1、襟巻きとかげと大天狗
バルト・ヘイムはわらぶきの粗末な小屋で、主人の村長と向かい合っていた。
「座ってください、こんな家ですが椅子はあります。」
「ありがたい。」
バルトは指された木製の椅子に腰掛ける。
「それで、この村の怪事件を解決してほしいということだったな?」
「そうなんです。近頃、この村の近くの森で木を切っていた者たちが大勢一日で行方不明になったのです。」
「行方不明?死んでいるかわかっていないのか?」
「それが、まだ確認が取れていないのです。
怪物と戦う実力のない我々が迂闊に森に近づくのは危険かと思い、誰も足を踏み入れておりません。」
「それで、エンヴィムの兵士に頼んだが足蹴にされ、話が俺にまわってきたということか。」
エンヴィムの王マーサユ2世が暴君として有名なのはいうまでも無い。こんな辺境の村の話を聞き入れ兵を派遣するなどアリが馬車を引くほど有り得ない話だ。
「あなた様のご活躍ぶりは私どもの耳にも届いております。この度もこの村の依頼を聞き入れていただき本当に感謝しております。」
東洋の武士が使うような笠を被り、羽織りを着て、腰に刀を下げたこの男、バルトは放浪の旅を続けながらハイハルト王国各地で困りごとを解決してきた。
背丈は高いものの細身で、あまり筋肉質には見えない。しかし確実に引き締まった体から繰り出される斬撃は大きな怪物をも斬り裂く力がある。
解決する依頼の内容も多岐に渡り怪物退治から盗賊の拠点の破壊、さらには人間同士の言い争いまで彼の手にかかればたちまち解決するのだった。
若者に見えるが若者特有の浮かれた素振りを一切見せないこの男は、もう10年も放浪の旅を続けてきたが、未だ依頼が尽きることはない。彼が依頼をこなすスピードよりも困りごとがこの世に生まれるスピードの方が遥かに早いのは明らかだった。
しかし確実に知名度があるバルトだが、彼
が旅を続ける目的を知る者はいない。
「そうか、、、では一刻を争う事態だな。」
ハイハルト王国、、、というよりもこの世界全体を通して言える事だが、基本的に街や村などの安全地帯を出ることは死に等しい。
少人数で外に出たが最後、怪物に貪り喰われるか盗賊に命まで盗まれるかのどちらかが待っている。
しかし、貧しい辺境の村では村の中だけで生活を営むのは殆どの場合不可能だ。家畜はおろか土地が貧しければ農業も営めない。
そうなると村の外に土地を求めたり、釣りをしたり、狩りをして生活をしなければならない。
この村も例外でなく、ほとんどの住民が外に出て仕事をしており、このような恐怖が続けば生活は成り立たないということだった。
「よし。森を捜索してみる。ところで、この村の周りの地理に詳しい者はいないか?」
村長は少し考えるそぶりを見せたあと、答えた。
「それなら、村はずれに住むゲンド長老に話を聞くといいと思います。彼はもう何十回もこの村で厳しい冬を越してきた男です。今は私に村長を譲りましたが、村長だった男です。いつも家の外に座っています。」
「ありがとう。」
バルトは立ち上がり、几帳面に椅子を戻すと、家を出た。
ハイハルト王国の西部、、、特にこの地域では今まで危険な怪物の目撃情報は極端に少なかった。理由は定かではないが、やはり食料となる人間やその他の動植物が暮らすには困難な環境ゆえ、怪物も寄り付かなくなったのだろう。
そのため、バルトはこの辺りはあまり足を踏み入れたことがなかった。
バルトは長老の家へ向かう途中、この哀れな村を襲った犯人を推測していた。
盗賊にしては、あまり木こりを襲うメリットはない。得られる物が少ない。通常、盗賊は街道の外れ等で旅人や裕福な者を襲う。
ならば、考えられるのは怪物か狼や熊といった獣だ。いずれにせよ、この辺りの事情を知らないバルトが今結論づけられる問題でなない。
しばらく行くと、今にも崩れそうな平家が見えてきた。村長の話のとおり、何もせずただ庭の丸太の上に座っている老人が見つかった。
「少しいいか?俺はバルトという。この村で起こっているという事件を解決しにきた。お前が長老だな?この辺りの地理に詳しいと聞いたんだが。」
すると長老はバルトの方を見てからすぐに顔を背けた。
「だったらなんじゃ。」
「この辺りに狼や熊は出るか?」
「、、、出るが、五人も男がいたのだ。全員が死ぬとは思えん。しかもあのアンドレまでが行方不明になっておる。狼の群れが来たとしても奴は負けん。」
「アンドレとは誰のことだ?」
「アンドレはわしの娘のキールの夫じゃ。村では有名な狩人じゃった。」
「そのアンドレが行方不明に。」
「ああ。キールと孫も一緒にな。」
「それは気の毒に。その日あった出来事を教えてくれないか?」
少しの沈黙の後、老人は口を開いた。
「あの日は、夏の終わりを感じさせる寒い風が吹いていた日じゃった。アンドレの娘グッシーが、どうしてもアンドレの狩りについて行きたいと言い張った。言い負けたキールは、自分もついて行くことにし三人で森に入った。
森に行く前にこの報告をしにきたのが最後じゃ。あとは音沙汰がない。狩人の仕事に連れて行くなど危険すぎると思うかもしれない。じゃがわしも含めて村の全員がアンドレと一緒なら大丈夫だと思ったんじゃ。しかも狩りの対象はこの森に多く生息するウサギじゃ。」
「そうか。この森には危険な怪物はいるのか?」
「わしは覚えているだけでも60回以上もここで春を迎えてきたが、1度も怪物が出たことはない。じゃからこの村の者は皆怪物などおとぎ話の中だけに出てくるものだと思っとる。
ハイハルト西部唯一の豊かな森として知られるこの森も、中央部や東部の巨大な原生林からしたら小さなものじゃろう。奥地まで行ったとしても大声を出せば村まで届く程度の広さしかない。じゃからわしらが知らぬ未発見の怪物がこの森に生息していたなんてことはあり得んはずじゃ。」
ならば、木こり達とアンドレ一家、どちらも跡形もなく消えたというのはどういうことのなのだろうか。
やはり実際に現場を見に行くしかないようだ。
「協力に感謝する。」
バルトは森の方を向く。
「ちょっと待て。もし娘、キールの死体を見つけたら、銀の札の御守りがないか探してくれ。」
「死んでいると諦めるのは早い。」
「いや、もう遅いじゃろう。その御守りは、昔街へ出かけた際に娘が買ったものでな。本物の魔法使いにまじないをかけてもらったものらしい。売ればまとまった額になるじゃろう。」
「娘の形見としてとっておいたらいいんじゃないか。」
「、、、死んだ者のことなど知らん。」
「、、、分かった。」
バルトはそれだけ言うと、いつも木こりや狩人が森に入る時に使うという入り口へ向かった。
長老の言葉は愛のない言葉だと感じる部分もあったが、生きていくことすら大変な貧しい村では命に割り切りをつけることも必要であった。
多分、長老は長い人生の中で大切な人を失うことは何度もあっただろう。そのたびにくよくよしていても飢餓や天災は待っていてくれない。誰かを失うたびに彼はそれを忘れようとしたのだろう。
しかし今回の出来事は彼にとって最も辛かった筈だ。口ではあのような態度をとってはいるが、娘や孫娘のことが大切で大切で仕方がなかったからこそのあの態度だというのは分かる。
バルトはこの10年間、幾度となく何かを失った人を見てきた。彼らを少しでも慰め、前を向くきっかけを作れればとこれまで奮闘してきた。
今回の仕事も、それらとあまり変わりはなかったが、長老の態度に少し寂しさを感じていた。自分の心に嘘をついたままでいて欲しくはなかった。
バルトが森の中に入ると、すぐに何か異変に気づいた。空気が張り詰めている。風の音以外、一切の音がしない。
慎重に足を進め、感覚を集中していると、木の幹に刺さる一本の矢に気付いた。多分、アンドレのものだろう。何かと争ったのだ。
注意して周りを見れば、草はところどころなぎ倒されて地面が見えており、木には大きな三本の爪の後があった。さらには、至るところに出血の跡が見られた。
爪、、、しかもかなり大きい。この跡をつけた主は人間の2倍はある。
三本の爪を持つ怪物でこの大きさ、、、考えられるのは、ドラゴンやより飛行能力に長けたワイバーンだ。しかしこれらの怪物は1度目をつけたものは徹底的に潰す性格だ。近くの村を襲わない理由がない。
ならばなんだ?そもそも、まだこの森にとどまっているのか?
バルトは数々の疑問を頭に抱えながら、さらに詳しく戦いの現場を観察した。すると、人間の血と思われる赤黒い跡が続いている。バルトはこれを辿ることにした。
その先にあったのは、多分そうだろうと思ってはいたものの、受け入れたくはない光景だった。
狩人らしい軽装備を身にまとい、弓を手に持った男が木に寄り掛かって息絶えていた。
彼を襲った怪物に傷を負わされ、なんとか逃げたが死んでしまったのだろう。アンドレは負けたのだ。
「、、、傷のわりにかなりの出血だ、、、失血死だろう。」
出血毒、、、バルトはこれまでの経験から、この事件の犯人を殆ど特定していた。さらに、戦いの現場に戻ってその予想は確信に変わった。少し離れた場所に、直径2、3メートルほどもある穴を見つけたのだ。
「グラウンドリザードの若いつがいか、、、厄介だな。」
グラウンドリザードの生態を説明するのに最もわかりやすいのはアリだ。
彼らは地上にいる間もその爪と牙、血が止まらなくなる出血毒で厄介な相手であることに変わりはないが、最も危険なのはつがいを作り子育てのために地下に巣を作る時である。
いくら強い彼らといえどもこの世界広し、天敵も存在する。特に子供ともなれば、巣の場所が見つかれば危険だ。そのため、グラウンドリザードはつがいになるとその場に穴を掘り、入り口を埋めてしまう。その後地中を掘って移動を続け、首周りにあるたてがみの様な器官を使って地上の様子を探る。
そして安全で餌も多く手に入りそうな場所を見つけると、部屋を作り、一つの穴を地上へ向けて掘る。こうして、罪のない哀れな地上の生物達は彼らの子育てのための餌として狩られ続けるのだ。
「それにしても、どうやってグラウンドリザードが、、、?」
今までハイハルト西部でのグラウンドリザードの目撃情報は聞いたことがない。最も近いグラウンドリザード生息地はハイハルト中央部だが、そこからここまで穴を掘るのは不可能だ。ならばなんらかの他の理由がある筈だ。
バルトは警戒態勢を解いて気配をグラウンドリザードに察知させようとした。地中では勝ち目がないので、地上に呼び出そうとしたのだ。
バルトには、つがいに勝てる自信があった。
大穴、つまり巣の入り口が赤黒い血で染まっていたのだ。戦いの現場の状況からしても、グラウンドリザードのつがいのどちらかはアンドレに傷を負わされたのだ。しかも、この出血量からするとかなり弱っている。もしくはもう死んでいるかもしれない。
並の狩人ならこの事実を喜ぶだろう。しかし、バルトはそうは思っていなかった。グラウンドリザードのつがいの絆は深い。狩りをするときは連携して行うほどだ。
片方がやられれば、もう片方は怒り狂う。油断は禁物だ。
その瞬間、大穴から勢い良く1匹の怪物が飛び出してきた。その姿は「エリマキトカゲ」に似ていたが、体長3メートルはあるこの怪物をエリマキトカゲと呼ぶのには無理があった。
黒ずんだ緑の鱗を持ち、黄色く光る目を持った怒り狂う怪物は、バルトを認識するとその長く鋭い爪を立てて威嚇した。
「もう片方は死んだ様だな。怪物よ。」
バルトは鞘から刀を抜いた。その刀身は少し黒っぽく輝き、不思議な威圧感があった。
「さあ行こう。」
今度は左腰に下げた袋を慣れた手つきで持ち上げ、その中身を空中に撒いた。粉末が広がる。すると、バルトは刀をその粉が舞っている空中へ目掛けて振った。
瞬間、火花が散る。火打ち石で打ったかのような音とともに刀に炎が燃え上がる。
バルトは構えながら怪物に相対した。ゆっくりと近づく。次の瞬間、怪物はバルトめがけて跳び掛かった。右前足の爪を大きく振る。
バルトは軽やかな動きで右に跳び、怪物が地面を抉るのを避けた。バルトは態勢を整え、怪物がこちらを向く前に手首の返しのみで怪物の左前足を斬りつけた。
轟々と燃える謎の炎とともに彼の刀は怪物の左前足を切断した。痛みと怒りで怪物がバルトを体を捻って突き飛ばそうとしたときには、既に彼は後方へ退いている。
バルトは呼吸を整え、またじりじりと怪物との距離を近づけていく。怪物も学んだのか、自分から突進はしてこない。
バルトの羽織りが大きく揺れる。バルトは地面を大きく蹴り、右へと飛び出した。反撃の姿勢をとっていた怪物はその大きな口でバルトを噛みつこうとした。
かすりでもすれば出血毒で多くの血が流れ出し、じわじわと体力を奪われる。一度の被弾すらも死に直結する。
バルトはこの攻撃をぎりぎりの所でかわすと、伸ばした首めがけて炎刀を振りかざす。
怪物はバルトを突き飛ばそうとしたが左前足を失っているためにそれも叶わない。業火を纏い赤く輝く刀が、怪物の首を両断した。
声にならない声を上げ、怪物は倒れた。
バルトの燃える刀、、、その秘密は、バルトの生い立ちに関係している。彼がまだ小さかった頃、親のいない彼を育ててくれていた魔女がいた。バルトは魔女と森の奥で2人きりで生活していたが、寂しさを感じることは無かった。
そのような落ち着いていた生活を続けていたバルトだったが、彼が刀の練習をしていたある日、突然魔女はバルトに不思議な粉を渡して言った。
「この粉を刀に振りかければ、たちまち刀は炎を帯びて、怪物をいとも簡単に斬ることができるわ。」
バルトは急な話に戸惑いつつも、初めて魔法使いらしい物を貰った彼は素直に喜んだ。
その次の日から、魔女は何処かへ消えてしまった。バルトは家を出て、そこから彼の旅は始まったのだ。彼が15歳の時だった。
つまり、彼の最終目標は、魔女を見つけ出すことである。
しかし、この10年全く足取りがつかめてい
なかった。
「よし。なんとかなったな、、、こいつはメスか。」
死んだオスはどうにか巣穴には逃げ込んだが力尽きたのだろう。バルトは刀を赤々と燃やしたまま慎重に巣穴へと降りていった。
グラウンドリザードは捕まえた獲物は殺したあと貯蔵室と呼ばれる特殊な部屋に貯蔵する。この中で数日間獲物を保管するのだ。彼らにとって腐肉は人間にとってのステーキのようなものなのだ。
刀の火で巣穴を照らしながら進むと、より腐臭が強くなってきた。やはり、生きている者はいないだろう。
最初にグラウンドリザードのオスが死んでいるのを確認してから、貯蔵室へ向かった。
部屋に入ると、地獄のような光景が広がっていた。行方不明になってからまだ2日ほどしか経っていないらしいが、地中で熱がこもり、グラウンドリザードの唾液の発熱効果も相まってかなり腐敗は進んでいた。
人間の死体と思われるのが6体に、ウサギやシカなどの死体もあった。
殆ど判別は出来なかったが、着ている服からキールを特定できた。みるにたえない状態だった。バルトは服のポケットを探り、長老が言っていた銀の札の御守りを見つけると、腰に下げた2つの袋のうちの1つ、道具袋に入れた。
すると、彼女の死体は何かを包む様にしているのに気づいた。彼女のローブをめくると、そこには6つほどに見える女の子がい た。キールの娘のグッシーだ。生きている。母親の体が彼女の命を護ったのだ。外傷はないが、昏睡状態に陥っている。このような状態におかれたのでは無理もない。
バルトはグッシーを抱えた。その時に刀の炎を消す必要があったが、道は覚えたので影響はない。
バルトはキールに尊敬の念を覚えていた。グラウンドリザードに襲われても、最後まで娘を護ろうとしたのだ。母親の子に対する愛情とはここまで強いのか。
巣穴から外に出ると、その明るさに目が眩んだ。そこで、グッシーが何かを強く握っているのに気付いた。キールが握らせたのだろうか。
ゆっくりと小さな手を開くと、そこには小さな木の御守りのような物が握られていた。その形状は天狗のうちわのようだった。小さいがかなり精巧に作られていた。
バルトはその御守りも袋に入れ、森を後にした。もうこの森は安全だ。アンドレや他の人達の死体は村の者がどうにかするだろう。
バルトが村に帰ると、長老はまだ同じ場所に座っていた。長老はバルトの気配に気づくと、彼が抱えているものに視線を釘付けにしたが、すぐに諦めた様に顔を戻した。
「グッシーだ。昏睡状態だが、まだ生きている。柔らかいベッドに寝かせておけば起きるだろう。」
今度は明らかに驚いた顔をした長老は、バルトの方へフラフラと歩いてきた。彼が注目していたのは怪物を退治した本人ではなくその腕に抱えられた女の子だったが。
「グッシーが、、、生きている、、、じゃと?」
「ああ。アンドレや他の者達は全員やられていた。犯人はグラウンドリザードのつがいだった。」
「そうか、、、すぐに獲物を喰らわない奴らの習性にグッシーは助けられたのか。」
「よく知ってるな。」
「馬鹿にしないでくれ。わしはこれでもお前より何倍も生きておるはずじゃ。じゃが、なぜこの地にグラウンドリザードが?」
「俺もそれは疑問に思った。巣穴に少し魔術具の匂いが残っていた。魔法使いが関係しているのかもな、、、」
「魔法使いか、、、奴らなら何をするか分からんな。それにしても、こんな辺境の村を狙うとは。」
そこで、長老は思い出したかの様にグッシーをバルトの腕から受け取った。
「そうだ。グッシーの手にこんな物が握られていたんだが、、、」
袋から取り出された木の御守りを見て、長老は信じられないといった顔をした。
「まさか、、、これはわしが娘のキールに贈った、、、じゃが、キールがまだ子供の頃じゃぞ、、、?今まで大切に持っておったというのか?」
「そのようだ。この天狗のうちわは彼女にとって大切な物だったらしいな。」
老人は今にも崩れ落ちそうな表情をして言った。
「キールが子供の頃、、、よくおてんばをして怪我をしていたんじゃ。何度叱ってもなおらず、、、いつかキールが取り返しのつかない怪我をするんじゃないかと思い、御守りに持たせたのがそれなんじゃ。天狗の力が宿ってると言ってな。
結局、御守りがあるから大丈夫などと言って逆効果だったんじゃがな。天狗になれると言ってはしゃいでいたのが印象に残っておる、、、」
「その御守りは、彼女が襲われた時に咄嗟にグッシーに持たせたんだろう。少なくとも彼女にとっては、魔法使いが作ったという本物の御守りよりもこちらの方が効果があったんだろうな。」
「まさか、そんな、、、」
「キールが天狗になったとするなら、お前は大天狗としてグッシーだけでも守ってくれ。」
長老は自分が昔に作った古びた木の御守りを見つめ、その後眠るグッシーを見た。グッシーは昏睡状態が解け、今はただ眠っているだけのようだった。
「ありがとう。バルト・ヘイム。」
「ああ。、、、そういえば、銀の御守りはいいのか?」
長老は何を言っているのかわからないといった顔をしたが、すぐに思い出したように答えた。
「それはわしには要らん。どこか他の場所で必要としている者がいたら渡してくれ。わしにはもっと効果のある御守りがあるのでな。」
「そうか。ではな。」
バルトは長老の家を去り、村長の家へと向かった。
「怪物を退治してくださいましたか!それではお礼を、、、」
「報酬はいらん。村の再興のために使ってくれ。」
「で、ですが、、、私どもとしても何も払わないというのは、、、」
「いや、いい。もう俺はこの村で十分な報酬を得たさ。この殺伐とした世界で、人間の愛ほど価値のある報酬はない。」
村長は完全には理解していないようだったが、心からの感謝をバルトに伝えた。
バルトはこうして新たな旅路についた。