第12話 ごはんを一緒に食べる。
ごはんを一緒に食べる。
そのあつあつのケチャプのスパゲッティーは、なんだかとってもきらきらと輝いて見えた。
「あの、これ本当に食べていいんですか?」とごくんと唾を飲み込んであんは言った。
あんは本当にお腹が減っていたから、すぐにでも目の前にあるスパゲッティーが食べたくて食べたくて仕方がなかった。
「食べてもいいよ」と優しい声で先生は言った。
「いいんですか!?」と目をきらきらとさせてあんは言った。
先生が「うん」と言うとあんは「先生。いただきます!」と言ってスパゲッティーを急いで食べ始める。そのもぐもぐと一生懸命になって先生の作った手作りのスパゲッティーを口いっぱいに食べているあんはとってもとっても可愛らしかった。
そんなあんの夢を見た。
なんだかとっても幸せだった。
ある日、あんが先生に「わたし、先生に会えて本当によかったです。本当にうれしいです」と言ってくれたことがあった。
あんにそんなことを言われて、先生はとってもうれしくなった。
「先生もあんちゃんに会えて、すごくうれしいよ」と先生はにっこりと笑って言った。
するとあんも少しだけ照れながら、嬉しそうな顔で笑てくれた。
先生はあんに幸せになってもらいたいって、思った。
あんちゃん。大丈夫かな?
引越し先で、ちゃんとやっているのかな?
今もお友達がいなくて、ひとりぼっちでずっといるのかな?
冬になったら、コートも着ないで、寒いままで、ぶるぶると震えているのかな? とか、そんなことを思った。
あんちゃん。
あんちゃんにまた会いたいな。
あんの舌足らずな言葉使いと、とっても可愛らしい笑顔を思い出しながら、先生は思った。
あんちゃん。
あんちゃんは今、幸せなのかな?
と、あんのいなくなった教室で、いつもはそこにいるはずの今は誰もいなくなった自分の隣のぽっかりとあいてしまった空間にふと目をむけて、先生は思った。(なんだか、そこで今もあんが笑ってくれている気がした)
先生はあんに子供用の赤いコートを貸すだけではなくて、本当にあげたかった。ずっと、着ていてほしかった。でも、先生としてそれはできなかった。そのことは今も間違ってはいなかったと思う。(あんだけひいきはできないし、ほかのみんなもいい子ばかりだったから)
……、なのだけど、でも、どうしても、あげたかったと思ってしまうのだ。
タンスの奥にしまってある子供用の赤いコート(どうしても捨てられなかった)を見るたびに。
あんに赤いコートを着ていてもらいたかったのだ。(真っ赤な顔で笑いながら、寒そうにしているあんに、鼻をすすってもらいたくなかったのだ)




