【第十四話】優作の漫画②
学校にペンタブを持っていければいいのに、といつも思う。学校でもペンタブを使って作業できれば…、僕は全部の授業をサボって漫画を描く自信がある。じゃあ、やっぱりこれでいいのか、なんて思いながら結局頭の中で漫画のストーリーを構成する。とはいっても、大部分のストーリーは完成しているから、出来上がったストーリーの反復になってしまうのだが。
「志道、漫画の調子はどうだ?」
木口と酒井が話しかけてくる。つられて柿原さんがこっちを向く。
「いや、まぁ…。7割ぐらい、かな…」
「そっか。出来上がったら言ってくれよ!」
「私、楽しみにしてるから、出来上がったら絶対言ってね!」
昔は、漫画を描いてることなどクラスメイトに言うつもりなど無かったのに、いつからこうなったんだろう。正直、昔よりも断然やりやすくなった。自分は漫画を描いているんだという自信にもなる。ただ、何がきっかけだったんだろう…。
「でも、志道の漫画の主人公みたいなやつがうちのバスケ部に入ってくれればいいのにな」
「それな。いい即戦力になると思うのにな」
そう言って、木口と酒井は去っていく。三人の期待に応えられるよう、頑張らないといけないな。いや、それ以上に僕が満足いくものにしないとな。いや、それよりも…、なんでもないか。
週半ば、筆がのって短い時間で二話も描きあがった。もしこのペースでこのまま進めることができれば、今週末に手直しを終えることも夢ではない。いや、やっぱりそれはちょっと焦り過ぎか。のんびりいこう、期限なんて無い。さて、五話目だ。
・
・・
・・・
ジェイドはムールの町に訪れる。ムールの町はその広さの割に人が多く、建物が密集している。背の高い建物ばかりで至る所に階段があり、複雑に入り組んでいる。初めて来た人は基本、道に迷う、そんな町だ。ジェイドも、もれなく迷ってしまった。ジェイドが困り果てていると、ブロンドのウェーブがかったセミロングヘアの女性がちょっといいですかと話かけてきた。可愛らしい、少し童顔気味のその容姿に、ジェイドはちょっとドギマギする。
ジェイド「うわ、この町、広いな…」
ジェイド(宿屋どこだよ…。)
マイン「あの、ちょっといいですか?」
ジェイド「ん?あぁ、えっと…」
マイン「あ、私はこの町に住むマインと申します」
ジェイド「あぁ、俺は…」
マイン「ジェイドさん、ですね」
ジェイド「え?なんで…」
マイン「宿屋ならこちらですよ、案内してあげますね」
ジェイド「え?あ、あぁ…」
マインに連れられて宿屋の場所を案内してもらう。入り組んだ階段を抜け、トンネルを抜けると、宿屋が見えてくる。
ジェイド「あ、ここが宿屋か…」
ジェイド(すげぇ複雑な道のりだったな…)
マイン「確かに複雑かもしれませんけど、慣れれば問題ないですよ」
ジェイド「お、おう…」
ジェイド「マイン、ありがとうな、助かったわ!」
マイン「いえいえ。あ、せっかくですし、町の中を案内しますか?」
ジェイド「本当か?助かる!!」
その後、マインはムールの町の色々なところに案内してくれる。数か月住んでも覚えきれないような道のりをマインは慣れた様子で案内する。ジェイドも、一度で覚えられるほど単純でない道のりに必死に食らいついていく。
マイン「こちらの通りがお肉屋さんとお魚屋さんですね」
ジェイド「ここか…、えっと、宿屋から進んで…?」
マイン「なかなか、一度では覚えられませんよね。私は昔からここに住んでるので慣れていますが、初めて来たジェイドさんには…」
ジェイド「よし、覚えた!」
マイン「凄いですね、ジェイドさん。ここまでついて来ることのできる人、初めて見ました」
ジェイド「結構、記憶は得意だからな」
肉屋の主人「おぉ、マインちゃん!」
マイン「あ、お肉屋のおじさん、お疲れさまです!」
肉屋の主人「マインちゃん、何か買っていくかい?安くしておくぜ!」
マイン「えっと、そうですね…、あ、このハム美味しそう!少しいただけますか?」
肉屋の主人「お、そいつは今日仕入れたいいやつなんだよ。いいぜ、ほらよ!」
マイン「ありがとうございます!」
魚屋の主人「マインちゃん、こっちは新鮮な脂魚が入ってるよ!」
マイン「魚屋のおじさん!」
マインが肉屋の主人と魚屋の主人と楽しそうに話している。どうやら、マインは町の中で人気者らしい、その後も色んな人と会い、楽しそうに話していた。そして、一通り案内を終えたあと、せっかくだからとマインがジェイドを夕食に誘う。ジェイドはそこで、気になっていたことを聞く。
マイン「ジェイドさん、ここのレストランはジェイドさんの好きな穀物が目白押しなんですよ。あらゆる国から食べ物を仕入れていますからね。ぜひ、遠慮せずに召し上がってくださいね!」
ジェイド「あ、あぁ…」
ジェイド「…マイン、だっけ」
マイン「はい、なんですか?」
ジェイド「お前、なんか俺のことやたらと詳しくないか?俺の名前とか、ここに来たばっかりで道がわかってないこととか…。俺が肉より穀物好きだってことも…」
マイン「…理由、知りたいですか?」
ジェイド「できればな」
マイン「ちょっと、耳貸してもらえますか?」
ジェイド「あ?あぁ…」
マイン「私、心の声が聞こえるんです」コソッ
ジェイド「…え?」
マインは、ある日を境に心を読めるようになった。そして今では全ての人の心を読んで様々な人のために動いている。町の中心に住む人から外れに住む人、果てはジェイドみたいな旅人にまで。それは町一番の人気者になるのも納得がいく、とジェイドは思った。
次の日、ジェイドはマインと一緒に図書館に行く。魔王の城への道や自分の力の根源について調べてみるが、なかなか情報が見つからない。
マイン「魔王城への道のりや魔王城の逸話はありますが…、最強の力の源なんてものは…」
ジェイド「だよなぁ、やっぱりこの力の源は手当たり次第に探すしかないか…」
マイン「やはりジェイドさんが行く予定のモルガナ城やローズ王国を当てにするしかありませんかね。この町なんかよりよっぽど情報が充実していますから」
ジェイド「そうだな…」
二人は図書館を後にし、歩き出す。日が暮れてきたので、酒場にでも行って夕食にしようということになった。マインは身支度がしたいと言い、一度マインの部屋へ戻ることにした。ジェイドもマインについて行き、マインの家の玄関に立った。玄関で待っててと言われて、ジェイドは玄関で待つが、そこからチラッと見えた部屋に驚きを隠せなかった。
…部屋には何も無かった。
玄関から部屋まで、そしてチラッと見えた部屋の中、全く物が置いてなかった。置いてあったのは先ほどマインが脱いだ靴ぐらいだった。ジェイドが気になって話かける。
ジェイド「お前、部屋に何も置いてないのか…」
マイン「あ、見えちゃいました?そうですね、部屋には特に何も置いてませんね」
ジェイド「可愛いものを飾りたいとか、思わないのか?」
マイン「全く思わないですかね。別に欲しいものとか、無いですから。私、物欲無いんです」
ジェイド「じゃ、じゃあよ、普段どう過ごしてるんだよ?一人でいる時、こんな部屋じゃ何もできないだろ」
マイン「一人でいる時は、特に何もしていません」
ジェイド「何も、してない…?」
マイン「はい。仕事をしているときとか、何かを頼まれた時とかは働いていますが、それ以外は何もしていません。だから、家に帰ってきたら、ご飯を食べて、お風呂に入って、あとは眠くなるのを待ちます」
ジェイド「…、お前、楽しいか?そんなんで…」
マイン「楽しい?一人でいる時に楽しむ必要なんてありますか?」
ジェイド「…そっか」
そしてその夜、ジェイドはマインと一緒に酒場に行く。一緒に軽くお酒を飲んでいると、バーのマスターが話かけてきた。
マスター「お前さん、この町に来るのは初めてかい」
ジェイド「はい、そうっすね」
マスター「この町は気を付けた方がいい。この町では変なことが起こってな」
ジェイド「変なこと、ですか?」
マスター「ここ数年、夜な夜な幻聴や幻覚に襲われる人が後を絶たないんだよ」
マイン「私も、その噂をよく耳にします。寝ていると急に耳鳴りがして、変なものが見えて…、しかも特定の人物ではなく町の人のほとんどが経験しているらしくて…」
ジェイド「なんか、物騒だな…。昨日は大丈夫だったけど…」
ジェイド「マインは、大丈夫なのか?」
マイン「はい、大丈夫です!」
ジェイド「そ、そうか…」
マスター「二人とも、油断は禁物だぞ。旅人も襲われている事例があるからね」
そしてその夜、ジェイドは天井を見つめ寝ようとしてると、急な耳鳴りと共に摩訶不思議な景色が眼前に広がる。どうやら、マスターの言っていた幻覚のようだ。
ジェイド「痛っ…、なん、だ、これ…!!」
ジェイド(くそっ、まともに動けもしねぇ…!!なんとか、耐え…)
あまりの頭痛に悶え苦しむジェイド。その時、ジェイドはメープルからもらった木の実を思い出す。確か、机の上に置いてあったはずだ…。幻覚と幻聴のなか…、手探りでその木の実を探す。そして、なんとかその木の実を探しだし、口の中に入れる。凄まじい苦みが口の中に広がったが、それと同時に幻聴と幻覚が徐々に晴れていくのを感じた。
ジェイド「苦っ…!!!うっ、まずっ…!!」
ジェイド(で、でも…、なんとかこれで、動ける…)
動けるようになったジェイドは窓から外を眺める。すると、外に怪しげな人影がいるのを見つける。
ジェイド(あいつか…!)
ジェイドはその人影を追う。その人影はジェイドを見つけるやいなや走り出した。入り組んだ町、マインに教えてもらった道を頼りにその人影を追う。一瞬でも気を抜いたら見失ってしまいそうになる。必死でその人影を追い、
ジェイド「逃がさねぇよ!」
ジェイド「ねばづる!!」
シュルルルル
ジェイドの繰る植物が怪しい人影に絡みつく。その人物は必死にそのつるから逃げようとするが、もがけばもがくほどつるは体に絡みついていく。
ジェイド「おい、観念し…」
?「メルトマインド!」
ジェイド「!!」
謎の人物が呪文を唱えた瞬間、さっきよりも強い耳鳴りと幻覚がジェイドを襲う。業火に焼かれる自分が見えたかと思うと、刃物を持った人間が襲ってくる景色が流れる。そんな幻覚に襲われるジェイドだが…
ジェイド(さっきよりも、きつい…!くそ、距離が近づくほど威力も上がっていくのかよ…!)
ジェイド(でも、この幻覚を利用すれば…!!)
ジェイド「エンパシア!!」
?「!!!!」
感覚共有を使い謎の人物と幻覚を共有させる。その人物は急な幻聴と幻覚に対し悶え苦しみ、ついに魔法を解く。
ジェイド(やっと、収まった…)
ジェイド「さぁ、観念しろ!何が目的だが知らねぇ、が…」
ジェイド「おま、え…マイン、なのか…?」
マイン「……」
月の光に照らし出されたその人物は、紛れもなくマインだった。マインが昼の時とは全く違う敵意むき出しの顔でジェイドを睨む。
ジェイド「マイン!」
マイン「…………」
ジェイド「おい、マイン!!」
マイン「じゃま、しないでください…」
ジェイド「マイン!!!」
ジェイド「邪魔しないでくださいっ!!!!!」
マインが叫ぶと幻聴と幻覚が町を包む。
ジェイド「くそっ…、エンパシ、ア…!」
マイン「邪魔しないでっ!邪魔しないでっ!!!」
完全に暴走しているマイン、ジェイドの感覚共有も全く効かない。というより、自分にも幻聴と幻覚を引き起こすほどの強力な魔法を唱えているようだ。ジェイドも、なんとか応戦しようとするが、魔法を使えばマインを傷つけてしまう。加えて、幻聴と幻覚、完全に身動きが取れない。
ジェイド「くそっ…!お前、なんでこんなこと…!!」
マイン「当然の権利ですよ!!私はみんなのために最善を尽くしているのに、みんな私のことは何も…!!あの何もない部屋で過ごしていて楽しいと思いますか!?楽しくなんてないですよ!!!毎日、毎日、何も、何も楽しくない…!!!みんなは楽しそうに生活しているのに私だけ楽しくないなんて…!!!だから、だから…!!私の苦しみを少しぐらい教えることになんの問題があるんですか!!!これは、私の当然の権利です、違いますか!!??」
ジェイド「…」
マイン「…ジェイドさん、この私の姿を知ってどうしますか?みんなに私のことを広めますか?それとも私を倒しますか?ジェイドさんがどうしようが私はこの行為をやめるつもりはありませんよ!強引に感情操作をしてでも…!!」
ジェイド(救いたい…)
マイン「…はい?」
ジェイド(救いたい…!)
マイン「…な、何を言ってるんですか?救う?いや、今の私が見えてますよね?私は町の人に、ひどいことをしてるんですよ?あ、救いたいって町の人のことですか?残念ながら…」
ジェイド(マインを、救いたい…、いや、救う…!!)
徐々に、マインの勢いがなくなっていく。
マイン「わ、私を救うとか、意味がわからないのですが、私の痛みなんて、どうせわからないのですから、私を、私を救うなんて、」
ジェイド(聞こえてるんだろ、マイン…。俺はお前を…救いたい…!!)
マイン「意味が、意味がわからないですよ!ジェイドさん、何を言っているんですか!?意味が、意味が…」
ジェイド(…辛かったら、相談、乗るぜ…?)
マイン「意味が、意味が…」
マインの魔法が、解ける。そして、そこにはしゃがみ込んで泣きそうになっているマインがいた。
マイン「…わかりません、ジェイドさんの感情が、わかりません…」
ジェイド「…いいよ、わからなくて。俺もよくわからねぇから」
ジェイド「…座れる所、行くか」
マイン「…」
ジェイドとマインは道端のベンチに座る。座ってから少しの間、二人は黙ったままだった。お互い、なかなか喋り出せなかった。そんな沈黙が続く中、マインが重々しく口を開いた。
マイン「昔は、こんなことは無かったんです…。でも、ある日突然、人の感情が見えるようになってしまったんです…。最初は戸惑いました。でも、この力を使ってみんなのために頑張ろうって…。でも、どんなに頑張っても、みんなは私のことをわかってくれないんです…。私が何をしたいか、何をしたら喜ぶのか…。でも、それを恨んだりはしないですよ。私だって、自分が何をしたいのか、わからないんですから…」
ジェイド「…」
マイン「でも、楽しそうなみんなが羨ましくて…、嬉しそうにしているみんなが羨ましくて…、なんで私だけは嬉しくも楽しくもないんだって…。いつの間にか、私は嫉妬の塊になっていて、気がついたときにはもうさっきみたいなことを…」
ジェイド「…」
マイン「私、どうすれば、いいんですか…?」
ジェイド「…お前も、大変だったんだな…」
マイン「…」
ジェイド「正直なところ、俺にはわかんねぇ」
マイン「ですよね…」
ジェイド「でも、とりあえず、もっとわがままになれよ!」
マイン「…!!」
マイン「わがままなんて!そんなことしたらみんなに嫌われ…」
ジェイド「嫌われねぇって、安心しろ!逆にそうやって色々溜め込んでるとあんなことするようになっちゃうぜ?そんなことするぐらいなら、みんなに言ってやれよ。私は楽しんでるみんなが羨ましいって、どうしたら楽しめるようになるか教えて欲しいって。普段マインは頑張ってるんだからよ、そのぐらいのわがままは言って大丈夫だ。それこそ、当然の権利だろ」
マイン「もっと、わがままに…」
ジェイド「それに、まだマインは心の表面しか読んでいないと思うぜ。きっと心の奥ではみんなマインに何かしてあげたいって思ってると思うぜ。少なくとも、俺は会ってすぐのお前を救いたいって思ったんだからよ」
マイン「…それは、ジェイドさんが優しいからですよ」
ジェイド「お前に助けられたからだっつーの」
マイン「…あの、ジェイドさん。私、わがままになんて、なれますかね…?」
ジェイド「それは、お前の頑張り次第だな。ただ、マインの今の目標は、わがままになることだな」
ジェイド「でも、マインなら大丈夫だと思うけどな!」
マイン「…わかりました!」
話を終え、ジェイドは宿屋に、マインは自宅に戻る。そして次の日、ジェイドが町を出発しようとすると、マインが駆け寄ってきた。
マイン「あの、ジェイドさん」
ジェイド「お、マイン」
マイン「私、隣の人に遊んで欲しいって言ったら遊んでくれるって言ってもらえました!私のわがまま、通じましたよ!!」
ジェイド「お、おう…」
ジェイド(それは、わがままか…?)
マイン「私にとってはわがままなんです!」
ジェイド「わ、わかった!わかったから!!」
マイン「それと、これはお願いなのですが…」
ジェイド「ん?」
マイン「私、まだジェイドさんにわがまま言えてません。ジェイドさんにしてもらいたいこと、わかりません。だから…」
マイン「次に会うときはわがまま、聞いてください!これが、私のわがままです!!」
ジェイド「…わかった」
ジェイド「じゃ、次に会えるの、楽しみにしてるぜ!!」
マイン「はい!!」
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さて、五話はこの辺で。今までとは違う変わった展開だ。でも、この心が見えることによる弊害というのは、自分で言うのもあれだけどなかなかの良い展開じゃないかと思う。…こういう話、既に世に出てなかったっけ。大丈夫かな。まぁ、最初に描いていたマインと、一緒に相談して描いたマインが良い感じに融合したとは思う。それに、意見も反映させることが出来た。…誰の意見だっけ、姉貴?木口?柿原さん?……自分だな、多分。
~
リビングからジュースを取ってきて、部屋に戻る。作業中の糖分ほど、美味しいものは無いと感じてしまう。このような嗜好品に価値を見出せるようになったのは…、漫画を真剣に描くようになったおかげかもしれない。誰か僕の部屋まで持ってきてくれる人がいたらいいのに…と思うのは傲慢過ぎるか。さて、六話目。ジェラの村のクリスの話だ。久々の戦闘シーンだ。早速、見直しに入ろう。
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ジェラの村はローズ王国とムールの町の間にある小さな村だ。ジェイドも訪れるつもりは無かったが、ローズ王国まで少し距離があったため、休憩目的で訪ねた。ジェラの村は少し錆びれていて、どこか生気が無かった。というより、何かに怯えているようだった。ジェイドはその村の様子を不思議に思い、村長のもとを訪ねる。
ジェイド「失礼します!」
村長「…あぁ、客人の方か。別に、私のもとになど訪ねなくても、好きに宿に泊まっていいし、好きに休んでいいぞ」
ジェイド「あ、いや、この村のことが気になって…。この村は、なんて言うか、大丈夫なんすか?」
村長「大丈夫なわけあるか…。今、この村は大変なんじゃ…。あまり関わらないでくれるか…」
ジェイド「何かあったんすか?俺、手伝えることは手伝うっすよ!!」
村長「はぁ…」
村長の話によると、この村は昔、町と王国をつなぐ交易商でそれなりに豊かだったらしい。しかし、交易商に重要な兵士がみんな町やら王国やらに抜擢され、村に兵士がいなくなってしまったとのことらしい。兵士は交易商の防護だけでなく村の警備も行っていたため、兵士がいないせいで村を魔物から守れなくなり非常に危険な状態となってしまった。そのため村人は安全なムールの町やローズ王国に移住し始めてしまい、村に残ってるのは移住のできない貧しい人のみとなってしまっている。
ジェイド「そんなことになってるんすか…」
村長「一応、村には一人だけ、兵士はいるんだが…」
?「し、失礼します!!」
村長「噂をすれば…、これがうちの唯一の兵士、クリスだ」
そこに現れたのはいかにもひ弱そうな金髪の少年、クリスだ。
クリス「えっと、あなたは…」
ジェイド「俺は旅をしているジェイドだ。よろしくな!」
村長「クリス、せっかくだからこの旅人を案内してあげなさい」
クリス「はい、わかりました!」
村長の家を出て、クリスは小さい村を案内する。その案内の中で、ジェイドはクリスのことを聞く。クリスは、八人の大家族の長男であり、家が貧しく他所の町に行くことができないためこの村に留まっている。両親は過去に魔物に襲われたことがあり、動けはするがまともに戦える体ではない。弟や妹はまだ小さくとても戦える状況ではない。だからクリスは家族を守るため、唯一の兵士となることを決意した。しかし、クリスはもともと戦ったことがあるわけでもなく、運動神経も良くないらしい。そんなクリスにとって戦闘はとてつもなく苦手で、とてつもなく怖いものだそうだ。
ジェイド「なぁ、一度手合わせしてみないか?お前の実力を知りたくてよ!」
クリス「て、手合わせ!?」
ジェイド「え、駄目か?」
クリス「い、いや、大丈夫!!よ、よろしくお願いします!!」
そして、ジェイドはクリスと手合わせを始める。クリスの実力は…、相当ひどい…。ジェイドの攻撃を避けるのに必死であり、クリスからは一切攻撃ができていない。ジェイドは趣向を変えクリスから攻撃するよう促してみるが、クリスの攻撃は貧弱であり、そのまま受け止めても傷つかないのではというレベルである。ジェイドもこれには溜息を隠せない。ジェイドはそこからクリスの一週間の猛特訓を決意する。
それから毎日、朝から晩までクリスはジェイドともに必死に訓練する。朝は基礎練習、少し休憩して昼からは実線練習、それを夜遅くまでやり続けた。ジェイドも、クリスも、死に物狂いで訓練を続けた。しかし、一週間後…
クリス「て、てやぁ!!」フンッ
ジェイド「…」
クリス「…やっぱり、駄目っすか…?」
ジェイド「あ、あぁ…」
ジェイド「…駄目、だな」
クリス「やっぱり、ですか…」
一週間ではほとんど成長しなかったクリス。ジェイドも途方に暮れてしまう。どうしたものか…、と考えてるその時、運の悪いことに…
ゴォォォォォォォオオオオオオオオオ!!!!!!
ジェイド「な、なんだ…!?」
焔獄龍「…」
クリス「え、焔獄龍!!??」
闇の炎を扱う龍、焔獄龍が現れる。その強さは龍の中でも群を抜いて強い、最恐生物の一角である。ジェイドはクリスに逃げろと言うが、クリスは一人の兵士として全力で戦うという。ジェイドはそれでも、と言いかけるが、ここで村へ戻っても村が焼け野原になるだけかもしれない…。そう思い、ジェイドはクリスと共闘することを決意する。
その時、焔獄龍が闇の炎を吐いてくる。ジェイドは躱そうとするが…
焔獄龍「ゴロァアアアアアア!!!!!!!」
ジェイド「くそ…!!」
クリス「ジェイドさん、避けないで!!伏せてください!!」
ジェイド「え!!??」
ゴォォォォォオオオオオオオ!!!!!!!!!
ジェイド「え、なんで…」
クリス「これが焔獄龍の戦い方なんです。炎は囮で、本当の狙いは避けた僕らに噛みつくことなんです…」
クリス「一番やばいのはやつの毒牙です!!それだけは死んでも避けてください!それ以外は多少食らってもいいので!!」
ジェイド「お、おう!!」
クリスの助言もあって、ジェイドとクリスは毒牙を最優先でかわしながら戦う。しかし、炎や爪の攻撃が弱いわけではない。徐々に毒牙以外の攻撃を食らい、体力が削られていく。そして、クリスがよろけた瞬間を見計らって、焔獄龍はクリスに噛みつこうとする。このタイミングでは、かわせない…!
ジェイド「クリス!!」
焔獄龍「グワッ!!」
クリス「テレポート!!!」
シュンッ
クリスの体が一瞬にして消える。焔獄龍が驚き、クリスの姿を探すが、どこにいるか見つけられない。その時、焔獄龍の頭の上にいるクリスの姿をジェイドは見つける。
焔獄龍「!?」
ジェイド「く、クリス…!?」
クリス「僕は、ここです…!!」
ジェイド「クリス、お前、その技…!」
クリス「ぼ、僕は臆病だから、テレポートだけは得意なんです…!だから、こちらのことは心配しないでください…!!」
ジェイド「…クリス、いける!!勝てるかもしれないぞ!!」
ジェイド「アルター・アーツ!!!」
ビュンッ!!
無数のジェイドの分身が焔獄龍を翻弄する。
焔獄龍「!?」
クリス「ジェイドさん!!」
ジェイド「クリス、お前のテレポートで俺の動きについて来い!!こいつを翻弄しながら攻撃を当て続けるぞ!!!」
クリス「わ、わかりました!!」
クリス「テレポート・ロッツ!!」
シュンッ
そして、ジェイドは分身で、クリスはテレポートで焔獄龍を翻弄しながら攻撃を繰り返す。その無数の斬撃に焔獄龍も為す術がない。そして、クリスの250度目ぐらいの斬撃でついに…
クリス「疾風一閃!!!」
ザンッ!!
クリスの一撃が、斬撃を与え続け傷ついた皮膚に突き刺さる。流石の焔獄龍も、この一撃は致命傷だったようだ。
焔獄龍「グ、グァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
ついに、焔獄龍は二人を襲うことを諦め飛び去って行く。
クリス「に、逃げていく…」
ジェイド「やったじゃねぇか、クリス!!」
クリス「やっ…、」
クリス「やったぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!!!!」
クリスが焔獄龍を撃退したという噂を聞きつけ、村人は大喜び。村長も少しクリスを見直し、ジェイドもクリスの戦いっぷりを見て少しほっとした。そして、村を出ようするとき、クリスから話しかけられる。
クリス「あの、ジェイドさん、ありがとうございました!!!」
ジェイド「いや、俺は何もしてねぇよ。良かったな、自分なりの戦い方を見つけてな!」
クリス「はい!」
ジェイド「じゃあ、行ってくるわ」
クリス「あ、ちょっと待ってください!」
ジェイド「?」
クリス「あの、以前とりあえず魔王の所に行くと言っていましたよね?僕はその力の根源は魔王が絶対に関係していると思います」
ジェイド「というと?」
クリス「以前フリーデンの森で襲ってきたマッドウルフ、今回の焔獄龍、本来ならば魔王城の近くにいる魔物で、ほとんどこちらに来ることはありません。偶然と言えばそれまでですが、僕にはどうも意図的にジェイドさんを狙ってきたとしか思えません。だから、魔王もジェイドさんを狙ってるかもしれません」
ジェイド「そっか…、わかった!サンキューな!にしても、お前って魔物についてすげぇ詳しいんだな!」
クリス「いえ、自分は戦いがそこまで得意じゃないので、せめて情報でもなんでも、自分に合う戦い方ができないかと思って勉強しただけで…」
ジェイド「…なんだ、お前、全然弱くねぇじゃねぇか。誤解してた、悪かったな」
ジェイド「じゃあな!」
クリス「まだまだ、ジェイドさんには及びませんよ、ではまた!!」
ジェイド「ったく…」
ジェイド(自分の弱点をそこまで理解して進んでるお前の方が、よっぽど強ぇっての。)
・・・
・・
・
こうして、ジェラの村、完。前までは弱いクリスをジェイドが守るという一方的な構造だったが、今では弱いながらも自分の力を活かして戦うクリスをジェイドが認め、尊敬するという構造になっている。ジェイドのジェイドらしい強さ、クリスのクリスらしい強さが見えて個人的に好きだ。ふぅ、と息をつき、ベッドに戻る。もう、手直しも半分以上終わった。てっきり、僕は最後に向かっていくにつれて喜びの感情が湧き上がってくると思っていた。しかし、なんだろう、楽しみが減っていく喪失感の方が強い。もし、最後のシーンを描くとき、僕はなんて思うのだろう。なんて、思うんだろうな…。
~
週末、まさかの二話完成。というのも、七話目に持ってきたシースタ、もといバスケの話にほとんど手直しが不必要だったからだ。確かに、あのバスケの話は頑張ったからな。あの時は、やたら本気だったよな、あの頃の僕にしては、珍しい…。そんな七話、ジェイドがローズ王国に入るところから物語は始まる。
・
・・
・・・
ローズ王国はジェラの村とは打って変わって活気に満ちた国だ。城下町は人で賑わっており、特にこの国の国技であるシースタは、風物詩の一つである。そんなローズ王国に着き、国王に挨拶をして国立図書館で自分の力のこと、魔王のことを調べるジェイド。自分の力のことは一切わからず、魔王のことについても魔王の歴史や魔王の所在についてはわかったが、それ以上のことについてはわからなかった。少し肩を落としながら、国王のもとに報告とお礼を伝えに行く。
国王「そうか、あまり有益な情報は無かったか…」
ジェイド「そうですね。でも、ありがとうございました」
国王「ところで、ジェイド。せっかくこの国に来たんだ。この国の国技を見て行ったらどうだ?」
ジェイド「国技…、ですか?」
国王「うむ。まぁ国技といってもそう大層なものではない。球を使った簡単なゲームだ。シースタと言ってな」
ジェイド「シースタ、ですか」
国王「そうだ。ちょうど今日、競技場で試合をやっているから、見て行ったらどうじゃ?」
ジェイド「面白そうっすね、ぜひ!」
国王「では、すぐに使いの者に…」
王女「あ、お父様。私がジェイド様を連れて行ってもよろしいですか?私も今日の試合はぜひ見てみたくて…」
国王「そうだな…、よし、いいだろう。おい、お前ら。二人を競技場へ連れていけ」
衛兵「はっ!!」
こうして、王女と共にシースタを見に行くジェイド。競技場の人の多さに圧倒されながらもそのシースタを楽しみにするジェイド。そんな中、後ろの方で悲鳴があがる。駆けつけてみると、
見物人「大丈夫か!?」
選手「うぅ…」
ジェイド「どうしたんすか!?」
見物人「いえ、シースタの選手の方が急に倒れこんでしまって…」
王女「ちょっと失礼!容体を確認します!!」
選手「うっ…、うぅ…」
ジェイド「どうだ?」
王女「目立った外傷は無し。骨も…、折れていないみたいですね…。ひょっとすると、誰かがこの選手に呪いの魔法をかけたのかも…」
ジェイド「そんな…」
王女「きっと、このままじゃ試合には出れないですね…。だから…」
王女「代わりに、ジェイドさん、出場してくれませんか!?」
ジェイド「え!!??」
こうして、急遽試合に出ることになってしまったジェイド。ジェイドは競技場にて選手と少し言葉を交わす。
選手「悪いな、急に試合に出てもらって…。あ、俺はエルボ、よろしくな」
ジェイド「あぁ、俺はジェイドだ。試合のことは、大丈夫だ。ただ…」
エルボ「ただ?」
ジェイド「あの選手に呪いがかけられたってことは、まだ呪いをかけた犯人がいるはずだろ?きっとこの試合中にもこのチームの選手を狙ってくるかもしれない」
エルボ「確かに…」
ジェイド「だから、俺が呪いから全力で選手を守る。だから、残りのメンバーで試合に臨んでくれないか?」
エルボ「あぁ、わかった!」
そう、ジェイドが試合に出た理由、それはジェイドが選手側から犯人を見つけ出し、討ち取るというものだ。ジェイドはどこから呪いがかかってくるのか、観客席の誰が呪いをかけてるのか、それを見極めながら戦う。当然、シースタ初心者であり別のことをしているジェイドがチームのメンバーとして活躍できるわけもない。それでも…
ジェイド(くそっ、どこから、呪いが…。)
選手「ジェイド!!」
ジェイド(ぱ、パスか!?)
ヒュンッ
ジェイドに向かうと見せかけたパスが別の選手の所に行く。その意表をついたパスに、相手チームはペースを乱される。
選手2「よし!!」
ジェイド「!」
ジェイド(そうか、俺が囮に…)
他の選手がジェイドをうまくフェイクに使って試合を進める。それに気付いて、ジェイドもうまく呪いの発生源を探しつつちょうどフェイクになりそうな位置に動く。普段から戦いに明け暮れ戦況を見るのに長けているジェイドならではの技だ。そんな戦いの最中、ついに犯人が動き出す。選手の一人が呪いにかけられ、倒れてしまった。
選手「うっ!!」
ジェイド「大丈夫か!待ってろ!!」
ジェイド(大丈夫、呪いはかかり始めなら俺でも解除できる…!)
ジェイド「デトキシ!」
選手「うっ…、ジェイド、ありがとう…」
ジェイド「あ、あぁ…」
ジェイド(今の呪いは…)
ジェイド「あの、黒フードか…!!」
ジェイドはついに呪術師を見つける。しかし、試合は残り五分。混戦状態もいいとこだ。ここでジェイドが呪術師のもとに向かって呪術師を抑えに行ったら、おそらく試合は負けてしまうだろう。かと言って、放って置いたら間違いなく新たな犠牲が出てしまう。なんとか呪術師を倒すため、ジェイドはある方法を取る。
エルボ「よしっ、一本取り返すぞぉ!!!!」
ジェイド(なんとか試合が終わるまでに呪術師を…。けど、普通の遠距離魔法だと他の観客に被害が出る…。直接首根っこをつかみに行ったらルール違反だ…。かといって放っておくわけにはいかない…。なら…!)
エルボ「いくぞ、みんな!」
その時、黒フードが選手めがけて魔法を撃ってきた。呪いの呪文の印が選手めがけて一直線に飛んでくる。
ビュンッ
ジェイド(ここだろ…!!)
バッ!!
ジェイドはその一瞬の兆しを見逃さなかった。ジェイドは狙われた選手の目の前に立ち。防御魔法を唱える。
エルボ「ジェイド!?」
ジェイド「レベルⅤ、ミラージュシールド!!」
ジェイドは選手に対してミラージュシールドを張り、術を反射させ呪術師に当てる。これによって呪術師は自分の呪いに倒れてしまう。そう、ジェイドはやり遂げるのだ、呪術師を倒すことを。しかし、まだ終わりではない。敵は倒せたが試合は終わってない。残り四人の選手が相当頑張ったらしく、点差は1点しかなかった。そして試合時間は残り二十秒。ここで、試合は思わぬ展開を迎える。
ジェイド「よしっ!!」
エルボ「ジェイド、走れ!!」
ジェイド「え?」
エルボ「あと二十秒、ここを取れば俺らの勝ちだぞ!!」
ジェイド「!!」
エルボ「ジェイド!!」
ジェイドめがけてボールが飛んでくる。そのボールを咄嗟の反射神経でキャッチする。しかし、キャッチしたジェイドだがあまりの突然のことで困惑する。
ジェイド「えっ!?」
エルボ「撃て、シュートだ!!!」
ジェイド「え、あ、」
ジェイド(俺が、俺が…)
エルボ「ジェイド!!!」
ジェイド「ぅりゃっ!!!!!!」
観客も、敵チームも、味方チームも、ジェイド自身も全く予想していなかった展開だ。まさかの、勝敗はジェイドによって委ねられた。ジェイドは破れかぶれでシュートを撃つ。誰も入らないと思ったそのシュート。それがまさかの…
スポッ
ジェイド「えっ…」
審判「試合終了!!国王チームの勝利!!」
エルボ「ジェイド、よくやったな!!!」
選手「お前、ナイス過ぎだろ!!」
ジェイド「お、おう!!」
こうして、ジェイドのブザービーターによって試合は終了。ジェイドのチームが勝利する。この勝利にチームメイトは喜び、ジェイド自身も最初は驚きの方が強かったが、次第にその驚きが喜びに変わってくる。そして…
王女「あの者のことを調べたのですが、どうやら何かに操られていたそうです」
ジェイド「操られていた?」
王女「はい。そして、その力はどうやら魔王城の方から来ているみたいで…」
ジェイド「そうか、やっぱり魔王が…」
王女「魔王、でしょうね、おそらく…。でなければ…」
ジェイド「?」
王女「い、いえ、なんでもございません!あ、モルガナ城には私が馬車等を手配しておきます。明日には出発できるよう指示を出しておきますので」
ジェイド「お、ありがとう」
王女「さて、行きましょうか、ジェイドさん」
ジェイド「あぁ」
ジェイド「…」
ジェイド「ちょっと待ってもらっていいか?」
ジェイド「あのさ!」
エルボ「ジェイド、どうした?」
ジェイド「今日はまぐれのシュートだったけどよ…。でも、俺、練習して、次は完璧なシュートするからよ…」
ジェイド「また一緒にやらせてくれ!!」
エルボ「…、」
エルボ「おう、もちろんだろ!!!」
・・・
・・
・
第七話はこんなところだな。あんまり手直ししてないな、なんて思う。ま、いっか、前に結構頑張ったし。少し異色な回だが、それも味だろう。そして、この回があるから、ジェイドは頑張っていける、そんな気がしていた。ふと、窓から駐車場の方を眺める。駐車場には、僕が前に買ったバスケットボールが転がっている。この話のために買ったボールだ。結局、僕は使わなかったんだけどさ。それでも、あのボールがあると誰かがあのボールを使って練習してくれるような気がしてならないのだ。…なんて、結局は僕の妄想なのだが。
~
八話目、そろそろ終わりも近い。伸びをして画面に向かう。ここのシーンは、中々続きが描けず苦戦した場面だ。最初に書いたこのシーンを思い出すと、罵詈雑言が聞こえてきそうな感じがする。自分なりにうまくまとめたつもりだが、これで許してくれるかな。僕は一呼吸おいて、読み始めた。
・
・・
・・・
ローズ王国、王女の紹介によりジェイドはモルガナ城に顔パスで入ることに成功する。モルガナ城国王に挨拶を済ませ、モルガナ城国立図書館にて調査。ジェイドの力について載っている本は全くないため、ここ最近襲われた魔物について調べる。全部ではないが、やはり魔王城と関わりのある魔物ばかりだった。魔王城に何かある…、そう思い、図書館を出る。そして、町に出ると、綺麗なドレスを着て、金色の髪をたなびかせている少女が鎧を着た男に襲われているのを見つける。
?「やめてって、やめてってば!!」
??「ラピス様。この王族一番隊隊長、グレゴリーの命を断るのですか」
ラピス「うるさい!!一番隊隊長なんて関係ないから!だから、やめてって!」
ラピスという少女の腕をつかむ鎧の男、グレゴリー。そのグレゴリーの手をジェイドは引きはがそうとする。
ジェイド「おい、やめろっての」
グレゴリー「ん?なんだお前は?」
ジェイド「俺は最果ての村から来たジェイドだ。女の人が嫌がってるのにそれを無理やり連れ回すなんて、王族の一番隊隊長とは思えない行動なんだが」
グレゴリー「…」
グレゴリー「…はぁ、これだから王族のことを分かっていない庶民は…」
ラピス「ジェイド!!じぇ、ジェイド、助けて!!」
ジェイド「ほら、助けてって言ってるだろ。手を離せって!」
グレゴリー「はぁ、面倒なことになったな…。好きにしろ」
グレゴリーは溜息をつき、その場を去っていく。
ジェイド「ったく…」
ラピス「ジェイド、助かった~!」
ジェイド「無事か?怪我はないか?」
ラピス「うん!」
ラピスはジェイドに抱きつき、ジェイドは頬を赤らめる。そして二人は、お昼ご飯を食べにレストランへ向かう。ジェイドは気付かなかったが、周りの人がラピスの方をチラチラと見ていた。
ラピス「ジェイド、だよね。さっきはありがと!」
ジェイド「あれぐらい、どうってことねぇよ」
ラピス「な~にかっこつけてんの、もう。えっと、ジェイドはどこから来たの?」
ジェイド「あぁ、俺は最果ての村から来た。今は自分の力の源を探すっていう旅をして、各地を回ってるんだよ」
ラピス「自分の力?何それ、面白そう!え、どういうことなの?」
ジェイド「実はさ、ある時をきっかけに俺はあらゆる魔法や技が使えるようになったんだよ。覚醒みたいな感じで。でも、なんでそんなことが起こるかわかんないからその原因を探しててな」
ラピス「そうなんだ!あらゆる魔法が使えるの?強いね!!」
ジェイド「まぁ、これが起こってから急に強くなった気がするな。で、お前は、えっと…」
ラピス「あ、私の名前はラピス!一週間前にこの町に来たんだよね!」
ジェイド「なんでこの町に来たんだ?」
ラピス「なんか、王宮に呼ばれちゃって」
ジェイド「王宮!?すごいな!!」
ラピス「えぇ~、全然楽しくないよ。あんな王宮にいるぐらいならこうやって外で遊んでいるほうが全然楽しいし!」
ジェイド「へぇ、そんなもんか」
ラピス「あ、せっかくだし一緒に観光しない?まだ私、この町の観光全然できてないし!」
ジェイド「おう、行くか!!」
一見可愛らしいラピス、しかしここからがラピスの本領発揮だ。ラピスはこのランチを皮切りにあそこに行きたいだのここに行きたいだの騒ぎ出す。そんなラピスにジェイドもすっかり疲弊してしまう。そこに…
ラピス「聖堂、楽しかった~!」
ジェイド「お前、聖堂では少し静かにしろよ…」
ラピス「じゃあ次はどこに行こっか!!結構色々回ったよね~。あ、でもまだ外れの森行ってない!外れの森行ってみたい!!」
ジェイド「いや、ラピス、もう夜だぜ…。宿に戻りたいんだけど…」
ラピス「嫌!まだ物足りないの!!」
ジェイド「お前、本当に元気だな…。王宮に戻らなくていいのか?」
ラピス「いいの!王宮なんて戻ってもつまらないし!礼儀とか作法とか叩き込まれてばっかで本当につまんないから!!」
ジェイド「お、おぅ…」
ザッ
グレゴリー「ラピスお嬢様」
ラピス「うわ、グレっち…」
グレゴリー「いい加減もういいでしょう。そろそろ王宮にお戻りになってください」
ラピス「嫌!王宮とか嫌いだし!!」
グレゴリー「お嬢様にはまだこの国の歴史ですとか、作法ですとか、身につけなければいけないことが山ほどあるではないですか。それをほったらかして今日一日遊んでらしたのですよ?もうそろそろこちらの要望も受け入れてはくれませんか?」
ラピス「い~や!絶対戻らない!!」
グレゴリー「ほら、ラピスお嬢様」ギュッ
ラピス「嫌、やめて!離して!!ジェイド、助けて!!!」
ジェイド「あ~、俺も帰りたいしなぁ…。わりぃ、グレなんたらさん。頼んだ」
グレゴリー「はい、承知致しました」
ラピス「やだって!!離してって!!裏切り者~!!ジェイドの裏切り者~~!!!!」
ラピスはグレゴリーに連れ戻され、町に静寂が訪れる。ジェイドも、少しほっとし、宿屋に戻る。
次の日の朝、ジェイドは部屋のドアが叩かれる音で目を覚ます。
ジェイド「ん…」
ジェイドは眠い目を擦りながらドアを開ける。ドアを開けるとそこには一番隊隊長、グレゴリーが立っていた。
ジェイド「ぁい…」
グレゴリー「おはようございます。ジェイドさん、でしたっけ」
ジェイド「あ、グレなんたらさん」
グレゴリー「グレゴリーです。昨日、ラピスお嬢様があなた様にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げようと思いこちらに伺いました。昨日は、ラピスお嬢様のご無礼を深くお詫び申し上げます。また、ご面倒を見ていただき誠にありがとうございました」
ジェイド「いや、むしろ余計なことして悪かったっす。ラピスが王宮でやることが山ほどあるって知らなくて…」
グレゴリー「いえ、その点は大丈夫です。私があそこで引き戻したところで、ラピスお嬢様は逃げ出していたと思いますから」
ジェイド「大変っすね…。あ、ラピスのこと教えてくれますか?俺、ちょっと聞きたくて」
グレゴリーはラピスについて語り始める。ラピスは外部から王女となるため、いわゆる許嫁としてこの国に来たこと。この国のしきたりや作法を覚えなければならず大変なこと。国王が王女を直々に選んだため王子はラピスのことに全く関心が無いこと。
ジェイド「そうだったんすか…」
グレゴリー「ラピスお嬢様が大変なのはわかります。ですが、私の言いつけを守っていただかないと国王様と教育係に引き渡されますので…。国王様と教育係の教育は厳しいので、できればそちらに引き渡したくないのですが…」
ジェイド「…優しいっすね、グレゴリーさん」
グレゴリー「ラピスお嬢様のためですので」
ジェイド「好きなんすか?」
グレゴリー「はい」
ジェイド「え!!??」
グレゴリーは…、ラピスのことが好きだったらしい。グレゴリーのためらいの無い告白に驚くジェイド。グレゴリーは一切恥ずかし気も無く、ラピスのことを語る。そのラピスに対するとてつもなく長い愛に対して聞く気を失くしているジェイド。そんな中、ドアを勢いよく叩く音がする。
ドンドン!!!
グレゴリー「来客ですかね」
ジェイド「誰だろ…」
勢いよく叩かれるドアをジェイドが開ける。
ジェイド「はい」
兵士「グレゴリー様、こちらにいたらしたのですか!!今すぐ来ていただけますか!?」
グレゴリー「何かあったのか?」
兵士「ラピス様がいなくなったんです!!」
ジェイド、グレゴリー「!!!」
ラピスの失踪の連絡が入り、急いでラピスを探し回るジェイドとグレゴリー。他の兵士達もラピスを探すが、ラピスは見つからない。途方に暮れる兵士達。そんな中、グレゴリーが口を開く。
グレゴリー「ラピスお嬢様は仰っていた。聖堂に行ってみたい、市場に行ってみたい、酒場に行ってみたい、等々…」
ジェイド「そうなんすか。聖堂、市場は行きました。酒場も、実は少し…」
グレゴリー「ジェイドさん、酒場だけはやめて欲しかった」
ジェイド「あ、申し訳ないっす…」
グレゴリー「きっと、お嬢様はまだ行きたい所があったはず。そこに一人で向かったのでは…」
ジェイド「ってことは、ラピスが俺やグレゴリーと行ってない所で、前から行ってみたいって言ってた所に向かった可能性が高いのか…」
グレゴリー「確か、あとは…」
ジェイド、グレゴリー「外れの森!!!」
そして、ジェイドとグレゴリーは外れの森へ。そこにはマッドウルフに囲まれているラピスの姿が。
ラピス「ジェイド!グレっち!」
ジェイド「くそっ、またお前らか…!」
グレゴリー「お嬢様、下がってください!!」
ジェイドとグレゴリーがラピスのもとに駆け寄る。その瞬間、マッドウルフが一斉に三人に襲いかかる。
グレゴリー「奥義、殺生陣!!」
ジェイド「ディスターブ!からの、ティアブレイク!!」
持前の剣裁きでマッドウルフをいなすグレゴリー。魔法と剣技でマッドウルフをいなすジェイド。二人はラピスに触れようとするマッドウルフをどんどん蹴散らしていく。その時、地面にヒビが入り、土の下から…
ピシッ!!!
マッドウルフ「グワッ!!!」
ラピス「キャッ!!」
ジェイド「させっかよ!!疾風一閃!!」
土の中から現れる狼に対して鋭い一閃を討つジェイド。マッドウルフもその鋭い一閃をかわすことが出来ず直撃してしまう。
マッドウルフ「キャインッ!!」
ジェイド「二度も同じ手を食らわねぇよ!!」
ジェイドとグレゴリーがマッドウルフの群れをなんとか対処していくが、一匹一匹の地の強さ、そしてその数に徐々に押されていく。グレゴリーの体勢が崩れ、マッドウルフがグレゴリーに襲い掛かったその時…
マッドウルフ「ガウッ!!!」
グレゴリー「うっ!」
ラピス「レベルⅡ、フラワーシールド!」
グレゴリー「!!」
ラピスの魔法によって、グレゴリーの前に、いや三人の周りに魔法壁が張られた。そして、ラピスは間髪入れず魔法を詠唱する。
ラピス「バタフライヒール!!」
ジェイド「これは…」
魔法壁の中を蝶が舞い、そこから降り注ぐ鱗粉によってジェイドとグレゴリーの傷が癒えていく。二人が驚きの表情でラピスの方を向くと、ラピスは二人に対して思いのたけを叫ぶ。
グレゴリー「ラピスお嬢様…!」
ラピス「私だって…」
ラピス「私だって、グレっちと戦いたい!!!」
ジェイド「グレゴリーさん…」
グレゴリー「…」
グレゴリー「わかりました、ラピスさん」
そして、ラピスの魔法によって力を戻したグレゴリーとジェイドは、数多のマッドウルフを撃退していく。そして、ついに…
ジェイド「メテオフレア!!!」
グレゴリー「奥義、神風!!!」
マッドウルフ「グウウゥゥゥゥ…」
ダッ
二人の技の前に、ついに逃げていくマッドウルフ。
ジェイド「ふぅ、良かった…」
ラピス「やった、グレっち、やったね!!」
グレゴリー「まったく、なんとかなったからいいものを…。本来なら…」
ラピス「あっ…」
ヘタッ
グレゴリー「ラピスお嬢様!?」
ラピス「あ、あの、安心したら力抜けちゃって…///」
そして、無事に帰還。ラピスは国王に叱られるが、ジェイドとグレゴリーが必死にまくしたて、なんとか事なきを得た。そして、ジェイドはラピスを助けたお礼として、魔王城近くまで馬車を出してくれると言ってくれた。
そして、ジェイドの旅立ちの時…
ジェイド「それじゃあ、グレゴリーさん、ラピス、また!!」
グレゴリー「やはり、魔王城に行くのか?」
ジェイド「はい、あそこに俺の力の秘密があるかもしれないので」
グレゴリー「そうか…、ジェイド君も強いが、魔王も強いからな。油断するんじゃないぞ」
ジェイド「はい、心にとどめておきます」
ラピス「ジェイド、頑張れ!!」
ジェイド「おう!お前もあんまり迷惑かけないようにな!!」
ラピス「ち、ちゃんと大人しくするし!グレっちと一緒に頑張るって決めたし!!明日からは、グレっちに戦い方を教えてもらうんだ~♪」
グレゴリー「私としてはお城の作法などを頑張って欲しいんですけどね…」
ラピス「だって作法とか勉強とか面白くないし!」
ジェイド「ま、まぁ、えと…」
グレゴリー「大丈夫です、うまくやりますから」
ジェイド「そっか、わかった」
ジェイド「じゃあな、二人とも、元気でな!」
グレゴリー「そちらも、お気をつけて」
ラピス「ジェイドも頑張ってね!!」
・・・
・・
・
八話目、終わり。ここで、マッドウルフを登場させリベンジを果たすのは個人的に好きだ。…地面から出てくるマッドウルフを討つという展開で、リベンジと言っていいのかな…。ここまで来たが、これで完成とさせていいのだろうか…。半分は自分の漫画の出来への不安。だけど、わかってる、もう半分はこの漫画が終わってしまうことに対して後ろ髪を引かれているということだ。なんか、もっとやり残したことがある気がする。でも、いいのか。きっと、本気で漫画を描いている人はみんなこんな感じなのだろう。僕はペンタブを閉じ、布団の中へ。終わりなのか…、やっぱり、寂しいものだな。