43.命の灯⑧
とうとう出会ってしまいました。タイマンするのか?正樹君。死んでしまうぞwww
雨は殆どやみ、術を使わなくとも問題ない程度にまでになっていた。
今まで走っていたせいで呼吸が荒い。やはり運動不足だなぁと感嘆する。数キロの距離を移動するだけでこんなに疲れていては、この後に何かが起こっても対応できないかも知れないなと思った。
何も起こりませんようにと願いながら、正樹はスマフォの地図アプリを確認してみた。周囲の地形と地図を見比べてみる。
「このあたり……だよな」
空は分厚い雲に覆われたままで昼間だというのに周囲は暗い。民家はぽつぽつと点在していたが、洪水が起こったせいか周囲には人気がない。さびれた農村といった雰囲気だ。
遠くからはまだサイレンの音が時折聞こえてくる。
右手前方に森が見えていて、その森の中腹辺りには、ゴルフ場でもあるのか広く木が伐採されて、草地になっている場所が見える。
雨も止んでやっと落ち着いてきてのどかな雰囲気といえばそうなのかも知れない。しかし、言い知れぬ不気味さというか、何とも言えない不安が正樹の心を支配している。
「……見られてる」
無言のプレッシャーのようなものを先程から感じていた。それが目的の場所へ近付く程強くなっている気がする。
「やっぱりそういうことなのかな……」
あの時から仕組まれていたのだろうか。
狙われていたのは、たぶん最初から清藍――。でもどうして?まるで戸上の当主候補を狙っているようではないか。何故、風の御神がそんなことをする?
「理由が……見つからない」
寧ろ彼女は水の御神を浄化したことで望んでもいない候補に祭り上げられてしまっただけで……。
「まてよ」
戸上の今の時点での当主候補と目されている人物ならもう二人いるはず。一人は戸上本家の娘、もう一人は――。
「……なんで、なんで戸上宗家以外の当主候補が危ない目に合ってるんだ?」
独り言が次第に大きくなってきていることに正樹は気づいていない。幸い周囲には誰もいないが、人の賑わう場所でこれをしてしまったら相当変な目で見られているだろう。
「まさか……」
風の御神は戸上の誰かに操られてる――?ひとたび力を振るえばこの地を壊滅できるほどの力を持つ神を操る。そんなことが人にできるのか?
「ありえる……のか?」
正樹には想像もつかなかった。神と呼ばれるほどの力を持つ存在を人が操ることができるとは到底思えない。しかし、神が個人を狙う理由が判らない以上、操られている可能性が高い。
操られているまで行かなくとも何かのカラクリで欺かれて協力しているという構図なのかも知れない。
「……せめて、そうならいい……」
強大な神を敵にすることも避けたかったが、もしそうなった時に操られているのと騙されているのとでは大違いだ。操られているとしたら目的を達成しない限り敵対関係は変わらない。そしてその目的が、清藍と徹の抹殺だとしたら、正樹だけでそれを阻止するのは限りなく不可能に近かった。
いや――陸と新汰がいたとしてもかなりの難題になるだろう。
徹と清藍が参戦し、その全員が完全な状態だとしても三割を下回るくらいの確率ではないだろうか。
先ほどから術を解いていた。ゆっくりと少しでも術力を節約するために歩く。目的の場所はもう少し。もう、特徴的な水の気を感じられる程まで近付いていた。
間違いなくこの先に清藍と徹はいるだろう。
ゆっくりと角を曲がる。雨に濡れ深い緑に沈む森のすぐわきの道を歩く。その視線の先にお互いを庇う様に抱き合って倒れている男女の姿が見えて来た。
「――いた」
二人に駆け寄り二人の安否を確認する。幸いまだ息はあるようだが、長い時間風雨に晒されていたのだろう。かなり弱っているのが見て取れる。
「早く病院に運ばなきゃいけない、けど……」
背後に力が集約するのが判る。それは、正樹の慣れ親しんだ種類の力――。
「……ですよねぇ」
ゆっくりと振り返る。そこには白銀の存在が佇んでいた。




