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住めば都の異世界生活  作者: ヤチマチ
6/13

第5話 逃避と疑惑

少し長くなります

【現実逃避】:現状のおこっていることから、故意にあるいは意図的に目を背ける事。

——————————————————

中学の入学式の事だ。

その日は目覚ましの故障と共に一日が始まったのだった。

学校から家までの距離は今思えばそんなに大して離れてはいなかったのだが、入学式当日にわざとでは無いとはいえ寝坊をぶちかました自分はそれはものすごく慌てていた。

わが家は現在両親が仕事の都合で2ヶ月ほど空けている、そのため4つ上の姉さんと2人で暮らしている状態なので朝起こしてくれる人はいないのだ。

姉さんが起こしてくれなかったって? 昔お願いしたらベッド周辺に円を描くように目覚ましを設置した人に何を頼れと?

さらに言えば目覚ましの音はアニメとかの妹ボイスに、全て違う声とセリフという要らんサービス精神が発揮せれている始末。

お兄ちゃん♥︎ 朝だよ起きて♥ の大合唱はその昔平凡な一般家庭の壁を軽々とつき破るだけでは留まらず、朝食時には眉間にシワをよせた父親から。

……妹、欲しいのか?

という致命的にズレた気遣いとその横で腹押さえて肩を震わせてる姉さんという惨憺たる光景が映し出されていたことがあった……閑話休題。


俺は急いで下に降りると、リビングでは案の定姉さんはソファーに座りテレビ見ながらコーヒーを飲んでいた。

そして慌てる俺に気づいた姉さんは。

なに、寝坊したん?

と鼻で笑った後(ニヤケ面付きで)自分のリュックの中からコンビニパンを投げ渡し再びテレビに目を戻した。

珍しく優しい姉さんに疑問を持たずその姿を視界の隅に追いやりながら、真新しいカバンを持って短くいってきますと言って玄関に向かうと。

いってら~。

という半笑いの返事が帰ってきた、そこだけ普段と変わらない言葉を背に入学祝いの自転車に跨って家を飛び出した。

しかしその日の不幸は続いていたらしく、道が工事で通れなかったり、行く先々の信号に引っかかったり、パンの賞味期限切れてたりなど。

え、なにこれ新しい試練かなにか?

と、思わずにはいられないほど運が重なる始末。

……いや、最後のは姉さんが原因なのだが。

ともかくやっとの思いで学校前にたどり着いたのだが案の定というか予想してたとおり既に式は始まってるらしく、校門も少しだけ隙間を開けて歓迎してくれていた。

最悪な入学式だ。

僅かな高揚と残りを占める憂鬱さを胸に独りごちながら門をくぐろうとすると。

トドメを刺すようにこの日最後の不幸が聞こえてきた。

あっれ!? ブレーキ壊れてる!! なぜにってそこのお前あぶなぁぁぁぁぁあああ!!

そんな声を響かせた後、2つの潰れたカエルのような声が重なる。

今日着たばっかの制服は入学前に汚れ、虚しく回る2つの車輪と自分の上には人一人分の重みが。

そいつは、

いやーすまん! 本当に申し訳ない!、なんかブレーキ効かなくって…大丈夫か?

っと謝りながら起き上がりこちらの安否を確認しながら手を差し出してきた。

なんだこの人っと思いながらも素直に手を借りて起き上がり次に自分の体の確認。

幸いな事に怪我はなかったので自転車を起こし上げると。

あっ! もしかしてお前も新入生? よかった〜入学早々遅刻組が一人じゃなくて〜

などと勝手にそいつは盛り上がり始めた。

それが俺、香月ヒロと後の親友山田との出会いだった。

その後は何となく2人で掲示板に向かい(多分1人でいるのが心細かっんだろう)クラスを確認した後(お約束というか山田と同じクラスだった)、体育館に向かい初対面の担任から仲良くお説教を貰った(めっちゃ美人だった←あ、これ山田の感想だ)。

それから無事に途中参加の入学式も終えてその後の学校生活もつつがなく送り……イヤまぁ多少のドタバタはあったのだけど無事卒業した。

3年間不幸なことに山田と離れることはなく(山田はなんか嬉しそうだったけど)若干運命を感じていたら高校でもクラスは一緒になるという奇跡(もはや乾いた笑いしかおこらないよね)。

山田今頃どうしてるかな〜っとここまでが逃避、次から現実。


————————————————————————————————


「何遠い目してるんですか? あなたに言ってるんですよ」


目の前の少女の詰問に冷や汗が止まらない。

場所は昨日と一緒で1階の広い部屋、時間帯は早朝、隣には同じようにアリシアもいる。

だが昨日と違うのは今この部屋に7人増えている事だ。

そして俺とアリシアは椅子ではなくただいま床に正座中。

何だろうこの状況……

とりあえずなにしてんの〜とでも言うようにこっちに来たタイショウに向けてなんだろうねぇ〜っと心で話しかけながら、今度は確認するように昨日のあの後の出来事を思い返した。





魔法が使えないことを知り沈みに沈んだヒロだったがアリシアの必死のフォローでなんとか落ち込みから回復はした。

アリシア曰く。


「たぶん、魔力量が足りないとかだから、大丈夫……だと思う」


最後の付け加えられた言葉に若干の不安を見せたが、魔法が発現してもすぐには使えない人もごく稀にはいるらしい。


「そういった事に詳しい人、明日帰ってくるから、相談しよう?」


とアリシアが言ってたので、といあえずはその人に期待することにした。

今は自分に魔法があることだけでも知れてよかった、そう思うことにする。


「あれ、これスキルとかは見れないの?」


紙を見てて魔法名の欄しか載ってないことに疑問を持ったら。


「本当なら、ランクやスキルも確認できるけど…裏技のマジックアイテムだから、魔法名だけが限界」


さらに言えば見れる時間も短いらしい。

自身の血と魔力を使えば2~3時間は紙に浮かび上がってはいるらしいのだがこのマジックアイテムだと5分くらいが限界らしい。

せっかくだからスキルとかも確認したかったなと思ってたのだが。

仕方なしにタイショウの毛並みを堪能しながら窓の外を見ると太陽は既に真上を通り過ぎていて日本時間だと夕方に迫ろうとしてる。

地球とこの世界の時間間隔はあんまり変わらないのかな? なんて考えてたら。


「ねぇヒロ、ヒロは今晩どこか泊まるとこあるの?」


アリシアの言葉に数秒沈黙する。

……あ! 忘れてた。

異世界や魔法、スキルについ気を取られていたが今自分は知らない場所にいるのだったことを思い出す。

知人もいなければこの世界の通貨、というか荷物も何も無いので言わば無一文なわけだ。

ヤバイヤバイと顔を青くしてたらアリシアが見計らったように。


「良かったら、今晩ギルドに泊まってく? ……空き部屋あるから」


そう提案してくれた。

すぐ様飛びつきたい提案だったが、森で助けてもらったり色々教えてくれたりなど、迷惑かけてばっかの為罪悪感が募り口ごもってしまう。

空いたり閉じたりと忙しなく動かすヒロを見て小首を傾げたアリシアは。


「……ギルドは、困っている人を助ける場所だから……遠慮しなくていいんだよ?」


それでもギルド(ウチ)に来る人、いないんだけどね。

そうボソッとつけ加えたアリシアはヒロが遠慮してると思ったらしくそう言ってくれた。

逆にここまで気を使わせてしまったことになんだか申し訳なさを感じてしまいここは素直に。


「じゃあその……お願いします」

「……うん」


その提案を受け入れることにした。

それからすぐアリシアは買い物に行くとのことなので、なら少しでもお手伝いをとお願いして荷物持ちとして同行させてもらうのだが。

街に出るとこれまた驚くことばかりだった。

何にってそのファンタジーさに。

アニメや小説で出てくるようなエルフやドワーフはもちろん、見たことない耳やしっぽを持った獣人や全身鎧のでっかい人、聖書で見るような片乳エプロンや露出度の高い服のお姉さん。

何より1番驚いたのが教科書で見るような戦国時代の甲冑を簡略化したかんじで着てる人がいた事だ。

流れる光景に改めてここが日本じゃないことに実感を持ちながら見失わないようにアリシアの背中を追っていく。


「今晩、食べたいものとか…ある?」

「ええっそんな、泊めて貰うだけでも申し訳ないのに……」

「遠慮、しなくていいよ……どうせギルドのお金だから」


尚更ダメではないのと思ったが、もう既に腹を括ったので素直に食べたいものをいった。

アリシアの隣に列んでそんな会話を続けながらもなれない光景に目を左右に忙しなく動かしてると、隣から零れたように控えめな笑い声が聞こえてきた。


「……珍しいの?」


子供みたいだねっとつけ加えらたその言葉に少し、いや大分気恥しさを感じながらもやはり街の様子を見渡してしまう。

並び立つ建物は木造建築が多いが古臭いのかといえばそうではないく遠目でもわかるくらい綺麗に保たれている。

露店なども多く見られ街中は日本では見ない賑わいを見せていた。

その見慣れない光景はこの世界に来たばかりの自分に疎外感を感じさせるかと思えば意外や意外、むしろどこか心地良さが感じさせられた。

他にも特徴的だなと感じたものがありそれは、すれ違う人や、物を買う人も売る人、交渉してる人も、所かしこから笑い声が聞こえて来ることだ。

街全体が活気で溢れてるように感じる。

そう思ったら。


「出たな悪魔(ムシケラ)! 今日という今日はその汚れた存在を地下牢にぶち込んでやる! 死ねぇえ!!」

「げっ! 現れやがったな天使(アバズレ)! 毎回毎回懲りずに同じセリフ吐きやがって! こっちも仕事で忙しいんだってんだ構ってられるか! 後前後のセリフ統一しやがれ!」


という声が遠くから聞こえてくると次には光と闇の閃光を放っている、だが街の住人はなれたことなのか特に慌てることなくいつものことのように交通規制を掛けたり。


「サア!! ミナさんドチラにカケマスカァ! キョウはギルド『テンビンのシュクハイ』がマドグチをやるネー!」

「よーしオレァ天使のフルボッコに500!」

「なら今回も悪魔の逃げ切りに1000デニスだ!」

「あんのっブサイク天使がやられるのに600ぅ!」

「あーきゅんの勝利に私を養う権利を!」

「ポロリに! 天使のポロリに我が生涯ぃぃ!」

『誰か騎士団!! 騎士団をよべぇぇえ!』


などと慣れたように賭け事を始め、文化の違いに目を白黒させたりもした。

最後のは……うん聞いてない俺は何も聞いてない。

波のようにその熱を広げていく喧騒を横にアリシアは慣れた感じで無視しながら進んでいく。

それに遅れないようついて行くことしばしば、街の様子を流し見ているといつのまにか目的地には着いたらしく他よりも一回り大きい建物の前でアリシアは足を止めた。


「着いたよ、ここがこの街で1番大きいお店……食料とかアイテムとか、基本的なものが揃う場所」


入口の上の部分には大きく『ギルド:憩いの水溜まり』と書かれていた。

行こっか

っとアリシアの声に促され入っていくと本日何度目かも分からない衝撃に襲われる。

なんというか外の喧騒も凄かったが中の騒がしさはそれ以上だった。

……っあ、さっきのは除くよ?

店の中は複数の露天みたいなお店が長方形の壁際を埋め尽くす形で並んでおり、中心にも円の形を描きながらたくさんの店が賑わっていた。

高校時に山田に連れいて行かされた夏のコミックマーケットを思い出させる熱気が目の前に映し出されていて無意識に頬が引く着く。


「今日は、いつもより多いね……食料が売ってる場所は、奥の西側にあるみたい」


入ってそうそうアリシアは壁にかけてある配置図を確認した。


「毎日お店の場所は変わるの?」

「ううん、だいたい60日周期で、入れ替わるくらいかな」

「へぇ〜ここのお店出してる人たちは……」

「憩いの水溜まりの、人達だよ」

「これ全部が!、すごい数……ん?」


目的の場所にに移動しながらそんな会話を続けていると不意に胸の中心に違和感を感じた。

なんというか後ろ髪を引かれるような、言葉にできないモヤモヤとした小さな違和感。

1度気になり出したそれはより一層強くなり、アリシアの言葉が耳から流れていく。

そしてすぐにそのモヤモヤの原因がわかった。


「……ヒロ?」

「ゴメン、ちょっといい」


そう言い残すと自然と足は人混みの中に向かい始めた。





一言残して歩き出したヒロを不思議に思いながらアリシアは僅かに遅れてその後ろ姿を追い始めた。

最初戸惑うようなヒロだったが、次第に迷いがなくなったように進み始めると広場の少し外れたところに視線を止め、そのまま速足で向かい始めた。

人が多かったためにヒロとの距離は離れてしまったが今だ視界の中にはその背を写し続けているアリシアは周りに気を使いながら人混みをかき分けその背に追いつこうと進む。

するとヒロが唐突にしゃがみこみ始めた。

具合でも悪くなったのかと思い打って変わって急いで駆け寄っていくと、ヒロの声が微かに聞こえてくる。


「どう……の? お父……お母さ……?」

「う…、はぐれちゃっ……」


誰かと話してる?

体調を崩した訳ではないことに安心しながらその背に近寄るとその肩越しに見知らぬ女の子がいた。

その子の様子とヒロの接し方に知り合いってわけではない雰囲気を感じ、一つの予想を口にする。


「その子、迷子?」


そう後ろから声をかけると。


「うんそうみたい、父親と来てたらしいんだけどはぐれちゃったんだって」


女の子に手を握られながら振り返ったヒロは簡潔にそう説明する。

そんなヒロをみて。

もう打ち解けてるの?

っと一瞬疑問が浮かんだが。


「だから、その〜アリシア」


っと、言い淀んではいるがその何を言いたいのかが一目でわかる表情に先程の疑問は忘れ、察したアリシアはイイよという意味を込めて目で笑いかけると(本人基準)分かってくれたらしくヒロは少女に向き直り。


「お姉ちゃん達と一緒にお父さん探さない?」

「……うん」


少女のか細い声を聞き届け父親探しが始まった。


「お父さんの特徴とかわかる?」

「……今日は半袖のべーじゅの服きてた」

「は、半袖のベージュか……他にはない?」

「他に? うーん……あっ! 最近頭がうすいって夜中ブツブツ言ってた」

「……それは…胸に閉まっとこうか」


そのようなやりとりが隣で数回行われたのだが服装ぐらいしか役に立ちそうな情報は得られなかった、最悪困ってそうな人に声をかけようとヒロとそう結論づけることして3人で探し始めることにした。

頭頂部に関しては個人差があるので保留で。

隣では少女と打ち解けたヒロが名前や今日市場に来てた事などを聞いたりしている。


「そっかマリィのお母さんは今体調崩しているんだ」

「…うん、だからね今日おとおさんといっしょに元気になるボエネーのみ?っていうのかいにきたの、お兄ちゃん知らない?」

「あーごめんね、お兄ちゃんこの世界について知らないというか、まぁそのちょっと分からないかな……アリシアは知ってる?」

「えっ、あ、うんボエネーの実は知ってるよ…」


ヒロのコミュニケーション能力の高さに気を取られていて答えるのに若干の間を開けてしまう。

少女、マリィの言うボエネーの実とは南の森にしか生えてない状態異常を回復させる赤黄色の実のことだ。

味自体もそこそこ甘くて嗜好品として愛用する冒険者もいて、この街では割とあふれた果物なのだが。

ここで少し八の字に眉を曲げる。

多分だがアリシアの予想が正しければ


「今の時期は、市場に置いてないんじゃないかな」

「……えっ置いて無い?」


ヒロの疑問に答えるように近くの店を見てみると、予想通りどこもボエネーの実はおいてなかった。

ただボエネーの実だけがというわけでなく果実や薬草など森で取れるものは軒並み高くなっているか、売り切れているかの状態が多く見られる。

アリシアはマリィに聞かれないようにそっとヒロに耳打ちする。


「ここ最近、街近くの森に見かけない魔物の報告が、多発してるっらしいの。ギルド(うち)も、朝、見回り始めたし……騎士団の方でも対応に追われてるって、言ってた」

「騎士団?」


聞きなれたしかし自分の知識と違うのだろうと予測した単語にヒロが疑問を挟むと。


「お兄ちゃんキシサマ知らないの? あのねキシサマはね、この街を守ってくれる、すごい人たちなの!」


はしゃぐマリィの言葉にヒロがこちらをむく。

そんなヒロから1歩離れながら。


「……正解、だけど正確には街を管理、守る組織のこと。来る時高い塔見なかった?」


街の中心にあった青と白が特徴のと付け加えると。


「ああ、あのおっきなお城みたいなの?」

「そう! それ! それがキシサマ達がいる所だよ」


マリィの様子から子供達には騎士団は人気なのが見て取れる。

ギルドも素敵な場所なんだけど…等と考えてたら。


「マリィ! マリィィ!」


と男性の声が3人の元まで届いた。


「あ! おとおさん!」


呼応するようにマリィがその声の主、半袖の服と長ズボン。

あと頭に帽子らしきものをかぶった男性がこちらまで駆けよってきた。


「マリィどこいってたんだ心配したんだぞ」

「うっごめんなさぁい」


っと親子の仲睦まじい再開を目の前で繰り広げられているが、誘蛾灯のように2人の視線がある一点に誘導されていると。


「申し訳ありません、娘を保護してくださった方々で……私の頭が何か?」

「ナ、ナンデモナイデス。

それと保護という程のものでもなくて一人でいた所にたまたま通りかかっただけなので」


すぐさまそうヒロが礼儀正しく返したことに感心した。

そして聞けばマリィの父親もあまり遠くまで探しに行ってはいなかったらしくすぐ近くにいたらしい。

ヒロの謙遜にマリィの父親は。


「いえいえ、それでもです。昔に比べると遥かに安全になったとはいえやはり娘がいなくなるのは怖いもので、なのでお礼しか言えませんがどうか受け取って貰えませんか?」


っと物腰柔らかでありながら、丁寧に感謝の言葉を述べ始めた。


「本当たまたまなので、気にしないでください。

そういえばマリィちゃんから聞いたんですけどボエネーの実、買いに来たんですって?、その……どうでしたか?」

「マリィから聞いたのですか、そうですね想像通りどこも売り切れているらしく……ただまぁ他にも回ってない所はありますので」


っと歯切れの悪い答えが返ってきた。

ヒロの顔には心配の色が浮かんでいると。


「すみません、これからまだ回らないといけないので私たちはこれで、マリィもお礼言いなさい」

「うん! ありがとっお兄ちゃんお姉ちゃん」


ばいばーいまたねぇーと声を残しながら親子は去っていった。

そんな女の子の声を聞き終えると父親が来たあたりから黙っていたアリシアはヒロに問いかけた。


「ずっと、気になって、たんだけど、よくこの人の多さの中で…見つけられたね?」

「えっ? ああマリィのこと? さっきも言ったけどホントにたまたまだよ」


偶然、偶然と言いながら当初の目的地に向かうヒロを見ながらアリシアは不審に思う。

もし仮に偶然見つけたのだとしても、この人ゴミが多い中から小さな女の子を見つけるなんてどういう五感をしてるのだっと。

まして、泣き声を上げていなかったにもかかわらずだ。

もしかしてという思いを募らせながも、今は買い出し優先だということを思い出したアリシアは、一旦その問題を頭の隅に置くと逆方向に行くヒロを引き止め買い出しの続きに戻ることにした。

以外に方向音痴なんだね。



マリィの一件の後は特にこれといった出来事もなくトントン拍子で買い出しと夕飯は終了して、今は空き部屋に案内される所だった。


「それじゃ、こっち…付いてきて」


そう言って階段を昇っていくアリシアを追うと、2階の起きたとことは逆側の扉の前に着いた。


「ここが、今は確か空き部屋になってたはず」


部屋の管理とか違う人がやってたから把握してないんだけど、と続けるアリシアは鍵を差し込み、扉を開けた。

どんなものかと思って一緒に覗き込んだら。


「………………あれ?」


部屋いっぱいにものが置かれてた。

疑問を口にしたアリシアも困惑しだし、頻繁に首を傾げる。

そして、


「…………あっ そういえば、みんなが使わないからって、物置にしたんだった」

「あーでも1階の椅子で寝かせてもらえるだけでも十分だから」

「それは、申し訳ないよ…………うん、さすがに他の人の部屋を無断で使えないし、今晩は私の部屋で、寝よっか?」

「い、いやいやいやいや! それはダメでしょ!」


唐突にとんでもないことを言い出した、さらに。


「でも、この時期夜はそれなりに寒いし、予備の寝具はあるから……平気だよ?」


へ、平気? え、何が?

頭の中が困惑で充ちてると。

向かいの、自分の部屋を確認したアリシアは。


「うん、一人分位なら平気だし……少し待っててね」


そう言い残すとあっという間の速さで準備を終えてしまう。

口出す暇もなく完成された寝床を見て呆然としてるヒロの足元ではタイショウが、諦めろというように擦り寄ってきた。

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