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7.当主を取り巻く人々

話が進みません。ホントに困ったな。

 結局彼らの話がまとまることはなかった。


 と言うのも正樹のストレートな言葉に清藍のみならず陸までが思いの他混乱してしまったからだ。その大きな原因の一つは、陸と徹が前述の当主の後継者の件を全く清藍に伝えていなかったからだ。


 事の始まりは彼らの祖母であり親代わりである絢乃が、清藍を正式に術者として認めると宣言したことから。それが約二ヶ月ほど前のことだ。


 当主のその宣言は、今後この地方に異変が起こった場合その原因究明と問題解決のために派遣する人材の中に数えると言う意味であり、戸上の家に存在する『術者帳』に正式に記名されることになる。


 当然、新汰はその話を清藍が既に知っていると思っていた。しかし、戸上の家から連絡が行かなかったのかなにか行き違いがあったのか清藍はその事実を知らなかったのだ。


 藍良を基点とした水上の血筋全体に広がる呪いの穢れにさらされ生き残っていたのはほぼ彼女一人きりだ。例え藍良あねの加護があったにせよ評価されてしかるべきだというのが絢乃の理屈だ。


 絶えてしまった地上ちかみや既に家名すらも消えてしまった雷の筋、そもそも血を保っているかも判らない疾上に比べれば、清藍の血筋はその呪いを受けていたことからも血の濃さ、能力の強さを証明している。


 最初に清藍に降りかかった筈の呪いが、その後他の水上を殺すに至って、水上かれらと清藍たちの血のつながりの濃さを皆に知らしめる事となった。


 清藍と藍良が戸上に引き取られた際に疑問視されていた「血の濃さ」を彼女らの身をもって示したのは何よりの皮肉とも言えた。


 もっとも「血の濃さ」などを気にしているのは、当主という権力に固執している一部の者たちだけであり、その権力を欲しがる者が流布るふした噂に過ぎないのかもしれない。


 女性しか継承権のない戸上家当主の座であるが、全ての人間がそれを欲しているわけでもない。


 陸も徹もそんなものには全く興味がなかったし、徹に至っては戸上の家を出ることを希望していた。


 また、新汰の父親は元々術者としての活動しごとをそれほどしておらず、三男ということもあり、自ら起こした会社が軌道に乗っていることもあって戸上の内情に率先して関わろうとはしていない。


 当然、新汰自身も父親と同じスタンスなのだが、どういうわけか父親にはあまり発現しなかった術者としての才能を子供たちは一様に開花させていた。


 現在戸上で絢乃が認潜在能力アリとした認めた女子おとめは、庶子つまり婚外子を含め五人いるが、うち四人までもがまだ小学生である。術者としての修行もままならない年齢だった。


 残りの一人も小さい時からちやほやされて我がまま放題に育ち、戸上の財産を食いつぶして遊び惚け、満足に学校にも行かず、修行もろくに行っていないような娘だ。


 そんな状況であるから、傍系の徹や藍良・清藍が望んでもいないと言うのに引き合いに出されることになるのだろう。


 十年前ならまだマシだったのかも知れない。絢乃もまだ若く、藍良のほかもに何人か跡継ぎ候補が残っていた。その殆どが水上に類する人間であったが。


 しかし、水の神の浄化に失敗し藍良が自らを供物くもつとして彼の神を封印してから、事態は坂道を転がるように急速に悪い方向に進んで行ったのだ。


 三年程前に絢乃が病に倒れてからは歳以上に老け込み、表の舞台に出てくることすらまれになってしまった。


 絢乃は水の神の浄化の後に清藍を当主候補に指名することを決めていたらしい。そしてもし、彼女が望むのであれば戸上の家のものと婚姻を結んで欲しいと願っていたらしいのだ。


 正樹は陸に向かってこう言った。


『彼女は君との婚姻を承諾したそうだよ――』


 絢乃が何かを言ったわけではないのだろう。けれどこの時期に清藍を戻すと決めた決定が絢乃とうしゅの意思を反映していると思うよと、正樹は言った。


 そんな重要なことを何故正樹が知ってるのかと、()()動揺の薄い徹が問うと彼は無造作に首を傾げて答えた。


「風はどこにでも行けるし、音は風が伝えるものだから」とだけ答えた。


 盗み聞きをしたのかと徹が声を荒げると、その時間には彼は学校に行っていたという。けれど、その場所にいなくてもいつの間にか知っていたと言った。


 突然の予期せぬ昔語りに混乱する徹と清藍。普段冷静な陸や感情を表に出さない清藍の二人ともが混乱するという事態に、少なからず困惑する徹という構図が図らずともできていた。


    ☆


 結局そのあとすぐに杏子きょうこが戻って来て、先程の話は一旦持ち越しにすることになった。


 運転席には杏子に軽いお小言を喰らった新汰が陣取り、当然のように助手席は杏子に譲った。後部座席は前列に陸と正樹、後ろに十織と清藍という並びになった。


 陸と藍良はまだ混乱の最中にいるようで口数が少なく、結果十織と正樹が座席を挟んで前後で話をしていた。


「結局、日上君は姉さんが言った『精霊』は何の属だと思ったの?」


「場所が完全に一致してるか自信はないんですけど、あの場所はとても木の力が強かったと思うので……」


 杏子は最前列である助手席にいるとはいえ、二人とも助手席側に座っているため声を小さめに、更に彼らが神と称するそのモノを杏子にならって『精霊』と呼んでいた。


「でも姉さんが水って言ったっていうのが気になるんだよね。日上君は水属も得意なのかい?」


「いや~~、さっきちょっとフカしちゃいましたけど、やっぱり水属は結構判りにくいです……。だから清藍に来て貰ったっていうのもあるんですよね」


 慣れない敬語に四苦八苦しながら話す様子はなんとなく可愛らしい。


「何にしても、水・土・木なら、災害としてありそうなのは水害か地震かな。あ、噴火っていうのもあるかな?このあたりって原子力発電所とかないよね。またメルトダウン、しかも関東でなんて洒落にならないし……」


「噴火は……薄いと思うんですけど。火の気配があまりないし。発電所はない……です、多分。水力とかならあるかも知れないけど」


「うぅん、そうか。いや……やっぱり助かるよ。僕と新汰二人で……時々姉さんも連れてここ一月程この辺りを調査してたんだけど、はっきりしないでずっとぼんやりしててねぇ」


「私達だけでも多分似たような結果だったかも……知れませんよ。ホントなんかぼんやりけむに巻かれてでもいるような感じだ……ですもん」


「そうか……。それなら良かったよ。俺はさぁ、できないものはしょうがないって思うけど、新汰達はやっぱり比較されるからなんかねぇ。ことこの手の話になると急にナーバスになるよねぇ」


「……確かに、陸も時々複雑そうな顔はしてる、かな。重圧とかもあんのかな」


 斜め前の席でぼんやりしている相棒の後姿を、ちらと盗み見て十織はため息を付いた。その吐息が正樹とかぶったことに気付き、二人は顔を見合わせて少し笑う。


「まあでもさ、親達のこととか、跡取りのこととかそういうの抜きに仲良くできるならホントはソレが一番なんだけど、あの人たちはなんでそれができないんかねぇ。金があって才能に溢れてるのにあそこの家の人間はなんだか幸せそうじゃないよねぇ」


 正樹の言うあの人たちが誰なのかは判らなかったが、彼の言おうとしている事については大いに賛同したい気分だった。


 どちらにしても災厄の原因の究明にはまだもう少し、時間が必要なようだった。起こるか起こらないかも含めて――。

H30-09-27 一部訂正・加筆。『術者帳』設定加筆。

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