第6話 騒動
結局昨日の夜にアリシアが用意してくれたのは意外な事に日本でもよく目にする敷布団だった。
寝心地も悪くなかったといのもあるがヒロ自身思ってたよりも疲れが溜まっていたらしく、布団に潜ると(何故かタイショウも入ってきた)直ぐに眠りに着くのだった。
そして朝、下から物音らしきものが聞こえてきた。
「…………なんの音?」
しかし意識は今だ半分沈んでいたが、無意識に右手は自然と昨日と同じく傍にいる黒い毛玉に伸びていた。
「…リシ……ア……い…かー」
「………だ寝て…いの?」
「……あ! 起……か!」
っと今度は微かな声が聞こえてきた。
しかしそれでも寝惚ける脳はその音を無視ししようとしてたが、そんな事は知るかとでもいうように次第に音は近づいてきて。
そして。
「おっはよぉございまぁぁぁす!」
「あざまぁぁぁす!」
そう活き良いよく開け離れた扉には黒髪の褐色肌の女の子と明るい茶髪の女の子の2人組がいて、有り余った元気をぶつけるように入ってきた。
その突然の訪問に一気に眠気は消し飛び。
横ではアリシアも起こされたらしく布団の上でモゾモゾと上半身をおこしだしたのだが、寝起きが悪いのかその眉間にはシワが寄っていて。
「朝から、何?」
っと若干強まった語気で問いかけている。
しかしそれに対して入ってきた2人は気にした様子もなく話しかけてきたのだが。
「何ってお前寝坊した奴を起こし……に?」
「ちょっナディちん止まら……って?」
中の様子を見るなり固まり始めた。
一瞬不思議に思ったが、今の自分の状況を思い出した。
一つの部屋で男女が寝ている状況を。
不自然に止まる2人。
不思議と止まらない汗。
そんな中アリシアはもう一度繰り返す。
「…何?」
すると。
「「ア」」
「…あ?」
「「アリシア(アリアン)が男連れ込んでるぅぅぅぅぅぅぅううううう!!」」
練習したのではないかと思うほどの息の揃った絶叫が建物全体に響きわたる。
そんな中タイショウが抗議するようにしっぽをぶつけてきた
♢
それからの展開は怒涛のようだった。
二人分の絶叫を皮切りに下の階からあれよあれよと人が集結し、最後には見た目がまんまゲームに出てくるような騎士の鎧を着た女性が入ってきて。
「な、何してるんですか!」
っと鋭い声を飛ばし、アリシア共々強制的に下に連れてかれた。
そして鎧を着た武装少女エミリーと呼ばれてた子に床に正座させられるとそこからありがたいお説教が始まった。
「ひとつ屋根の同じ部屋で寝泊とはどういことですか!」
その言葉を始めに止まらない説教にはかば強制的に現実逃避を起こさせられるも、
「何遠い目してるんですか、あなたに言ってるんですよ」
との一言で断念させられた。
とりあえずなんとかアリシアの部屋で寝ることになった経緯を聞いてはもらってそのおかげか、さっきと比べればすこし落ち着いた感じになったエミリーだったのだが説教までは止まる気配はなかった。
「…………なるほど、事情は分かりました。空き部屋が物置になってたのと、アリシアさんの言う通り部屋が無いからと他人の部屋に勝手に止めなかったのは理解できます。で・す・が! だからといって同じ部屋で男女が寝るのはどういうことですか! 後っ一緒の部屋で寝るなら寝るなりにもっと工夫するべきです! ベットと布団の距離を離すとか、 真ん中に敷居をしくとか色々方法はあったはずですよ! 全く2人とも不純、不純です! それにアリシアさん、あなたには前々から言おうとは思ってたのですがもう少し異性と言うものをですね…………」
そんな彼女の背後では小声で。
「……アリシアの年齢的に男連れ込むのは健全だろ、むしろ」
「いやー今までそういった事に無頓着だったアリアンが遂に彼氏を連れ込むなんて、おねーさん感動しちゃうなぁ」
「はいそこ2人! コソコソ言わない聞こえてますからね!」
黒髪のナディアと呼ばれてた子と、茶髪のスミレと呼ばれてた2人はその顔を全力でニヤつかせていた。
エミリーの注意がそちらに向かれる中ヒロは密かにタイショウにアルプス一万尺を教えていると玄関からまた新たに男性が一人入ってきた。
「おーすって何だこの状況? おいベゼルどうなってんだコレ」
入ってきたのは黒髪長身の男で、部屋の状況を見て困惑すると近くにいたもう1人の男に話しかけた。
「なんか説教女がヒステリー起こしてほか2人が茶化してる、それより外どうだっだんだ」
「……まぁいつもの事か、とりあえず外に関してはいつも通りって訳じゃなかった、前に比べてここらじゃ見ない魔物も増えてるし、さっきも退治してきたばっかだが……これ魔物の核、今日換金所行くんだろ? ついでに替えといてきてくれ」
3.4個投げ渡すとベゼルと呼ばれた男子は器用にキャッチし。
「しゃぁねぇなぁ、それでその背中の荷物は何してんだ」
「サーシャの事か? 途中で飽きて寝始めた」
「……スーッ……スピーッ………………ふぁっきゅー」
「……おい」
「……いや俺が教えたんじゃないぞ」
玄関近くで男同士のそんな会話が交わされる中。
今度はキッチンから女性の声が聞こえてきた。
「朝食できましたよって、はぁエミリー落ち着いてください、ナディアもスミレもあまりふざけすぎるのも良くないですからね、早く運んで並べてください。
あっバゼットにサーシャも帰ってましたか、ご飯出来てますのでちゃんと手洗ってきてくださいね。
ベゼルも手空いてましたら朝食並べといてくれますか?」
っとその女性は慣れたように騒がしいかったこの場を収めはじめた。
そんな彼女の声におのおのが従い出す中女性はヒロ達の方に近づいてくると、目線を合わせるようにしゃがみこみ。
「香月ヒロさん? でしたよね。ヒロさんと呼ばせてもらってもよろしいですか?」
「あ、はい…えーと」
「ジングウ=ジ=姫衣です、姫衣と呼んでください。なんか朝早くからいろいろとすみません、それでなんですけど……」
っと朗らかな声を響かせながら姫衣は続けた。
「会ったばかりで聞きたいこと、色々あると思いますけが、まずは朝ごはんにしてもいいですか? みんなさっき帰ってきたばっかりなので朝ご飯食べていなくて、ヒロさんもご飯は……」
「ま(ぐ~)だ」
姫衣の提案に対してヒロは口よりも先にお腹で返事を返してしまった。
その返事に姫衣が苦笑を漏らし。
「朝から元気そうで何よりです」
そう言うと次に隣で正座のまま器用に寝てるアリシアに声をかけ始めた。
恥ずかしい思いはしたがひとまずヒロは説教地獄から救われたのだった。