをつけたこと!!ジェイドがバスケをめちゃくちゃ頑張ってたこと!!!!ジェイドが僕の漫画を応援してくれたこと!!!!!ジェイドが主人公として僕と一緒に頑張ってきたこと!!!!!!!!!!僕は叫んだ、姉貴にうるさいと言われても叫び続けた、感情なんて抑えられなかった!!ジェイド、出てこいや、ジェイド!!!!


 …ジェイドは出てきた、窓際の方を向いて。


「おい、このアホ!!!!!なんで消えたんだよ!!!!なんで記憶なんて消したんだよ!!!!!僕が漫画の設定変えて次元移動できなくしてたらどうすんだったんだよ!!!!!僕がジェイドを殺すかもしれなかったんだぞ!!!???おい、聞いてんのか、ジェイド!!!!」


 ジェイドは、黙っていた。窓に映るその顔は、僕が今まで見たジェイドの中で一番、悲しそうだった。僕は深呼吸をして、ゆっくりとジェイドに話しかけた。


「…おい、正直に教えてくれ。なんでこんなことしたんだ?」


 ジェイドは、震える声で話し始めた。


「お前、漫画大賞、目指してた、じゃねぇか…、」


 ジェイドが、一度口をつぐむ。少しの間、沈黙が流れる。そしてジェイドは、か細い声で僕に聞いてきた。


「なんで、やめたんだよ…」


 そんなの言ったじゃないかと僕は思っていた。しかし、ジェイドは僕とは違うことを考えていたみたいで…


「そんなの、間に合わなかったから…」

「俺が主人公だからなんだろ!!!!」


 ジェイドは、震える声で怒鳴っていた。ジェイドは、今にも泣きそうだった。


「俺が、俺が主人公だから、面白くなくて、漫画大賞になんて敵わなくて!!!!!!俺が主人公だったばっかりに…!!!!俺のせいでよぉ…!!!!!!!」


 ジェイドの怒鳴り声は止まらない。


「なんなんだよ俺…!!!最強とか、言ってるくせによ…!!!結局俺は、お前がいないと、なんもできなくて…!!!優作は、俺に力をくれるのに…!!!俺はお前一人助けられない…!!!!!なんなんだよ……!!!!!!」


 嗚咽混じりのジェイドの声が、部屋の中にこだまする。衝撃だった。ジェイドが、そんなことを思っていたなんて…。そうか、ジェイドは僕のことを助けようとずっと頑張っていて…、僕の漫画の主人公として僕の漫画を成功に導こうとして…、僕のために、ずっと…。…そっか、僕が漫画大賞をやめるって言ったから、責任を感じていたのか。自分のせいで漫画大賞が叶わない夢になったと思って、ずっと自分を責め続けていたのか…。


「…ばか」


 そんなわけないのにさ、バカだな、ジェイドは。僕はジェイドの背中に手を置き、思ってきたことをそのまま話す。


「僕はお前に、相当助けられてんだよ。お前がいなきゃ、ここまで漫画に真剣になれなかった。漫画大賞なんて夢のまた夢だ。友達に見せたいなんて思いもしなかった。っていうか、お前がいなかったら僕の人生、相当つまんないものになっていた気がするよ」


 そして、今まで言えてなかった言葉を一言。照れくさいが、この時ぐらい、いいだろう。


「お前と会えて良かったよ。ありがとう」


 ジェイドは泣き崩れ、しゃがみ込む。そんなジェイドの背中を僕がさする。このたくましい背中には、色々な想いがこもっていたのか…。ジェイドは、なかなか泣き止まなかった。僕はずっと背中をさすっていた。ジェイドがこっちを振り返らないことを祈っていた。泣き崩れるジェイドの後ろで、僕も安堵のあまり目が潤んでいたから…。


 ……………そして、1時間後。


「あの、さっきのことは忘れてくれ…」

「忘れようにも忘れられないって。あれだけ号泣されたら」


 ジェイドは我に返り、号泣していたことに対する恥ずかしさのあまり悶絶している。そんなジェイドに対して僕は、珍しいジェイドを見ることが出来てホクホクしている。


「俺が主人公だったばっかりに~、俺のせいでよぉ~」

「おい、真似すんな!!っつか、そんな言い方してねーし!!!」


 ジェイドが必死に僕のことを止めようとする。あぁ、愉快愉快。僕がジェイドに対してここまで上から物を言えるのは初めてのことかもしれない。僕はここぞとばかりにジェイドに対して強く出た。


「しかし、最強の主人公があれだけ泣き上戸だとはなぁ。これは、漫画の案として…」

「おい、ふざけんな!!!!っつーか、漫画はもう終わりだろ、今更余計なシーン追加すんな!!!」

「各話で一回泣かせるか」

「おい!!!!!」


 ジェイドは殴りかかる勢いで僕のことを止めに入る。どうやら、本気で嫌みたいだ。まぁ、そろそろ許してやらないことも無いか。


「わかったわかった、漫画には描かないって。多分」

「多分ってなんだよ!!」

「描かないって、もう最後なんだから。…多分」

「おい、多分ってやめろよ!!不安になるんだよ!!!」


 やべぇ、超楽しい。しかし、こんな言葉一つで感情を乱すなんて、まだまだだな。僕がペンを握ればお前のことなんていくらでも変え放題なのに。くすくすと笑いながらふと時計を見ると、時計の針は十二時を指していた。流石に、時間を使い過ぎたな。僕はもっとおちょくっていたい気持ちを抑えて、ジェイドに向き直った。


「ジェイド、それはいいとして、少し話さないか?」

「ん?」

「ほら、次が最後の回だろ?だから色々と話したいことがあってさ」


 僕がそう言うと、ジェイドはさっきとは打って変わって真剣な、それでいて明るい表情をして言った。


「あぁ、いいぜ!」


 いつものジェマイル、炸裂。おかえりジェイド、このバカが。さて…、いよいよ、最後のシーン。そして、後ろにはジェイド。やっと最後のシーンが描ける気がしてきた。やっぱり、僕はお前がいないと駄目なのかもな。まぁ、ジェイドも僕がいないと駄目だけどさ。さぁ、行こうぜ。最強主人公と天才作者の最後の冒険をさ。



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