四話
「兄ちゃん!!起きて!!起きてよお!!」
泣き叫ぶ妹様の声が聞こえる。
知らない天井だ。病院だろうか。
「ッ!お兄ちゃん!どっか痛いとこない?体大丈夫?」
珍しく妹が慌てている。
「明!大丈夫かい!?」
「母さんまで…僕は大丈夫だよ。どこも痛くない、大丈夫。」
「よかったよ!」「よかったよぉ…」
2人に抱きしめられた。 苦しい。
「あんたになんかあったら天国の父さんに申し訳が立たないよ。」
「ぐすん…」
「お取り込み中のところ大変失礼します。少しよろしいでしょうか?」
「はい…」
さっきの医者風の男、医者だったのか。
母が手を離す。ちょっと恥ずかしそうだった。
妹様は離してくれない。ういやつめ。
「翠、ちょっとお話しするから離して。」
「いや!!」
「そのままでも結構です。」
いいのか。
「ではまず、明くん、倒れてから何時間経ったかわかりますか?」
「わかりません。」
わからない時はわからないというのが一番だ。
「あんた5時間寝てたのよ。」
母が耳打ちしてきた、そんなに寝てたのか。
「続けます、《フォース》を投与した時どのような感じがしましたか?」
「うーんと、いろいろな方向から声が聞こえてきて、『お腹すいた』とか『漆黒のなんとか』とか、一気に頭の中に入ってきて気持ち悪くなりました。」
「…なるほど、生活系統に近いですね。今日はお疲れのようですしまた後日話を聞かせてください。」
「あの、結局僕の異能って…?」
「…」
医者は少し躊躇って言った。
「…先程生活系統に近いと言いましたが、おそらくは無系統でしょう。無系統の異能を持つ人間は最初、コントロール出来ずに頭がパンクしてしまうのです。」
「…そうですか。」
躊躇っていたが無系統というのは何か気の毒なものなのだろうか。
「では、失礼します。」
今度こそ男が退出する。
膝の方からから寝息が聞こえる。妹様は疲れて眠ってしまったようだ。
「明、お医者様は目が覚めたら帰っていいって仰ってたから、母さん、車取りに家に帰るからね。翠を頼むよ。」
「わかった。」
母さんが帰宅し、翠と2人きりになる。
本当に翠は美人だな、寝顔も可愛い。我が自慢の妹様である。
セミロングの茶色い綺麗な髪、母親似の整った顔。本当に僕たちは兄妹なのだろうかと疑うくらいだ。
頭を撫でる。
「…んぅ。」
「翠、起きたか?」
「うん、おはよう兄ちゃん。」
「心配かけてごめんな、今度なんか美味しいものでも食べに連れてくから。」
「ほんと?やったー!なににしようかなー?」
微笑ましい限りである。
「母さんが車で迎えにくるからしばらく待ってってさ。」
「うん、わかったー。」
妹様と話をして時間を潰しているうちに母親が来て、僕たちは帰宅した。
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帰って早々、母親に呼び出され居間のテーブルに座る。
「まさかあんたに異能があるなんて、夢にも思わなかったよ。」
「僕もそう思う。」
「ところであんた、高校はどうするんだい?」
「どうするたって近くの高校に…そういうことか。」
異能者は政府所轄の学校に入学が義務付けられている。
学校は3校あり、それぞれ特色がある。
その中で一番僕の家から近いのは「国立第一高等学校」である。
全寮制なので通うことはできないが、実家が近いのは安心だ。
「それなら第一高校に行くよ。家から近いし。」
「そうかい…寂しくなるねえ。」
翠と母さんには申し訳ないと思っている。
特に、妹様に会えないのはとても残念だ。耐えがたい日々を送ることになるだろう。
「あんたの道だから私がとやかくいうのはお門違いだね。応援してるよ、頑張りなよ!」
「ありがとう、母さん。」
本当にいい母親を持って僕は幸せ者だ。
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そして時は経ち、4月。僕の新たな生活が始まる。