6.災厄についての考察
本当は昨日のうちに投稿したかったのですができませんでした。残念です(泣)
本日は『中秋の名月』ですね。実は、十織の力が最大になるのはこの日です。本来お山の水の神様【アーガ】様の討伐はこの日に行う予定でした。もっともこの日に討伐したとしたら【アーガ】様は消滅されていたかもしれませんが。
リアルではこの日は色々な神事が行われるそうで、取材もかねて地元神社の「お神楽」を見学に行こうと思っております。生まれて初めてですのでとても楽しみです。
最近「御朱印」集めが流行っているのですがご存知でしょうか。数年前から友人の何人かがはまっていて、私も神社は好きなので一緒に神社めぐりをしていたのですが、御朱印は集めていませんでした。しかし、このほどとうとう御朱印デビューしてしまいました。orz(御朱印は神社だけでなく寺院でもいただけるそうです)
昨日は「うなぎの御朱印」をいただいてきました。珍しい御朱印をお持ちのかたいらっしゃったらぜひ教えていただければ嬉しいです(^o^)
微妙な居心地の悪さを感じながら十織は新汰を見た。新汰はその視線に気付き、困ったような誇ったような感情の入り混じった表情で微笑んだ。
それから急に上着のポケットを漁り、更に持って来た鞄をごそごそしだした。小さな声でまずいと呟くと隣にきちんと正座している恋人を見下ろした。正座をしていても、彼女は新汰よりだいぶ小さい。
「杏子ごめん俺、車に財布忘れてきちゃった。ちょっと取って来てくれないかな?」
「え~?ほんとに~?」
素直に立ち上がり、しょうがないなぁなどと呟きながら、新汰の逆の側に座る正樹から車の鍵を預かると、杏子はパタパタと店を出て行く。
彼女の姿が完全に店から消え、入り口のドアから出て行くのを確認すると、新汰はすっと鞄から自分の財布を見せびらかすように出し卓子の上に置いた。
「杏子姉さんかわいそぅに。駐車場結構遠いよ」
判っていたと言いた気げに正樹が視線だけを杏子へ向けてひとりごちる。
正樹の言葉に他の三人もすぐに彼女を人払いしたのだと気付いた。
「二十分くらいかな。方向音痴だからもうちょっとかかるかも。車の中で見付からなければ来た道まで探すだろうし」
「次の運転、新汰な~。オレご飯食べて眠いし」
「何でだよ。まだ1時間しか運転してないだろう」
「姉さんに代わってお仕置きよ?」
「古いわっ。……時間あんまないんだから茶化すなよ」
どこかで聞いた事があるフレーズだったがすぐには出てこなかった。結構古いアニメか何かなのだろうと、勝手に納得して十織は口を開いた。
「戸上さん、彼女ってもしかしてかなりの潜在能力があったりするんですか?」
「多分ね。僕も知り合ったのは大学の時だから。戸上とは全く関係してないと思うんだけど、会った時からあんな感じでね」
「本物だと思うよ。訓練したらオレより上行くかもねぇ。宗家に教えたら大変なことになるかもって思ってたから」
空になったお膳を除け、割り箸の袋で何かを折りながら、正樹が受けるように付け足した。
「知れたら君のお父さんがまた騒ぎ出すだろうね、陸君。新しい花嫁候補になるかもよ」
「……だから僕たちに協力要請してきたんですね……」
目を閉じ眉間の辺りを強く揉みながら陸がため息を付く。
当主にはなれなくても、家長として権力を振るうことならば男でもできる。
陸の両親は彼らの長子であり、文武両道にして術者としての能力も申し分のない陸を、なんとか名実共に戸上の跡継ぎにしようと画策しているのだ。
それには、当主となった女性を彼の嫁に据えるのが一番の近道だと信じている。本人達の気持ちなどかけらも考えてはいない。
「俺はその方が楽だけどな」
人の悪い徹の時の表情と言葉遣いで、十織がにやりと笑った。陸の嫁のような扱いをしてくる一部の人間たちに、彼女も相当嫌気がさしているのだ。
「わー、性格悪そうだねぇ。十織ちゃーん」
普段は十織の時も徹の時も「日上君」としか呼ばない新汰が嫌味のように返した。が、すぐに気を取り直していつもの穏やかな口調に戻ると話を続けた。
その変わり身の速さに言い返そうとした十織は黙るほかない。
「日上君の術力については僕たちも良く判ってるつもりだったけれどね、今回は杏子が付いて来るって聞かなくてさ。仕事や何やかんやで長期間いなくなると時々ああいうこと言い出すんだよ。それに今回は感覚の鋭い術者が多い方がいいだろうと言うのもあってね。僕や正樹じゃ君達には太刀打ちもできないからね」
時間を惜しむように少し早口になって捲し立てる。大きくなってしまった自分の声に、目線だけで周囲を窺いながらお茶を口に運んだ。
「いや、僕は。突出しているのは彼女たち二人ですから」
「謙遜も甚だしいと嫌味だよ」
小さいがはっとする程キツい声音が新汰から発せられる。
「……と言いたいところだけれど、君は本気でそう思っているみたいだからねぇ」
嘆息はけれどほんのわずかの間だけだ。
「今回、感じるのは県の北西、属性は地か水、それに類する木辺りかなあと思うけれど、みんなはどう思う?」
「つまりこの辺りで大きな地震が起こりそうって事ですか?」
清藍は初夏に起きた大学の山崩れを思い出していた。夜の間に起きた山崩れだったので、大学にも近所の公園や美術館、そして住宅地にもたまたま人がいなかったため死亡者はでなかったが、それでも建物や道路などに被害が出なかったわけではない。
大学では水道管などに被害が出て一時は構内カフェも、近所のショッピングモールも営業できない時期があったくらいだ。
まだ三ヶ月ほどしか経っていないということもあって、彼女の心に生々しく刻み込まれている。
「まぁまぁ、えっと水上さんだっけ。まだ結論を急ぐ時でもないから」
糸目を清藍に向けて宥める様に正樹が言い、今度は左右の二人に順に目線を合わせて問いかける。
「僕は風使いだから、風の属の動向には鋭いけれど、土・水はからっきしでね。木の属ならは少しはマシって程度。だけど、この辺りの風が淀んでいるのは判るし、さっきのは木の属モノだと思う。けれど杏子の言うとおりなら他の属のモノも関連してるかも知れない」
「木の属は……水と土の掛け合わせみたいなもんじゃないの?木の属が判るなら土と水も判りそうなもんだけど」
単純な疑問の声を上げた十織の顔を見てため息を付くのは新汰だ。正樹と顔を見合わせてから答える。
「ほとんどの属性に適正のある人間には判らないのかも知れないけれど、普通人間の持つ属性には向き不向きっていうものがあるんだよ。判るかい?徹君?いや、いまはひー君だったね」
「ひーってあんたがいうなっ」
珍しく声を荒げて十織は新汰に食って掛かる。十織の抗議など聞こえないフリで新汰は続ける。新汰も少しムキになっているのか、少々語調が強い。
「そうだった、君は向き不向きどころか相克すらないんだったね。あり得ないよ、ホント……」
相克とは対立するものが互いに相手に勝とうと争うことをいうが、この場合弱点というか、攻撃を受けた時に他の属性と比べて特に受けるダメージの大きい属性のことを指して言っているようだ。
望んでもそうそう得られるものではない『相克』ナシの体質――。つまり、十織には弱点の属性がない。自分で使用することはできない属性もありはするが、日上家の者が本来苦手とする水の属性すら彼女に向けられたダメージは通常以下だ。場合によっては他の属性同様に半減する。
「と言うか相克ナシなら、戸上の人間も同じなんじゃないのですか?」
相手の強い語調に挑発されて、こちらも僅かに声を荒げて新汰を軽く睨んで言い返す。
「建前ではね。でも、戸上でも相剋なしなんてもうそんなに残ってないと思う。僕は風の属性が苦手だしね。ダメージは倍加まではしないけど。正樹を相方にした理由の一つはそこにあると言ってもいい」
新汰はちらと正樹に視線を走らせた。正樹は話を聞いているのかいないのか。残っているポテトサラダをつついている。
「ケンカすんなよ、ひー。子供じゃないんだからサ」
軽く陸に窘められ、口をへの字にしながら新汰を睨んでいた目線を陸に向け、更に清藍から正樹へと彷徨わせてからため息を付いた。
「すみません……」
「……いや、俺も大人気なくてスマン。陸君だって相克くらいさすがにあるだろう?」
「僕は土かな。僕も倍加はしないけど。一応、護符も作っているしね」
護符を作っていると言うのは初耳だった。そうなのか?と十織は驚いた顔を再度相棒に向け直す。
「……だから、お前に言いたくなかったんだ。バカにされそうでさ」
土の属がダメなら今後はその守護も入れるようにすると言う主旨の台詞を言おうとした時に、新汰がかぶせるように言ってきた。
「護符なら僕が作ったのを後であげるよ。僕の得意属性は土だからね」
「「あ、そういえば」」
陸と十織の声が重なる。新汰の得意属性を忘れていたようだ。
「土は水にも親和性が高いから、木の属にもある程度精通している人が多いよね。残念ながら僕は攻撃術の方はあまり強くないけれど守護なら任せてくれていいよ」
「すごいのね、杏子さんも含めてここにいる人全員でほぼ弱点をカバーできるのですね」
感嘆のため息とともに清藍が呟いた。
「君も相当凄い筈なんだけどね」「せいらもかなりのモノなんだけど」「せいらも本当はすごい力があるんだよ」
三人の言葉はほぼ同時に発せられた。正樹だけがいつの間にか取って来たポテトサラダのお代わりをのんきにつついている。
清藍は三人の口からほぼ同じ意味の言葉が発せられたことに驚いて少しの間硬直していた。
意外なところで凍り付いたその場に、呆れたような表情で正樹が新汰の頭を叩いた。
「……っててっ!」
新汰が抗議の声を上げながら相棒を睨んだ。対する正樹は珍しくその細い目を大きく見開いて、新汰を見返していた。
そういえばと清藍は改めて正樹を見た。彼は清藍たち三人の前に座って話をしていたと言うのに今まで一度も目線があった事がなかった気がする。
長いまつげに隠されて今まで気付けなかったが、その瞳は少し灰色がかった薄い茶色をしていた。砂色とでもいうのだろうか、不思議な色の光を放つその瞳に思わず見入ってしまう。
「まあ、時間がないから雑談はおいといて。……あー、うーん」
正樹はため息を一つ付く。本来は僕の役目じゃないのにと言うような意味の言葉を吐き出し、静かに清藍を見た。もしかしたら人見知りが激しいタイプなのかも知れない。
「だからね。俺はこういう説明は苦手だから、簡潔に言っちゃうけど、今君は絢乃さんの跡継ぎ候補第一位なんだよ」
H30-09-25 誤字訂正・一部訂正加筆 新汰が言ってる台詞なのに陸になってたり汗)
H30-10-14 一部落丁訂正