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住めば都の異世界生活  作者: ヤチマチ
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第2話 黒い獣と少女と俺

隙間から漏れ出す光が顔を照らす。

朦朧としてる頭と、病み上がりのような感覚を感じる体が外から聞こえる人々の喧噪に呼び起こされる。

いつも目覚ましの代わりに響く朝の通学中の小学生の声かなと思い、ゆっくりと瞼を開きながら少しばかり重い体を持ち上げようとして自分のとは異なる匂いが鼻孔をくすぐった。

包み込むような優しい華の香りは違和感を感じさせ、朦朧とした意識を覚ますように促すと次に気づいたのは自分の物ではないベッドの感触。

身に着けている服も記憶にないものだった。

病院の入院時に着る服に似てなくもない形状をしている。

周りを見ると簡素な部屋が視界に映った。

最小限の家具と飾り気のない机の上には見たことのない文字で書かれた本が数冊置かれていた。

どこだろうここ?

眠気が僅かばかり残った頭は部屋の中に唯一の飾りのように立てかけてある古くなった剣を視界に入れるもそのまま素通りしていった。

数度の瞬きを経て、ようやくというようにクリアになった意識が右手にふさふさとしたものが当たるのを感じさせる。

見ると真っ黒な毛玉が転がっていた。


「………犬?」


触ってみると生物特有の熱が手に伝わってきて、癖になるようなその毛並みは無意識に手を動かせられる。

少しばかり上下するその体からは、それが眠っていることを伝えてきた。

モフること数分。

夢中になって撫でていると起こしてしまったらしく、抗議のように生えてきたふさふさのしっぽが右手にベシベシあたる。

しばらく戯れていたが飽きたのかしっぽはおとなしくなり、もぞもぞと動き出した毛玉は今まで埋もれさしていた顔をこちらに振り向かせる。

見たことのない動物だ。

犬とも言えなくはない見た目をしているのだがその耳の形状やしっぽの形が図鑑などでは見たことがないものだった。

キツネにも酷似したその見た目は愛くるしさと端整な顔立ちをしている。

そしてその獣も獣で興味深そうにこちらを観察しているように目を離さない。

見つめ合うこと10数秒。

やがてしびれを切らしたかのように目前の犬?は、ピョンっとベットから飛び降りだすとわずかに空いたドアの隙間から軽快に走り去っていってしまった。

ドアを通る際に一度こちらを振り返りそのしぐさが 来ないの? とでもいうように言っている気がした。

吊られるようにベッドから立ち上がりドアに近づいていくと僅かばかりドアが空いていて、押し広げると先ほどの犬が廊下の先でまっているように座っていた。


「ついてこいってこと?」


予期せぬことの連続で混乱していると、真っ白な犬が今度こそ振り返ることなく近くの階段を駆け下りていく。

数秒固まっていたが意を決っして後を追うことにする。

学生寮を彷彿とさせる廊下を突き進み階段に差し掛かると階下から生活音が聞こえてきた。

人がいることに安堵して階段を下りていった先はそこそこ広い大広間になっている。

左手には調理場らしき空間、そしてカウンターを挟んで大人数用の机と複数の椅子。

反対側にはソファーや絨毯など、寛ぎスペース見たくクッションなどが散乱していた。

全体を見回し自分の世界よりも古めかしい光景にますます混乱がつのる。

もはや思考を放棄し、田舎のおばあちゃん家雰囲気が似てるなぁなんて思っていたら横手から声が来た。


「……もう起きて大丈夫なの?」


こちらを気遣う少女の声が耳に届く。

カウンターの奥から出てくるその容姿を見て最初息を飲んだ。

その少女はおとぎ話の妖精のような見た目と乏しい表情を持ち、手を拭いていたタオルをカウンターに置きながら歩み寄ってくる。

そしてこちらを心配するようにその眉根をよせて問いかけてきた。


「うえっ、あっ、はっ、はい

えーと、そのーお陰様で?」


一息で見惚れていたためよく分からない返答をしてしまったが、少女は安堵したかのように。


「そう…よかった」


っと小さく微笑んだ。

その微笑みに時間を忘れそうになるのもつかの間、少女の身に付けるものを見てギョッとする。

胸囲を守るような胸当てと帯剣を取り付けてるベルト。

首からは青色のペンダントが光ってる。

足元には先程の犬っぽいのがなにか急かすように前脚でベシベシ叩いてる。

ちょっとまっててね。とその獣の頭を撫でる少女に再度注意を向ける。


「あのーここ何処ですか?」


少女の綺麗な白銀の髪に意識を取られながら尋ねると。


「1階だよ?」


へっ? あれ? 質問間違えた? あ、でも場所的には1階だし合ってはいるのかな?

言葉って難しいなーなんて唸っていると。

少女も少女で返答の違いに気づいたのか、あの形に口を開くとすぐに言い直した。


「ごめん、ね……ここはギルド、「月の杯」 この街の数あるギルドのひとつで、私達のお家だよ」


っと補足するように説明が足される。

ギルド、月の杯、街……

頭の上に盛大なはてなマークが浮かんだ。


「あの、すみませんギルドってなんです?」

「? ギルドは、ギルドだよ?」


他に何があるの? というように少女は首を傾げる。

より一層浮かんだはてなマークを振り払うように思考する。

ギルドってゲームの? てことはここはVR? 仮想空間のなか?

すぐに思いつく可能性を上げていくが、己の五感がそれのどれおも否定していく。

手の感触や耳に伝わる聞きなれない喧騒、何よりも今目の前で少女の脚に引っ付いてる先程の動物の感触がこれが現実であることを明確に知らせる。

何故か今ふと高校の友人、山田がよく読んでた本を思い出した。

その本はよくあるライトノベル、異世界に転生した現代人がその稀有な能力と力で世界を救うどこにでもある物語。

山田曰くそういった物語には美少女しかいないらしく、俺も転生してかわいい女の子にチヤホヤされてえなーっと言っていたのは。本人の談。

まさかという思いと、嘘だという思考が同時に駆け巡り震える口が勝手に動き出す。


「……ここ、日本じゃないんですか?」

「……にほん? ごめん、知らない、かな

…どこかの街の名前?」


目が点になり変な形に口が開く。

途方もない困惑と少女の足元、力尽きて寝そべる獣が視界の端に映る。


どうしよう山田……異世界に来ちゃった。

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