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化け物の仕立て屋  作者: 暁海響
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エピローグ

―――― エピローグ ――――



あれから数日が経ち、いつもの仕立て屋の日常に戻った。

またそのうち旅に出るようなことがあるかもしれないが、今日は今日でいつも行く青果店のおばさんから新しいエプロンが欲しいと注文が入ったのでティグルはそれを受注書に書き起こしている。

一通りペンを走らせた後、確認のため目を通すと納得してそれを横に置いた。


そして何かを考えているかと思えば、深く長い溜め息を吐いて机に突っ伏した。

ティグルは今、絶望している。

あの事を考えないようにしているのに、ふとした瞬間に思い出され泣きたくなるのだ。


グジグジとしている背後をシューゼルが通る。

何度か目に通った際に一向に体勢の変わらないティグルを見かねてようやく声を掛けた。


「お前、まだグジグジと泣いているのか? あれはもう仕方がないことだろう? もう諦めて気持ちを切り換えなさい」

「うっ、…だってぇぇ~」

「だっても何もないだろう。もう過ぎたことなんだから」

「そうですよぅ! 過ぎたことなんです! もう、全部駄目になってしまったんですから、元には戻らないんですぅっ! それが悲しいんじゃないですかぁぁ」


悔いるように地団駄を踏むティグルに、これはまだ時間が掛かるな、と受注書を手に工房へと戻った。


ティグルが落ち込んでいる理由。それは………あの後食事を作ろうと自宅へと戻った時に目にした惨状が原因だ。


いそいそと台所へと立ち、冷蔵庫を開けた瞬間に鼻をつく異臭が立ち込めたのだ。

何事かと、一瞬理解できずにいたティグルだったが、次の瞬間あることが思い出された。


家を空ける直前、冷蔵庫に取り付けた魔水晶の魔素が残り少なくなっていたことを。

旅に出ている十数日間のうちに魔素が切れ、いくら最近は冬の気配が近くなってきたとはいえ、まだ過ごしやすい気候だ。冷蔵機能が失われただけの箱では中にある大量の食材を保存することは無理な仕事だった。


足元に冷たいものが染みて、溶けたもの、腐ってしまったものが開けたドアから流れ出てきたことに気付く。

肉も魚も野菜も果物も何もかも駄目になってしまった事実が衝撃すぎて、理解した瞬間、旅に出る前の自分へ怨嗟の声を上げた。

無事だったのは冷蔵・冷凍保存の必要がない、外に出していた野菜だけ。


後悔先に立たずとはいえ、やはり後悔はする。

結局その後、腐った食材どもを片付けすることから手を付けることになった。

通常よりも鼻の利くティグルのために、シューゼルが空間術を使い異臭から守ってくれはしたものの、それでも触れる感触は我慢せざるをえなかった。


疲れた体をさらに鞭打って片付けした後に、パスタを茹でて余った野菜を具材にようやく簡単な食事にありついた。


そして、何が一番のダメージだったかと言うと。

鱗を売ったお金が駄目になった食材の交換費用に消えたことだ。全てではないけれど、それでも要らぬ費用だっただけにダメージは大きかった。


「頑張ったのにぃ~、勿体なぁい~」

「ごめんくだっさ~い!」


そんな風にえぐえぐと嘆くティグルの耳に、カラランといつもの軽快なカウベルの音と共に元気な声が届いた。

来客へと目を向ければ、見知った顔でティグルの顔も明るくなる。


「アイルさん!」

「やあやあ、ティグルン! 予告通りにやって来たよん♪」

「はぁ…来なくていいのに……ってお前ら何やってんだ」


声を聞き付けて工房から顔を出したシューゼルがうんざりした顔を向ける。その先には“高い高い”をされるティグルがいた。

これだけを見れば、アイルがティグルの父親役でいいのでは? とよく思う。


「あ! シュゼ! 鱗受け取りに来たよ!」

「わざわざご苦労なこったな。もう終わったのか?」

「うん。依頼人は大層満足して帰ったらしいよ。ただ、ここだけの話なんだけど、オイラの依頼人はあれを使うのは止めたみたい。もう一つの方を上手く使ったみたいで、それが駄目になったら、あれを使うことにするって言ってた!」


アイルは魔獣の中盤の鱗を使うだろうと思っていたが、鍛冶職人は、初盤の鱗を使ったらしい。

初盤の鱗で作ったメイルと盾が駄目になれば、中盤の鱗で新しいものを作って売り付ける腹積もりなのだそうだ。


「余程、そのパーティーの我が儘に腹を据えかねていたみたい。まあ、あれでも依頼内容には十分な品物だから問題はないんだけどね! そこは彼のやり方に任せることにしたよ」

「ふうん。まあ、そこらへんは俺もどうでもいいがな」


あとで何か問題があるなら当人達の問題なだけ。もちろん、素材を納品したアイルもシューゼルと同じくである。


「それよかさ! 例の鱗売ってよ! あれならガッポガッポ儲かりそうじゃん!」

「あー…どこやったっけかなー?」

「ノンノン。シュゼちゃん、いつものバッグに入れてるに決まってんじゃーん。オイラに見せたんだから売る気満々のくせに焦らすなんてつれないことしないでよ~」

「ええい、引っ付いてくんな暑苦しい!」

「え~外は寒かったんだから温かいでしょ~っ!?」

「アイルさん、僕も僕も!」

「ティグルお前まで引っ付いてくんな!」

「こんにちわー!! アラクネから聞いて来たんだけど、ボクにも服作ってくださーい!」

「ええっ!? グっ、グリフォン!?」

「へえ、グリフォンが人の前に現れるなんて珍しいねぇ。若い個体だからかな? ていうかグリフォンの服って何?」

「ねえ、作って作って! 報酬はボクの宝物から黄金でどうかなー?」

「黄金!? すごい! 師匠、これなら今回の補填なんてものじゃないですよ! 受けましょう! ね!」

「えー、何々~? なんかまた新しいもの発見できそうな予感がするぅ。今回はオイラも同行しようかな? ねえ、いいでしょうシュゼ? その分しっかり働くからさぁ」

「ねー! 仕立て屋さん!」

「ね! 師匠!」

「ねぇ、シュ~ゼ!」


次々と展開されていく状況の中、シューゼルが一言も発することなく話がどんどん進んで行き、三人三様にシューゼルに話し掛けてくる。

そんな状況に、シューゼルはこめかみに筋を浮かべてティグルとアイルを押さえ付けると、身なりを整え、グリフォンへと向かい合った。

身動ぎするグリフォンへと、シューゼルが嫣然とした微笑みを装着し、口を開いた。



「いらっしゃいませお客様。ようこそ、“仕立て屋”へ」



―――今日もまた彼の作る服が着る者に、喜びや感動を与えることになるのだろう。




おわり

拙い文章と内容だったとは思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

気分転換のつもりで書いた作品なので、今後のふわっとした構想はあるけども、今のところ続編は考えていないです。

こんな感じで終わってすみません。

後先考えず好きに書いた作品でした。


ブクマ、評価してくださった皆様、一話でも読んでいただいた皆様、最後までめげずに読んでくださった皆様、感謝の一言しかございません!


それでは、また機会がありましたらお会い致しましょう。

ありがとうございました!


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