45.絶望的な戦い②
今回は少し短いです。やはり正樹君一人ではどうにもなりそうもありません。彼の努力は無駄になってしまうのか?!
両腕で顔を庇い後ろに吹っ飛ばされた。
全身に耐え難い痛みが走る。
ただ手を挙げただけでそれを成し遂げた神に目をやることもできずに後ろに飛ばされる。
顔を庇いなすがままに吹き飛ばされるしかない正樹はギリと奥歯を噛み締めた。
ざりざりと音を立てて地面に倒れた正樹はゆっくりと上半身を起こした。幸い体の下には柔らかい下草が生えていたため背中が砂利などで傷つくことはなかった。しかし、風の御神の繰り出した攻撃で正樹の全身は切り刻まれあちこちに血が滲んでいる。
これ程か、と思う。
これ程までに無力なのか、と。
痛む体に鞭打ちゆっくりと立ち上がると、正樹は腰のポケットに手を入れた。そこから抜き出したのは手のひらサイズの小さな棒のようなもの。
風の御神は正樹が立ち上がるのを阻むこともしなかった。それほどに余裕のあることの現れということか。
数度大きく呼吸をすると、切り刻まれ血の滲む右手を軽く振った。
カチリ。手の中の棒のようなものが小さな音を立てて伸びた。正樹の手の中のそれは、三十センチ程の棒のようなものになった。それは警察などが使用する特殊警棒によく似た形状だ。
もう一度大きく息を吸うと、正樹はそのまま前方へ駆け出す。
速い。風の力を借り人とは思えない速度で、風の御神に肉薄する。そのまま、風の力を付与した特殊警棒を振る速度もかなりのものだ。
体術と組み合わせた棒術で風の御神に連続攻撃を放つ。そのどれもに人外を仕留められるだけの術力が込められている。
風の御神の眼前に見えない壁でも存在するかのように、正樹の攻撃の全てが阻まれた。
軽く飛んで後ろに下がる正樹の呼吸は少し乱れている。
「……これでも……効き目ナシか……よ」
鉛玉でも飲み込んだかのように胸の奥が重く沈む。絶望的とも言える状況だった。
下がれば風の御神の方から攻撃をしてくるようなことはなかった。このまま去れば本当に何もせずに正樹を見逃すつもりなのだろう。
ただ、後ろの二人を連れて行くだけは許してもらえないだろうが。
ぎりりと奥歯をかみしめて、再度風の御神に突進を試みた。今度は警棒を持った右手にありったけの術力を込めて。
パキン!水晶の砕けるような音と共に正樹を阻んでいた障壁が砕け、正樹の警棒が風の御神に届いた。
勢いに任せそのまま体術を繰り出そうとした瞬間に、目の前に差し出された掌。込められて神力に正樹の突進は止められた。
一瞬の間。煌めく様な氷の瞳と正樹の薄茶色瞳が睨み合う。
次の瞬間、先ほどよりも激しく正樹は後ろへ弾き飛ばされていた。
今度は後ろの木に直接体が叩き付けられた。
「うぐっ!」
正樹の唇から声と共に、血が滴り落ちる。そのまま、地面に座り込むように倒れた。
“……人としてはやるようだがその程度でどうにかできると思ったか”
声は静か過ぎて正樹に届いているかも判らない。それ以前に、叩きつけられた正樹が意識を保ったままで居られているかも不明だ。
そのままピクリとも動かなくなった正樹を見て風の御神は人間臭く一息吐き出した。
“……こと切れた、か”
神力を繰り出した自分の右手を見る。
黒い影の主の忠言も無駄になってしまったなと風の御神は思った。
どちらにしてもあの二人がこのまま死ねば同じことだ。それも判っていた。きっと消えることはないのだろうな、この胸の痛みは、この穢れと共に――。




