5.秋の観光地にて
遅くなってすみません。何とか2日に1回は投稿するように心がけているのですがそれでもギリギリです。
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すみません寝ます。
お参りを終え少し早い昼食を取るために、一行は境内の外に出た。
飲食店は彼らの想像以上に沢山あったが、そのどれもが観光地価格で、大学構内の格安カフェかファミレスの常連である彼らにはちょっと驚くような値段設定だった。
「ランチで二千円からかぁ。結構するね」
「確かに美味しそうだけどね……」
「値段の割には量少ないし」
入り口の食品サンプルを見ながら、陸、清藍、十織の三人は口々に呟いて顔を見合わせた。
「まあ確かに街中でもランチ二千円は高いな。他の店にしようよ」
男性にしては少し高い声で正樹が皆を促す。彼の糸目はどこを見ているのか判りにくかったが、一緒に食品サンプルの入ったショーケースを覗いているのは判っている。杏子は新汰の顔を見てどうするか様子を伺っている。
「いいんじゃない、ここで。たまの旅行なんだから贅沢しようよ」
新汰がそう言うと杏子が嬉しそうに笑った。杏子はこのお店で食べたかったようだ。他の面々は、少し顔を見合わせたが、杏子の嬉しそうな顔を見て付き合う事にした。
その店は蕎麦をメインにした和食割烹風のお店で、メインのお膳の他に惣菜バイキングが付いていた。
昼のランチ膳は五種類の中から選ぶ事ができ、揚げ物ランチが二種類、豆腐ランチが一種類、蕎麦ランチが二種類あるようだった。
めいめいに悩みながらメニューを決め注文をする。お膳が来るまでの間にも惣菜を食べる事ができるので十織を含む女性陣は野菜や豆腐中心のお惣菜を多く選んだ。男性陣は生ハムや卵を使った惣菜を、新汰に至っては漬物のみしか取らなかった。
「徹、そんなに野菜好きだった?」
清藍が知っているのはカフェで炭水化物を馬鹿食いする徹のイメージだけだ。
「ひーの時は、結構食べるよね。そういえば」
なんとなく声を潜めて清藍と陸が十織に尋ねる。
「ひー?」
陸は徹を呼ぶ時は、”とおる”と発音していた筈だ。清藍は記憶を手繰りながら思い、すぐに姿の違う時で呼び方を変えているのだと気付いた。
「あぁ、そうか。確かに字は違うけど発音は一緒だもんね」
「多分正確には違うんだろうけど、良く判らなくてね」
「でも何かもったいないね。綺麗な名前なのに」
「っま、でもどっちも母親が付けた名前だから」
どういう表情をしていいか判らなくて、ぎこちない笑みを浮かべながら、十織は惣菜を口に運ぶ。
「そっかぁ……」
徹、十織、二つの名前を交互に発音に気を付けながらと呟いている清藍。取って来たばかりの惣菜にまだ手も付けていない。
対する杏子は取ってきた惣菜のお皿を自分と新汰の中間の位置に置き少しずつ惣菜を口にする。しかし食べる量はどれも少量ですぐに手を止めてしまう。残った惣菜を新汰がパクパクと口に運んでいく。
なるほど、新汰が自分の分の惣菜を取らなかったのは、少食な杏子のためらしい。たいした会話を交わさずとも暗黙の了解でそれができる仲睦まじさが感じられる。
正樹は気にせず自分の惣菜を平らげポテトサラダやかぼちゃのサラダなどをお変わりしていた。
そうこうするうちにランチのお膳が運ばれてきた。清藍と杏子は豆腐ランチ、正樹は揚げ物ランチのフライメイン。陸はてんぷらメインを、新汰と十織は蕎麦ランチを選んでいた。
一口食べては感想を言い合ったり、お互いのランチをシェアしあったりと和やかな時間が過ぎる。
やがて食事が終わりかけ、店員がお茶のお変わりを持って来た後、ふと杏子がこんなことをいいだした。
「そういえば、杉の上に何かいたねぇ」
美味しい食事をお腹いっぱい食べで上機嫌になったのか、お茶を手ににこにことしている。
おやっという感じで、新汰が彼女をちら見し、正樹は食べかけのアジフライを手にしたまま笑った。
「おおっ、杉の上ってことは木の精霊かなぁ」
話を合わせる様に正樹がいい、陸たち三人は様子を伺うようにその様子を眺めている。
「う~ん、でも青い衣を着てたから水の精霊かも~」
「それってどこらへんでした?」
眉間に少しだけしわを寄せて陸が問いかける。
「え~っと~」
考え込むようにしながらお茶を一口すする。
「鳥居……最初の鳥居はいるちょっと前かなぁ」
「鳥居は潜る(くぐる)ものだけど、どんなだった?様子っていうか……そういうの」
先程から何ら変わらない口調で新汰が声を掻けて来た。雑談でもするかのような気楽さだ。陸たちが緊張しているのは、彼らも同じような場所で、何かの気配のようなものを感じていたからだ。しかし、気配は感じても視覚的に何かが見えたというわけではない。
「ん~、うぅ~ん怒ってる?イライラしてる?そんな感じ」
「杏子それマジ?」
「多分~。何か怖~ぃ顔してこっち見てたから……」
お茶を持つ手に力を入れ、可愛らしい童顔を歪めている。年上の女性だというのになんだか痛々しく感じてしまう。
「その精霊って、何かこちらにして来そうだったんですか……?!」
己の身に降り掛かっていた呪を思い出し、思わず清藍は声を荒げてしまった。がたっと身を乗り出したせいで木製の卓子を押してしまう。
想像以上に大きな声と、卓子の動きにびっくりして、杏子は目を見開いて清藍を見上げた。
周囲の客の中にも大きな声のせいか、『精霊』などという架空の存在をさす言葉に反応したのか、食事を止めてこちらを見ている人が何人かいた。心なしか視線が痛い。
恥ずかしくなってしゅんと下を向いて座りなおす。小さな声でごめんなさいとつぶやいた。清藍の耳も少し赤くなっている。
フォローするように陸と十織で左右から卓子を元の位置に戻し、十織はぽんぽんと清藍の頭を軽く叩いた。
「……んっとね、私たちに何かをしようって感じではなかったけど。何だろう……誰かじゃなくて、人間全体がきらいって感じ?」
考え考えしながらのんびりとした独特の口調だ。
話始める前にも多少の間があるため、気が短い人との会話は難しいかもしれないなと、十織は思った。
「それって、殺意っぽいほどやばいやつですか?」
「……今のところはぁ~、そんなでもないって感じかなぁ。様子を見に来たとか、そんな感じ~?」
十織の人の生き死にに関わりそうな問い掛けにも、杏子は特に気にした様子もなく答える。
「でも、一人だけじゃないと思うよぉ。姿を見せてくれたのはあの人だけだけれど」
明らかに人外のモノに対してなんの感慨もなくヒトと発言している。しかも彼女の発言を鵜呑みにするのならば、人に対してよくない感情を抱く『人外のなにか』が複数いるということになる。
それは彼らにとっては間違いなく重要な事項の一つだった。
H30-10-14 一部訂正。