54.術者の帰還②
今日も病院に行って来ました。……今更なんだけど、ここ2年くらいずっと胃腸炎だったらしいんだ。一週間くらい薬飲んでも治らないよね……。いつも痛かったからそういうもんなんだと思って生活してはや2年。
早く病院行けよって話ですよ。ただの便秘で痛いんだと思ってたんだヨーー(泣)
ゆっくりと歩を進めながら、正樹と徹は正樹のスマフォから流れてくる新汰の声に耳を傾けた。
「こっちは日上君たちと合流できたよ。……何とか日上君に起きてもらって、水上さん背負って移動中」
風の神との戦闘があったことをどう説明しようか迷い、正樹は結局先送りにした。
『みんな無事なのか?背負っているって言うことは、水上さんは怪我でもしているのか?』
『せいらが怪我?!徹!お前が付いていながら!!』
スマフォの向こうで声を荒げているのは陸だろう。
『陸君落ち着いて……』
「面目ねぇ……」
徹のしょんぼりとした声音に、スマフォの向こうで激高していたらしい陸の声も一時的に納まる。
「普通に考えればあん時は踏ん張って、障壁を作ってその中にせいらを誘導するべきだったんだ。いつもならそうしてた筈なのに何でか焦ってて……」
珍しく憔悴しきった相方の声に流石に良心が咎めたのだろうか、返す言葉を見付けられずに陸も絶句する。
『徹……』
『まあ、取り合えず。水上さんの容体を教えてくれ。まだ交通機関がマヒしていて、そっちに迎えに行くことは難しそうなんだ。救急要請した方がいいか?』
取り成すように新汰は話題を変えた。清藍の容態が心配なのも本音だろう。彼女は先頭に備えて鍛えてもいなければ実戦にも慣れていない。
「意識が戻らないんだ。一応、サクリファイスは掛けたんだけど……」
『サクリファイス?』「サクリファイス?」
スマフォの向こうとこちらで同時に、陸と徹が声を上げた。
「ああ、もしかしてさっきのあれ?」
徹はすぐに思い付いたらしく、視線を正樹に向けて問い掛ける。というよりは確認に近い。
「うん……自分の体力削って人に渡す術なんだけど、前例がないわけじゃないんだろうけど……、調べても文献が見付からなくて術名判らないから、取り合えずゲームやなんかでありそうな名前で呼んでたんだ」
『あぁ、なるほど……。すごいね。新汰兄さんたちって二人とも回復術使えるんですね』
「俺ら両方ともそっちはダメだもんなぁ」
『戦闘中に使えない回復と、自分の体力削る回復じゃ両方微妙だけれどね』
新汰は内心であれだけの戦闘力に回復術まで持っていたらバケモノだ、と思ったが敢えて口に出して波風を立てる必要もないだろう。
「そうなんだよね。俺ら攻撃の方も微妙だし。まあ、この仕事を請け負う時は二人で行くことはないけど」
『取り合えず、今は水上さんを病院連れて行かないと。陸君も日上君も一応診てもらった方がいいし』
「えっ、俺医者嫌い……」
小さくぼやく声が聞えたが、正樹は聞こえないふりして新汰に答える。
「なら、病院で合流がいいか。119番に連絡したとして、今だとすぐに救急車回してもらえるかどうか怪しいなぁ。こっちから出向いちゃった方が早いか?」
『多分、その方が早いな。そのあたりに近くに総合病院がある筈なんだ。一~二キロくらいは歩くかもしれないけど。正樹に連絡する前に地図アプリで調べたんだ。そこに駆け込む方が早いんじゃないかと思ってさ。番号SNSで送るから連絡してみて』
「判った。取り敢えず向いながら電話してみる」
『俺達も向かうから』
「そっちはまだ、百貨店の中?」
『いや、ちょっと北の方に移動してる。こっちの方が遥かに遠いから、到着は一時間以上遅れると思う。車動かせればいいんだけどね……」
「ok。無理はしないで。じゃ後でな」
電話を切り徹はそまま正樹のスマフォを操作して地図アプリを起動させた。手持ち無沙汰な正樹は目視で周囲に病院らしき建物が見えないか見渡す。
「これかな……」
地図アプリを操作して徹が当たりをつける。その間にもSNSの着信を知らせるコール音がした。
正樹は単線の線路を超えた北東の方向に赤茶色の四〜五階建ての建物があるのを見付けた。
「日上くんあの建物かな?」
視線だけで建物を指して正樹が問いかける。
徹はSNSから電話番号を抽出してコールしながら、指された方へ顔を向けた。
「あぁ……それっぽいっすね。……あ、もしもし。すみません、急患なんですけど今って受け入れokですか?」
徹はテキパキとした口調で状況説明をしていく。
正樹は疲れた出たのか、その遣り取りを聞きながら頭がぼんやりとしていくのを感じていた。
考えてみればこれ程神格の高い神と対峙したのは初めてだった。よく今生きていると感心する。対する徹は洪水に巻き込まれながらまだ余力がある様子だ。
これは少し心を入れ替えて鍛え直さないといけないかも知れない。まだ土の神の依頼を遂行出来たわけではないのだから。せめてもう少しだけでも戦闘で役に立てるようにならないと本当に足手纏いなだけになってしまう。
「……はい。……はい。受け入れは可能なんですね?救急搬送は難しい……そうですか。骨折などはしていないと思うのでなんとか自力でそちらへ向かいますので……あー、保険証とかは持って来ていないです。身分証も洪水で流されてしまって……。判りました。よろしくお願いします」
スマフォを操作し通信を切ると、徹は正樹の方へ顔を向けた。
「正樹さん、やっぱり救急車の手配は難しいそうです……大丈夫ですか?」
糸目のせいで表情のわかりにくい正樹だが、徹は彼がぼんやりしていたのに気付いたらしくその声音は心配そうだ。
「……え……あー、ごめん何?」
「大丈夫っすか?」
「あー、うん。体の方は何とか。風の神様と対峙してよく生きてたなーって今頃考えちゃってね」
「相当神格の高い神様でしたからね。崎宮のお山の水の神より上かも知れないっすよ」
「ごめんね。早く彼女を医者に見せなきゃね。場所は判った?」
「あ、はい。やっぱ、あれっぽいです。行きましょう」
「ok。水上さん頑張ってね。もうすぐ病院に着くから」
二人はボロボロの体に鞭打って道を急いだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆
新汰と陸が病院についた時には、清藍は勿論のこと、徹と正樹も入院を言い渡され病室のベットの上にいた。
新汰達が病室に来た時には泥の様な眠りについていた。投与された薬品の効果も当然あるだろう。しかし、それ以上に疲労していたのだろう。他の誰に理解されなくとも新汰と陸はそれが理解できた。
「……まだ起こさないでおきましょうか」
「そうだね。……陸君もすぐに診察を受けて来るんだ。彼女の付き添いは俺がしておくから」
陸は渋い顔をしたが、新汰は譲るつもりはなかった。無理矢理にでも診察させるつもりの新汰に根負けして陸も診察を受けに行く。
結局、陸も入院を言い渡され五人中四人までが長期静養を言い渡されることとなり、不本意ながらしばらく調査は中断を余儀なくされた。
H30-02-23 一部追加




