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49.闇色の導き手②

 猫はすきですか?私は大好きです。


 いやいやいやいや、こんなあからさまに怪しい猫はいやですけど。そろそろ正樹君たちの時も動き出さないといけません。次は、正樹君の出番です、多分。生きていればですが(笑)

 小さな黒猫は誘う様に二人の前を走っている。


 慌てて追いかけたために折角用意した合羽も着れずじまいであったが、幸い雨はもう小雨と言っていい程度になっていた。


「……これ、思わず追い駆けてきましたけど、あからさまに怪しくないですか」


 追い駆けながら息一つ乱さずに陸が新汰に話しかけてくる。


 ちらと隣を走る陸の顔を見て、その表情も平静と何ら変わっていないのを知り、心の中で舌打ちをしてから新汰は答えた。


「……た……しかに、そうだけど。このま……ま、見逃す……のも……」


 こちらは既に息が上がっている。まだ走るのには支障がない程度ではあったが、これが長時間となるとまずいかもしれない。


「まあ、そうですね」


 相槌を打ってから陸は口の中で小さく何かを唱えた。


 どこからか一条の風が吹き抜け、それが新汰を取り巻くように吹いたかと思うと、急に新汰は自らの体が軽くなったのを感じた。


「?!」


「お返し、ですよ。さっき、倒れてた俺に回復術を使ってくれたんでしょう?」


「……気づいてたのか」


「まあ……」


 体が楽になったことで呼吸も安定し、話すのに支障がなくなったようだ。


「回復術は苦手でね。……修行不足かな。ロスが大きくて戦闘中には使えないんだ。ああいう時くらいにしか使い道がないから使ったまでだよ」


「それでも助かりました。ありがとうございます」


「お互い様、だろ。術者はそもそも単独行動は許されていないし」


 昔からそうだったかどうかは、新汰達も知らない。けれど、複数の術者が助け合うことで、実力以上の力を発揮できるというのが現当主・綾乃の持論だった。


 かつてのように、冥の属性に代表される強力な力を存分に行使できるなら話は別かも知れないが、現在は、複数の属性を操れる人間は戸上にもわずかしか残っていない。


 その残り僅かな存在ですら、一つの主な属性とそれを補助するような意味合いで他の属性を僅かに行使できるにすぎず、陸や徹のように二つ以上の属性を不自由なく行使できる術者はもう希なのだ。


 黒猫はやがて小さな林の間を縫うように走る獣道の前に辿り着き、一度後ろを振り返った。まるで陸と新汰が付いてきているのを確認するかのように。


 茶色がかった緑の瞳が値踏みするように二人を見、すぐに興味を失ったように目を逸らした。


「……闇の……気?」


 黒猫から微かに漂う気配に鋭く気付いた陸が思わず声を漏らした。


「え?」


 陸の呟きに彼の顔を振り返った新汰は、眉根をきつく寄せた顔をした従兄弟の横顔を見ることになった。


 黒猫は後ろなど構わずどんどん先を行ってしまう。先ほどの様に走っているわけではないが、このまま立ち止まっていてはいずれ見失ってしまうだろう。


 二人は疑問を抱えたまま無言で猫の後を追う。


 道は獣道と言って差し支えない、何度も下草を踏みつけるうちに自然に地面が固まり下草が生えなくなった程度のもので、小枝などが張り出しており、獣たちよりも遥かに上背がある人には歩きやすいものではなかった。


「闇の気ってどういうこと……」


 足元に気をつけながらの道程に自然と会話もなくなっていたが、道行に慣れたころに新汰が問いかけた。


「判りません。さっき近付いた時にほんの少しだけ気配を感じただけなんで」


「まさか……この件、闇使いが絡んでるとか、ないよな」


「さあ、今までその気配はありませんでしたけど。大体彼らは、婆様の許しなしに動くことなんてあるとは思えませんけど……」


「逆を言えば婆様が命じればその命令通りに動く人たちだろ。殺しですら……」


「婆様が!そんなことを命じる事なんてありえません!!」


 珍しく声を荒げ、陸が新汰の声にかぶせてきた。


 すぐにハッとして顔を新汰に向け小さく謝罪の言葉をのべる陸。少しばつの悪そうな顔になっていた。


「大体、木の御神の件で調査を命じたのは婆様ですよ。解決させる気がないなら最初から命じたりしないでしょう?」


「……確かに」


 けれど最初にこの件に気づいたのは新汰で、それを報告したからこそこの調査が始まったのだ。


 そもそも、自分が気付いた異変に戸上の当主が気付かないなどという事があるのか?その一点については、新汰は最初から疑問に思っていたところだった。


 けれど、当主の一族に対する思いは知らないわけでもなかった。


 綾乃は戸上に関わる全ての術者を自分の子の様に、孫の様に思っている。それは彼自身も心から感じる感想だった。


 やがて獣道が終わり、二人の目の前には白川の流れを見渡せる田園風景が広がった。


 大して険しい登り路ではなかったはずだが、気付くと想像以上に高い場所にいるようだ。遠くに線路と小さな駅、駅から市街へ続く道路が見える。その先には先ほどまで彼らが休んでいたデパートの建物がある筈だ。


 白川の氾濫状況もその場所からは一目で見ることができた。


「すげ……」


 その景色と洪水を起こした川の迫力に、ひと時見惚れて二人は言葉を失っている。


 小さく猫の鳴く声で二人はやっと視線を足元に向けることができた。


 黒猫は彼等から逃げることもなく、足元の小さな石にじゃれるように首をこすりつけている。ごろごろと小さな声まで聞こえてくる。


 新汰は体をかがめて、そっと猫の頭に手を置いてみた。


 慣れているのか子猫は、新汰のその手に自分の頭をこすりつけるような仕種をしてくる。反射的に黒猫の頭を撫でる。


 陸の言った闇の気は新汰には感じられない。


 無言で陸に顔を向けてみるが、目線があった陸も軽く首を振る。


 気を取り直して新汰が周囲を確認しようと顔を上げると、黒猫はするりと正樹の手をすり抜けて、彼等から辛うじて手の届かない辺りに移動した。


 短いしっぽを挨拶の様にふるふると数度降ると茂みの中に消えてしまった。


「いっちゃった……な」


「茂みの中じゃ流石に追えません、ね」


 二人はきょろきょろと周囲を見渡してみた。


「土の気が強いようだけど、特に異変は――」


 言いかけたところで、新汰は猫がじゃれていた小さな石柱を思い出し、なんとはなしにそれに触れてみた。


「っっ!!」


 バチッっと音がした気がした。


 衝撃と痛みに慌てて手を放す。


「どうしたんですか?!」


 別の方向を見ていたらしい陸が、驚いて新汰の方に顔を向ける。


 もともと、二人が動き回るほどの広さもない場所だ。すぐに陸もその石柱に気いた。


「結界、だと思う。それも相当強力な」


「……なんでこんなとこに?」


「考えるまでもないんじゃないか」


「……まさかこれが?」


 二人は顔を見合わせそして再びその何の変哲もなさそうな石柱を見下ろした。

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