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7.議論

 この実験は失敗だな……。途中まではある程度手順通りに進んでいだが、まさかネタを仕込むという肝心なところでやらかしてしまうとは。これは別の手法を新しく考えなくてはならない。


 だが、今回学んだ教訓は大きい。

 基本に立ち回ることに気づかされ、それにこの結果はこれはこれで面白い。

 理性を戻すとそれと共に他の面にも影響を及ぼすとは、人の精神構造はそう単純では無いということか。


「先生? ちょっと、聞いてます!? またやったのかを私は聞いているんです!」


 今軽く反省点を纏めているのに耳元で五月蠅いなコイツは……。


「やった? 一体私が何をしたというんだ?」


「だから、また生徒に変なことをですよっ! 微かに変な魔力を感じたから来てみればこんな……どうやったらこんなになるんですか!?」


「ん、聞きたいのか? これはだなーー」


「いえ、聞きたくありません。それよりまずはこの魔術を止めてください!」


「……少しぐらい聞いてくれてもいいんじゃ無いか?」


「結構です。どうせ理解なんて出来ないんで。うっ、それより早く!」 


 ティナは私の話に聞く耳すら持たずに、その激しい見幕で攻め寄ってくる。また面倒になった……。


 妹弟子でもある彼女ーーティナは非常に優秀な魔術師だ。

 この学級の副担任でもある彼女は偶にこの教室の様子を見に来くため、この実験が行われている事を知ってはいるが、その度に口煩く邪魔をして実験を止めようとしてくる。

 どうやら逐一この辺りに流れる魔力の流れを読み取ってこの学級の様子を察知している様だ。


 もちろんこの様な事が行われている実態は表沙汰には出来ないため魔法で隠蔽は行っているが、彼女の優秀さはそれに気付いてしまう。

 その対処策として今回は更に何重にも隠蔽を重ねておいたのだがそれでも駄目だったか……。


 それにどうやら彼女は今も発動しているこの魔術の影響を受けた様子がない。彼女ほどの魔術師になると魔法によってその精神に影響を与えることはかなり難しいからであろう。

 となるとこの術式の戦闘用への転用は難しいか……。折角昨日から徹夜で構築したのに、ゴミ箱へと捨てることになると惜しい気持ちになる。


「ちょっと、先生!」


「あぁ、わかったわかった……」


 どうせこの実験は失敗だ。この状態を維持する必要も無いし、今回は大人しく彼女に従うとしよう。


 教卓まで戻るとスクロールに手を触れ、魔力の流れを止める。

 これでいいかとティナを振り返ると私の後を付いて来ていた彼女は教室を見渡したが、いくら待てどもその様子に変化が起こらないとまたその鋭い視線を向けてくる。


「全然、戻った様子がないですよ?」


「それはそうだ。この魔術は対象の精神に強く干渉するため若干の後遺症が残る。だがそれも時間の問題だから心配するな。小一時間もすれば元通りさ」


「強く干渉って……またそんな魔術を生徒に向かって使ったのですか!?」


「またとは何だ、もちろん今回も安全策は完璧だし問題はないだろう?」


「ありまくりですッ!!」


 ティナは今までで一番大きな声を出すと、今の私の返事に何かのタガが外れたかのような破れかぶれな見幕で続けた。


「こんな強力な魔術見たことありませんよ!? 私が必死に抵抗していたのになんかどんどん侵食してくるし、しかもその対象はこの広範囲とか、なんて恐ろしいものを生徒に使っているんですかッ!!」


「いや、ちゃんとセーブはしてーー」


「前回もそうです! この子達の顔に変な落書きなんてして……にい、貴方は一体生徒達を何だと思っているのですか!?」 


 怒鳴り続けたて疲れたのか、軽く息切れをするとそれ以降は何も言わなくなった。


 何って彼等は被験者だろう、彼女は否定していたが実験に問題など無い。伯母との契約は彼女も知る所であり理解しているはずだ。

 それは生徒の身体に影響を残さないこと、元の人格を崩壊させないこと。

 つまり実験の後に元通りに戻せば良いということだ。それか外面だけそのように取り繕うという方法もある。

 確かに今はまだ魔術の後遺症で親指を吸っている状態だが、それも一時限の終わる頃になると何も無かったかのようにあの五月蠅い光景に戻るだろう。これの一体何処に問題があるんだ?


「…………」


「…………」


 ティナは何も言わずじっと私の様子を眺めていたが、やがて諦めたかのように溜息を漏らすと先程の勢いを何処かへ忘れたかのように静かに言い放つ。


「……もういいです、それなら直接お師匠様に答えを貰いに行きましょう」


「ん? どうしてそこで師匠が出てくるんだ?」


「私が言葉にしても理解してもらえないからです。グウィン先生もお師匠様の言うことなら従う得ざるおえないでしょう?」


「そうだが……。それを聞き入れる俺へのメリットが見当たらないが?」


 そう問い返すと彼女はその返事が来るのをわかっていた様に、悩む間もなく返してきた。


「だったら今後は助手として私を使って下さっていいですよ、先生もその実験とやらを行うのに人手不足でしょうから。それに今後はお師匠様から許可を得た内容なら私は一切口出ししません。どうでしょうか?」


 彼女はチラッと教卓のスクロールを見る。


 うーむ……確かにこれから邪魔されないというのは魅力的な提案だが、別に助手とかいまのところ必要としていないな。

 まあ、そこは来なくていいと言っておけば問題なさそうだ。そう考えると悪くない条件だ。

 師匠からの許可というのも問題ないだろう、なんたって私は彼女の条件というか、制限の元に実験を行っているのだから。


「いいだろう。それで、いつ行くんだ?」


「もちろん今からです」


「今から? この時間は授業中なんだぞ、それに今の生徒達を置いて行くのはーー」


「そんなのはどうでもいいです。今から行きましょう」


 ティナはそうつっぱねると、私を待つことなく廊下へと出て行ってしまった。


 私は別に気にしないが、あんなに生徒達のことを言っていた癖にお前はそれでいいのか……。

 仕方なく彼女を追うために急いで私も教室を出て行く。


 言葉を話す者のいないあの教室では、あと一時間近くはあの指を吸う音だけが鳴り響いているだろう。

 願わくばその光景を誰も見ない様にと彼等のため替わりに祈っておこう。ただ祈るだけだが。


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