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12.根源魔法

 視線を逸らした私へ、まだその必死な目を向けられていることを薄々感じる。

 熱心なのはいいが、どうやら交友関係になると些か熱が上がり過ぎるきらいがあるようだ。


「……話が違う方へ向かったな。私が聞きたかったのは、それがどうして根源魔法(アルケー)に行き着いたのかだ」


 指摘させて自分でも気付いたようだ。その色白の顔を真っ赤に染めながら俯き、か細い声ですみませんと謝る。

 それから赤いまま気を紛らすかのように口を開き、とりあえず何か伝えないと、と急ぐ様に考えた事をそのまま声に出す。


「え、えーっと……そうでした。どうしてそこに行き着いたのかですよねっ?」


「ああ」


「それは……お姉さまに相談した時でした。私の話を聞いた後、お姉さまは少し考えるとその様な事例を以前ちらっと聞いた事があると言いました。どうも四六時中その話を無駄に聞かされて殆ど頭に入らなかったそうですが、内容の主旨は解っていたそうです。そこで、もしかしたらそれは根源魔法(アルケー)が関係しているのではと、手掛かりを貰えて……あとは、先程申し上げた通りです」


 彼女は遠回りしながらも、その経緯をやっと話し終えた。


 確かにアリスとはそのような話をたまにするが……。

 その話をすると途中でもういいですと勝手に終わらせ、その後若干不機嫌になるのがアリスとよくあるパターンだった。

 あろうことか、その話を彼女が理解していなかっただけだとは、地味にショックだ……。

 ……お話ししたいといつも言ってくるのは向こう側だろうに。そこは、まあいいが。


 とりあえず、アリスはどうやらその原因と思しき名だけを伝え、あとは全て私へと丸投げしたようだ。という事はあまり原因についても理解していないのだろう。

 確かにこのような事例は珍しいため、素人の口からは何も言えないのは納得できる。

 すでにその理由はおおよそ判明したが、彼女に教えることはできてもそれを受け止められるかが問題だった。


 私が考え込んでいる間で顔色も元通りになったらしい。じっと不安そうな顔付きで見つめてきている。

 私は彼女に顔を向けると、唐突にある質問をした。


根源魔法(アルケー)がどういったものか、教えてもらえるか?」


 逆にそれを聞き返されて驚いた顔をしていたが、やがてその顔を少し訝しげなものに変えながらもそれに答えた。


「……人それぞれの精神の根にある神聖な領域、そこは他に定めらし運命に抗う、神が与えた自由への力がーー」


「それは神教の定めた見解だ。君の認識は?」


「……えっと、人間が必ず覚える固有の魔法のことです。それは魔術とは異なり、魔法本来の姿として現れます。火とか水とかの強力な魔法として」


 自分なりの考えが纏っていないのだろう、言葉を切りながらその印象を途絶え途絶えに話す。


「それと、それを知ることでその人の魔力の特性が理解できるそうなので、魔術師は弱点を隠すためにそれを秘匿するのが常識です。根源魔法を憶えるのは、大体大人になる前……くらいが普通だとか。あと、とても不明な点が多いのと神聖視もされているので、それを調べる人があまりいないと聞きます。先生みたいな人はかなりの少数派だそうです。他にはーー」


「いや、もう十分だ」


 その答えが段々と抽象的になってきたので、質問を終わらせる。

 彼女はその質問の意図が解らない様で、不満そうにしながらも私が説明するのを待っていた。


 私は彼女との、その認識がズレていることにより同一の理解が得られない事を危惧していたが、それはやはり正解だったらしい。


「根源魔法の認識はおおよそ合ってはいるが、間違っている箇所もいくつかあるな。間違った先入観念が邪魔をして、中々その答えに結びつかなかったのだろう」


「……何処がですか?」


 彼女が不満げにその答えを催促したそうにしているが、我慢をして遠回りする私の話に合わせる。


「まず一つ、根源魔法は人それぞれに必ず現れるが、それは現象として顕著に現れない場合がある。二つ、根源魔法を習得する時期は年齢を問わない。そして三つ、根源魔法は神聖視される様なものではないという事」


 その事実に若干の驚きを露わにして本当か確認してきた。


「でも、私の周りや著名な人の話では、大体同じ時期に憶えたといっていますよ?」


「それは、はっきりと形として発現した事例だろう。実際ではそれ以前からその予兆は現れていて、それを自覚するかどうかの問題だ。それには思春期という精神面も関係しているため時期が重なるのは偶然だが、そこに社会環境が同時に変わる事が影響している。また、貴族には形として現れる場合が多いこともある」


 彼女のその表情は驚きに溢れており、その事実に表情はそのままに呆然としていた。

 そのまま根源魔法の事について説明してもいいんだが、それでは話が終わらないので彼女が望んでいた答えを与えようか…………。


「そして、先程その君が望む答えを私は分かってしまった。おそらく自身では永遠に気付く事はなかっただろう。それは君にとってとても辛い事だが……それでも、その答えを求めるのか?」


 その言葉に彼女は、不安感を滲ませながらも決心を露わにして、緊張した様に頷いた。


「はい……お願いします」


「そうか……」


 私は一つ間を置くと静かに淡々と、有罪を言い渡すが如く伝えた。


「先程君の視線を感じて気づいた、その美しさと麗しさに。それは僅かなものだったが、その瞳を見ているとやがてそれが段々と膨れ上がるのを感じた。それと同時に私の醜くさも……おそらくそれが君の根源魔法だ」


 私はその金色の瞳から目を逸らし、話続けた。


「邪眼と言えばいいのか……メデューサという魔物は知っているだろう? 目が合っただけで石となってしまうという言い伝えの魔物だ。それに近い性質をその目に持っている。君のその目と視線が合っただけでその者の抱く君の偶像(イメージ)を肥大化させて行き、それがその人の虚像(イメージ)として定着する」


「いや、メデューサではなくサキュバスと例えるべきか。おそらく君に視線を向ける輩の多くは下心を持った男だっただろう。それが君と視線を合わせると、その者は君に多大無い魅力を感じ、君にすり寄る。そして、その様子を見た女は君に対して嫉妬し、それが増幅する。その循環だ」


「もちろんそれは良い意味でも効果が出る。君に対して善良な想起(イメージ)を持っていたらそれはプラスとして膨れ上がるが……人は自身が無いものを羨む、それは時としてひどく軽蔑されることだ。君の周りにはたまたまそれが多かった。それだけの……話だ…………」


 静かな泣き声が聞こえた。

 両手でその綺麗な顔を覆い、背中を丸めて身体を小さくして、声が響かない様に小さく彼女は泣いていた。


「……私の所為でこうなったのですか……」


 小さな手から漏れ出たその声は、酷く小さくて脆く、か細かった。


「私の所為で、イヴァナちゃんは傷つき……私の所為で、メアリーさん達に不愉快な思いをさせ……私がここにいた所為で、皆さんに……」


 その一人で泣いている姿は、強い孤独を感じさせられた。


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