50.憤りの理由は①
何とか、正樹君が死なないでいいように話をでっちあげることができました。
出たばっかりの新キャラ殺しちゃったらまた新しいキャラの設定考えるの大変なんだ……ZE。
というか、まだ本当は設定ちゃんと練らないといけない部分は多いのですが……設定ばっかりしっかり作りこんでしまうと自由度がなくなって後々自分の首を絞めることになったり……。難しいところです。
小さな呻き声が聞こえた。今、木に叩きつけられた正樹の声ではない。
風の御神がずっと意識を向けていた方だ。
がっしりとした体にボサボサの頭が特徴的な青年が、頭を振りながら地面に片膝を付け腕で体を支えて起き上がろうとしているのが見えた。
力が尽き掛けていたとしてもその瞳はまだ死んでいない。それの瞳が表すように強い光を宿していた。
「……黒幕はあんたか……」
むしろギラギラと言っていい程に瞳の奥に剣呑な光をたたえて、陸はその焦茶色の瞳で風の御神を睨んでいる。
「……俺とせいらがいなくなれば喜ぶ奴がいるよな。そいつらの差し金か……?」
先ほどまで死線をさ迷っていたせいだろうか。完全に目が座っている。
”……何を言っている?”
人には全く感情の読み取れない無表情で風の御神が問い返す。
「簡単に答えるわけねえか。……いいぜ、そっちがその気ならな!」
立ち上がり声と共に、徹の周りに陽炎が舞い上がった。彼の操る炎の気で周囲の水分が蒸発し始め陽炎のように立ち昇っているのだ。
消耗しきっている状態のせいか剣は出すことはせず、自らの拳に熱を纏わせて風の御神を睨み据えた。
徹はまだ意識を取り戻したばかりで、その呼吸は荒く立っているだけでも辛そうに見えた。しかし、追い詰められた獣の様に鬼気迫る気迫があった。
その激情のままに徹は風の御神に肉薄し、拳を叩きつけた。
風の御神は軽く前へ翳した手だけで、その勢いを受け止める。
徹は動きを止めることをせず、その勢いを利用して回し蹴りの体制へと移行する。
頭を確実に捉え、刈り取るつもりの一撃だ。
完全に頭に血が登っているのだろう。人であれば命さえ奪いかねない威力をもっていた。
その右からの衝撃にも人ならざる存在は軽くその手を翳すだけでしのいでみせたのだ。
崩れた体勢を建て直すために一度徹は後ろへ跳んだ。
風の御神を睨む徹の視界で、目の前の敵に躊躇うような動揺がはしった。
再び徹が神に向かい攻撃を仕掛ける。
間をずらし動きを変えて仕掛けるも結果は先程と変わらない。
三度両者は睨みあった。正確を期すならば睨んでいるのは徹のみで、風の御神の表情の変化はわずかでしかないが。
“その娘の為か……?“
氷の瞳に確かな痛みを映して彼の神が問い掛けた。
何故かその眼差しにその声なき声に悲痛さを感じ取り、徹はわずかの間敵と見定めた相手を見詰め直した。
“何故、散ると知って向かい来る?その後ろの男もそうだ……“
するりと長い衣の下から伸ばされた美しい指で、清藍の倒れている場所から少し斜め前の木の下で踞ったままの正樹を指差す。
それで初めて正樹の存在に気付いた徹は驚いて、声を上げた。何か大きな音が聞こえたことは知っていたが、最初に目に入った風の神に気を取られていて周囲を見渡す余裕すらなかったのだ。
「正樹さん!?」
徹の声が届いたのか、何かの別の力が働いたのか小さく呻いて正樹は顔を上げた。
口の端から流れ出ている血を見て、徹は直前に怒っていたことを想像し歯噛みをする。
“心配ない。何もせず去れば命は奪わぬと誓約した“
「狙いはおれたちだけってことか?!」
“そうだ。無為に命を散らすつもりはない“
「無為にだと……?俺達には殺される理由があるって言うのか……?」
その問いに風の御神は切なそうに後ろを振り返った。紙の目線の先には土の御神の住まう山が、そして陸と新汰がいる丘がある。
“あの方の嘆きをお慰めするためにだ“
「……土の御神……」
風の御神の視線の先にある山が何か徹も直ぐにそれと気付いた。
「木の御神が不在の理由が俺たちにあるって言いたいのか……」
“汝らが散ればすべては元の通りに。我が主はそれを待つと言われた。そのわずかな時間を待てぬのは我のみよ……“
徹は霊山、雄斗袴山にまつわる神話を思い出した。山は大きく三つの頂上がありその一つ一つに神が祭られている。
主神、大己貴命とその妻とされる、田心姫命そしてその御子、味耜高彦根命という親子の神様だ。
大己貴命は別称で、国津神の中で最高神とされている大国主命という神と同じだとされている。
あの土の神は、大己貴命の眷属神で間違いないだろう。ということは、この風の神は味耜高彦根命の眷属神なのではないかと推測したのだ。
行方の知れなくなった母を思い、それを助けるために罪を犯そうとするその姿はまるで人と変わらない。表情の全くないこの神にも労りや優しさといった人間らしい感情があるのだと知り徹は言葉を失った。
「……もう少し……、お待ちいただけないのでしょうか……?」
背を打ち付けられた痛みを堪え、正樹がか細い声で言った。苦しそうに吐き出されたその言葉は懇願するように風の神と徹の耳を打った。
「まだ、彼らは二十年くらいしか生きていないのです。確かに、二十年は長い……。けれど人の生きる時間としては短すぎます、どうか……どうか、もう少しだけ……」
そこまで言って正樹は激しくせき込んだ。背の痛みで呼吸すらもままならない状態で一気に言葉を発したためにむせたのだ。途端に背に更に激しい痛みが走り、ぐうっと小さく声を漏らし体を折り曲げる。
風の神は正樹の顔を見て、次いで徹の方に視線を移した。さらに後ろで倒れたままの清藍を見る。目を閉じ、考え込む様に、迷う様に立ち尽くしている。




