第52話
「ねえ、これ買ってもいい?」と巨大な大通りの市場のお店に置いてある小さな人形を指さして、ファニーファニーは言った。
「だめだよ。なんのやくにもたたない」とファニーファニーの着ている大きめのローブを引っ張って、ぼくは言った。
ファニーファニーはぼくに大人しく引っ張られながら、まだ、名残惜しそうな顔をして、お店(屋台)に置いてある小さな人形(どこか異国の民族衣装を着ている女の子のお人形だった)をずっと見ていた。
「どうしてもだめ?」と人ごみのなかを泳ぐようにして移動をして、ようやく落ち着いたところで、ファニーファニーは言った。
「だめ。いろいろと余計なお金がかかって、お財布だって、軽くなっちゃったんだからね」とわざとらしく、お財布(金貨や銀貨。銅貨。宝石。などの入っている布袋)を取り出して、ファニーファニーにぽんぽんと手の上で投げるようにして、見せながらぼくは言った。
(なんとか、森を抜け出して、わざと余計に誰も通らないような険しい道に回り道をして、ファニーファニーを誰にも見つからないように隠しながら)街について、いろいろと余計なお金、がかかったのは、ファニーファニーの『変装』のためだった。
幻の種族、白い月兎のファニーファニーは、とても目立つ。
そして、(ぼくが見て、そうしたように)今、街のギルドの掲示板には幻の種族である白い月兎の目撃情報の紙と、その白い月兎を捕まえるための依頼書がたくさん、(特別依頼の号外として)貼ってあったのだった。
その依頼書は最上級クラスのとても珍しいめったに張り出されない依頼書で、(王家とか、超名門貴族とか、そういうクラスの人たちが出す依頼書だった)その莫大な報酬を求めて、(普通の人生なら、三回くらい買えるくらいの金額だった)白い月兎を探し回っているギルドの冒険者たちはいっぱい、いっぱい、いるはずだった。
そんなところに白い兎の耳をはやした白い月の衣を着ている真っ白な肌の美しい青い目のファニーファニーを、そのままの格好で連れて歩くわけにはいかなかった。
だから、ぼくはファニーファニーに変装をしてもらったのだ。(もちろん、お金はぼくが出して、自分のためのご褒美の服を買うことをあきらめて、変装のためのかわいくない服をわざわざ買って)