プロローグ
―――― プロローグ ――――
そこはとある国にある、ある都市の、ある街の、ある仕立て屋さん。
立てられた簡易の看板にはとくに名はなく、ただの“仕立て屋”とだけ書いてある。
街の外れの外れに位置する場所に、こじんまりとした店構えで佇んでいるその店は、繁盛しているようには見えないが、店主の男とその男の子どもかと思える見目の少年が二人でやれるほどには、客が入っているようだ。
聞けば、その子どもは店主の息子ではなく、弟子だという。
その少年は明るい性格で、街の商店街にも食材の買い出しに出ていて、店の親父や奥さんに可愛がられるほどに、いい子だった。
逆に、店主が買い物に出てくることは滅多になく、出ているところを見かけても愛想の一つもなく、街の者は少年を心配して声を掛ける者もいるほどだった。
そういう言葉を掛けられても、少年は明るく笑って、師匠はすごくて、すごいんです! とどう判断していいか分からない言葉を返すのだった。
結局街の者は、少年が店主のことを悪くも言わないし、いつも楽しそうにしているのを見て、大丈夫かなと思うことにした。
きっと、悲しい顔をしていたり、怪我をこさえていようものなら、仕立て屋に乗り込む者が多くあるだろう。
その店で服をしたててもらったという者から商品を見せてもらえば、デザインはシンプルなものだが、なるほど縫製も丁寧で着心地もとても良いものであると納得させられたが、一番はその者に似合っていると感心させられた。
少年が師匠はすごいという理由が少しだけだが分かった気がした。
時々、店を休んで二人でどこかへ出掛けることもあるようで、決まってその後は少年は目をキラキラさせて店主を褒めそやすので、楽しそうで何よりだと思うのだった。
今日も食材を買いに来ていた少年に、おまけを付けてやり、嬉しそうなその背を皆で暖かく見送った。